りんどう庵

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


111.忘れるな

2010.07.13  *Edit 

多希は時計を見てから関係者の出入り口の方を見た。人影はない。もうさっきからずっと。
昨日はもうとっくにこの時間には、駿が関係者用の出入り口から姿を現していた。けれど、今日はその駿の姿が一向に見られない。
時計の針は、もう既に20時を回っている。
勿論何時まででも待つつもりだった。
何時になろうと駿を待って、気持ちを伝えようと心に決めていた。

ぎっとドアの開く音がして、多希は背筋を伸ばすようにしてドアの方を見る。けれど、ドアから出てきたのは、駿ではなかった。出てきたのは……
「店長」
多希の呼び掛けに、店長こと平野は少し驚いたように目を見開き、それから嬉しそうに微笑む。
「ああ、多希君。どうしたの? こんなところで」
いつだってそうだった。平野は、多希が学生の頃この店でバイトしていた時からずっと、こんな風に温かな視線を寄こしてくれていた。懐かしい気持ちが蘇って、なんだか多希は少しだけくすぐったい気持になる。
けれど、今はそんな感傷的な気持ちに浸っている場合ではない。多希は焦る気持ちを押し隠しながら、穏やかな表情を作る。
「お久しぶりです店長。あの……駿はまだバイト終わりませんか?」
「駿君?」
平野の顔が不思議そうな表情を形作る。
「今日は休ませてくれって連絡が入ったけど?」
「……え?」


『好きにすれば?』

耳の奥で、駿の余裕に満ちた声が聞こえる。ひらひらと手を振る背中。そして、振られた手はきつく握られた。そう、駿は多希が毎日ここに来ると言った時、『好きにすれば』そう言ったのだ。
毎日、きっと明日も多希がここに来ることを知っての余裕……
背中に冷たいものが走る。
冷たいものが走るなんて、甘いものじゃない。全身、頭から冷水を浴びせられたような感覚が多希を襲う。
多希の顔から血の気が引いて、平野は訝しげに彼に声をかけた。
「多希君、どうした? なんだか顔色が……」
「あ……あの、すいません。失礼します」
「多希君!?」
何かに駆り立てられるように多希は走り出す。背中に店長の声が心配そうにぶつかったものの、今は振り向くことさえできない。

『好きにすれば?』

駿の声が頭の中で鳴り響く。その声と共に、けたたましいほどの警告音。
危険だと、何かが起こっていると告げる警告音。目の前がちかちかするほどに。

『清水は俺のものだよ』

きっと嗤っていたに違いないと多希は確信する。
だって、今夜桃佳の側に多希がいないことを、駿は知っているのだから。今なら、誰に邪魔されることもなく、駿は桃佳に会うことができるのだから……
「……っくそ!!」
小さく口にして、多希は人ごみをすり抜けながら道路でタクシーを止める。とても走って行ける距離ではない。走り出した車の中、募る焦燥感と不安感と必死に戦っていた。





動きたくても腕も、足も、固定されていて動かすことができない。後ろ手にまわされた腕の指先は、微かに痺れてきている。そして声も、塞がれてしまった。もう桃佳には、わずかに体を捩ることしかできない。
そんな桃佳を駿は、ガムテープを放り投げて冷たい視線で見降ろしている。
謝りたいと思っていた。謝って許されることじゃないということも、桃佳には分かっていた。それでも、どれだけ罵られたとしても、この先ずっと恨まれるとしても、それでも自分の口で真実を告げて謝りたいと思っていた。けれど、今はもうその謝罪の言葉さえ口にすることも許されない。
自分のしたことの意味を思い知らされた気がした。それが罰ならば仕方ないと頭の片隅でもいながらも、桃佳はこの状況にただ恐怖を感じることしかできなかった。

