りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


101.いつか君が

2010.06.08  *Edit 

「あ~!! たっくみさぁん!! こっち、こっちぃ!!」

指定された居酒屋についたとき、美緒はもうすっかり出来上がって、赤い顔で上機嫌でビールジョッキをあおっていた。店内に入ってきた拓巳を見つけて、ビールジョッキを掴んだままで立ち上がり、嬉しそうに手を振っている。足にまで酔いが回っている様子で、ふらりとしたところを、駆け寄った拓巳に支えられる。
「……美緒ちゃん、大丈夫?」
「だいじょーぶっ、大丈夫ですよっ。早かったですねえ」
「まあ、ね」
美緒を椅子に座らせ、拓巳も美緒の向かい側の椅子に腰を下ろす。

美緒から電話があったのは、つい十分ほど前の事だった。土曜の夜に寂しくもひとりでテレビを見ていた拓巳は、美緒からの電話を切った後、身支度もそこそこに家を飛び出したのだ。その証拠に上下ジャージ姿。指定された店が、お洒落なバーではなく庶民的な居酒屋でよかったと心底思う。
『……拓巳さん、早く来て……』
電話口で美緒は泣き声を出していたのだ。だから拓巳は取るものもとりあえずこうして急いでやってきたというのに、当の美緒は目の前で鼻歌を歌っている。
さっきの電話とあまりにも違う美緒の様子に呆れるどころか、そのあまりの不自然さに、拓巳の心配は一層大きくなるばかりだった。
「拓巳さんも飲みますよね? ビールひとつお願いしまーす」
拓巳の返事も聞かずに、美緒はビールの追加注文をしている。それからついでにおつまみも何点か。
「拓巳さんも食べません? 鳥串美味しいですよ」
皿ごと勧められ、拓巳は「どうも」と小さく言って鳥串を手に取ると口に運んだ。
「美味しいでしょ?」
美緒は自分は枝豆を口に放り込みながらにこにことしている。そして、さっきから思慮深気に自分を見ている拓巳に、不思議そうに首を傾げる。
「どうかしました?」
「いや、別に」
今すぐにでもさっきの涙の訳を聞きたいのに、どうしても拓巳には聞けなかった。どちらかというといつも凛としている美緒が、今はすっかりその影もなくし、ひたすらな空元気を続けていたから。
「いや、美緒ちゃんに指定された店がお洒落な店じゃなくてよかったと思ってさ。美緒ちゃんだったらそういうとこ行きそうだし、俺、こんな格好だから」
苦笑いを浮かべる拓巳に、美緒はふにゃりとした笑顔を見せる。
「やだなあ。私、お洒落な店とかってそんなに好きじゃないんですよー。落ち着かないし。こういう居酒屋の方が落ち着くんです。私、根はおっさんですからっ」
そう言って面白そうに笑う。
ひとしきり笑った後、その笑顔が急に固まり、テーブルに何かがぽたりと落ちた。
「……美緒ちゃん」
ぽたり、ぽたり。次々にそれはテーブルの上に落ちては弾ける。美緒の切れ長の瞳から溢れ出た涙が、拓巳の目の前で弾けて消えた。
「……うっ」
耐えきれなくなったように、美緒はテーブルに両肘を立てて掌に顔を埋める。嗚咽は聞こえなくても、美緒の細い肩は小刻みに震えていて、必死に泣くのを堪えているのが拓巳にも分かった。
「美緒ちゃん」
声をかけると、美緒は掌で顔を覆ったままでぼそぼそと答える。
「……め、んなさい。急に、こんな泣かれたら、拓巳、さんも……困りますよね」
必死に嗚咽をこらえながら美緒は肩を震わせる。いくら酔ってるとはいえ、まだ残っている冷静な自分が、こんなところで泣き声を上げたら拓巳に迷惑がかかるからダメだと言っている。美緒自身、拓巳に側にいてもらいだけで、彼に迷惑をかけたいわけではない。必死に漏れてしまいそうな嗚咽を堪える。
ぽん、と肩にあたたかな手が触れて、美緒は顔を覆っていた手をずらしちらりと横を見る。いつの間にか隣の席に移ってきた拓巳が、心配そうに自分の事を見ていた。
「……美緒ちゃん。なんかあったんだろ? 泣きたかったら泣いてもいいんだよ」
拓巳の言葉に美緒は鼻の奥がツンとしてくるのを感じた。それと共にせっかくこらえようと我慢していた涙も、嗚咽も一気に溢れだす。泣いている自分なんて迷惑だと思われていると思っていたのに、泣いていいと優しく促してくれる拓巳。こんな自分を受け入れられたという思いは、我慢していた美緒をきれいさっぱり壊してしまった。
「……う……っ、う、うううっ、ああっ」
美緒は机に突っ伏すと、嗚咽を漏らしながら泣き始めた。拓巳はその背中をそっと撫でる。店にいた他の客たちが好奇の視線を投げかけてきていたものの、拓巳は少しも気にならなかった。今は打ちひしがれてしまったように泣きじゃくる美緒をどうにかしてあげたかった。

