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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


115.後悔と届いたメール 2

2010.07.24  *Edit 

「それ以外に酷いことって……お前一体何したんだよ?」

章吾のその一言に、駿の表情も体も固く強張る。それを見てとった章吾は、少しだけ言い方を変えた。

「なあ駿。お前一体、何があったんだ?」
できるだけ刺激しないように、そっと声をかける。普段はあまり駿に気を遣わない章吾がそうせざるを得ないほど、暗い空気を纏っていたから。
駿は何度も口を開きかけてはやめることを繰り返し、やっとゆっくりと重い口を開いた。
「……清水と兄貴ができてたんだ」
「は?」
駿の口から出た言葉の意味をうまく呑み込めず、章吾は思わず素っ頓狂な声で聞き返していた。そんな章吾の声に、駿は口の端を歪めるようにして笑った。
「清水と……兄貴だよ? 信じられるか? 自分の彼女が、自分の兄貴と浮気してるなんて誰が考えるかよ」
吐き捨てるようにそう言う駿の苦い横顔を見ながら、章吾も信じられなかった。
章吾の中で桃佳は、いつも遠慮がちな物静かな女性だ。その彼女が、自分の彼氏の兄と浮気するだなんて、そんな大それたことができるとはどうしても思えなかった。それに浮気だったら、もっとこじれないような相手はいくらでもいたはずなのに。
「……なあ、駿。それは、間違いのない話なのか?」
「間違いないよ。兄貴が清水の部屋にいるところも見たし、それに……兄貴が来たんだ。あいつを譲ってくれって」

『モモが欲しい』

そう真剣な瞳で真っ直ぐに自分を見つめてくる多希を思い出し、駿は自然と眉間にしわを寄せた。
「じゃあ、清水さんは? 清水さんはなんて言ってるんだ?」
その言葉には、答えようがない。
何かを必死に駿に言おうとしていた桃佳の言葉を、彼はガムテープで押し込めるいう、卑劣な手で奪ってしまったのだから。桃佳の口から真実を聞かされるのが嫌で。裏切りをあからさまにされるのが恐ろしくて。
「……否定はしなかったよ」
ぼそりと答える。そう、桃佳は多希とのことを否定しなかったのだ。何かを言おうとしていたということは、否定とは違う何かを伝えようとしていたに違いない。
「そっか」
言葉と共に、重々しいため息を章吾は漏らす。最近、みなみの様子がどことなくおかしかったのも合点がいった。日曜日に桃佳の部屋に行ったときなど、まさに。みなみは知っていたのだ。知っていて桃佳を支えていたというのであれば、事情は『浮気』という簡単なものではないに違いない。
ただ遊びの浮気ならば、きっとみなみが桃佳を許すはずがないから。そう言う点で、章吾はみなみを信頼している。

「なあ、どういう経過で清水さんとお前の兄貴がそうなったのかは分からないけど、もしかしたらふたりは真剣なんじゃないの? 浮気とか、一時の感情じゃなく」
その言葉に、駿は思わず声を荒げる。
「一時の感情じゃなかったら、許せって言うのか!?」
噛みつきそうな視線を寄こす駿を、章吾は目を細めて見て、それから少しきつい口調ではっきりと言い放つ。
「駿。じゃあ冴島美鳥とのことはどうなるんだ? お前あれ、本気だったのかよ」
再び出た美鳥の名前に、駿は狼狽する。
本気か遊びかと問われたら、間違いなく後者。
「自分の軽い浮気は許せて、本気になった彼女たちは許せないのか? どっちも変わらないだろうが! どっちにしたってお前は、兄貴と清水さんのこと許せないんだろ? それは仕方ないよ。よりにもよってそんな組み合わせ、へこまないはずない。でも、お前だって冴島美鳥と浮気してたんだろ?」
責める資格なんてあるのかよ。
突き放すような章吾の言葉が、駿の胸に突き刺さる。

「……じゃ、どうしろって言うんだよ……ふたりを許せって? 許せるはず、ないだろ?」
駿の苦しげに吐き出される言葉に、章吾は頷くしかない。確かに、そう簡単に許せるはずがないのだ。相手があまりにも悪すぎる。信頼しきっていたふたりに、同時に裏切られたと知った駿の絶望も分からないでもない。
「確かにね。そう簡単に許せるはずもないか」
章吾は駿と同じように、ベットの上で膝を抱える。
「駿さあ、許さなくてもいいんじゃねえ?」
章吾は駿に向かって、にっと笑ってみせる。
「許さなくて?」
「そう、許せないなら、許さなくてもいいよ。でもさ、やっぱ責めるのは違うと思うんだ。結局はお前だって浮気してたんだから。それが遊びだろうと、本気だろうと、相手を裏切った事実には変わりないんだし」
「許さなくても……いい?」
「ああ、その代わり、責めるな。ふたりが事実を駿に伝えようとしていたのなら、きっとそれだけの決心があったに違いないんだ。憎まれるのは分かりきってるからね。……お前は、ばれなければ、冴島美鳥とのことは黙ってるつもりだったんだろ? 本気じゃなかったから」
章吾の言葉に、駿は思わず唇を噛んだ。
その通りだ。章吾の言う通り、ばれなければそれでいいとどこかで思っていた。本気じゃなかったから裏切っているという実感もなく、ただ溺れてしまっていた。関係を清算すれば、それで済むことだと信じて疑いもしなかった。
そんなはずはないのに……
事実はそう簡単に消えるものではないのに。

