りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


112.非道になりきれない人

2010.07.15  *Edit 

バタン。

扉が閉められ遠ざかって行く靴音を聞きながら、多希は苛立った様子で立ち上がると玄関の鍵をかけた。もうこれ以上、桃佳を悲しませるようなことを近づけたくはなくて。
それからまだ横たわったままの桃佳に駆け寄る。
「モモ……大丈夫か?」
伸ばされた手に、やはり桃佳は体を固くして身を捩る。こんな自分を多希には見られたくはなかった。助けてほしいと願っていた一方で、こんな自分を見られるのは苦痛だったのだ。けれど、多希の手を借りなければ、この拘束からも逃れられない。
「大丈夫だから、モモ。じっとして」
まず最初に口元を塞いでいたガムテープがはがされる。長時間貼られていたせいで、唇の皮膚まで一緒に剥がれてしまう。無残にも唇はところどころ爛れたように血が滲んでいた。
次に手の拘束を。必死になって抜け出そうとしたのが分かるくらいに、手首には赤い痕がくっきりと残っている。そんな見るだけでも痛々しい手で、さっき桃佳は必死になって駿を殴ろうとする多希のジーンズを掴んでいた。そうまでしても桃佳は駿を守ろうとした。その事実に、思わず多希は眉をしかめる。
足の拘束も解くと、自由の身になった桃佳はぼんやりと座り込み、それから急に震えだして自分の体に腕を回すようにして蹲る。

「……うっ……う、……っう」

もう声を塞ぐものもないというのに、声を押し殺して泣きだしたのだった。
「モモ……」
多希は震えながら嗚咽を漏らす桃佳の体に手を伸ばす。けれどやはりその体は、多希の指が触れると緊張したように強張ってしまった。多希はできるだけ優しい表情を桃佳に向ける。
「モモ、俺が怖い?」
その言葉に桃佳は真っ赤に泣き腫らした目を多希に向けると、弱々しくではあるものの首を横に振った。それを見て安心したように息をつき、多希は桃佳の体を引き寄せる。そして横抱きにするようにして自分の膝の上に乗せた。さっきサマーニットを脱いだままで裸の上半身に桃佳を抱き寄せる。
ぬくもりが直接に桃佳を包み、堪えていたものが一気に溢れだしてきた。
「う……っ、ああ、あああああ……」
桃佳はぐしゃぐしゃに顔を歪ませると、多希の胸が涙で濡れてしまうことも忘れて、声を出して泣き始めた。多希はその背中を黙ってさする。少しでもその気持ちが落ち着くように。

しゃくり上げ、震える桃佳の体を抱きしめ、その髪を撫でながら、多希はその首筋に刻まれた赤い痕を見つけてしまった。しかもひとつではない。いくつも、まるで駿が自己主張しているかのように、その赤い痕は付けられている。その痕を見て、多希の中に締め付けられるような痛みが走る。
どれだけ怖い思いをしたのか、どれだけ苦しかったか。それを考えると、やはりあの時桃佳の制止を振り切ってでも駿を殴っておけばよかったと思う。
そしてそれ以上に、駿が桃佳の体を抱いたのかと思うと、まるで心の中に焼けた鉄でも放り込まれたような、言葉にできないくらいの嫉妬心が渦巻いた。桃佳の体に触れ、その体を蹂躙したのかと思うと、目の前が血色に染まるほど。
けれど、それは以前に自分が駿に与えてしまった痛みそのものにならない。
こうなってしまって初めて、またひとつ、自分が駿に与えてしまった痛みを本当の意味で知ってしまったのだ。後悔しても後悔しきれない。
自分引き起こしてしまったことに、寒気が襲う。自分が駿に対して邪な気持ちを抱かなければ、桃佳を巻きこんだりしなければ、こんな風に桃佳を傷つけることはなかったはずなのに。
それでも桃佳を離したくはない。
そう思ってしまう自分の我儘と独占欲の強さに、多希は唇を噛むことしかできなかった。