どれくらいそうしていたのか、根気強くその背中をさすっていると、しばらくして美緒の泣き声はだんだんと小さくなってきた。しゃくり上げる肩の動きもゆっくりとなり、何度も何度も自分を落ち着かせるかのように大きな呼吸を繰り返している。
「……大丈夫?」
おしぼりを差し出し声をかけると、美緒は差し出されたそれを受け取ってこくんと頷いた。
「……ご、めんなさい」
呟くようにそう言って、受け取ったおしぼりをぎゅっと握りしめる。そして自分のバックからハンカチを取り出して目の下を拭いた。
「これ、汚しちゃったらお店に悪いから……ほら、私お化粧濃いでしょ?」
そう言ってふふと笑う。その顔を見て、拓巳もほんの少し微笑んだ。
「あのさ、もしかして人がいて落ち着かないんだったら、うちに来ないか?」
「え?」
ハンカチで顔を隠したままで美緒が視線だけ拓巳に向けて、目を瞬かせる。その顔は確かに人に見せられるようなものではなさそうだ。涙で流れたマスカラで、頬には黒い線ができてしまっている。アイシャドーも勿論、言うまでもない。
「あー……誤解しないでよ? 顔、洗った方がいいのかなって思って」
他には聞こえないように耳打ちされ、その意味がわかった美緒はかっと顔を赤らめた。
「そんなひどい顔してます?」
「まあ、それなりに」
「ひどい」
そう言ってやっと美緒らしい笑顔を見せた彼女に、拓巳は内心ホッとしていた。



「すいません。使わせてもらいました」

そう言って洗面所から出てきた美緒を、拓巳はまじまじと見つめた。ふたりは居酒屋を出た後、店からそれほど離れていいない拓巳のアパートにやってきたのだ。いつでもちゃんと持ち歩いているという化粧ポーチには、しっかりとクレンジングも用意されており、美緒はそれを持って洗面所に行っていたのだった。
「……あんまり見ないでもらえます?」
美緒は恥ずかしそうに口を尖らせる。すっかり化粧を落とした美緒は、いつもの彼女とは全く違っていた。普段は化粧をのせいで少しきつめに見えるその顔も、ノーメイクだとどこか幼く見える。そっちの方がいいのに……口から飛び出しそうになった言葉を、拓巳は必死に抑え込んだ。
「何か飲む? ……って、ビールしかないけど」
「いただきます」
泣いてしまったせいで、アルコールさえも涙と一緒に流れてしまったように、今の美緒は少しも酔ってはなかった。冷蔵庫からビールを取り出してきた拓巳が、彼女にビールを手渡す。
「どうぞ」
「……ありがとうございます」
渡されたビールをちびちびと飲みながら、美緒は吐き出すようにその胸の内を話しだした。

「拓巳さん……私、柴山さんとエッチしたんです」
突然の告白に、拓巳は口の中のビールを吹き出しそうになるのを必死にこらえる。
「あ、でも正確には襲っちゃったってことになるのかな……柴山さん、無抵抗だったから」
ビールを吹き出すのは必死にこらえた拓巳だったものの、続く言葉に耐えきれずに激しくむせ込んだ。
「……大丈夫ですか?」
「だ、だいじょう……ぶ。だけど、それって……」
むせ込んで少しだけ涙目になりながらも、言葉の真意を確かめるように拓巳は美緒を見た。
「柴山さん、落ち込んでるみたいだったから、それで、今なら落とせるかなって思って襲ったんですけど……無抵抗な上に、上の空でした」
笑いながら勤めて明るく美緒は言葉を吐き出す。そうしていないと、惨めさに胸が押しつぶされそうだった。抱きしめるどころか、触れられることもなかった体。自分を見ていないような遠い多希の目。その全てが多希にとっては自分など、全く眼中にないことをはっきりと示していたから。

