りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


14.もう戻れない

2010.03.24  *Edit 

大分片付いたとはいえ、部屋の中にはまだダンボールが積み上げられている。
けれど、もう多希にはそのダンボールを片付ける気は起こらなかった。
そんなに使うものでもないし、使うときにダンボールの中から取り出せばいい。
とりあえず、開けないことに決めたダンボールを部屋の片隅に追いやってみる。
たったそれだけで、なんとなく部屋の中がすっきりとしたような気がした。

多希はベットに寄りかかると、タバコに火をつけた。
白い煙が、ぼんやりと部屋の中を漂う。
窓の外を見ると、もうすっかり暗くなり、街灯がついている。
彼は咥えタバコのままでゆっくり立ち上がると、カーテンを閉めて部屋の電気をつけた。
さっき桃佳が見つけ出してくれた灰皿に、今にも落ちそうなタバコの灰を落とすと、タバコの灰は音もなく灰皿の上に落ちて崩れた。


あの後・・・二人で引越し蕎麦を食べ終えた後、多希は「モモ、後は大丈夫だから、どうもありがとう」そう言って桃佳を帰したのだった。
桃佳は何か言いたげな顔をしていたけれど、何も言わずに自分の部屋へと帰っていった。
多希が口にした『ゲーム』のことを聞いて来るかと思われたが、そのことには一切触れなかった。
もしかしたら、それほどまでに今日の出来事に動揺していたのかもしれない。
そう思うと、多希は作戦が思った以上に成功したことに満足だった。
鼻歌交じりにシャワーを浴び、昼間からビールを飲んだ後、どうやら眠り込んでしまったようだ。
気が付いたらもう部屋の中は真っ暗で、つけっぱなしだったテレビだけが、弱々しい光で部屋の中を照らしていた。


多希はテレビを消すと、ベットに寄りかかって目を閉じた。
たった一枚壁を隔てて、隣の部屋には桃佳がいる。
じっと耳を澄まして隣の部屋の気配を感じようとしたけれど、彼女の部屋からはまるで気配を消しているかのように、物音ひとつ聞こえない。
もしかしたら、桃佳も多希と同じように、こうしてじっと耳を澄まして隣の部屋の気配を伺っているのかもしれないと思うと、なんだかおかしかった。
そして、もしもそうしているのであるならば、それはもう多希の狙い通りだ。

「・・・そうそう。モモ・・・しっかりと俺のことを意識するんだよ・・・」

閉じていた目を開け、まるで壁の向こう側にいるであろう桃佳を見つめるように、そっと多希は呟いた。


ブブブ・・・


どこかで何かが震えているような音が聞こえた。
それがすぐに携帯のバイブの音だと気づき、多希はテーブルの上に投げてあった携帯電話を手に取る。
画面には拓巳の名前が表示されている。

「もしもし?」
携帯からは、ざわざわとした雑音が聞こえる。
「もしもし?拓巳?」
多希は少し声を大きくした。
「もしもし〜?」
聞こえてきたのは、聞きなれない高い女の声で、多希は顔をしかめる。
「もしもし?誰・・・?」
「あ。柴山さんですか?私です。私」
電話の向こう側の女は、自分のことを知っていて当然、とう言うような口ぶりで、自分をアピールする。けれど、多希にはその声に聞き覚えがない。
「・・・だから、誰?」
「え〜、分かりませんかぁ?渡辺美緒ですよ〜。この前、お話したじゃないですか!」

『渡辺美緒』多希はその名前に考えを巡らす。
そうだ。
この前、拓巳が次のコンパに来ると言っていた看護師だ。
あの話を聞いてから、ちょうど患者をレントゲン室まで連れてきた看護師が多希に話しかけてきたのを思い出す。
切れ長の大きな瞳にばっちりアイメイクを施し、肉感的な唇にはつやつやとグロスが塗られている。
黒く豊かな髪はひとつにまとめ上げられ、白衣を着ていてもそのスタイルのよさは疑いようもない。
かなり派手な印象ではあるけれども、誰が見ても美人と答えることは間違いないように思われた。
その美人の名札に、『渡辺美緒』と書いてあったのを思い出す。
次の飲み会には来てくださいとか何とか言っていたような気がする。
職場で何を言っているんだと、呆れたことも思い出した。

