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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


114.後悔と届いたメール 1

2010.07.21  *Edit 

今日が土曜で本当に良かったと、多希はベットでまだ眠っている桃佳の横顔を見ながら思っていた。幸い、今日は休日当番ではない。今日一日はしっかり桃佳を監視することができる。

勿論、また駿がやってくるのではないかと言う心配もしていないわけではない。けれどそれよりも、桃佳の『監視』の方が必要だと多希は思っていた。
そんなことを思っていたら、案の定、寝ているはずの桃佳の布団から、携帯のボタンを押す微かな音が聞こえてくる。マナーモードにして、キー操作音を消しても誤魔化せない。

「モモ、起きたの?」
わざとらしく、多希は携帯をいじっているらしい桃佳に気が付かないふりで声をかける。布団越しにも、桃佳の体が大きくびくりと震えたのが分かった。
「あ……ふわぁ、おはようございます」
桃佳はまさに今起きました、という顔で起き上がる。嘘臭い欠伸付きだ。
「よく眠れたかい?」
多希が近寄り、ベットに腰かけると、何かを隠すように左手を腰の後ろに回した。けれど長身の多希には隠した『何か』こと携帯が丸見えだった。
「あ、はい。ビールを飲んだおかげで眠れたみたいです」
にこにこと答えながらも、更に多希の目から隠すように携帯を自分の後ろに押し込める桃佳。そんなことをしなくても、もうとっくに携帯をいじっていることくらい分かっているのに……とは、さすがに多希も突っ込めない。
「本当に、昨日はありがとうございました。その……一緒にいてくれて」
桃佳はそういうとほんの少し頬を染める。
昨日はあれから眠れない桃佳に付き合う形で、多希も少し明るくなるまでビールを飲みながら起きていたのだった。アルコールは程良く桃佳の精神を麻痺させて、怖い夢を見せることもなく自然に眠りにつかせてくれたのだった。
勿論、いつものように床の上で。その桃佳をベットまで運んだのも、勿論多希。
「気にしないで。眠れたなら良かった」
多希は桃佳の小さな頭を抱え込むようにして、その額に軽く唇を押しつける。それだけでみるみる桃佳の顔は朱に染まった。それが多希にとっては嬉しい。
「今日はずっとここにいるからね。モモも今日は家で大人しくしていること、いいね?」
人差し指を突き付けて、できるだけ優しく微笑んだつもりだったのに、桃佳の顔はどことなく雲っている。その表情に多希の中の不安は大きく広がった。意外に頑固者で向こう見ずな桃佳。何かをしでかすんじゃないかと、気が気ではない。

「モモ」
桃佳が目を上げると、そこには心配そうに目を細める多希の顔。桃佳の心臓はどきりと跳ね上がった。
「……何か、良くないことを考えてないか?」
「よ、良くないこと?」
心臓がどきどきいって、桃佳は手の平に汗が滲むのを感じた。
「その携帯で、誰に連絡しようとしていたの?」
その言葉で、顔から血の気が引く。携帯をいじっていたことを知られているとは思ってもいなかったから。
「時計を見ただけですよ」
苦し紛れの言い訳。時計ならベットからでも見える位置にきちんとあるのだから。
「ふうん」
目を細め、桃佳の返事に不満そうな顔をしていた多希は、彼女の顎を持ち上げ、正面から見据える。
「モモ……頼むから、ひとりで勝手なことをしないでほしいんだ。昨日みたいなことがあったら……俺、駿のことを許せないかもしれない」
「多希さん……」
真っ直ぐな瞳に射抜かれ、桃佳は揺れ動く心を必死に抑えつけた。
「大丈夫ですよ。危ないことはしませんから。心配症ですね」
「当たり前だよ」
こつんと多希の胸に額をつけ、桃佳は大丈夫ですよ、ともう一度呟いた。大丈夫だと、そう信じたい。

もうメールは彼の元に届いているに違いない……





昨日はどこでどう過ごして、どうやって家に帰ってきたのかも分からなかった。駿は二日酔いで痛む頭を堪えて、ベットから体を起こす。ペットボトルのミネラルウォーターを口に含んだ。ぬるい液体が喉を滑り落ちていく。
酷い気分だった。それこそ消えてなくなりたいほどに。ちょうどいい穴があるのなら、飛び込んで誰かに上から土をかけてもらいたいほど。ここに自分がいることが、いたたまれなかった。
してしまったことは後悔している。けれど、それでもやはり多希のことも桃佳のことも素直に許す気にはなれない。どれだけふたりを信頼していたか。信頼していたからこそ、裏切りの傷は深く駿の心を抉っている。
恐怖に滲む桃佳の瞳が、瞼の裏に焼き付いて離れない。
怒りに燃える多希の瞳が、駿の心を苛む。
「……くそっ」
苦し気な声を絞り出すようにそう呟くと、駿は手に持っていたペットボトルを壁に投げつけた。破裂するような音を立てて壁にぶつかったそれは、床に転がって生ぬるい液体で絨毯に染みを作る。
「くそ……」
もう一度呟き、駿は抱えた膝の間に顔を埋めた。世界から自分を隔絶してしまいたかった。