「……多希、さん」

か細い声が聞こえ、多希ははっとして胸に抱いている桃佳を見た。その顔は相変わらず涙に濡れているものの、それでも震えはもう殆ど止まっていた。
「大丈夫か?」
その問いかけに、桃佳はこくんと頷く。それから潤んだ瞳のままで、告げたのだ。
「多希さん。駿ちゃんのこと……怒らないでください」
桃佳の言葉に、多希はかっと頭に血が上った。あんなにも酷いことをされて、それでもまだ駿を庇おうとする事実に、我慢がならなかった。
「……っ、何を言ってるんだ!? モモ、あんなに酷ことをされて」
「違うんです」
興奮して声を荒げる多希とは対照的に、桃佳の声は静かだ。
「違うんです……多希さん。駿ちゃんは、途中でやめたんです」
その言葉に多希は息を呑んだ。『途中でやめた』つまりそれは……
「駿ちゃんは私にたくさん痕をつけて……でも、それ以上のことはしなかったんです。時間はたくさんあったのに、それでも駿ちゃんは、最後までするようなことはしなかったんです」
桃佳の脳裏に、悔しそうに顔を背けて自分から離れる駿の背中が蘇る。
たくさん肌に痕をつけられ、下着も取られ触られもしたものの、結局駿はそれ以上のことをしなかったのだ。できなかったという方が正しいと、桃佳は感じていた。
こんなことをしても、それでも桃佳を最悪な状態まで貶めることができない。きっとそれが駿。
「……だから、駿ちゃんを憎んだりするのは違うんです。だって、駿ちゃんにあんなことさせたのは……私だから」
もうどれだけ涙を流したかわからないほど涙を流した瞳に、また新たな一粒が膨らんではその頬を滑り落ちる。
多希はそれを指の腹で拭き取ると、桃佳の小さな頭を自分の肩に押し付ける。生温かい滴が多希の胸を滑って落ちた。
「違うよ、モモ。ごめんな。俺のせいだ。俺が……モモまで巻き込んでしまったから。俺が……あんなゲームさえ始めなかったら」
「多希さん。多希さんの事を好きになったのは私です。だから、多希さんのせいじゃないんです。駿ちゃんの気持ちを裏切ったのは、私。ですから」
お互いが、お互いのせいだと思おうとしていた。
罪を一身に背負うことで、この現実を受け入れようと。
「でも」
多希に抱え込まれ、押し付けられていた頭を上げて、桃佳が目を細めて多希を見る。
「私、こうなってしまっても、それでもやっぱり多希さんが欲しいんです。こんなにも私、欲深かったんですね。酷い女……」

こんなにも駿ちゃんを傷つけたのに。

呟くようにそう言い、けれど睫毛を震わせながら自分をまっすぐに見つめる桃佳に、多希は壊してしまいそうな勢いで口づけを落としていた。
多希も同じ気持ちだったから。
誰かを傷つけても、それでも桃佳を欲してしまう自分。そして同じように自分を欲してくれている桃佳。愛しくて、焦がれてしまいそうなほど愛おしくて、その全てを自分のものにしてしまいたい欲望にかられる。
桃佳は落とされるキスに応えながら、多希の首に腕を絡める。首に絡めた腕をぐっと引き寄せながら、桃佳はその体を床に横たえた。ふわふわのくせ毛が床に広がる。
引き寄せられた多希は、横たわる桃佳をつぶさないように腕で体を支えたものの、更に桃佳に引き寄せられてその体を重ねた。首にまわされていた手が、多希の背中にまわされてその体をきつく抱きしめている。
そんな状態のまま間近に桃佳を見る。熱く潤んだ瞳が、それまでにないほど艶っぽく多希に向けられていた。『誘っている』女の瞳がそこにはあった。

