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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


100.甘い時間

2010.06.04  *Edit 

暗い室内にぬるい風が吹き込んで、桃佳の部屋のカーテンを揺らした。
電気も点けられていない室内の中、多希は壁にもたれかかるようにして、桃佳を背中から抱きしめている。桃佳もまた、力を抜いて彼の体に自分の体を預けていた。
何度も美緒の香りのするその腕から逃れようと思ったものの、多希は絶対に離してはくれなかった。まるで今離れてしまったら、もう二度と抱きあえないとでも言うかのように。気になって仕方のなかった美緒の甘ったるい匂いも、慣れてしまったのか、それとも消えてしまったのか、今ではなにも感じられない。

「今日、ふたりを見たんだ」

黙ったまま桃佳の体を抱きしめていた多希が、ポツリと呟く。
「……何がですか?」
「モモと……それから駿」
「え?」
「ふたりで手を繋いで……それを見たら、なんか、真っ白になった」
更に抱きしめる腕に力が籠り、ふっと背中越しに多希が微笑んだ気配を感じた。それが多希の発した言葉と重なって、桃佳の胸のあたりはきゅっと疼く。
「買い物をしていたら、偶然駿ちゃんに会ったんです」
言い訳のように呟いて、駿にも多希にも後ろめたいような思いに包まれる。
「……そっか。でもあの時、思い知ったんだ。モモは駿の彼女で、俺はそれを利用していただけだって。絶対に手が届かないって……」
寂しげな色を含んだ言葉に、桃佳は強く抱きしめられている体をよじり、多希の方へと顔を向ける。
「今も、ゲームですか?」
ずるい質問だと桃佳は思った。けれど、どうしてもそれを多希の口から聞きたいと思った。真剣な眼差しを向ける桃佳に、多希は微笑んだままで首を振る。
「違うよ。もう俺の中でゲームはとっくの前に終わってた。……でも、ゲームだって言わないと、モモと一緒にいられないから」
まっすぐな言葉が胸に突き刺さり、甘い痛みが広がっていく。忘れてはいけないことはたくさんなるはずなのに、桃佳の心は嬉しさで満たされた。
自覚してしまった多希への恋心。あんなにも激しい思いが、激しい自分がいることなど今まで少しも知らなかった。そんな自分が怖くもあり、けれどそれが自分なのだという思いもある。もう誤魔化しようのない自分の思いを、認めるしかなかった。

「モモ……ごめん」
さっきまで散々聞かされてきた言葉を、多希はまた繰り返す。
「ごめん、本当に」
眉を寄せ、苦しげに懺悔の言葉を口にする多希。彼が心からそう思っていることは、桃佳にも伝わってきている。けれど、その言葉を多希が口にするたびに、さっき見てしまった情事が目の裏に蘇って、どうしようもなく醜い嫉妬が湧きあがってきてしまう。
多希さんが美緒さんに……他の女に触れているのなんて、そんなのイヤ。
そんな自分勝手で、素直すぎる感情。
きっと以前の桃佳ならば、絶対に口になどしなかったその言葉も、多希の前でなら口にすることができた。
「イヤです。絶対にイヤ。思い出したくない」
拗ねたように眉をひそめて顔を背ける桃佳に、多希はくすりと笑う。嫉妬されていると思うと、笑っている場合ではないはずなのに自然と笑みがこぼれてしまう。多希はそっぽを向く桃佳の耳に唇を寄せると、熱っぽく囁く。
「モモ、好きだ」
今更ながら、かああっと顔が熱くなって、桃佳の心臓は跳ね上がる。多希は何度も何度も彼女の耳元に「好きだ」という言葉と、熱い吐息を落とす。それは桃佳の背中にぞくりとした刺激となって滑り落ち、体の力を奪ってしまう。
「た……きさ……ぁ……」
自分の口から洩れた、あまりにも甘ったるい声に、桃佳自身驚く。そして、体中が熱くなっていくのを感じた。
耳元で囁いていた唇が桃佳の耳たぶを掠め、そっと咥えこまれる。
「や……っ」
体を固くしてビクンと反応してしまう自分に、更に追い込まれるようにどんどん体の熱さは増していく。耳たぶに触れている多希の唇も熱い。熱に浮かされているように、桃佳の顔は火照り、その瞳は潤んでいた。
「モモ」
甘い声で名前を呼びながら、多希が桃佳の体をその場に押し倒す。仰向けに倒れた桃佳の上に圧し掛かり、ふたりは正面から見つめあう。熱に浮かされているようで苦しいと思っていた桃佳は、多希もまた自分と同じように熱に浮かされたように苦しげな表情をしていることに気が付く。……求められていると。そして自分も多希を求めていると。

