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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


12.引っ越し

2010.03.23  *Edit 

隣の部屋から聞こえる物音で、桃佳は浅い眠りから目覚めた。
ベットのそばにある目覚まし時計は、9時を指している。
あの後、二人でケーキを食べ、駿が帰っていったのは22時過ぎだった。
タルトは確かに美味しかったのだけれど、もうその味はなんだか思い出せそうもない。駿とあれから何を話したのかも、ぼんやりとしていてその殆どを思い出すことができなかった。
ただ、この週末は、駿は大学の友達と出かけるとかで、桃佳にはあえない・・・そう言っていたように思う。

がたん。

またしても隣の部屋から響く音に、桃佳は驚いて顔を上げた。
隣の部屋は、数ヶ月前から空き部屋だ。
前は、OL風のお姉さんが住んでいたけれど、特に仲良くするわけでもなく、会えば挨拶を交わす程度だった。それでも、隣に人が住んでいる気配というのは、桃佳を安心させていた。
だからこの数ヶ月、隣が空き部屋というのは、なんとなく心細さを感じていたのだった。
「隣・・・誰か引っ越してきたのかな?」
期待をこめて独り言を言ってみる。
できれば、また女の人が住んでくれたらいいのだけれど・・・そんなことを思ってると、ピンポ〜ンと、チャイムが鳴って桃佳はどきりとする。
もしかしたら、隣に越してきた人が挨拶に来てくれたのかもしれない。
パジャマ代わりのハーフパンツにTシャツという格好だった桃佳は、慌ててパーカーを着ると玄関に走った。
「は〜い」
昼間で、しかも隣の人が越してきたんだろうと思っていた桃佳は、何の警戒心もなく、玄関のドアをいっぱいに開いた。

「おはよう」

そこに立っていた人物を見た瞬間、桃佳はいっぱいに開いていた玄関のドアを素早く閉めた。
・・・はずだった。
しかし、ドアの隙間に片足が差し込まれていて、どうにも閉まらない。
必死にドアノブをつかんで閉めようとしたが、足は挟まっているし、外側からドアを開けようとする力のほうが強くて、ドアは桃佳の抵抗もむなしくゆっくりと開いた。
「・・・ちょっと酷くない?その態度・・・」
ドアの隙間から、笑顔がのぞく。顔は笑っているけれど、怒っていることは一目瞭然だ。
抵抗しても無駄だということを分かっていながらも、桃佳はドアを閉めようとする手を緩めない。
「何の御用ですか?多希さん」
「何の・・・って、引越しのご挨拶だけど?」
「・・・は・・・!?」
多希は、驚いて桃佳の力が緩まったのを見逃さずに、一気に玄関のドアを開けた。
桃佳が玄関の中で、呆けたように目を丸くして多希を見つめている。
「・・・なんて言いました?今」
「だから、隣に引っ越してきたんだって」
「・・・誰が?」
「俺が」

この人・・・何を言っているんだろう?
桃佳の脳細胞はあまりのことにすっかり活動を停止してしまって、どうしても多希の言っている意味を理解することができない。
「あの〜、荷物運び終わりました〜」
引越し業者らしき若い男の人が、遠慮がちに多希に声をかけてきた。
「ああ、どうも。ありがとうございます」多希がそうにこやかに答えると、業者も「どうも〜」と言って帰っていった。
「モモ?」
「はい!」声をかけられて、はっとして返事をする。
・・・っていうか、『モモ』ってどういうこと!?馴れ馴れしいんじゃないの!?
そうは思っても、多希にはどうしても強く出ることができない。
「ぼーっとしてないでさ、手伝って」
「は?何をですか?」
「片付けに決まってんだろ」
そう言いながら、多希は隣の部屋を指差す。
「どうして私が・・・っ!」
「どうして・・・って、俺の言うことは聞いてもらうって言ったはずだけど?それとも、乱れまくったモモの写真、学校やネットでばら撒かれたい?」
その言葉に、桃佳は唇を噛み、拳をぎゅっと握った。
できることならば、この場で楽しそうに笑っている多希を、ぼこぼこにしてやりたい・・・いや、それよりも、あの日うかつにも多希の策略にはまってしまった自分自身を消してしまいたい。
そんな、今更どうしようもない想像を、桃佳は頭を振って追い出す。
「どうする?手伝う?」
「・・・手伝います」
「そう、それでいいんだよ」
多希はきれいな顔で微笑んで、桃佳の頭を優しくなでた。まるで仔犬でもなでるかのように。
「それよりさ」
「はい?」
「それ、あんまりにも色気のない格好だから、着替えてきてもいいよ。パジャマにパーカー引っ掛けてきたってところでしょ?」
「・・・!!」
見透かされて、悔しいやら恥かしいやらで、桃佳はかっと赤くなった。
「き、着替えていきますから、自分の部屋の片付けしていてください!」
そう言って、玄関のドアをばたんと閉める。今度は多希の足が邪魔することなく、そのドアは閉められた。

