りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


121.憎しみの真実

2010.08.11  *Edit 

「あら、あなた。ダメじゃない。お客様をそこから出しちゃあ……」

にっこりと笑っているはずなのに、桃佳にはその顔がどうしても笑っているようには見えなかった。自分を支えてくれている、多分美佐子の夫だろう男性は、酷く悲しそうな表情で美佐子のことを見つめていた。

「美佐子……君が、君がこの子を閉じ込めていたのか……?」
真っ直ぐに美佐子を見つめて孝幸が言葉を紡ぐ。緊張したように、桃佳の体を支える手に力が籠ったのが彼女にも分かった。
そんな緊張した様子の孝幸とは対照的に、美佐子は少しも悪びれる様子もなく、更ににっこりと微笑んだ。
「ええ、そうよ。だって仕方がないじゃない。どうしても帰るって言うんですもの」
到底、まともでは考えられないことを口にする美佐子。自分の妻を見つめる孝幸の顔が真っ青になっていく。唇はわなわなと震えだしていた。それは怒りで……というよりは、もっと別の何かで。
「だからと言って、お前は彼女を閉じ込めたのか? 美佐子……お前、自分が何をしてしまったのか、分かっているのか?」
必死に感情を抑え込んで、孝幸は穏やかそうな声と表情を美佐子に向けた。本当は大声を上げたいところだったものの、どうしてもそれはできなかった。……怖かったのかもしれない。美佐子が完全に壊れてしまいそうで。
けれど、そんなことはお構いなしに、美佐子は相変わらず奇妙に微笑んでいる。
「あら、それくらい分かっているわよ。私はその子を助けようと思っているんだから」
「助ける……?」
孝幸は体を支えている桃佳のことを見つめた。桃佳はいたたまれなくて視線を逸らす。
「どういうことだ」
微笑んでいた美佐子の瞳がすっと細められ、その表情は憎しみを湛えたものに取って代わる。
「その子はね……駿の彼女なのよ。それなのに、それなのにあの子が……多希が、駿から奪おうとしているの。この子は多希に騙されているのよ」

だから、あの恐ろしい子から保護するためにも、この子をここに閉じ込める必要があったのよ。

美佐子の紡ぐ言葉に、桃佳の体をしっかりと掴んでいた孝幸の手が震えだす。そこにあるのは、怒りの表情でも恐怖の表情でもなく、ただ悲しみに暮れる表情。そして、そんな孝幸に支えられる桃佳もまた、悲しげに瞳を伏せていた。
どうして多希をそんなふうに思うんだと、孝幸は美佐子に詰め寄りたい気持ちをぐっと抑えつける。多希にも駿にも面識のあるこの少女に、家庭内のことは聞かせたくはなかった。それよりも、悲し気に瞳を伏せている桃佳を、一刻も早くここから出してやるのが先決のように思われた。

「……とにかく、この子には帰ってもらうよ。いいね?」
有無を言わせないような強い孝幸の視線を不満げに受け止めながら、美佐子はただ二人を見つめている。
「君……大丈夫かい? 美佐子が……家内が酷いことをしてしまって。申し訳ない」
深々と桃佳に向かって頭を下げる孝幸に、彼女は何度も何度も首を振る。美佐子を追い詰めてしまったのは、自分なんだという気持ちが胸の中に苦く広がる。堪え切れな涙が首を振る度に飛び散った。
「今、駿か多希を呼ぶから、家まで送っていってもらうといい」
孝幸としては自分がそうしたいのは山々だったものの、こんな状態の美佐子をひとり家に残しておくわけにはいかなかった。自分のしたことの意味さえわからない美佐子が、何をしでかすか想像もつかないから。
孝幸の提案に、桃佳は再び激しく首を振った。
「大丈夫です……私、歩いて駅まで行けますから。だから……だから、多希さんも駿ちゃんも呼ばないでください」
「しかし」
「お願いです」
真っ直ぐに、懇願するように自分を見つめる桃佳の瞳に、孝幸は戸惑った。美佐子も桃佳も何も言わなかったが、閉じ込められただけでなく、何か薬を飲まされただろうことも想像はついていたから。そうでなければ、閉じ込められた場所で眠りこけているはずもない。
「大丈夫ですから」
それでもこうして縋るような眼差しを向けてくる桃佳。さっき美佐子が言っていた『駿の彼女だったけれど、多希が奪った』という言葉が正しいのならば、どうしてもふたりを呼んでは欲しくないのかもしれないと思い当る。
「本当に……大丈夫かい?」
「はい」
はっきりと言い切る桃佳の背中を、ぽんと孝幸は優しく叩いた。
「じゃあ、そうしてもらえるかい? 後日、あなたには改めてお詫びに窺います」
「そんなの……いいんです」
弱々しく桃佳は首を振る。バックと携帯の行方が気になったものの、今この状況で探す気にもなれなかった。どうしようと思った時、美佐子が片手を差し出した。

