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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


13.捉えどころのない人

2010.03.23  *Edit 

荷物を片付ける・・・と言っても、本当に荷物は殆どなかった。
食器も必要最低限だったし、CDとか、雑誌とか、DVDとかそういうものもあるにはあったけれど、数はかなり少ない。
それに、写真に関しては一枚もなかった。
ただ、仕事に関するものなのだろうか。桃佳にはよく分からない難しそうな、医療系の本だけは何冊もあった。
意外と仕事熱心な人なのかもしれない・・・桃佳はそんなことを考えていた。

ドアを開けて目の前に多希が立っているのを見つけたとき、あまりの驚きと恐怖で、桃佳はドアノブをつかむ手が震えたくらいだった。
それでも多希に片づけを手伝うように言われたとき、正直桃佳は『デジタルカメラを探すチャンスかもしれない』と思って、この部屋にやってきた。
しかし、そんなに簡単に見つかるはずもなかった。
大体にして、多希があっさりと桃佳が見つけられるような場所に、桃佳を自分の自由にするためには最も重要とも言えるものを、置いておくはずもない。
それに、デジタルカメラがあったとして、メモリーを入れっぱなしにしておくほど、多希はきっと迂闊ではない。
初めの目的はデジタルカメラを探すことだったけれど、次第に桃佳は、片付けに熱中していた。
もともと、片付けは得意な方だ。こうして何もなかった部屋が少しずつ生活の場として出来上がって行くのを見るのは、認めたくはなかったけれど、ほんの少し楽しいとさえ思った。

「あともう少しですね」
食器といっても、『この人は本当に今まで一人暮らしをしてきたんだろうか?』と思うくらい少ない枚数でしかない食器を、洗いながら桃佳は多希を振り返った。
多希は衣類を箪笥につめているところだった。
「モモのおかげで、早く片づけが済みそうだよ」
そう言って多希は嬉しそうに笑う。
その笑顔は、とても恥ずかしい写真をネタに、桃佳を好きにしようとしている人物とは思えない。
桃佳はなんだか混乱して曖昧に笑った。
「それにしても・・・」桃佳が切り出す。「ここに越してきたのは偶然なんですか?それとも・・・」
たぶん偶然ではないことは分かっていながら、桃佳は思わず聞いていた。
「うん。部屋を探していたのは本当。今まで住んでいたところは職場からちょっと遠かったからね。でも、モモの部屋の隣が空いているって分かったときは、正直ちょっと驚いた。驚いたけど、すぐに決めた」
「ってことは、私がどこに住んでいるのかも知っていたんですね」
桃佳は食器を洗う手を止めて、多希に詰め寄る。
「どうしてそんなことまで知っていたんですか?」
ずっと疑問に思っていたことが、次々に頭に浮かぶ。
あの夜から今日まで、桃佳の頭の中はずっと疑問符だらけだった。
どうして自分がこんな目にあっているのか、そのはっきりとした理由も分からなかったのだから、当然だ。
「どうして・・・」
多希の前にぺたりと膝を付き、覗き込むようにその顔を見上げる。
不意に多希の手が伸び、桃佳の頭をクシャリとなでた。
「・・・うーん・・・そうだな。何が聞きたい?」
「どうしてあんなことしたんですか?」
「あんなこと?」
桃佳は、言いづらそうに口ごもる。「・・・駿ちゃんの彼女だって知っていて、私を抱いたことです」
その言葉に、多希はふっと笑う。
「そうだな、考えてみればモモは被害者だ」
『完全に被害者です!!』
桃佳はその言葉を飲み込む。自分自身にも油断していて非はあったのだから、『完全に』なんて言えるはずもない。
「私の家も知っていた・・・。写真を撮ったり、あの日、駿ちゃんの家に行った日に現れたのだって、偶然じゃないんですよね?どうしてそこまでるんです?」
「・・・駿のことが嫌いだから」
「え?」
「あいつを見てると腹が立つんだ」
多希はポケットからタバコを出すと、火をつけて顔をそらした。
その横顔は、彫刻のように美しく、それでいて無機質だ。
「だからあいつの大事にしているものを、奪ってやろうと思った」煙を吐き出し、真っ直ぐに桃佳を見据える。「大事なモモを」
真っ直ぐに桃佳の目を見る多希の瞳から、桃佳も目がそらせない。
「でも・・・駿ちゃん、そんな風に人から憎まれる人じゃない・・・」
桃佳の知っている駿は、いつだって誰からも好かれている。
誠実で、正直で、友情に厚くて、穏やかで・・・そんな駿をどうして嫌いだなんて言うのだろうか?
多希は表情を少しも変えずに、じっと桃佳を見つめたままだ。
「だからだよ」
「だから・・・?」
「そう。誰からも好かれるいい子の駿ちゃん。だから嫌いなんだ」
桃佳には、多希の言っている意味が理解できなかった。
「理解できません、って顔だね」
その言葉に、桃佳はコクリと小さく頷く。
「・・・別に理解してもらわなくってもいいよ。ただ、モモが理由を聞いてきたから、話しただけだし。ちゃんと質問の答えにはなってるだろ?」

