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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


110.壊れたココロ

2010.07.11  *Edit 

午前中の実習を終え、桃佳はロッカールームで携帯の電源を入れた。
もしかしたら駿からのメールがあるんじゃないかと、淡い期待を抱いて。

「……あっ」

思わず小さな声が漏れた。携帯のディスプレイには、新しい受信メールを知らせるマークがしるされている。桃佳は慌ててそのメールを開いた。

『今、電話しても大丈夫?』

短いメールは確かに駿からのものだ。受信した時間を見ると、まだ数分しか経っていない。桃佳は慌てて携帯を持つと、ロッカールームから飛び出して外に向かった。施設の中では電話するわけにもいかないから。短い昼休み、食事をする時間もなくなってしまうかもしれなかったが、そんなことはどうでもよかった。
施設の外に飛び出し、急いで駿に電話をかける。
短い呼び出し音の後に、あんなに何度も電話をしても出てくれなかった駿が、それまでのことは嘘のようにあっさりと電話に出る。

『もしもし、清水?』
「……駿、ちゃん」
桃佳はほっとして、その場に座り込みそうになってしまうのをやっとの思いでこらえる。
『ごめんね、しばらく電話できなくて。実は、急にバイトが忙しくなって、学校が終わったらすぐにバイト先に向かってたものだからさ。待ち合わせにも行けなくて……ごめんな。心配させたろ?』
いつもと変わらない、駿の優しい声。
電話が繋がった安堵感と、駿の変わらぬ様子に、桃佳は思わず視界が潤んだ。
別れを告げるための連絡が取れたことに安堵する自分の浅ましさ、それが桃佳の心を苛んでいた。変わらぬ様子の駿の様子が、その思いを一層大きくする。
「……ううん、ごめんね。忙しかったんだね」
『うん。連絡もしなくて本当に悪かったよ。今、大丈夫なの?』
「うん、大丈夫。今はお昼休みだから」
瞳に浮かんだ涙が、思わずポロリと零れおちた。そのせいで鼻声になってしまいそうなのを、必死に堪えながら桃佳は話す。きちんと話をしなければいけないのに、こんなことで泣いているわけにはいかないから。
『なんか、話しがあるの?』
駿の言葉に、桃佳の心臓はずきりと痛んだ。
「う、うん」
『じゃあさ、今日後から清水の家に行ってもいいかな? バイト、早く終わりそうだから』
「え、えと……」
桃佳は即答できなかった。その脳裏に、一瞬昨日の多希の言葉が蘇ったから。『駿とはふたりで会わない方がいい』と、確かにそう言っていた。
けれど。
けれど。
多希は今日も遅くなると言っていた。駿が作ってくれたこの時間を、無駄にするわけにはいけない。
そう思った桃佳は、昨日の多希の言葉を頭の中から追い出した。内心で多希にごめんなさいと謝りながら。
「うん、大丈夫。何時頃になりそう? 私も実習場所がちょっと遠いから、家に着くのは19時過ぎそうなんだけど……」
『そう? 俺のバイトが終わるのがそれより少し後だから……20時頃に清水の家に着くようにするよ。いい?』
「うん、待ってる」
『そう……じゃ、また後でね』
「後でね」

桃佳は駿との通話を終えて、ほっとしたようなどっと疲れたような、とにかく酷い疲労感に襲われていた。約束を取り付けただけなのにこの有様……本当に自分は駿に本当のことを言えるんだろうかと、一瞬不安になり、桃佳は自分を奮い立たせるように首を振った。
このままの状態の方が、駿にとっては残酷なのだと自分に言い聞かせて。もしかしたらそれは、逃避かもしれなかったけれど。けれど、そうでも思わないと、心が折れてしまいそうだった。



