りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


130.扉の向こう側

2010.10.01  *Edit 

はあ、はあ、と呼吸を荒げながら、それでも必死に桃佳は自分の部屋に向かって走っていた。
実習場所が遠いせいで、自宅から最寄りの駅に着いた時には、既に外は暗くなってしまっていた。いつも通い慣れた道。今までは怖いだなんて思ったこともなかった道。けれど、今の桃佳はそんな暗い道が怖くて堪らない。
駿が、とか、美佐子が、とか。そんなことを考えているわけではない。誰かに襲われるとか、そんなことを考えているわけでもない。ただ、怖かった。漠然と、怖いと思っていた。だからアパートが見えて、自分の部屋に明かりが見えた時には心底ほっとしたのだ。
疲れた足に、力がみなぎってくる。


「ただいま」
転がり込むように玄関に飛び込み、乱れる息を整えながらドアに鍵をかける。それでやっとほっとすることができた。
もっと明るい所に行きたくて、そしてその場所にいてくれているだろう人に会いたくて、桃佳は靴をそろえるのももどかしいくらいに、慌ただしく居間のドアを開ける。途端、その鼻を香ばしい香りがくすぐった。

「ああ、お帰り。モモ」
キッチンに向かいながら何事かしていた多希は、今日はデニム地のエプロンを身につけ、小皿を持ってにっこりと微笑んだ。一瞬、料理番組の収録でもしているのかと思ってしまうほど、様になっている。
「なに……してるんですか?」
重いトートバックを肩から下ろし、着替えのためにアコーディオンカーテンを引いた向こう側で、桃佳が多希に声をかけた。
「何って……夕食作ってたんだ。モモ、実習で疲れてるだろ? いや、ただ魚焼いてるだけだけどね」
「でも、多希さんだって仕事で疲れてるじゃないですか」
着替えを終えた桃佳は、アコーディオンカーテンを開けながら、申し訳なさそうな視線を多希に向ける。
「うん、でも俺の方が帰ってきたの早いわけだし…… 早く帰ってきた方が作ればいいだけだろ?」
そう極上の笑みを向けられ、桃佳は思わずその場で立ちつくしてしまった。
熱が顔に集まってくる。まともに多希の顔を見ることができない。この綺麗な顔を見慣れたと思っていたのに、その見慣れた顔がまともに見られなかった。多希のことを『好き』だと自覚した時でさえ、こんなふうにはならなかったというのに。
うろたえたように視線を床に這わせ、どうしていいのか分からないほど早まってしまった胸の鼓動を何とかやり過ごそうとする。

「モモ? どうしたの?」

料理をする手を止め、いつまでもアコーディオンカーテンのそばから離れない桃佳を振り返る。そこに立ちつくしていたのは、真っ赤に頬を染め上げた桃佳で、その恥じらったような表情は多希の心に急激に温かいものを流し込んだ。
多希の声に視線を上げた桃佳と、視線が絡み合う。たったそれだけのことで、満たされていく心を否定などもうする気もない。
ことりと持っていた小皿をシンクに置いて、ふわりと多希はその両手を広げた。

「おいで」

その途端に更に赤く色づく頬が、愛しくて堪らない。何かを言いかけて、けれど言葉の出てこないような様子で、口をパクパクさせているのさえ可愛らしいと思ってしまう。

「おいで、モモ。こっち、来て。ほら」

茹でダコのように真っ赤になり、おろおろとしている桃佳を促すように、更に言葉をかける。
うろうろと目を泳がせ、どうしていいのかわからないように立ち尽くす桃佳。困ったように見上げられ、多希はもう一度「おいで」と声をかけた。
一瞬迷ったように目を伏せ、それから桃佳はゆっくりと自分から多希の腕の中に身を寄せる。