「清水」

声が降ってきて、桃佳はその声の主を赤い目で見つめる。
しゃがみ込んだ駿は、縛り上げられた桃佳の体をそっと肩から腰にかけてなぞる。その指先の動きから逃れるように、桃佳はぎゅっと目を瞑って咄嗟に体を捩った。
「……そんなにイヤ?」
どことなく悲しげな声。その声に目を開けて駿を見ると、声と同じように悲しげな顔をしている。
「こうして清水に触ることができるのは、俺だけだったんじゃないの?」
その言葉に、声の出せない桃佳は眉を寄せる。心の中で、何度も『ごめんなさい』を言っていても、それは駿には伝わらない。
「兄貴とふたりで、何も知らない俺のこと、嗤ってたんだろ?」
その言葉には何度も首を横に振る。嗤っていたなら、こんなにも苦しくなんかなかった。
「じゃ、兄貴とは……遊び?」
その言葉には、目を細めてゆっくりと首を振る。もう何度目かになるか分からないほど、瞳に溜まった涙が頬を伝った。
「遊び……じゃ、ないんだ」
ただじっと見つめ返してくる桃佳の視線を受け止めながら、駿はくっと自嘲的に笑った。
「あいつの! あいつの何がそんなにいいって言うんだ!! 顔か? ああ、確かに兄貴はかっこいいもんな!」
それから、すっと手を折り曲げられた足の間に滑り込ませる。
「……それとも、体の相性が凄く良かったとか……?」
「ンン……!!」
桃佳は必死になって足を閉じようと抵抗する。けれど、自由を奪われた状態で男の駿に敵うはずもなく、呆気なく足は大きく開かされてしまった。
「あいつは俺より良かった? ……じゃあさ、あいつより良くしてあげたら、俺のとこ戻ってくる?」
腿を撫で上げていた手が、ショーツの上から敏感な場所を撫でつける。怖くて、悲しくて桃佳の体は大きく震えた。こんなことをしてほしくなくて、桃佳は何度も何度も大きく首を振った。
けれど桃佳の思いは伝わるはずもなく、Tシャツはブラジャーごとずり上げられ、ショーツも簡単に脱がされた。
どうにかして逃げようと体を捩って横を向いたものの、駿が桃佳の体に跨って、簡単に上を向かされてしまう。何をしようとしても、今の状態では少しも桃佳の思いは叶わない。見上げた視線の先には、無表情な駿。

「ンっ、ンン、ん……」

外して、お願い。もうやめて、お願い。
そう言いたいのに、どれひとつとして言葉にならない。
桃佳に跨っていた駿の体が倒れてきて、桃佳の体に重なる。
桃佳はこれからされるだろうことを思って、現実を遮ろうとぎゅっと強く目を閉じた。けれど、桃佳の体に重なったまま、駿は動こうとしなかった。ただ胸の辺りに耳を置き、ぴたりと重なっているだけ。
何もしない駿にゆっくり目を開けると、桃佳の視界に駿の黒髪が映った。真っ直ぐで、真っ黒な髪の毛。いつも近くにあった黒髪。それが桃佳の顔をくすぐる。切ないその感触に、桃佳の瞳からは次々と涙が零れおちる。
「……いつも、側にいたと思ったんだけどな」
呟かれる声が、直接桃佳の胸を震わせる。
「なのに、どこで間違ったんだろ……しかも兄貴」
ふっと笑って、駿の指先が桃佳の足の間にねじ込まれる。
「ンンンン!!」
突然与えられた痛みに、桃佳は体を固くし目を見開く。少しも濡れていないそこは、細い指でも痛みを与えた。その引き攣れるような痛みに体を仰け反らせると、今度は胸の辺りに焼けるような痛みが与えられる。
きつく、左胸に駿が吸い付いている。きつく吸い付き、口を離すと駿はにやりと笑った。左の胸には吸い付かれてうっ血し、赤い花が白い肌に咲いている。
「……あいつのために、たくさん付けておこうか」
そう言うと、反対側の胸にも吸い付く駿。
「ンンっ、う……ンっ!」
抵抗はなんの意味も成さない。
そこかしこに、まるで痕跡を刻み込むように落とされる赤い花。そして、指先は乱暴に桃佳を暴く。
駿を止める術もなく、桃佳は涙を零し続けるしかなかった。





