りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


105.洗濯物と見つめる目

2010.06.23  *Edit 

「え? バイト?」
昼休みに突然鳴り出した電話は駿からだった。桃佳は教室の片隅で携帯を耳に押し当て、苦い顔をしている。
『うん、ごめん……どうしても人手が足りなくて、いつもより早く行かないとならなくてさ』
「そう……」
『ごめん』
「ううん。バイト頑張ってね」

パチンと音を立て、駿の声が途絶えた携帯を閉じる。桃佳はそれをぐっと握り締めて、目を伏せた。

今朝家を出るときに、きちんと自分の気持ちを駿に伝えるべく決心をしてきたのだ。
時を長引かせるのは、無責任で残酷だと思ったから。だからこそ、今日はきちんと伝えようと……けれどその決心を揺るがせるかのように、今日は駿とは会えない。早く伝えなくちゃと焦る気持ちの一方でほっとしている自分にも気付き、桃佳はそんな自分に嫌気がさす。
伝えなくて済むのなら、伝えずにおく方法はないだろうか、ついそんなことさえ思ってしまう後ろ向きな自分。勿論、そんなことが無理なのは分かっている。分かっているからこそしてしまう現実逃避……

「ああ、もうっ、ダメだったら!!」
両方の手で頬を叩くと、ぴしゃりと目の覚めるような音がする。
ひりひりとした頬の痛みが、桃佳の事を現実へと引っ張り上げてくれるような気がして、彼女はほっと息をついた。
明日こそ……
明日こそきちんと目を見て伝えよう、そう決心する。






もしかしたらこんなことまでして、私はおかしいのかもしれない……

大きな建物を見上げながら、美佐子の冷静な部分はちらりとそんなことを考えた。けれど咄嗟に、人ごみに消えていく多希と、駿の彼女である桃佳の背中を思い出し、そんな思いは一瞬で吹き飛んでしまった。

そうよ、私は駿のために知らなければいけないの。『あの女』の子供が、きっと何かをしたのに違いないんだから……!!

初めはどこかおどおどとしていた瞳が、どこかぎらぎらした色に染まる。
じっと見上げる建物は、多希の働く総合病院だ。多希の家を調べようと考えたが、引っ越の際保証人として名前を書いたものの、詳しい住所など興味もなく覚えていない。美佐子はそのことを悔んでいた。覚えていれば、こんな手間を取らずに済んだのに……と。
腕時計をちらりと見ると、既に就業時間を過ぎている。待ち人はやってこない。
もしかしたら、別の出口から出たのだろうか?
そう美佐子が思った時、長身で遠目からでもはっきりとわかるその姿を、彼女の目は捉えていた。たったひとり、病院から出てくる多希の姿を……
木陰に身を隠しながら、美佐子は慎重に距離を取り、そっと多希の後をつけ始めた。


必死に多希の後姿を追いかけながら、美佐子はどんどん嫌な予感に包まれ始めていた。なぜなら、多希が向かっている先は、昨日駿を追って辿った道と同じだったから。
最初は偶然だと思っていた。けれど、追えば追うほど、昨日見た風景と同じものが目の前に広がるだけ。そして、着いた先も昨日と同じ場所だったのだ。

どうして? 叫び出しそうな気持ちを抑えて、心の中で呟く。どうして、どうして?

多希はアパートの集合玄関から中に入り、入口付近にある郵便受けをチェックしている。郵便物に目を通しながら、すぐ脇の階段を上がって行くのがガラス越しに見えた。
美佐子は近くの建物の陰に身をひそめて、多希の向かう先を見失わないように目を凝らした。人影は二階に現れ、ふたつ目のドアで立ち止まると慣れた手つきで鍵を開けて入って行く。

ふたつ目のドア……

美佐子の中がどんどん黒く塗りつぶされていく。二階のふたつ目のドアが誰の部屋か、昨日見たばかりでよく知っていた。そう、昨日駿はここの部屋の主に会いに来ていたのだから。
ぎゅっと拳を握りしめ、美佐子は建物の反対側に回った。玄関とは反対側……ベランダが見える方に。二階の窓を数える。ひとつ……ふたつ。あそこ。
狭いベランダに洗濯物がはためいている。薄いピンク色のレースカーテンがゆらゆらと揺れているのも見えた。昨日、あの窓からは賑やかな笑い声が聞こえてきたのだ。……間違いない、桃佳の部屋だ。
美佐子はこれ以上ないほどの厳しい視線をその窓に向ける。
意味が分からなかった。
なぜ、多希が駿の彼女の部屋に入って行くのか。しかも、鍵まで持っている。そう、この前見たふたりはとても親密そうだった……何があるというのだろう?
窓辺に人影が見えて、美佐子は咄嗟に車の陰に隠れる。ベランダで桃佳が洗濯物を確かめている。中から何か声をかけられたのか、部屋の中に向かって明るい笑顔を向けて何やら話しているのが分かる。
中にいるのは多希のはず。なのにどうしてそんなに明るい笑顔を向けるのだろう? 美佐子の混乱は更に大きなものとなった。
そして、ふと思いつく。



ああ。そうか。

美佐子の中でひとつの答えが閃く。
多希(あのこ)の策略なんだわ。駿から彼女を奪おうとしている。駿を貶(おとし)めるために……
きっと彼女は多希に騙されているんだわ。じゃなきゃ、駿が裏切られる理由がないもの。なんて酷い子。なんて恐ろしい子……『あの女』の子供なんだから、こんなことをするのにも何の戸惑いもないに違いないんだわ。