「モモ、赤くなって可愛いの〜」
楽しそうに笑って、多希は自分の部屋へと向かう。
玄関先には、荷物が置かれていたけれど、その量はさほど多くはない。
ダンボールをひとつ抱えると、部屋の中に運び入れた。
すでに引越し業者が、ベットやテレビのような大きな荷物は運び入れてくれていた。だから後は、こまごました物が主だ。
多希は日当たりのいい窓辺に腰掛けると、タバコに火をつけた。
窓を開けて、部屋の中に風を入れる。
今回の多希の引越しのことを知っているのは、美佐子だけだ。
保証人のところにサインをもらいに行ったら、あっさりとサインをしてくれた。けれど引越し先の住所がどこか、そんなこと、美佐子にはまったくといっていいほど興味のないことだろう。
事実、引越し先がどこかとか、いつ引っ越すのかなんて、一言も聞かれはしなかった。
もしかしたら、自分がサインしたその書類が何だったのかも、全く見ていなかったかもしれない。そう。全く興味の欠片もないのだから。
だから、実家で自分の引越しの話題があがるなんてことも心配しなくてもいい。
「・・・かえって助かるけどね」
多希は飲みかけのコーヒーの缶にタバコの灰を落とし、細く煙を吐き出しながら、冷たい横顔で「ふん」と鼻先で笑った。

「何やってるんですか!?人に手伝いを頼んでおいて、ぼんやりしないで下さい!」

卑屈な気持ちを吹っ飛ばすようなちょっと怒った声に、多希はにっこりと振り返る。
その表情に、さっきまでの冷たさはもうない。
桃佳は両方の腰に手を当てて、仁王立ちで多希を見ている。口元はへの字になり、いかにも『怒っています』の顔をしているものの、元が元だけに全くと言っていいほど迫力がない。
「ちゃんと来たんだね、モモ。えらいえらい」
「ほら、さっさと片付けしちゃいますよ」
桃佳はタイトなジーンズに、黒のTシャツといった至ってシンプルな格好だったけれど、さっき多希に言われた『色気がない』という言葉を気にしてか、ひとつにまとめた髪は可愛らしいシュシュで飾られている。
「勝手に開けちゃっていいんですか?」
「どうぞ。見られて困るようなものもないしね」
「じゃ、私はダンボールの中身出していきますから、多希さん、玄関のダンボール運んじゃってください」
「うん」
多希はそう言いながらも、窓の外を見ながらタバコを吸っている。
次の瞬間に、持っていたタバコと灰皿代わりにしていたコーヒーの缶は、多希の手からひったくられた。
「・・・多希さん・・・。ダンボール、運びましょうか」
口元だけに笑みを浮かべ、桃佳はまだ火がついているタバコを、コーヒーの缶の中に落とした。ジュッと缶の中で火の消える音がした。
その缶を窓辺に置くと、桃佳は再びダンボールの中の荷物を整理し始める。

「モモさあ・・・意外と、見かけとは性格違う感じなんだね」
「別に多希さんに猫かぶっても仕方ないですからね」
桃佳は振り向かずに答える。
多希は肩をすくめて玄関に向かった。
そんなに重くもないので、ダンボールをまとめて二個抱えて部屋の中に運び入れた。
部屋の中心では、ダンボールの荷物を出している桃佳の、シュシュでまとめられた髪の毛がぴょこぴょこと揺れている。


引越しのとき、誰かがいて手伝っているなんてことは初めてだな。


そんなことを思って、多希はまた鼻先で「ふん」と笑った。


・・・少しだけ、照れくさそうに。





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【恋愛遊牧民】


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