気持ちは酷く焦るのに、タクシーは遅々として進まない。耐えかねた多希は、タクシーを飛び降りた。
運動はどちらかというと得意な方ではない。長い距離を走るのも、車に慣れ切ってしまっている多希としてははっきり言って苦手だ。それでも今はそんなことを言っている場合ではなかった。
自分でもこんなに早く走れることを知らなかったほど、思った以上に足は前に進んでくれた。呼吸が熱く、脇腹が痛む。汗が体中から溢れだしても、止まるわけにはいかない。
必死に走ってやっと桃佳のアパートが見えた時には、心底ほっとした。けれどほっとばかりもしてはいられない。わずかに残る体力を振り絞って、多希は桃佳の部屋を目指して走った。
はあはあと肩で呼吸をしながら、ポケットから桃佳の部屋の鍵を取り出して鍵穴に差し込む。それだけの動作でさえ、まどろっこしい。しかも汗で手が滑ってうまくいかない。やっとの思いで鍵穴に差し込むことができた。

もぎ取るような勢いでドアを開けた。玄関に揃えられた男物の靴……それを見たとき、自分でも蒼白になるのが分かった。

「モモ!!」

靴を脱ぎ棄てて、居間のドアを開けた。
そこで見た光景に、思わず息が止まった。


ガムテープで拘束され、スカートも洋服も乱れて素肌を晒し、横向きで床に無造作に転がる桃佳。
その横で駿が座り込んでいて、入ってきた多希を見つめて笑った。

「よう、兄貴。もしもの時のために鍵かけておいたんだけど……まさか合い鍵まで持ってるとはね」
「モモ……」

駿の言葉など耳に入っていないかのように、多希は桃佳のそばに駆け寄りその体を抱き起そうと手を伸ばした。けれど桃佳はそれを拒否するかのように体を捩って横向きのままで体を丸める。
「モモ」
一瞬戸惑いながらも、せめてと服を直そうとする。スカートは簡単に直せたものの、洋服は体の間に挟まってうまく直すことができない。多希はさっと自分のサマーニットを脱ぐと、桃佳の体を隠すようにかけた。桃佳の素肌を隠して、やっと多希は駿の方を見る。
「……優しいね、兄貴」
「駿……どうして、こんな酷いことを」
「酷いこと?」
駿は眉を寄せて多希を睨みつけた。
「兄貴にだけは言われたくないね。自分のしたこと、そっちの方がよっぽど酷いことなんじゃないのか?」
「だからって、こんなことを、よくも!!」
殴ろうと思った。自分を睨みつけている駿を殴らないと、気が済まなかった。けれど、立ち上がろうとする多希のジーンズがくんと引かれる。弱々しいながらも、自分を見つめて首を振る桃佳がそこにいた。
「……モモ」
何度も首を横に振る桃佳に、多希は分かったというように自分のジーンズを必死に引っ張る桃佳の手に、自分の手を重ねた。
「……駿、出て行ってくれ」
怒りの矛先をどこに向けていいのか分からず、声が震える。気のすむまで殴ってやりたいのに、桃佳がそれを望んでいない以上、それはできない。ただ、もうこれ以上、駿の顔など見ていたくはなかった。
「早く、俺とモモの前からいなくなってくれ!!」
その怒声に駿はふっと顔を歪めて笑う。
「……ああ、お望み通り帰ってやるよ。でもな兄貴、清水も。俺は別れる気はないから……忘れないでくれ」


バタン、と駿が出て行った音が聞こえた。
最後に残された言葉が、多希の心にも桃佳の心にも、深く突き刺さった。



スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

 管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。