「これ、あなたのバックでしょう?」

美佐子の手に握られているのは、確かに桃佳のバックだった。けれど、桃佳は足が竦んで美佐子の元に歩み寄ることができなかった。その様子に気が付いた孝幸が、美佐子の手からバックをひったくり、桃佳に手渡す。美佐子はそんな孝幸を、責めるような視線で見つめていた。
「君のかい?」
「はい……すいません」
ほっとしながら桃佳はバックを受け取る。
「じゃあ、気をつけて帰るんだよ。本当に……酷いことをしてしまって」
謝罪の言葉を繰り返す孝幸に向かって桃佳は小さく微笑み、ふたりに背を向けて玄関に向かった。その時だった。
それまで黙って孝幸と桃佳のやり取りを見ていただけの美佐子が、突然桃佳に向かって駆け寄る。突然のことで、孝幸は美佐子を止めることもできず、桃佳は振り向く間もなかった。
その手には……裁ち鋏。

何が起こったのか自覚する前に、口の横から耳にかけて、焼けつくような痛みが走った。それから、じゃきん、という何かが切れた音……そして、足元にぱらぱらと落ちていく良く見慣れた癖っ毛……

「美佐子!!」

目の前の風景が、まるでスローモーションのように桃佳は感じていた。
ハサミを片手に、にんまりと笑いながら自分を見つめる美佐子を、孝幸が抱きかかえるようにして拘束している。そして、その手からハサミが奪われ、鈍い音を立ててフローリングの床に転がり落ちた。
「美佐子!! なんてことを!!」
「これで帰れないわね!! 清水さんっ」
孝幸に抱きかかえられたままで、美佐子は楽しそうな笑い声を上げた。不快な、壊れた笑い声。
なかなか自分が何をされたのか、状況を理解できなかった。頬はチクチクと痛む。そして、そっと髪の毛に触れて、初めて状況を理解することができた。
「髪……」
桃佳の右側の髪の毛が、無残にもバッサリと切られてしまっていた。そして、その際かすってしまったのか、口元から耳にかけて5㎝ほどの傷ができ、薄く血が滲んでいる。
「そんな髪じゃあ、とても外になんか出られないわよねえ! もう、ここにいるしかないのよ!!」
呆然と立ち尽くす桃佳とは正反対に、美佐子はけたたましく笑っている。
「美佐子!! いい加減にするんだ!!」
何かが切れてしまったかのように、孝幸が腕の中で暴れている美佐子の頬を殴りつける。
その途端に、けたたましいほどの笑い声がぴたりとやんだ。
「どうしてよ!! どうして!! 私はただ、駿のためにぃ!!」
代わりに美佐子の口から洩れたのは、悲痛な叫び声だった。
「多希が悪いのよ!! 駿から彼女を奪って!! 咲が悪いのよ!! 咲がすべて悪いのよ!! 咲が……」
叫びながら崩れ落ちる美佐子の体を、孝幸はしっかりと抱え込んだ。しかし、その表情には困惑の色が濃く浮かんでいる。どうして今、咲の名前が美佐子から出てくるのかが全く分からなかった。

そんな美佐子を見つめながら、桃佳もまた力が抜けてしまったかのようにその場に座り込む。自分の中から自分を責め立てる声が聞こえるような気がして、桃佳は思わず耳を塞いだ。
……私さえ、多希さんと出会わなければ。
……私さえ、もっと自分の気持ちをしっかり持っていたら。
……私さえ、今日ここに来なければ……!!
自分のせいだと、こうなってしまったのは自分のせいなんだと、桃佳の中のもう一人の桃佳が激しく責める。
血の気を失い、真っ白になってしまった表情をこれ以上ないほど歪め、血が滲みそうになるほど唇を強く噛んだ。その痛みが、何とか桃佳の心を支えてくれる。

