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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


97.衝撃 1

2010.05.31  *Edit 

その提案は、珍しく桃佳の方からされたものだった。

身動きが取れないほど多希に抱きしめられていた桃佳は、その日が金曜日だということを、それはもう唐突に思い出したのだ。それがとろりとするような甘い気持ちを一気に消し去り、桃佳は多希の体をひきはがしていた。
「……明日!! 土曜日ですよねっ」
突然に体を離された不満感と、赤い顔を見られたくなくて、多希は下から覗きこむような桃佳の視線を避けるように顔を背けた。
「土曜日だけど」
「ですよね」

土曜日に駿がバイトを入れたのを知ってしまった多希が、明日もここに来ることは予想ができた。けれど、一日中ふたりでこの部屋にいるかもしれないと思うと、頭の中がパニックになりそうだ。どうにかしなければ、と急激に頭の中は忙(せわ)しなく動く。
「あ、あの! 先週のお礼もしたいんで……夕食! 夕食を一緒に食べに行きませんか? 夕方に待ち合わせをして」
咄嗟に出た言葉。夕食の待ち合わせを夕方にすれば、それまでの時間は別々に過ごせる。それに、外で食事をすれば、さっきみたいなヘンな空気になることもないかもしれない。桃佳はこんな短時間でよくもここまで考えられたと、自分に驚いていた。
別に一緒に過ごすのが嫌なわけじゃない。ただ、ふたりだけで閉じた空間にいると、息苦しくて、甘い空気に浸食されてしまいそうで不安だったのだ。
「ど、どうですか?」
桃佳の提案をどこかキョトンとして聞いていた多希だったものの、『桃佳が初めて自分から誘ってくれた』事を断る理由もなく、極上の笑顔でその誘いを受ける。
「……勿論。モモが誘ってくれたのに断るはずないだろ」
「よかった」
桃佳は色々な意味でほっと胸をなでおろす。どうしようもなく最近の多希はフェロモンとでもいうようなものが漂っていて、時々強烈なそれに引き摺られてしまいそうになる。ふたりきりで一日中そんなものを浴びていたら、どうにかなってしまいそうだ。

ほっと息をついたのも束の間。桃佳が食事に誘ってくれたことで、どこか気まずさの吹っ飛んだ多希が、桃佳の華奢な体に腕を回してその背中にぴたりとくっついた。多希のさらさらとした髪の毛の感触を感じて、一瞬桃佳は大きく目を見開いたままで硬直する。
「……ねぇ、モモ。今日は久しぶりに一緒に寝ようか……」
囁かれた言葉に、頭がくらくらとしてくる。そんなことされたら、また眠れない。
「こうやって、くっつい」
「だ、だめです!!」
多希の言葉を遮るようにその言葉を突っぱねる。
「きょ、今日は、この授業のまとめをしなくちゃいけないんですっ。つ、次の実習の資料ですからっ」
「……ふうん」
耳元で不満げな声が漏れる。それから短いため息。
「じゃ、仕方ないか」
そう言うと多希は桃佳からぱっと手を離す。大人として話の通じない奴だとは思われたくはなかった。ささやかなプライドといったところだ。
「明日は何時?」
「じゃあ、5時に駅前で」
「ん、分かったよ」
同じ場所に住んでいるのだから、一緒に出かければいいじゃないかという思いが多希の頭を過ったものの、桃佳にも都合があるのだろうと、やはり『大人のプライド』でその言葉を飲みこんだ。


「モモ……?」
桃佳の勉強の邪魔をしないようにと大人しくテレビを見ていた多希は、なんとなく異変を感じて勉強しているはずの彼女を振り返る。そこには、テーブルいっぱいにテキストを広げ、その上に突っ伏すようにして眠っている桃佳がいた。規則的な、静かな寝息が洩れている。昨夜、殆ど眠っていなかった桃佳は、襲ってくる強烈な眠気に勝つことができなかった。……テキストなんか見ているから余計に。
「モモ」
こんなところで寝ていると風邪をひいてしまうよ、言おうとして多希は彼女の肩に伸ばしかけた手をぴたりと止める。戸惑ったように数秒指先をさまよわせた後、多希は思い切ったように、けれどそっと眠っている桃佳の体を抱き上げた。
「う……ん」
微かに桃佳の口から洩れた声に体を固くし、眠っていることを確認してベットへと運ぶ。ベットに横たえられた桃佳は、相変わらず無防備な寝息を立てている。ベットに頬杖をつきながら、多希はその寝顔を眺めていた。
「……無防備すぎて、襲う気もしないな」
苦笑交じりに小さく呟いて、桃佳の隣に滑り込む。さっきは勉強しているからダメだと言われたものの、眠ってしまっているのだからその約束も無効だろう。起こしてしまわないように細心の注意を払いながら、その体を引き寄せ額に唇を寄せる。ふと桃佳の顔を見ると、うっすらと瞳が開いていて、多希は全身から汗が噴き出すのを感じた。
「……」
夢でも見ているのか、何か言いたげに桃佳の唇が動き、その表情はふにゃりと少女のような笑顔を形作る。そして多希に向かって腕を伸ばすと、その首に腕を絡めて頬をすりよせた。
あたたかで柔らかな頬が自分の頬に触れて、多希の男の部分がずきりと疼く。けれど、再び眠りに落ちただろうことが穏やかな寝息から伝わってきて、大きく息をついてその疼きを誤魔化す。それは苦しい作業だったものの、それでも直接に体温を感じられる今を、多希はこの上なく幸せだと思った。あたたかな体温は、多希にも急速な眠気を与える。彼もまた、昨日は殆ど眠っていなかったのだから。