心の中が怒りで沸騰しそうになっている。憎しみを隠すこともないその表情は、鬼気迫るものがある。
「……私がどうにかしなくっちゃ」
美佐子は呟くと踵を返してその場を離れる。
私がどうにかしなくちゃ。多希を止めなくちゃ。駿の彼女を取り戻さなきゃ。駿を守ってあげなきゃ……
ぶつぶつと口の中で呟くようにしながら、美佐子はその場を離れて行った。


「モモ、洗濯物取りこむの手伝おうか?」
ベランダで洗濯物を取り込もうとしていた桃佳は、部屋の中から多希にそう声を掛けられて体を半分部屋の中に戻す。
「大丈夫ですよ。そんなに沢山はありませんから」
そう言いながら手際よく洗濯物を抱え込んだ。弟が三人もいて、彼らの母親代わりをしていた桃佳にとって、ひとり暮らしの洗濯物の量など大したものではない。実家にいるときには、一日で今取り込んだ洗濯物の何倍もの量を処理していたのだから。
器用に全ての洗濯物を抱えて部屋の中に入ると、待ちかまえていた多希が桃佳の抱えた洗濯物を受け取ってくれた。
「あ、すいません。ありがとうございます」
「たたんでおこうか?」
「いえ、それはいいですよ。後で私がやるんでそこら辺に置いといてください」
「そう?」
と答えつつも、多希は腕に抱えた洗濯物をしげしげと見つめている。
「ねえ、モモ?」
「はい?」
そんな多希を桃佳は不思議そうな目で見つめた。抱えた洗濯物がそんなに気になるものだろうかと。
「これ、下着入ってないけど、下着は洗ってないの?」
「……は?」
「いや、せっかくだから、モモの身につけてる下着を拝見するチャンスかと思ったものだから」
その言葉に、桃佳の顔はぼんと赤くなる。
「ば、バカじゃないですか!? 下着をベランダに干すほど抜けてません!! 盗めって言ってるようなものじゃないですか!!」
「ああそうか……確かに下着を公衆の面前に晒すような真似はよくないね。それに」
変に納得した顔で頷きながら多希は抱えていた洗濯物を床に置くと、桃佳に近寄りそっと耳元に唇を寄せた。
「……どうせだったら、洗濯物としてぶら下がってるよりも、モモが実際身に付けてるのを見る方がいいね」
ひそりと、けれど甘い熱を孕んだ囁きに、桃佳の背中はぞくりとし、その感覚が背中を滑り落ちるのと同時に心臓が一気に鼓動を速めた。
熱くて沸騰してしまったんじゃないかと思うような顔を多希に向けると、これ以上ないくらいに悪戯な笑みを向けている。悪戯で、色気のある顔。引きこまれ、イケナイ気持ちになってしまいそうな、そんな顔。
「ば、バカ言わないでください!!」
視線を合わせているとずるずると引き摺りこまれてしまいそうで、無理やりに顔を背けて多希の視線から逃げる。急激な運動でもしたかのように脈拍は速く、呼吸も苦しい。それ以上に、熱を持ちすぎた頬は痛いような気さえするほど。
とにかく多希のそばにいると体がおかしくなるような気がして、背中を向ける。小さく呼吸を繰り返して、何とか自分を落ち着かせようと試みた。そんな桃佳の小さな背中を、多希はクスッと笑って見つめている。

「……馬鹿なことじゃない。本音だよ」
「へ? えっ、あっ」
優しげな声と共に腕が引っ張られ、桃佳はさっき取り込んだばかりの洗濯物の山に引き倒された。ぼすんと洗濯物の山に受け止められ、その体は沈み込む。一瞬、優しい洗剤の香りと、太陽の香りに包まれて、こんなときだというのに桃佳は目を細める。それは大好きなにおい。
けれど、次の瞬間には自分の状況を思い出してはっとした。
「ちょ、多希さんっ!」
咎めるような声を出したものの、既に遅い。多希は洗濯物の山に両肘をつき、桃佳はその腕の間に閉じ込められてしまっている。身を捩ったところで解放してくれそうもない。頬にキスをされ、洗濯物の香りと多希の香りに同時に包まれ、ふっと力が抜けてしまう。
「見たいよ。モモの全部……」
目元、頬、耳たぶ、首筋……唇をわざと避けるようなキスの雨を受けながら、桃佳の頭はどんどん熱くぼんやりとしていく。今にも蕩けだしそうに。
「全部俺のものにしたい。……今すぐ」
あまりの熱に視界さえも潤んだ。多希の真剣な表情もすぐ目の前で潤んでいる。
多希の言葉に従って、求められるまま今すぐに多希に全てを預けてしまいたい誘惑にかられる。そう、全て多希のものに……
けれど。
「ダ……」
ダメ、そう言おうとした唇は、多希の唇に塞がれる。好物は最後に取っておく子供のように、最後に唇に落とされたキスは、多希によって激しく貪られる。息さえもできないようなキス。お互いを繋ごうとするかのようなキス。
唇が離されても尚、透明な糸でふたりの唇は繋がっていた。
名残惜しそうにもう一度触れるだけのキスを落とし、多希は微笑む。
「分かってるよ。今は何もしない」
「多希さん」
確かにすっかり疼くように体が熱くなってしまっているのは事実だ。それでも、きちんとするまで何もしないでいてくれる多希の気持ちが嬉しくて桃佳も微笑む。



「でもね、モモ…………」



そっと囁かれた言葉に、桃佳は気を失いそうになってしまった。





『我慢してる分、全てが片付いたときにはダメなんて言葉聞けないよ? きちんと我慢した分は、その体に返してあげるから、今から覚悟しておくといい……』


綺麗な笑顔が、悪魔に見えたのは言うまでもない。


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