「あなたが……咲と別れていたら……こんなことにはならなかったのに」
苦しげな声が耳に入ってきて、桃佳ははっとして孝幸と美佐子を見た。美佐子は縋るように孝幸にしがみつき、泣きながらその顔を見つめていた。痛いほど悲しげな顔で……
「美佐子……? なんのことを言っているんだ……?」
今更美佐子の口から出てきた咲の名前に、孝幸は益々困惑する。ここ出てくる名前ではないはず。
「しらばっくれるの……?」
悲しげに歪んでいた美佐子の瞳が、大きく見開かれた。そこには激しい怒りが見て取れる。
「私が何も知らないと思っているのね!! 知っていたのよ、ずっと。咲とあなたが連絡を取り合っていることくらい!!」
美佐子の言葉に、今度は孝幸が目を見開く。
「知って……いたのか? でも何もない。咲は多希の産みの親というだけだ。他にはなんの意味もない」
「嘘……嘘ばっかり……」
美佐子の瞳は怒りも憎しみも取りこんで、鈍い輝きを放っている。嘘だと何度も口にしながら、その手は何かを探すように床を彷徨い、そして目的のものを手に取った。
「嘘ばっかり!!」
「……!!」
美佐子が握っているハサミには、赤黒い液体が付着していた。肩を庇うようにしている孝幸の腕から抜け出し、仁王立ちの姿勢で美佐子は彼を見下ろした。孝幸の左肩から白いシャツに赤いしみが広がっていく。
「私が何も知らないと思って……私をだましているのね。確かにあの女は多希の母親だから、あなたと連絡を取り合っていても見ないふりしてきたわ。それなのに……書斎にある大事にしまわれたあの写真はなに!? あの女に店まで持たせて、それでも何もないなんて言えるの!?」
美佐子の口から出る言葉に、孝幸は驚いたように身を固くしている。そんな孝幸の様子を見て、美佐子は口の端を持ち上げて笑った。
「そうよ、知っているのよ? もう何年も前から。もう、ずっとずっと前からね。……憎かったわ。何もなかったように過ごすあなたのことも。でも、全部あの女が悪いんですものね。あなたを誘惑したんでしょ?」
その言葉に、孝幸ははっとしたように美佐子を見る。
「……!! まさか、まさかお前。だから多希のことを憎んで……?」
「そうよ。だって咲の子供ですもの。咲と同じ恐ろしい血が流れていると思ったら、消えてしまえばいいと思ったわ」

桃佳はふたりの話を聞きながら、胸が軋んだ。
そんな理由で、幼かった多希の心が壊されてしまったんだと思うと、美佐子に対して憎しみにも似た気持ちが生まれる。けれど同時に分かってもいた。美佐子と同じような気持ちが、大なり小なりきっと誰の心の中にもあるだろうと。勿論、自分の中にも。
ふと、膝をついていた孝幸がゆっくりと立ち上がるのが視界に入った。

「そう……だったのか。もっとちゃんとお前と話をして、きちんと事実を伝えていれば……こんなことには……すまない、美佐子。全て、私のせいだな」
立ちあがった孝幸の左の指先から、肩から伝ってきただろう赤い血がぽたぽたと廊下に跳ねる。その血を見て、美佐子の表情に恐怖にも似た表情が浮かんだ。
「ちゃんと話していれば、誰も苦しまずに済んだのに……本当にすまない」
血に塗れた左手を差し出せば、美佐子は怯えたように後ずさり、手で顔を覆う。
「違うんだよ、美佐子。咲は私と別れた後、他の男性との間に子供をもうけたんだ。けれど、相手の男性とは結婚できない事情があって、シングルマザーになっていたんだ。……彼女のことは別れてからもどうしたのか心配でね、同行は掴んでいたんだ。だって、彼女は多希の母親だからね」
孝幸の手から逃れるように、美佐子は顔を覆って首を振りながら、じりじりと後ずさる。
「責任を感じていたんだ。私は彼女を幸せにできなかったから。全てを奪ってしまったから。だから、両親の遺産で店を持たせた。彼女の生活が安定するように。そうじゃなければとても自分ひとり幸せにはなれないと思ったんだ」
じりじりと後退していた美佐子の背中が壁にぶつかった。
「君と、多希と駿と……私。幸せになるために」
壁に背中をつけた美佐子が、ゆっくりと孝幸を見上げる。
「本当なんだよ。咲とは男女の仲ではない。書斎の写真だって、自分の罪を忘れないためなんだ。私は……君と生きていこうと決めたんだから」
優しげな表情で孝幸が美佐子に向かって手を差し伸べる。
「さあ、美佐子」
怯えたような表情のまま、それでも美佐子は震える指先を孝幸に伸ばす。