「ま、今すぐに心の整理をつけろったって無理に決まってる」
そう言いながら章吾は袋の中からペットボトルを取り出し、駿に差し出す。駿はそれを受け取りながら、泣きそうな顔を歪めた。
「……俺、清水に酷いことをしたんだ。本当に……犯罪まがいのことだよ。どうしても許せなくて、ただ悔しくて、悔しくて、めちゃくちゃにしてやろうって思ったんだ」
受け取ったペットボトルを握りしめ、それは駿の手の中でぐちゃりと音を立ててひしゃげる。駿の血を吐くような告白を聞きながら、章吾は天井を見上げた。その表情は悲しげで、けれどどこか穏やかだ。
「……でも、何もできなかったんだろ。違うか?」
そう言い切る章吾の目には、疑いの欠片もない。駿が何もできなかったと分かりきっていたとでも言うような瞳に、駿は胸の辺りが熱くなるのを感じた。信じてくれている存在が側にいてくれることが、捻くれて崩れ落ちそうな駿の心を、そっと支えてくれる。
「章吾……」
駿の顔がくしゃりと歪む。けれど、その表情は暗いだけではなかった。
「ありがとう」
そう言いながら膝に顔を埋める駿の頭を、章吾はどこか照れくさそうにぽんと叩いた。そして照れ隠しのようにわざとらしく明るい声を出した。
「そうだ駿。お前、携帯充電切れてんじゃないの? 何回も電話したんだぞ」
「……ああ、そうかもな」
駿も章吾につられたように少しだけ微笑み、ベットに投げてあった携帯に手を伸ばす。充電がなくなったわけではなく、ただ電源が切れていただけだったらしく、電源を入れるとディスプレイが明るく点る。
「ごめん。俺、電源切ってたんだな」
そう言いながら着信やメールをチェックしていた駿の動きがぴたりと止まった。
険しい顔をして携帯の画面を見つめている駿の様子に、気が付いた章吾が声をかける。
「駿? どうかしたか?」
「いや……清水からメールが……」
「清水さん?」
明らかに戸惑っている表情で、駿がメールの内容を口にした。
「明日……清水が家に来るって……話があるからって……」
駿の脳裏に、昨日自分の行為に怯えて涙を流す桃佳の姿が蘇る。あれほどの恐怖心を与えても尚、自分に会おうとする桃佳の気持ちが分からなかった。それよりもなによりも、桃佳に会うことが恐ろしい。自分のしでかしてしまったことを、目を逸らせないほどに突き付けられそうで。
「どうして……」
思わずそう口にしていた。
会いたくないとは思われても、決して彼女が自分から駿に接触してくるなんて、彼自身想像もしていなかった。携帯を持つ手が微かに震える。
「駿、お前」
その手の震えに、章吾も気が付いた。「酷いことをした」そう言った駿。どれほどのことをしたのかは章吾は分からなかったし、聞くつもりもない。けれど、駿の態度から察すると相当なことなのかもしれない。
「あのさ、お前が何したか知らないけど、『酷いこと』をしたのに会いに来ようとしてるってことは、清水さん、相当腹くくってるんじゃない? 会ってやったら?」
章吾の言葉に、駿は曖昧な表情を向ける。
正直どうしていいのか分からない。会わなければいけないのだろう、本来なら。けれど、駿の心は会いたくないと叫んでいる。現実を、彼女と兄の関係を、自分のしてしまったことを、まだ直視する覚悟ができなくて。
「……ま、強制はできないな」
複雑な胸中なのだろうということは、章吾にもなんとなく理解できた。だから、それ以上のことは何も言わず、駿の気持ちに任せる事にする。後はもう、自分の出る幕でもないだろうと。

「な、俺腹減ったんだけど、昨日の夜中の電話のお詫びにおごらない? てか、おごれ」
急に章吾が膝を叩いて大きなを出す。それは『もうこの話は終わり』の合図だ。
「あ、今日は俺だけでいいけど、今度はみなみにもおごれよ。夜中起こしたんだからな」
立ち上がり、駿の腕を引っ張って立たせる。
「バイト代出たんだろ?」
にやりと笑う章吾に、駿は苦笑いを返した。



「あ、おばさん、お邪魔しました」
「あら、もう帰るの? また来てね」
「母さん。俺もちょっと出てくるわ」
階段を下りて居間に声をかけると、エプロン姿の美佐子がにこやかに出てきて章吾と駿を見送った。パタンと玄関ドアが閉まるまでにこやかに見送る。
ドアが閉まったとたんに、その表情からはすっと笑顔が消えた。
足音も高く居間に入ると、ソファーに体を預ける。そして。
くすくすくす……
笑った。

小さな小鳥。
騙されて、籠に閉じ込められてしまった小鳥。
助け出そうとしたのに、すっかり騙されて私の言葉を聞かなかった憐れな小鳥。
どうやって捕まえてやろうかと思っていた。それが……自ら飛び込んできてくれるなんて!!


美佐子は駿の部屋の前で聞こえてきた情報に、これ以上ないほど満足していた。
くすくすくす……
嬉しそうに美佐子は笑った。明日が楽しみと、口の中で小さく呟いて。


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