「好きだよ」
さらりとした多希の前髪が桃佳の額に触れるほどの距離で、はっきりと告げられる。見上げた瞳が、答えを求めるように、まっすぐに桃佳の瞳を捉えていた。胸が疼く。胸の中にある言葉を言ってしまえば、壊れてしまうものがあることを知っているから。それでも、何も壊さずに、このままでいることはもうできない。そのことに桃佳は気が付いていた。
「……あなたが、好きです」
やっと口にした言葉。やっと気が付いた自分の思い。
不安げに揺れていた多希の顔が、見たこともないくらいに幸せそうに目の前でほころぶ。それはあまりにも綺麗で、純粋で、桃佳は思わずその一瞬の表情に心を奪われてしまった。見ている方が幸せになってしまいそうな笑顔のままで、多希が顔を寄せてくる。
ふと桃佳の視界に見たくはないものが写って、彼女は眉を吊り上げて近づいてくる多希の顔を両手で食い止めた。
「なんだよ……」
両方から桃佳の手で顔を挟まれるような形でキスを寸止めされた多希は、かなり不満げな声を出す。顔は……両方から挟む桃佳の手のせいで、にらめっこでもしているかのようになっている。
不満げな多希の声に負けないくらい、桃佳も不満げな声を絞り出す。不満げと言うよりも、どこか怒りさえも交じっている。
「……くち」
「は?」
「唇の端っこ……口紅が付いてますよ?」
「え!?」
多希は体を起してその場で正座をすると、腕でごしごしと唇を擦る。
「取れた?」
「……知りません」
「いや、ちゃんと拭いたから、取れたと思うんだけど……」
「さあ、どうですかね? 口紅って、案外とれずらいんですよ」
バツが悪そうに鼻の頭を掻きながら苦笑いする多希に、桃佳は横になったままの姿勢で背を向けた。その声にはやはり棘がある。
多希は床に広がる桃佳の髪を指に絡めながら、やはりそっと微笑んでいた。嫉妬している桃佳が、この上なく可愛らしくて、愛おしく思えて。だから背中を見せて丸まっている桃佳の肩を掴んで仰向けにさせ、顎を持ち上げて上を向かせる。ぽってりとした唇を尖らせるようにして、まだ怒っているような桃佳にもう一度尋ねる。
「モモ、取れた?」
「し、知りません!」
「じゃあ、モモの口紅つけて分からなくしちゃえばいいんだよ……」
「多……!……ぅんんっ」
桃佳の言葉を遮るように、多希はその唇を塞いだ。唇が離れた途端に、また桃佳は不満げな声を上げる。
「も、もう! いきなりなんてズル……い……んんっ」
けれど、再びその声は多希の唇によって阻まれてしまった。深く舌を絡め、吸い上げる。
「多希……っ」
「ウルサイ。……どうせなら、もっと違う声、聞かせて」
「……あ!」
多希が桃佳の体に覆い被さり、白い首筋にキスをする。ちゅっとわざと音を立ててキスをしながら、手は彼女の胸へと延びていった。
「やぁ……っん」
甘い疼きが体を走り、桃佳は濡れた声を上げる。体がぴくんと震え、多希の指先に唇になぞられるたびに、抗いようもなく反応してしまう。
多希の手は服の下から侵入し、彼女の胸を包み込むようにして揉みしだく。
「ぁ……ぁアっ」
指先がその中心に触れ、円を描くように転がされると、甘い疼きは下腹部の方へと集中する。首筋を這っていた多希の舌が耳たぶを捉え、彼の熱い吐息が桃佳をさらに興奮させた。それは多希にとっても同じことで、顔をこれ以上ないほど火照らせ、自分の動作の一つ一つに明確な反応を示しながら、切なげな声を上げる桃佳は、心の底から喜びと興奮をもたらしていた。