確かに・・・質問の答えにはなっている。
駿のことが嫌いだから、駿にとって大事な存在の桃佳をあの夜に抱いた。
辻褄は合っている。
でも、と桃佳は思う。
「じゃあ、もう多希さんの気はすんだんじゃないんですか?」
そう、多希の望みどおり、多希は桃佳を抱いた。それで十分のような気がした。それなのに、なぜそ知らぬ顔で桃佳の前に再び現れて、写真をネタに従わせるようなことをしたのだろうか?
これから何をしようというのだろうか?
桃佳は浮かんできた疑問をそのまま口にする。
「だったら・・・もう十分じゃないですか。なのに写真まで撮ったりして、これから何がしたいんですか?・・・私を・・・どうしたいんですか?」
最後のほうは声が震えていた。
答えを求める一方で、その答えを知るのが怖い気もしていた。
多希はそんな桃佳を、さっきと変わらぬ様子でじっと見つめている。
こんな時に不謹慎とは思いつつも、桃佳は多希の色素の薄いきれいな瞳に吸い込まれるような感覚を覚えていた。
きれいで卑怯な顔・・・。
心の中で呟き、桃佳は目を伏せた。
「そうだな。モモ、俺とゲームをしようか」
「ゲーム?」
思いもよらない多希からの提案に、桃佳は素っ頓狂な声を上げて顔を上げた。
「変な声。それに変な顔」
多希は桃佳を見てぷっと吹き出す。
笑う多希を見て、桃佳は口をへの字に曲げた。「余計なお世話です」
桃佳のそんな顔を見て、多希はまだおかしそうに笑っている。
「モモってさ、聞いてた感じと全く違うんだね。駿はいつもモモのこと『いつも気を遣っていて、少しおとなしめだけど穏やかな優しい子』って言ってたけど、なんか違う」
自分がそんな風に駿から思われていたことを初めて聞かされて、しかも聞かされた相手が多希であることに、桃佳は複雑な顔をした。
「結構顔にすぐ出るし」
多希が手を伸ばして、桃佳の頬をむにっとつかんだ。
「余計なお世話です!」
そう言って、多希の手を払う。
さっき頭をなでられたときとは違って、直接肌に触れられたことで、桃佳はあの夜の感覚が生々しく蘇ってきて急に恥ずかしくなった。
「で、その・・・。ゲームって何のことなんですか?」
桃佳は自分の中の感情を誤魔化すかのように、さっき多希が提案した『ゲーム』のことを口にした。
「ああ」
急に少し赤くなって、目が泳ぎだした桃佳の様子を見て、多希がにやりと笑う。
ふっと両方の掌で桃佳の頬を包み込むと、多希は桃佳の耳元にそっと顔を近づけた。
「・・・モモ。もしかして、なんか思い出しちゃった?」ひそりと囁く。
「!!!な!何するんですか!!」
桃佳は離れようともがいたけれど、多希が片方の腕で桃佳の頭をぐっと抱きしめたので、離れようにも離れられない。
「別に何にもしないよ。・・・それより、モモ、なんかいい匂いがする・・・」
多希は桃佳の首筋に鼻先を寄せた。多希の唇がモモ佳の首筋をかすめる。
「やめっ!・・・離してくださいってば!!」
「あったかい」
もがく桃佳とは対照的に、多希は穏やかな顔で桃佳の首筋に顔を埋めて目を閉じている。
「離してください〜〜〜!!」


ピンポ〜ン


桃佳の部屋と同じチャイムの音が、部屋に響いた。
「あ、誰か来た」
多希はあっさりと桃佳を離すと、玄関に出て行ってしまった。
部屋の中では桃佳が、はあはあと大きな息をついている。
いくら自分の写真を探そうと思ったとしても、やはり多希の部屋に一人でやってきたのは迂闊だったと自分を戒める。
何かをされるかもしれないなんて、簡単に想像がついたはずなのに・・・。
またあの夜のように、何かされていたかもしれない・・・そう思うと恐怖心がじわじわと湧き上がってきた。
今日はアルコールが入っていないから抵抗することはできる。
けれど、あの日自分から多希を受け入れてしまったことを考えると、もしかしたらまた自分から彼を受け入れてしまうかもしれない自分が怖かった。
そっとさっき多希の唇がかすめた首筋に触れた。その部分が熱を持っているようで、桃佳はぎゅっと目を瞑った。


「モモ!!」
多希に名前を呼ばれて、桃佳は体をびくんと震わせた。
「・・・何びっくりしてんの?それよりさ、ソバ食おう、ソバ」
「お蕎麦・・・?」
「そう。さっき出前頼んでおいたんだ。引越しソバ」
多希はそう言って楽しそうに、無邪気な顔で二人分の蕎麦を、さっき出したばかりのテーブルの上に並べた。
「ほら、モモ。こっち来て食べよう?のびちゃうぞ」
割り箸を割って、にこにこと桃佳を手招きしている。
「・・・えっと・・・」
「モモ、蕎麦嫌い?」
「いえ、好きですけど」
「じゃ、ほら。こっち来て。ちょうど昼飯にはいい時間だし」
「・・・はい」
桃佳は戸惑いながらも、多希の向かい側に腰を下ろした。
「・・・いただきます」
「どうぞ」



桃佳は蕎麦をすすりながら、同じように蕎麦をすする多希の顔を盗み見た。
こうして向かい合って蕎麦なんかすすっていると、目の前にいる人間があの夜に自分を罠にはめて抱いた人間と同一人物だなんて思えなくなってくる。
さっきからいろいろな一面を見たような気もするけれど、桃佳にはどうしても多希という人物の片鱗さえも捉えることができなかった。
いろいろな一面を見せられれば見せられるほど、多希という人間が分からなくなっていくような、そんな不思議な感覚を抱くのだった。






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【恋愛遊牧民】


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