時計を見て、桃佳は落ち着かない気持ちを、大きく深呼吸することで何とか落ち着かせようとして、何度目かの失敗を繰り返していた。とても緊張した気持ちを、深呼吸などでは落ち着かせられそうにもない。
もしかしたら多希が早めに用事を終えてしまって、ふたりが顔を合わせてしまっては困ったことになると思い、多希には友達が来るから今日は会えないとメールをしておいた。ふたりで駿に話そうと言ってくれた多希には申し訳ないと思ったものの、やはり駿との区切りは駿と自分のふたりで付けたかったから。

緊張に喉が渇き、とりあえず麦茶でも飲もうと腰を上げたところに、間の抜けたいつものチャイムが鳴り響いた。
その音に、桃佳の心臓は体から飛び出しそうに跳ね上がり、一瞬眩暈を起こすほどだった。思わずふらつく体を何とか支え、桃佳は玄関に向かう。
「……はい」
「あ、俺。駿。遅くなってごめん」
扉の向こうで聞こえた駿の声に、くじけそうになる自分の気持ちを何とか支える。
「いま、開けるね」
ガチャリと開けたドアの向こうには、いつもと変わらない、優しく微笑む駿が立っていた。優しい笑顔が、こんなにも胸に痛いと思うことはこの先もきっとないだろうと桃佳は思い、思わず目を逸らした。

「お邪魔します」
駿はいつもと変わらない態度で桃佳の部屋に上がり、その微かな変化に気が付いた。
この前、みなみや章吾と一緒に来た時には気が付かなかった、ほんの小さな変化。いつも爽やかな柑橘系の香りに包まれた部屋の中に、ほんの少しだけ煙草の香りが混じっている。そして、食器棚に並ぶ食器の数も、確実に以前よりも増えている。それらは全て、多希がこの部屋に長い時間いるという証拠に他ならない。
そんな変化を敏感に感じ取って、駿は苛立ってくる気持ちをやっとの思いで抑えつけた。手にぶら下げているコンビニの袋を、指先が白くなるほどぎゅっと握りしめる。
「清水、これどうぞ」
駿はいつもの定位置に座り込むと、コンビニの袋の中からペットボトルの紅茶を差し出した。
「あ……ありがとう。今、グラスに入れるね」
笑って受け取ろうと思ったのに、どうやって笑顔を作ったらいいのかわからないくらいに、桃佳の表情は笑顔を作ることができない。そのことに戸惑いながら、顔を隠すようにして駿からペットボトルを受け取る。
グラスを取り出してキッチンに立って駿に背中を向けると、桃佳は唇を噛みながら震える手で紅茶を注ぐ。……どうやって話を切り出すべきか測りかねていた。これから駿を酷く傷つけてしまうことが、怖くてならなかった。

「ねえ、清水」
「……ん?」
背中に掛けられた声に、桃佳は振り返らずに応える。紅茶を注いでいただけではなく、まっすぐに駿の顔を見ることができなくて。
「話ってさ、そんなに大事なことなの?」
ビクン、と手が大きく震え、桃佳は思わず注いでいた紅茶をこぼしてしまう。
「あ、やだっ、こぼしちゃった……」
慌てて布巾で零れて広がった紅茶を拭き取る。指先が震えて、グラスごと倒しそうになるのを十分に気をつけながら。
「ねえ清水。何の話なの……?」
そんな桃佳の戸惑ったように動きを止めた背中を、駿は冷たい視線で見つめていた。そっと、持ってきたコンビニの袋の中に手を入れる。手に当たった硬いものをぐっと握りしめた。
「何か俺に話さなきゃいけないことが、あるんだろ?」
声はあくまでも穏やかに優しげに。けれど、視線はまるで鋭利な凶器のよう。
駿の言葉に桃佳は、勇気を奮い起そうとするかのように、硬く目を閉じて手にしていた布巾を握りしめていた。

……だから、桃佳は気が付かなかった。
すぐ後ろに駿が立っていることに。
……だから、桃佳は動けなかった。
その音が聞こえても。

ぴぃぃぃぃぃぃ……っ

何かを裂くような音が聞こえた。その音にびっくりして振り返った時には、もう手遅れだった。
目に飛び込んできた光景を、桃佳は咄嗟に理解することなどとてもできなかった。それほどまでに信じられない光景。
駿が、寒々とした視線で桃佳を見ている。その手には……長く引き伸ばされた、何か、多分布製のガムテープ……
それが視界に迫って……