「全部……多希さんのものにしてください」
言い慣れない言葉を口にして、その頬はみるみる朱に染まる。

駿に襲われそうで怖かった。本当に桃佳は怖かったのだ。どこかで信じていたものの、それでも体を拘束されたという事実は、芯から桃佳を震え上がらせたのだった。そんな恐怖心も、多希に抱かれれば消えるような気がしていた。忘れられると。満たされると。
だから。
「お願いです……」

誘っているとしか言いようのない、甘い熱を含んだ桃佳の瞳に、多希の理性は白く塗りつぶされてしまいそうだった。熱が一点に集まるのを感じる。
けれど、本当にこれでいいのかという気持ちが、わずかに残った理性を繋ぎとめていてくれていた。
きちんと駿と別れるまでは、自分は駿の彼女だと言い切った桃佳。けじめをつけるまでは多希を受け入れられないと、そう言っていた桃佳。なのに、こんな風に流されるように受け入れてしまって、本当にそれでいいのだろうか。
そんな多希の思いをかき消すかのように、桃佳が首を持ち上げて彼の唇を啄ばむ。それはとても抗えない甘い媚薬。欲しくて堪らない女性(ひと)がくれる柔らかな温もりを、拒めるだろうか。
「……ふ……う」
甘い吐息が桃佳の唇から洩れる。それさえも多希の思考を痺れさせていく。
けれど、やっぱり。

「ダメだ、モモ」

体中の力を振り絞って、多希にとっては異常なほどの重力を放つ桃佳の体を引き剥がす。

「ダメだよ、モモ」
多希の思いもよらない言葉に、桃佳は驚いたように目を瞬かせる。それから、悲しげに長い睫毛を伏せた。
「……イヤ、ですよね。こんなにたくさん、痕までつけられてしまって」
するりと多希の首にまわされた桃佳の腕がはずれる。多希は慌ててその腕を掴んだ。
「バカ。違うだろ。モモが言ったんだろ。……まだ、駿の彼女だって。このままじゃダメだって」
「多希さん」
「きっとその方がいい。こんな、流されるみたいにしても、きっといつか後悔するだろ? ……最初に決めたことは最後まで守った方がいい……ような気がする」
言葉の最後に自信がなくなってしまったのは、もう仕方のないこと。
目の前に、欲しくて堪らない桃佳がいるのに、どうぞと言っているのに、それを我慢しなければならないのだから。自信も揺らぐ。
「……怖いならさ、ずっとこうしていてあげるから。だから、モモは自分を大事にしろよ」
反乱を起こしそうな本能を必死に抑えつけながら、多希は精いっぱいに微笑んで見せる。
涙で煌めく瞳をじっと向けていた桃佳は、再び多希の首に腕を回すと力いっぱいしがみついた。

「多希さん……っ!」
「う、うわ」

急にしがみつかれて、多希は倒れこむように桃佳の柔らかな体に自分の体を押し付けてしまう。
「多希さん……多希さん。……ありがとう」
耳元で涙交じりの桃佳の声。
「大丈夫。後で我慢していた分は、全部その体に返してやるって言っただろ?」
「……うん」
更にぎゅっと抱きついてくる桃佳。裸の多希の胸に、桃佳の纏っている薄い布越しにダイレクトにその体温が伝わってくる。その柔らかな皮膚の感覚までも。
「ありがとう……」
ぎゅうぎゅうと柔らかい感触を惜しげもなく押し付けられ、必死に抑え込んでいる本能が、少しだけ体を乗っ取った。
それが桃佳にばれないように、多希はそっと腰を浮かせて下半身を彼女からずらす。恰好いいことを言ったつもりだったものの、体は正直すぎて間抜けな状態の自分に苦笑いするしかなかった。



「モモが無事でよかったよ」
心からの言葉をそっと呟き、多希は桃佳の痛々しい唇にそっと優しいキスを落とした。
「……たき、さん」
桃佳がやっとほんの少しだけ笑顔を見せる。
それが嬉しくて、多希はもう一度その唇にそっと触れた。


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