そう、多希の目にあの時映っていたのは自分ではない。あの時見ていたのは……

美緒は一気に渡されたビールを煽る。
「拓巳さん」
「ん?」
「柴山さんとモモちゃんって、本当に兄妹?」
核心を突く質問に、拓巳はごくりと唾を飲み込んで言葉を失ってしまう。美緒にとってはもうそれだけで十分すぎるほど答えになっていた。
「……やっぱりね」
どこか諦めたような響きを含んだ声。強気な美緒らしくない。
何も映していないかのような多希の瞳。それが桃佳が現れた途端に生気を取り戻した。それだけでも十分何かを感じ取れたけれど、美緒は聞いてしまったのだ。ベランダ越しにふたりの会話を。熱い熱を孕んだような多希の声は、到底妹に向けられたものには聞こえなかったのだ。
「美緒ちゃん……」
ごめん。黙っていて。そう言おうとした拓巳の言葉を遮るように、美緒が明るい声を出す。
「ばっかみたいですよね。よく考えたら、最初からふたりの行動は怪しかったんですよ。どうして気付かなかったんだろ?」
一瞬その瞳に浮かんだ涙を、美緒は手の甲で乱暴に拭う。そうしてにっこりと拓巳を見た。
「……分かったんです」
「なにが?」
「私がどう足掻こうと、柴山さんの事どうにかすることはきっともう無理です。それに……柴山さんに対する思いは、もしかしたら綺麗なものに対する憧れみたいなものだったのかもしれません」
美緒はほうとひとつ息を吐く。
「私、ずっと思っていたんです。柴山さんの隠された顔を見てみたいって。でも……柴山さんがその本当の顔を見せるのは、私じゃないんです。きっとモモちゃんだけ。悔しいけど、きっとそれが真実」
拓巳は美緒の言葉にどうこたえるべきか分からないでいた。美緒の言うことは多分、間違いない。
視線を床に彷徨わせ、困った顔をしている拓巳の肩を美緒がぽんと叩く。
「やだなあ、拓巳さんがどうしてそんなに落ち込んでいるんですか? 私、自分が思ってた以上に、落ち込んだりしていませんから……って、泣きながらすぐ来てってお願いした私が言っても嘘臭いですね」
「美緒ちゃん」
やはりかける言葉が思いつかず、拓巳は俯いた。こんな時に気の利いた言葉ひとつかけられない自分が恨めしい。
「拓巳さんが来てくれて、よかった。拓巳さんがいてくれると、ほっとします。こんな風に冷静でいられるのも拓巳さんのおかげですよ。じゃなかったら、きっと惨めで情けなくて仕方なかったと思います」
美緒は「ありがとうございます」と言うと、拓巳に向かってぺこりと頭を下げる。
「傷ついてないって言ったら嘘になりますけど……うん、嘘ですけど、でも、ちょっとだけ元気が出てきました」
「無理、してない?」
「……今は、無理も必要ですよ。でも、いつまでもうじうじしていたって何も変わらないし。大丈夫だって、自分に言い聞かせなきゃ。男は柴山さんだけじゃないもの」
目を細めてにっこりと笑う美緒を、拓巳は抱きしめてあげたいと思った。そうだよ、男は多希だけじゃない、俺だっているんだから。そう言って傷ついた美緒につけ入ってしまいたいとも思った。落ち込んでいる多希を落としてしまえるんじゃないかと思った美緒の気持ちが、自分の思いと重なって痛いほどに分かる。どんな手を使ってでも、手に入れたいと思うことは誰にだってあるはずで、きっと誰にも責められない。

「いつでも話くらい聞くから、遠慮しないで連絡してくれていいからね」
走ってしまいそうな気持ちをぐっと堪えて、拓巳はぽんと美緒の頭に手を添えた。
「はいっ!」
嬉しそうに答える美緒を見て、拓巳はこれでいいんだと心の中で呟いた。


急がば回れってね……

いつか君が自然に俺を見てくれるその日まで。


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  • #23  
  •  
  • 2010.06/08 21:17分 

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  • #24  
  •  
  • 2010.06/10 15:20分 

Re: 誤字報告です 

なるほど!! 
ありがとうございます!!

自分で書いていると、時々分からなくなってしまうんですよね……もともとくどい書き方がくせなので。
スマートな文章に憧れます。
  • #26 沢上澪羽 
  • URL 
  • 2010.06/17 00:50分 

Re: NoTitle 

ゆうかさん、お返事ありがとうございます!!
すっかり返事が遅くなりまして……体調不良(子供が)で、パソコンの前に座れない日々でした。゚(つД`)゚。

それはそうと、ジェジュンさんですか!!
おお~、確かに美しい御顔立ちですよね!!
影のある感じも、確かに……雰囲気あります!!
私ですか?
私はそうですねえ、成宮寛貴さんですかね?
イメージの中で栗色の髪の毛だったので、最近のドラマの中の成宮さんが金髪だったのでなんとなくイメージが繋がったといいますか。
多分、年齢的にも近いような。
ファンの方からブーイングが来ないことを祈るばかりです(^_^;)

そうそう、これから駿ママ出てきます。
私も書いていて、美佐子さんはいやだなあ……
でも一応彼女も必要な人なので、我慢しつつ書いています←?
子を持つ母として、美佐子さんにはならないぞと心に誓いつつ(笑)

これからもよろしくお願いしますね!!
  • #27 沢上澪羽 
  • URL 
  • 2010.06/17 00:59分 
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