「ああ・・・渡辺さん。どうしたんですか?これ、拓巳の携帯ですよね?」
多希は職場でそうしているように、丁寧で穏やかな話し方で美緒の言葉に応える。顔つきさえも、にこやかに。
その時々、相手によって態度を完全に使い分けることなど、彼にとってはタバコに火をつけるよりも簡単なことだ。
ずっとそうやって自分を使い分けてきたのだから。
だからこそ、こんなふうに突然不躾にかかってきた電話の相手にさえも、穏やかな態度を保つことができる。
「柴山さん、美緒でいいですよ。み・お」
電話の向こうの美緒は軽く酔っているようで、多希は内心で舌打ちをする。酔っ払いの相手なんてしたくもない。
「で、渡辺さん、拓巳の携帯ですよね?」
「そうですよ〜。隙を見て勝手に借りちゃいました」
わざと『渡辺さん』の部分に力をこめたものの、電話の向こうの女にはなんら伝わるものはなかったようで、あっけらかんとした様子でとんでもないことを言っている。
「それ、よくないんじゃないんですか?今頃、拓巳困っているかもしれないんで、返してやってくれませんか?」
「だって・・・柴山さん、来てくれないから・・・。どうしても話がしたくって」
甘えた声の美緒の声に、思わずため息が出る。
「私、今日柴山さんと会えると思って、すっごく楽しみにしていたんですよ。職場じゃ、ゆっくり話すこともできないし・・・。会いたかったんです」
「・・・はあ」
「あの、今度よかったら二人きりで・・・あ!!やだ!!」
電話の向こうで、なにやら揉めている声が聞こえたかと思うと「ごめん、多希!!」拓巳の慌てた声が受話器から聞こえた。
それでもまだ電話の向こうから「やだ〜」とか「貸して下さい〜」とか喚いている美緒の声が聞こえ、その声が時々近くなったりするところを見ると、電話を取り上げられた美緒が携帯を取り返そうと拓巳の腕を引っ張ったりしているんだということが多希にも想像ができた。
そのうちにバタン、という音とともに静かになった。
「いやあ・・・ごめん多希、渡辺さんあんまりしつこいから、今トイレに駆け込んだところ」
拓巳は疲れたように「はは」と笑った。
「ちょっと目を離したら携帯なくって焦ったよ。他の子に聞いたら渡辺さんが持っていったみたいだって言うし・・・。見つけたら「柴山さん」とかって言ってるのが聞こえてさ・・・まさか人の携帯勝手に持ち出してお前に電話してるとは思わなかったよ」
「俺も、まさかお前の携帯から、知らない女の声が聞こえるとは思ってなかったよ」
皮肉っぽい多希の声色に、拓巳はもう一度、今度は誤魔化すように「はは」と笑った。
「悪かったよ。でもこっちだって大変だったんだからな。飲み会が始まってすぐに、柴山さんはどうしたんだとか、電話して呼んでくれだとか散々せっつかれて・・・」
「だろうね」
渡辺美緒に責められて困っている拓巳の顔が浮かんで、多希は思わず吹き出した。
「笑うなよ。本当に大変だったんだからな。お前が来てくれてたら、俺だって他の子ともっと楽しめてたのに・・・」
「ああ。悪かったよ。でも、この前も言ったけど、職場の飲み会とかには参加する気はないからな。これからも誘ってもらっても行かない」
受話器の向こうで、拓巳の苦笑いが聞こえた。
「分かったよ。・・・ところで、引越し。部屋はもう大分片付いたのか?」
「ああ」
多希は部屋の中を見回した。生活する分には、不自由はなさそうだ。
「片付いたよ」
「へえ。大変だったろ?ま、お前の部屋はそんなに物もないから楽勝か」
「まあね。色々と手伝ってくれたやつがいたから」
「へえ」多希の言葉に、拓巳は少し驚いたような声を上げた。
いつだって多希は、大学を決めるのだって、引越しをするのだって、何かする時はいつも自分ひとりでやってきた。多希が望むにしろ望まないにしろ・・・。
そのことを、長い付き合いの中で知っているからこそ、さっきの多希の言葉が、拓巳の中で何となく引っかかったのだった。
「そうなんだ。よかったな。弟でも来て手伝ってくれたのか?」
その言葉に、多希の口元が悪魔的に微笑んだ。
けれど、そんな表情は拓巳には見えるはずもない。
「いや。弟じゃないよ。俺の、大事な奴」
「・・・は?もしかして、女!?」
トイレの個室で思わず大きな声を出してしまった拓巳は、咳払いをして声のトーンを落とした。
「大事な奴って・・・マジ?まさか、彼女ができたとか冗談やめてくれよ」
「冗談じゃないよ。おれ、今回はまじめに付き合うことにしたから」
少し浮かれたような多希の声色に、拓巳は思わず携帯電話を落としそうになる。いつだって「女なんて信用できない」と言っていたはずなのに。
つい先日だって、そう言っていたはずだった。
「とりあえずそういうことだから。だからもう飲み会とかにも誘わないでくれ。俺はあいつとちゃんと付き合うことにしたんだから、そういうの行ってらんないだろ?」
「うん。まあ、確かに・・・。多希、よかったな。今度その子、紹介してくれよ」
拓巳の本当に嬉しそうな声に、多希は少しだけ複雑な顔をする。けれどその顔は拓巳には勿論見えない。「・・・ああ。そうだな。じゃ、また明日な」
電話を切って、多希は力なくころりと携帯を床に投げ出した。



「もう後戻りできないよ・・・。俺も、モモも」


目を閉じて、ため息に混ぜるように小さく呟く。
その声は桃佳に届くことはなく、すうっと部屋の中で空気に変わった。







「多希に彼女・・・。そっか」
トイレの個室で、切れた携帯を見つめながら、拓巳は嬉しそうにニコニコとしている。
小学生の頃から見つめてきた多希は、いつだって『女』という存在を頑なに否定してきた。
理由が分かっているだけに、拓巳としてはそんな彼を見るのが辛かったし、何も言ってやる事さえできないでいた。
その多希が、「ちゃんと付き合うことにした」と言っている。そのことが嬉しくてならないのだ。
「頑張れよ・・・多希」
拓巳はもう切れてしまって、繋がっていない携帯に向かってぐっと拳を握って見せた。




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