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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


92.告白

2010.05.17  *Edit 

「え、と……え? 浮気?」

あまりにも予想外な言葉を聞かされたせいか、みなみの顔は妙な笑顔が張り付いたままで、しかもその上に困惑した表情が乗っかり、何とも表現のしようがない。
どうやら自分の言葉が酷く友人を混乱させてしまったらしいことを感じ取り、桃佳は申し訳なく思う。それと同時にとうとう吐き出してしまった秘密に、否応なく胸の鼓動は高まっていた。
「浮気……って、駿君が。じゃなくて、桃佳……が?」
やっと顔全体に広がった困惑の色。みなみは相変わらず信じられないといったような瞳で桃佳を見つめている。その視線に、桃佳は俯いたままでこくんと頷き、肯定の意志を伝えた。

「やだ……っ、びっくり! 桃佳って絶対そういうことするタイプだと思ってなかったんだけどね、いやあ、意外!! えー、そうなんだ。で、相手はどんな人なの?」
「へ? えと……」
みなみの言葉の最後の方は興味津津といった様子で、とても桃佳を責めるようなものではない。それどころか、友人の新しい一面を知ったかのように、どちらかというと面白がっている。
てっきり「そんなこと!!」と責められると思っていた桃佳は、正直このみなみの反応には拍子抜けしてしまった。
「で、それっていつなの? どんな人? まさか、桃佳から誘ったなんてことはないでしょうねえ」
すっかり自分の口元の傷のことなど忘れたように早口でまくしたる。そして、あまりに早口でしゃべって傷が開いたのか、「いてっ」と言って顔を歪めた。
「み、みなみちゃん、大丈夫?」
「あー……大丈夫。ってごめん、私、完全に面白がってた」
そう言ってすまなそうに舌を出して見せるみなみに、桃佳はつい吹き出してしまった。

ずっと、事実を話したら責められると思っていた。軽蔑されるんじゃないかと……こんな風に言ってもらえるのなら、もっと早く相談していたらよかった。そうしたら、何かが変わっていたのかもしれない……
そう思うと、じわりと涙が浮かんできて視界が歪む。
「バ、バカみたいだよね、私……ずっと、ずっと知られたら嫌われると思ってた。こんなことした私のこと、みなみちゃんは軽蔑するって……」
「うん。バカだね」
そう言うとみなみは顔を覆って泣き出した桃佳の頭を抱え込む。
「たかがそんなことで軽蔑するなんて言えるほど、私だって清廉潔白な人間じゃないってば。私の昔の話した方が、よっぽど軽蔑されちゃうかも。そんなこと考えてひとりでため込んでたんでしょ。……知ってたよ。あんたが何か悩んでることくらい。もうっ、バカっ」
こつんと頭をげんこつされ、桃佳の中で何かが溶けた。昔の記憶が……高校時代に受けた「いじめ」という辛い記憶が、きちんと心の中でひとつの過去になった気がした。
「……ありがと、みなみちゃん」
「うん」
小さく、けれど嬉しそうに返事をしたみなみは、抱え込んでいた桃佳の頭を離すと、今度は両肩を掴んで向かい合わせるとにやりと笑った。
「……で? 相手はどんな人なの?」
屈託のない笑顔を見せるみなみに笑いながらも、桃佳は本当に彼女を驚かせてしまうのはこれからだということを痛いほど理解していた。けれど、もう話をすることを怖いとは思っていなかった。


「……え? ええ!??」
案の定、みなみは「浮気をした」と告げた時の何倍も驚いた顔をしている。当たり前だ。今桃佳は「相手は駿の兄、多希だ」と告げたばかりなのだから。
「な、な、なんで? なんでそうなっちゃうわけ!? その、知らなかったの? 駿君のお兄さんだって」
「……多希さんは知ってたよ。私が駿ちゃんの彼女だって。でも、私は何も知らなかった」
桃佳の返事に、さすがのみなみも言葉を無くしている。完全に混乱しているのが、手に取るように分かった。当の桃佳でさえ初めは混乱したのだから、そう簡単に理解できるはずもない。
だから桃佳は順を追って説明した。
出会った日のこと、再び目の前に現れゲームをしようと持ちかけてきたこと、ただ家族のように過ごしてきたこと……みなみは横やりを入れてくることもなく、ただ黙って神妙な顔で話を聞いている。次第にその神妙な顔は、難しい顔になっていく。きっと他人(ひと)が聞いたらめちゃくちゃな話だと思う。話をしている自分でさえ、めちゃくちゃだと思ってしまうのだから。大体の説明が終わった時、みなみがふと疑問を口にした。
「で、なんでその多希さんって人は、そんなまどろっこしいゲームを持ちかけたの?」
桃佳はその質問にどきりとする。できればスルーしてほしかった質問だ。もうその問題は、多希と駿の問題というよりも彼らの「家」の問題だから。自分の口から話していいものでないような気がした。
口を真一文字に引き結んで俯く桃佳に、みなみは察したように声をかける。
「ま、いいや、それは。そんなめちゃくちゃなことするんだから、きっと何かあるんでしょう? 桃佳の口から言えないようなこと。だから、そこはいいとしよう」
うんうんと頷いているみなみに、桃佳は心底ありがたいと思う。踏み込むべきでは無いところは、直感的に感じ取って踏み込んで来ない。これはみなみの人としての才能だと桃佳はいつも思っていた。