けれど、その指先がぴたりと止まった。

「……嘘……よ。嘘だわ!! ずっと、ずっと私が勝手に咲を憎んでいたっていうの!? 事実でもないことで、ずっと多希を憎んでいたって言うの!? 鬼のように!?」

事実は美佐子を壊すのに十分だった。
孝幸が言うことが本当ならば、美佐子は勝手な妄想でひとりの人間を傷つけ続けたことになる。そう、正に鬼のように……理由もなく。

美佐子は手に持っていたハサミの切先を孝幸に向けた。



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~ Comment ~

NoTitle 

美佐子さんはきっと不安を自分の中に取り込んでしまった妻の最悪のケースとなのかも。夫の過去や浮気を怖くて問い詰められずに、自分の中で想像を膨らませてどんどん自分を追い詰めてしまったら。我慢強い女性に有り得ることなのかもしれません。それを考えると浮気の疑いを持っても、黙ってろ携帯のチェックなんかするな、なんて男の言い分は通すべきではないのかなぁ。爆発したほうが健全?(笑)子どもを作って結婚しておきながら母親に前妻を追い出させて不幸にしてしまったのに、その反省を二度目の妻にも生かせず追い詰めた彼の責任は大きいのでは。妻・母親の立場にある私からすると怒りの鉄拳です(爆)夫としても父親としても優しいというより弱いですよ~。
  • #30 mimana 
  • URL 
  • 2010.08/12 11:05分 
  • [Edit]

Re: mimana 様。 

初めまして!!……ですよね??

凄く書きたいことを分かってくださって、このコメントを見たらなんだか嬉しくなってしまいました!!
つまりはmimanaさんのおっしゃる通りです。
美佐子もあれですが、孝幸は情けないとしか言いようがないですね。
表面に問題がなければ、それで大丈夫だと自分を勝手に納得させて、結果これですから。
父親として問題の見極めをしようという努力が一切ないですものね……
もしかしたら、男は仕事、家庭は女に任せる的な、古い男なのかもしれませんが……ダメ父は決定です。

さて、更新分でとりあえず柴山家騒動は一段落となります。
いや、問題山積みで一段落もないのかもしれませんが、問題山積みの方が孝幸にとってはいいお灸になるのかと(笑)

また何か気になることやご意見がありましたら、お気軽に書きこんでいただけると嬉しいです。
あ、そうそうmimana さんも妻で母なんですね!!
同じ立場の方からのご意見、ありがたいです。
また何かありましたら、よろしくお願いしますね(*´艸`*)
  • #32 沢上澪羽 
  • URL 
  • 2010.08/13 23:53分 

NoTitle 

すみません、挨拶をしてないままで失礼しました。以前にコメントを入れたかも?と思いこんでいました。初めましてmimanaと申します。3人の子をもつおばさんです(笑)身近に精神安定剤を処方されているお母さんたちがけっこういるので驚きます。思ったことは一人で悩まずに誰かに聞いてもらえるだけで楽なんだけど。美佐子さんにはそんな友だちがいなかったんだろうなぁと気の毒です。大部分の男って家族の問題から仕事を言い訳に逃げるのが得意なのは確かです(苦笑)
  • #33 mimana 
  • URL 
  • 2010.08/14 02:05分 
  • [Edit]

Re: mimanaさま。 

mimanaさん、こんにちは!!
お子さん3人いらっしゃるんですか!!
いやあ、奇遇ですね(^人^)
私も実は子供3人です♪
三姉妹の母してますが、いやはや、女の子って生意気ですね(;´・`)

現在身近に精神安定剤を処方されている人はいないのですが、学生時代の友人が飲んでいました。
一度だけ友人にその薬を一錠貰って飲んだことがあるのですが、……物凄い眠気に襲われ大変だったことを思い出します。
そうですね……話を聞いてもらうだけでも楽になるってことありますもんね。
特に女は、話したらすっきり!!ってパターンも多々あったり(笑)
男は疲れたとか、忙しいとかを言い訳にできて、時々羨ましくもありますね~。

  • #34 沢上澪羽 
  • URL 
  • 2010.08/18 19:12分 
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