りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


91.大切なこと

2010.05.15  *Edit 

午前中の講義を終え、それぞれが昼食のために教室から出ていく。自宅に帰る者もいるし、お弁当を持ってきている者もいる。桃佳もトートバックの中から財布を取り出すと立ち上がった。今日はみなみと彼女が学校の近くで見つけたという喫茶店に行ってみようという話になっていた。

「桃佳、早く~!!」
すでに教室の入り口に立っているみなみが、桃佳に向かって財布を持つ手をぶんぶん振っている。
「あ、ごめん。今行くから」
桃佳は慌てて出口に立つみなみへと駆け寄った。

ふたりが学校から出ようとした時、入り口の外でふたりの女性が何やら話をしているのが目に入った。ひとりは桃佳たちの下級生。コンビニの袋をぶら下げ、昼食を買いに行ってきた後のようだ。……もう一人は全く見たことがない。
桃佳の通う大学は、大学といっても専門学校に属する。それほど大きくない学校。人数も知れている。校内の人間かどうかということはすぐにわかるのだ。
下級生の子が、こちらを振り返り、何やらにこにことしてふたりを指さしている。もう一人の女性は、硬い表情でその子にぺこりと頭を下げていた。そして頭を上げると、まるで睨みつけるような視線をふたりに投げかける。
「ああ、杉田先輩」
コンビニの袋を振り回すようにして校内に入ってきた下級生が、愛想よくみなみに話しかける。
「なんかあそこの彼女、先輩に用事だって言ってましたよ」
「用事?」
「はい、よくはわかりませんけど……杉田みなみさんっていますかって聞かれて。ちょうど先輩が出てきてくれてよかったぁ」
呑気そうに言って、来た時と同じようにコンビニの袋を振り回して階段を駆け上がっていってしまった。後に残されたみなみは、怪訝そうな顔をしている。学校の外でみなみを待ち受けているというその女性は、どう考えても友好的とは思えない視線を投げつけてきているからだ。
「……なんだろうね、みなみちゃん。なんだかこっち睨んでるし……私が事情聞いてこようか?」
心配になった桃佳がそう声を掛けたものの、みなみは何か心あたりでもあるのか、その申し出を断った。
「ううん。大丈夫。行こう」
「あ、みなみちゃん」
みなみはガラスの扉を押し、さっさと出て行こうとする。桃佳は慌てながらもみなみに従った。

学校から出てきたふたりの前に、ずっと敵意丸出しの視線を投げつけていた女性が一歩歩み寄る。肩まである巻き髪を揺らし、少しだけきつそうな顔を小さく傾ける。
「……あの、杉田みなみって、どっち?」
間違いなく初対面であろうその女性は、初対面にも関わらず『杉田みなみ』と呼び捨てる。それだけでもう、みなみに対しての敵意がうかがえた。もともとこういう場面には慣れていない桃佳はただうろたえるしかない。おろおろとしてふたりの顔を見比べる。
一方のみなみは堂々と胸を張った。
「……私が杉田みなみだけど、何か用?」
ふたりの間に火花が散った……気がしたのは桃佳だけだろうか?
次の瞬間、鈍い音と共に目に映った光景に、桃佳は思わず両手で口元を覆った。名前も知らない女性が、髪を振り乱してみなみの頬を平手でぶっていたのだ。
「……いったぁ」
顔を上げたみなみの口の横からは、血が滲んでいる。わざとなのかそうでないのかは定かでないが、その女性の右の中指にはごついシルバーの指輪がしてあった。どうやらそれがぶつかって、口の端が切れてしまったらしい。だからどこか鈍い音がしたのだろう。
「……い、痛くて当然よ!! 私は、私は……もっと辛かったんだから!! あんたが章吾君の事誘惑したんでしょ!? じゃなきゃ、あんなに急に別れようなんて言うはず……」
そう言うと、堪え切れないようにぼろぼろと涙を流し始めた。
殴られて口の端から血を滲ませるみなみと、泣き出してしまった見知らぬ女性に、桃佳はやはりおろおろするしかない。みなみは泣きじゃくる女性をほんの少しだけ悲しそうに見つめながら、小さく息をついた。それから……大きく頭を下げたのだった。
「……ごめんなさい。でも、何回殴られても、私は章吾と別れるつもりはないから」
きっぱりと、はっきりと、さっき殴られた人間とは思えないほど、晴れやかな表情でみなみはそう言い切った。
「絶対に別れない。だから、ごめんなさい!」
「…………!!」
相手の女性が何を思ったのかは分からない。けれど、彼女は悔しそうに唇をかむと、逃げるようにしてその場を走り去って行った。

「だ、大丈夫!? みなみちゃん」
去っていく女性の背中を見送り、あまりの出来事に呆然としていた桃佳は、はっとしてみなみに駆け寄る。みなみは目を閉じて、ほう、と大きく息をついた。しゅるしゅると空気でも抜けたように、肩の力が一気に抜けていくのが分かった。
「……うん。大丈夫。いやあ、ごめん。びっくりさせたね」
そう言いながら申し訳なさそうに頭を掻くみなみに、やはり桃佳は心配そうな視線を送る。
「私のことはいいんだけれど……本当に大丈夫?」
「あ、大丈夫。こんなの舐めてれば治るから。ねえ桃佳、悪いんだけど……今日の昼食はうちで食べない?」
明るく振る舞っているものの、桃佳にはみなみが強がっていることは伝わってきていた。
「うん、うん。そうしよう?」
「悪いね」
ふたりはコンビニで適当に買い物を済ませると、学校から比較的近いみなみの家へと向かった。午後の授業の時間も迫っていたものの、桃佳にとってはもう、そんなことはどうでもよかった。みなみをひとりにするつもりなどなかった。