多希は満たされた気持ちで眠りに落ちていった。


モモ佳は朝の光の中で目を覚まし、大きく伸びをした。カーテン越しにも晴天だということがわかる。天気がいいと気分もいい。最高の目覚めだったはずなのに、桃佳はハタと思いだす。自分で布団に潜り込んだ記憶がないことを。服もそのままだ。そして、勉強しながら眠り込んでしまったことも思い出した。
「……じゃあ」
そう呟いて一気に赤くなる。自分で布団に入らなかったということは、間違いなく多希がここまで運んでくれたということだろう。今までもそんなことがあったはずなのに、それでもなぜか酷く恥ずかしい。穴があったら入りたい気分だ。
そして、ふと思い出す。昨日見ていた夢の事を。
どこか温かい、それでいて優しい夢だったような気がする。内容は思い出せないのに、なぜかふっと笑顔になった。桃佳は無意識に頬にそっと触れていた。
「よし、準備しますか」
もう一度大きく伸びをして、カーテンを開ける。やはり外は晴天。今日も暑くなりそうだと桃佳は思った。


部屋を出たのは昼少し前だった。
眩しい日差しが降り注ぎ、桃佳は思わず顔をしかめる。シャワーを浴びてきたというのに、これではすぐに汗をかいてしまいそうだ。なるべく日陰を選んで歩いていく。
多希との待ち合わせまでにはまだまだ時間がある。どこかで昼食を食べて、久しぶりにゆっくりと買い物を楽しもうと思っていた。考えてみると、多希と過ごすようになってから、こうしてぶらぶらと買い物にも出かけた覚えがない。
駅前は土曜日と言うこともあり、人出が多い。まだそれほど空腹ではなかった桃佳は、昼食をとるよりも先に街を散策することにした。ウインドーに飾られる色とりどりの夏服を眺め、店先に並べられたアクセサリーを手に取る。
よく考えてみれば、こうしてひとりで街を歩くのは初めての事だ。いつだってこうして出かけるときには友達だったり、駿がいつも一緒にいた。そんなことを思い出すと、今ひとりでいることの寂しさと、自立していない自分を思い知らされる。誰かと一緒にいることで、自分を隠して守ってきたことに。

人の目ばかりを気にしていた自分。そんな自分をずっと守ってきてくれた駿。
それではいけないと思っている今の自分。それを教えてくれたのは、多希。

思わずため息が漏れた。
自分の気持ちをはっきりさせると決めたものの、やはりそれは難しい。駿と多希。あまりにも違いすぎるふたり。惹かれている部分も、全く違うのだから。
雑踏の中で、桃佳の足は完全に止まってしまった。今考えてもどうしようもないとわかっていながらも、全ての思考がそこに向かってしまう。けれど、思考はそこに向かうのに、それは溢れだしたとたんに完全にフリーズしてしまうのだった。
動けずに立ちすくんでいる桃佳を、すれ違う人が訝しげに見つめている。それでも意志とは関係なく、桃佳の体は動いてはくれない。
どうしよう、動けない……
そう思った時、バッグの中の携帯が明るい音色を響かせた。
弾かれたようにはっとし、桃佳はその携帯を慌てて取り出す。金縛りにあったようなこの状況を救ってくれた着信音に感謝しながら、名前も確認しないで通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『もしもし、清水?』
「……駿、ちゃん?」
さっきまで頭の中を占めていた人物の声に、桃佳はごくりと息をのむ。
『買い物?』
「え? うん」
『俺も買い物に来てたんだ。ほら、道路挟んで反対側』
「え?」
大きな道路を挟んだ向こう側に視線を移すと、携帯を耳に当てたまま、こちらに向かって大きく手を振っている駿の姿が見えた。桃佳が気がついたことを確認すると走り出し、ちょうど青になった信号を走ってこちらに向かってくる。驚いている桃佳の前に立つと、少しだけ息を切らしながら微笑んだ。
「偶然だね。ひとり?」
「うん、駿ちゃんは?」
「いや、章吾と一緒だったんだけど、みなみちゃんから連絡が来て、あっという間に消えちゃったよ」
苦笑いする駿に、桃佳もくすりと笑う。風のように去っていく章吾の姿が簡単に想像できる。
「そうだったんだ。それは災難だったね」
「ホントだよ。でも、清水に会えたからラッキーだったかな」
少し照れたように鼻の頭を掻く駿に、桃佳も照れたように頷く。
「ね、昼飯食べた?」
「ううん、まだ」
「そっか、もし予定がないんだったら、一緒に食べに行かない? 美味しいところ見つけたんだ」
予定は確かにある。けれど、それにはまだ時間がある。
「そうだね、じゃあ、そうしようかな」
「よっしゃ、じゃ、急ごう! 俺、ちょうど腹減ってたんだ」
駿は突然桃佳の手を掴むと走り出し、点滅する横断歩道を駆け抜ける。桃佳はそれに必死について行った。ちょうどふたりが渡りきったところで信号は赤になり、道路は車で溢れかえった。
「も、もう。急に走り出すから、びっくりしちゃったじゃない」
桃佳は肩で息をしながら、少しだけ恨めしそうに駿に視線を向ける。その視線を受けて、駿はいたずらっぽく笑ってみせる。
「準備運動だよ、準備運動。よりお腹が空いてる方が、美味しく食べられるってもんだろ?」
一瞬キョトンとして、それから桃佳はくすくすと笑い始めた。
「……やだ、そんなことのために、この暑い日に走って信号渡ったの?」
「ご飯は美味しく食べれた方がいいだろ?」
「……確かにね」
「じゃ、行こうか」
「うん」
くすくすと笑いながら、桃佳は駿に手を引かれて雑踏に消えていった。


そんなふたりの姿を見られていたなんて、少しも気付きもせずに。


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