大きな物音が聞こえ、美佐子は駿の部屋の前に佇むと、中の様子を窺っていた。
明け方に酷く酔っ払って帰ってきた駿。どこでぶつけたのか、それとも何かを殴ってきたのか、その手の甲は皮膚が裂けてボロボロの状態だった。虚ろな目は、とても酔っているせいだけではないような気がした。
そして、駿の部屋から聞こえてきた、壁に何かを投げつけるような音。
そんなふうに駿が物を投げつけるなんてことは、今まで一度だってなかった。美佐子は駿に何かあったに違いないと直感する。それも、多希と桃佳絡みに違いないと。
けれど、いつもとあまりにも様子の違う息子にどう接していいか、正直美佐子には分からずうろたえるしかなかった。「俺にかまうな」帰ってきた駿を介抱しようと手を差し伸べた美佐子の手を、駿はそう冷たく言い放って拒絶したのだ。

いつだって優しい駿が、いつだって穏やかな駿が、あんな言葉を自分に向けるまで傷ついている。その事実は美佐子を打ちのめした。何もできない事実は更に。
そして、そんな苦痛を与えたであろう加害者に、美佐子は激しい憎悪を抱く。
ぐっと唇を噛み締めた時、家のチャイムが鳴って、美佐子は慌てて玄関に向かった。



「駿~、入るぞ」
呑気な声に、駿ははっとして顔を上げる。
「よお、昨日は随分と酔ってたみたいだな」
なにも気にしない様子で部屋のドアを開けて入ってきたのは、章吾だった。
「章吾」
「あ、これ。どうせ酷い二日酔いなんだろ? お見舞いな」
笑いながら章吾はコンビニの袋を駿に渡す。中にはスポーツドリンクが数本入っていた。
「いやあ、それにしても珍しく荒れてるみたいだね? 何があったのさ」
章吾は部屋の片隅で、ひしゃげて中身を床に流しているペットボトルを見て思わず苦笑いする。駿がこんなことをするのは、相当なことに違いない。普段、こんなことをしない奴だということは、章吾がよく知っているから。
章吾は渡したコンビニにの袋から一本取り出すと、蓋をあけて口に運ぶ。それからベットの上で膝を抱える駿の横に座った。
「うまいよ。お前も飲んだら? 二日酔いには水分補給ね」
あくまで明るく振る舞う章吾に、駿は当たり前の質問をした。
「章吾、なんでお前、俺が二日酔いだって知ってんの?」
「なんでって……駿、お前昨日酔っ払って俺に電話してきたの覚えてないの? 俺は最悪だーとか、消えてなくなりたいーとかって喚いてたぞ」
せっかくみなみといい気分で寝てたのに、今度みなみにも謝ってくれよ、と章吾はやはり笑っている。
「そうだったのか……? ごめん。全然覚えてないんだ」
顔を上げない駿を見つめながら微笑み、その笑顔の裏で章吾は実はほっとしていた。『帰ってくれ』と言われるのではないかと思っていたから。それほど、昨日電話を寄こした駿の荒れ方は酷いものがあった。けれど、ああやって電話をしてきたということは、助けを求めているのではないかと思って、頼まれもしないのに章吾はこうして駿を訪ねたのだ。
だから、駿が自分を追い出そうとしないことにほっとしながらも、やはり駿は助けを求めているのだと悟る。

章吾は黙って駿からの言葉を待った。ペットボトルの中身があともう少し出なくなるという時、駿はぼそりと呟くように声を絞り出した。
「……俺、最悪だよ」
苦い顔をした駿をちらりとみて、章吾は残った中身を一気に飲み干す。そして、駿を見ないで言った。
「それってもしかして冴島美鳥のこと?」
その名前に、駿は驚いたような顔で章吾を見た。美鳥とのことは、誰にも言ったことがない。勿論、章吾にも。
「な、なんで、章吾が美鳥のこと知ってるんだよ……?」
「あれ? その様子だと冴島美鳥のことじゃないの? じゃあ、お前、何したんだよ?」
怪訝そうな表情でお互いを見やる二人。先に口を開いたのは、章吾の方だった。
「冴島美鳥のことは……知られてないと思ってたのはおそらくお前くらいなもんだよ。あんだけ頻繁に学内でも一緒にいるの見かけたし、ふたりで仲良く腕組んで歩ってんの見た奴もいるしね。まあ、何かあるんだってのは一目瞭然だ」
章吾の解説に、思わず駿は顔を歪めた。美鳥に甘えて、その体に溺れていた自分自身を省(かえり)みる。そこまで周りが見えなくなっていたことを、今更ながら気付かされて。
「……そっか」
「だからてっきり、とうとう清水さんにばれたんだと思ったよ。みなみが余計なこと言っちゃったみたいだしね」
「……え?」
さっと駿の顔色が変わった。
まさか桃佳に美鳥とのことが知られているかもしれないなんて、これっぽっちも思ってはいなかったから。
「それ以外に酷いことって……お前一体何したんだよ?」
章吾の真っ直ぐな視線が突き刺さって、駿は思わず目を背けた。


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