「はい、どうぞ」
桃佳は冷水で濡らしたハンカチをみなみに差し出した。さっきぶたれた頬はまだほんのりと赤みを帯びている。それに、切れてしまった口の端は、少しだけ内出血しているようで紫色になっていた。
「……どうも」
素直に受け取り、みなみはハンカチをそっと頬に押しつけた。
コンビニで昼食を買ってきたものの、みなみの部屋についてもそれを食べる気にはあまりなれなかった。
沈黙が流れ、桃佳はうろたえる。さっきの事を聞くべきかどうか分からないでいた。そんな桃佳の空気を悟ったのか、みなみの方から口を開いた。
「……さっきのあれ、章吾の元カノ。あ、元カノとかって言ったら悪いか。私がヨリなんて戻さなきゃ、今でも章吾の彼女だったんだから」
みなみにしては自虐的な物言いに、桃佳は眉をひそめる。
「でも、さ。仕方ないと思わない? 私も章吾も決めたんだから。もう、離れないようにしようって……そりゃあね、もちろん、傷つけてしまったのは悪いと思ってるよ。でも、悪いと思うのと、自分の気持ちを曲げるのとは意味が違うよね?」
「みなみちゃん……」
「だから、殴られてもいいと思ったの。それで彼女の気が済むんなら。……逆の立場だったら、私も殴りに行ってたかもしれないし」
そう言ってクスッと笑うみなみにつられて、桃佳もクスッと笑う。確かに、みなみならやりかねないかもしれない。直情型だから。
「ねえ、桃佳」
「ん?」
「桃佳は、誰か傷つけてもいいから、欲しい人って今までにいた?」
「……え?」
突然の質問に、桃佳の脳裏には駿と多希の顔が同時に浮かんだ。
「もしも、もしもだよ? その人を選ぶことが私を裏切ったり傷つけることになるとしたら、桃佳、どうする? その人と私とどっちをとる?」
「どう……って」
桃佳は言葉に詰まってしまった。みなみを傷つけたり裏切ることなんて、想像もできない。眉を寄せて難しい顔で考え込んでしまった桃佳に、みなみは苦笑する。
「そんなに考えること? 本当に桃佳は人がいいって言うか、優柔不断って言うか……」
「だ、だって」
桃佳は思わず赤くなって俯いてしまう。彼女にはどうしても選びようもない。どちらも大事な存在だとしたら、桃佳はどちらのことも捨てたくはない。それでは、いけないのだろうか?
「今、どっちもって思わなかった?」
「…………」
見透かされ、桃佳は無言で肯定する。
「やっぱりねえ。でもね、桃佳。どっちも選ぶってことは、下手したらどっちもなくしちゃうってことじゃない? みんなに好かれるなんて無理なことなんだよね。うん。絶対に無理。だとしたら私は、誰に憎まれても欲しいものを欲しいって言いたい」

だから私は殴られても平気なの。章吾と一緒にいられるんだから。

そう言ってみなみは本当に、強がりとかじゃなく晴れ晴れとした表情で笑った。
みなみが自分のことを言っているんだということは分かっている。けれどその晴れ晴れとした表情に、桃佳は逆に心が痛んだ。
駿を選んだと言いながらも、まだ多希のことが吹っ切れない自分。そんなどっちつかずな気持ちでいると、両方なくしてしまうよ。そう言われているような気がしてならない。いや、きっとそれが事実なんだろう。このままでは、間違いなく桃佳は駿も多希も両方を傷つけ、両方を失うような気がしてならなかった。
……もしかしたら、それはこんな自分への罰なのかもしれないけれど。

「ねえ、みなみちゃん」
言葉は自分で思っていたよりもすんなりと喉から転がり落ちてくれた。
「なに?」
「あのね」
どきんどきんと心臓の音がはっきりと聞こえるような気がする。
こんなことを話したら、みなみちゃんに軽蔑されるかもしれない……そんな不安な気持ちはもちろんあった。けれど、誰かに話してしまいたいという気持ちも、もう止められそうもない。吐き出して、少しでも楽になりたい。わがままだとしても……
「あのね、聞いてほしいことがあるんだ」
切羽詰まったような桃佳の表情に、みなみはキョトンとしている。
「あのね、私」
喉がからからだった。けれど、やはり言葉は喉から転がり落ちてくる。溢れてしまった何かのように。

「私、実は……浮気をしてしまったの」

話すのだとしたら、きっとまずはそこから話さなければならないだろう。



真っ赤な顔をしてそう告げた桃佳の顔を、みなみはただ驚いたように見ていた。


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~ Comment ~

そうきましたか~ 

そうきたら、早く続きが読みたくなるじゃないですかぁ!!!
どうにも、はまりっ放しですね。

まだまだクライマックスは遠いんでしょうか?!

あ~、多岐さんと間違ってまたラブラブなシーンが
出てこないかなぁ。
と、期待してるのですが・・・。

次回も楽しみにしています。
  • #14 みゅう 
  • URL 
  • 2010.05/16 22:22分 

Re: そうきましたか~ 

あ、みゅうさん!!!
こんにちは!!!

その節は心配してくださってありがとうございました。

はい、そうきましたよ~(笑)
今回はズバリ「告白」です!

クライマックスは……かなり近づいてはいるのですが、まだまだ波乱は御用意しております。
それに、柴山家の問題を解決しなければならないので、あと数話……という感じではないです。
あと、結構残っているかも^^;

間違ってラブシーンって!!!(爆笑)
そういう展開も、この先あるかもしれませんねえ。
さて、どうでしょう???♡

はまりっ放しなんて、なんて嬉しいお言葉!!
この先も気合入れて書きますので、今後もよろしくお願いしますね!!
  • #16 沢上澪羽 
  • URL 
  • 2010.05/17 15:50分 
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