頭の中が沸騰しているんじゃないかと思ってしまうほど、思考はぼんやりとし、快感に全てを流されそうになってしまう。
けれどダメ、絶対にダメ。
桃佳はまだ辛うじて残っている気力を振り絞り、本当は離れたくはない多希の体を引き離す。
「……ダメ、ダメです。これ以上は……」
「どうして?」
多希の胸に腕を突っ張り、その体を引き離したものの、彼の唇は相変わらず桃佳の頬や首筋にキスの雨を降らせている。それにピクリと体を反応させながらも、桃佳はその甘い刺激に必死に耐えた。
「私、駿ちゃんの彼女です」
きっぱりと言い放った桃佳の言葉に、さすがに多希も動きを止める。さっきは自分を好きだと言った桃佳が、今は自分は駿の彼女だからダメだと拒む。その意味を測りかねて、多希は咎めるような視線を桃佳に向けた。
「駿ちゃんときちんとできるまで、私は駿ちゃんの彼女です……だから、それまでは多希さんとこうすることはできません。多希さんが好きだっていうのは嘘じゃありません。……逃げませんから」
その瞳にはしっかりとした意思が宿っている。
「……っぁあーーーーー、……分かったよ」
多希は頭をぐしゃぐしゃと掻きむしると、大きなため息をついて諦めたように桃佳から離れる。確かに、桃佳の言いたいことも分かったから。そしてそれがしっかりと自分を選ぶ決心だということが分かったから。すっかり興奮してしまった体を納めるのは苦労しそうだったものの、桃佳の思いは嬉しかった。
ぐしゃぐしゃになった頭で胡坐をかいている多希を見て、桃佳はクスッと笑うと自分からその唇にキスをする。
「……モモ」
「側にいますよ。ちゃんと」
穏やかに微笑みかける桃佳を、多希は強く抱き寄せる。せっかく我慢しようと決めたのに、早くもその決心は揺らぎそうだ。けれど、確かに駿の事はこのままにはしておけないことだった。
「……駿には俺から話すよ。俺が始めたことだから」
その提案に、桃佳はゆっくりと首を振る。
「私からちゃんと言います。だって、始まりはどうであれ、結局は私が多希さんを好きになってしまったんですから。これは、駿ちゃんと私の問題です」
『これは、駿ちゃんと私の問題』
その言葉に多希は少しだけ嫉妬してしまう。きっと長い時間積み上げてきたはずの、桃佳と駿のふたりの時間に。
「でも、悪いのは俺だろ?」
「私がけじめをつけますから。……じゃないと、いつまでたっても変えられませんから」
しっかりと自分を見据える桃佳を見て、彼女が絶対に譲る気はないことを多希は感じ取る。意外と頑固な桃佳の性格も知っていた。
「……分かったよ。でも、モモが決着をつけたら、俺からもちゃんと駿には話すから」
その言葉に、桃佳は小さく頷く。
その途端に、おなかから盛大な音がして、空腹を訴えた。ふたりは顔を見合せて笑う。
「おなか、空いちゃいましたね」
「ああ、どっか食べに行こうか」
「そうしましょう」
くすくすと笑い合い、ふたりは食事に出かける準備を始めた。




「美佐子、どうしたの?」
呼びかけられて、柴山美佐子ははっと我に返った。土曜日の繁華街は人で賑わっている。その人ごみの中に美佐子は立っていた。息子はバイトで遅く、夫は今日も残業。学生の頃の友人からの誘いで、久しぶりに飲みに出て楽しい時間を過ごしていたのだ。……ついさっきまでは。
「もう一軒行くでしょう?」
少し先を歩く友人に相槌を打ちながらも、ちらちらと後ろを振り返る。
その視線の先には人ごみに紛れた、よく見知った後姿。
血の繋がらない息子の多希と……信じたくはない。信じたくはないけれど、見間違いではない。あれは、最愛の息子の彼女。
まさか、どうしてふたりが一緒に?
美佐子の頭の中は混乱を極める。駿が家にまで連れてきた彼女と、多希がどうして一緒にいるのか。しかもふたりはとても親しげに笑い合っている。
「美佐子?」
だいぶん先の方で、友人が振り返って呼ぶ声が煩わしい。
「美佐子。どうしたの?」
駆け寄ってきた友人に、美佐子は早口で詫びた。
「……ご、ごめんなさい。私……帰るわ。また、今度」
「え? ちょ、美佐子?」
友人の呼び止める声も耳に入らず、美佐子はふらふらと歩きだしていた。
多希と桃佳の背中を探して……その目は、どこか虚ろで、少しばかりの狂気を含んでいるようだった。


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