「……それにしても桃佳。大変な目に遭っていたのねえ」
ぽんと頭に手を添えられ、桃佳は小さく頷く。静かに聞いてくれたみなみに感謝しながらも、実はこれからが本題なのだ。大人しかった心臓が再び煩いくらいに鼓動し始める。
話さなければならない。そのために浮気を告白したのだから。けれど、急に不安になった。多希への気持ちを口にするのが怖い。今までずっと口にすることのなかった想い。それを言葉にしてしまうと、あっと言う間にその想いに支配されてしまいそうで。
ごくりと息を飲む。
唇が震えているのがはっきりと分かった。
それでも何とか言葉にしようと口を開くものの、なかなか声にならない。一度口元を引き結んで、もう一度口を開こうとした時、みなみの方が先に口を開いた。
「……好きになっちゃったの? その人の事」
これ以上ないというくらい瞳を大きく開け、目の前のみなみを見る。みなみは少し心配そうな、それでいて安心させるような穏やかな表情で微笑んでいる。
「……っ、あ……、好きって言うか……その、……惹かれてる」
自分の言葉に心臓が一際大きく鼓動する。初めて口に出した多希への気持ち。口に出したのと同時に、自分でも気がつかないうちにぽろぽろと涙が零れ出していた。手の甲に冷たい雫が弾けて、桃佳は初めて自分が泣いているのに気がついたのだった。
「そっか」
小さくため息をつきながら、みなみはティッシュケースを桃佳の方に差し出す。涙を拭こうともしない桃佳を見かねて、数枚取り出して涙を拭い、その手にティッシュを握らせる。
「で、駿君とのことはどうするつもりなの?」
桃佳は受け取ったティッシュをぎゅっと握りしめる。それはすっかり手の中で小さくなってしまった。
「どうするも何も……私、確かに多希さんに惹かれている。けど駿ちゃんに対する気持ちは何も変わってない。だから、受け取ったんだ、指輪……でも、ずっと多希さんのことも気になって仕方がないの」
「どっちも好きってこと……か」
桃佳は指先が白くなるほど手の中のティッシュを握りしめ、小さく頷いた。

「うあーーー。そう来たかあぁ」
みなみは困った顔で黒髪をくしゃりと掻き上げた。それから腕を組んで大きく息をつく。
「私ね、誰かのことを思っていても、否応なく他の誰かに惹かれちゃうってことはあると思うの。もうそれは仕方ないことだよ。ふたりのことを同時に好きになるってことも、もちろんあると思っているよ」
「みなみちゃん……」
ずっと自分を苦しめ続けた思いをみなみに肯定され、やっと止まりかけていた涙が再び瞳に盛り上がった。
「ああ、もう、泣かないの。でもね、桃佳。だからって言って、いつまでもそのどっちつかずな態度は続けられないよ」
「うん、分かってる。だから、駿ちゃんからの指輪を受け取ったの。それで自分の中で決着がつくって思ってた。でも……でも、やっぱり多希さんに惹かれている気持ちを消せなくって」
「そっか」
腕を組んだ姿勢のまま、みなみは目を閉じる。しばらくそうしてから、まっすぐに桃佳の顔を見つめた。
「桃佳、そのゲームとかって、あとどれくらい残ってるの?」
「えっと、二か月半くらい……かな?」
桃佳の言葉に小さく頷きながら、みなみは少しだけ言いずらそうに口を開く。
「あの……さ、なんだか二股のススメみたいであんまりお勧めするべきことじゃないのかもしれないんだけど、桃佳、このままゲームを続けるべきだと思う」
「え?」
みなみから出たあまりに意外な言葉に、桃佳は目を丸くする。
「だってよ、こんなに気持ちがはっきりしない状態でどっちかに決めたりしたら、きっといつか桃佳はどっちを選んでも後悔すると思うの。駿君を選んでも、多希さんを選んでも……いつかきっと、ああ、あの時違う人を選んでたらってね。だったら、ちゃんと向き合ってみなよ。駿君ともそのお兄さんとも。ちゃんと向き合って、ちゃんと自分の気持ちを確認しな」
「自分の気持ち……?」
「そう、本当に自分にとって大事にしたい人はどちっちなのか、見極めるべき。駿君のことを好きだと思ってる気持は、もしかしたら彼に対する申し訳ないっていう思いからかもしれないし、逆にその多希さんって人に惹かれているって思いは、一緒に過ごした時間の中で見た幻想かもしれない。とにかく自分の本当の気持ちを知るべきだよ。じゃないと、何も変わらないでしょ?」
「本当の気持ち……」
桃佳は口の中で小さく繰り返す。
向き合うこと、見極めること。
もしかしたらそれは、ずっと避け続けていたことかもしれない。
「そうだよ。あんたの気持ちが一番大事でしょ? 誰かを傷つけたって、桃佳が選ばなきゃいけない」
にこりとみなみが笑う。
「誰かを傷つけちゃっても、私はあんたの事見限ったりしないから」
ふんわりと桃佳を抱きしめ、みなみは彼女の耳元でそう囁いた。だから、ちゃんと自分の気持ちを知る勇気を持ちなさいと。

「……ありがとう、みなみちゃん」

桃佳は消え入りそうな声で、何度もその言葉を口にした。

「向き合ってみるよ、私。ちゃんと……駿ちゃんとも多希さんとも……それから自分の気持ちとも」
「うん。また何かあったらいつでも相談においで」
「うん。ありがと……」

優しくてあたたかいぬくもりに包まれ、桃佳の気持ちは柔らかく溶けていく気がした。

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