乱暴に掴まれた腕は、既に後ろで合わせられていて、ガムテープでぐるぐると拘束されている。どんなに身を捩っても、腕を振り回そうとしても、駿がこんなに力が強いとは思ってもいなかったくらいに、抵抗らしい抵抗さえもできなかった。
もしかしたら、恐怖のあまり力もうまく入っていなかったのかもしれない。
それでも何とかしようとしながら、倒れこむようにして駿の腕から逃げた。

「ねえ、清水……ここで兄貴と会ってたんだろ?」

駿から出た言葉に衝撃を受けた。
まさか自分から真実を告げる前に、駿の口から多希の名前が出るなんて、少しも思ってはいなかったから。
「俺と付き合いながら……兄貴ともヤってたんだろ?」
口の端で薄く笑いながら、駿が桃佳のそばに屈みこんで、乱れたスカートから覗く足を撫で上げる。
「ちが……っ、違うのっ、駿ちゃん、ちがう」
声が震えてうまく出せない。声帯が凍りついてしまったのではないかと思うほど、声にならない声を桃佳は必死に唇に乗せる。体の関係だけだと思ってほしくはなかった。多希との繋がりが、ただの快楽のためだとは。
けれど、駿は桃佳の否定に顔を歪ませ、その両肩を床に押し付けた。両腕を拘束されている桃佳は、簡単に床に倒され、その勢いのままに後頭部を強(したた)かに打ちつけてしまった。一瞬、意識が白くなりかける。
「何が、何が違うんだ!! 兄貴と一緒にいたんだろ? ふたりで俺のことを嗤ってたんだろ? なあ、楽しかったか?」
「やだ……っ、やめて。ごめんなさい。でも違うの、駿ちゃん。嗤ってなんかない。最初はそんなんじゃなかったの。でも、でも私……」
多希さんのことを好きになってしまったの。
そう言おうと思っていた。伝わるかどうかは別として。
けれど。
「ウルサイ」
言葉は口に貼られたガムテープによって遮られてしまった。何も聞きたくないとでもいうかのような、冷たい視線だけが駿から降ってくる。無機質で、冷たい瞳。見たことのない、駿。
言葉の代わりに瞳から涙が溢れてくる。

「なに泣いてんだよ……俺は、清水と別れないよ? 清水だって、こんなことされてまで兄貴といられるのか? 兄貴……めちゃめちゃにされた清水を見たら、なんて言うかなあ?」

嫌な笑いを小さく漏らしながら、駿の手がスカートの中に伸びてくる。
桃佳はその手を払うように必死で足をばたつかせた。桃佳の抵抗に、駿は悔しそうな、それでいてどこか悲しそうな顔をする。
「……あいつにだって、足開いてるんだろ? 俺は嫌だって言うのか!?」
そう言いながら片足を抱え上げ、もう片方の足は上に座り込むように固定すると、抱え上げた足を折り曲げるようにしてガムテープで固定していく。

嫌だと全身で叫びながら頭を激しく振ると、涙が桃佳の顔の周りで飛び散った。
それさえも、無意味。

「別れてなんかやらないよ、清水。俺は……許せないから」

駿の声がどこか遠い響きのように聞こえる。
両腕を後ろで固定され、足は折り曲げられるように固定され、抵抗のしようもない。
怖くて怖くて堪らない。
大事だった駿の優しい、穏やかな姿はもうそこにはない。そんなふうに駿を追いこんでしまったのが、自分だということを知りつつも、それでも桃佳は抵抗することをやめるわけにはいかなかった。
もしもこのまま駿が暴走して最後まで行ってしまったら……きっともう、後戻りできない。

勝手な言い分だと知っていても、これ以上駿が壊れるのは見たくはなかった。


壊したのは、私なのに……






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