ぽすん、と、音も立てずに腕の中に飛び込んで来てくれた桃佳の体を、多希は嬉しそうに抱きしめる。短くはなってしまったけれど、触り心地のいい、柔らかな髪の毛を手の平で撫でる。
「……初めてだね」
「え?」
「こうして、自分から俺のところに来てくれたの」
「そうでしたっけ?」
鼓膜だけでなく、体そのものを震わせるようなお互いの声を、桃佳も多希も心地がいいと思う。
「そうだよ。いっつも俺が無理やりこうしてたから」
その言葉に桃佳がくすりと笑う。なんだか凄く前の話のような気がしてならない。この腕に自分から飛び込む日が来るなんて、考えもしなかった。それだけはしてはいけないことだと思っていたから。

ずきりと桃佳の胸が疼いた。どれだけ胸が疼いたところで、もう後戻りなどできないとしても。
胸に込み上げてくる痛みを誤魔化すように、桃佳は額を多希の胸に押し付ける。それと同時に強張る体に多希も気が付いた。腕の中で苦しげな表情をしているんだろうということは、その顔を見なくても簡単に想像できる。

「モモ」
囁くようにその名を呼び、顎に指をかけて上を向かせると、長身の体を屈めて柔らかな唇に自分のそれを重ねた。
今日一日ずっと多希を苛んでいた不安が嘘のように溶けていく。それと同時に満たされる。きっと悲しげな顔をしているだろう桃佳に、ほんの少しキスをするだけのつもりだったのに、その柔らかな感触に引き摺られるように、多希は舌先で彼女の唇をこじ開ける。なんの抵抗もなく唇は薄く開かれ、ふたりの舌先は絡み合い、お互いを混ぜ合うように深く貪り合う。

「……ぁ、はぁ」

甘い吐息が唇の端から洩れ、そんな小さな吐息さえ多希に火をつける。
一度ついてしまった火は、そう簡単に消せるものではない。多希は合わせていた唇を離すと、いとも容易く桃佳の華奢な体を抱え上げる。
「た、多希さんっ!!」
彼が何をしようとしているのかを察知して、桃佳は慌てたように身を捩る。けれど見かけとは違って、意外にもしっかりとした筋肉をつけた多希に敵うべくもなく、簡単にその体はベットに投げ出されてしまった。
「た、多希さん。その……ほら、魚、魚!! 焼いている最中じゃないですかっ」
「さっき焼き上がって火は止めたから心配ないよ」
「え? ええ……っと、いや、でも、そのぉ……」
にじり寄ってくる美系の勢いに押されて、桃佳はじりじりと後ずさったものの、すぐに壁に追いやられてしまう。狭いベット上。当然と言えば当然の結果。
困ったように上目遣いで見上げられ、多希は意地悪な視線を向ける。
「嫌なら嫌って言ってくれていいよ。無理にするつもりはないからね」
その言葉に桃佳は息を詰めた。
嫌かどうかと問われば、『嫌ではない』。けれど、どうしても気恥ずかしさが勝ってしまうのだ。多希もそれを分かっていて、わざと意地悪な言い方をしているに違いない。
「嫌ってわけじゃあ……」
「嫌ってわけじゃないってことは、あんまり望んでもいないってことだよね?」
はあ、と綺麗な顔をわざとらしく寂しげに歪ませて、多希が更に意地悪をしかける。背中を壁にぺたりと付けた逃げ場のない桃佳にそっとキスをする。触れるだけのキス。
「これは、イヤ?」
耳まで真っ赤に染め上げて、桃佳は首を振る。
「じゃ、これは……?」
触れるだけのキスから、桃佳を味わいつくすかのようなねっとりとしたキスへ。
「イヤ?」
はあ、と甘い息をつきながら、桃佳はやはり首を振る。もう、思考はドロドロに溶かされる寸前だ。
にっこりと優しく微笑んで、多希は壁に寄り掛かっている桃佳の体の向きを変えてベットに横たえる。首筋に唇を落とし、耳朶を舐め上げる。ぶるりと桃佳が震えたのが、はっきりと分かった。
「イヤ? モモ」
落とされる声は毒か薬か。
桃佳の思考はじんと痺れ、抗う気持ちなど、もうひと欠片も浮かんでは来ない。熱に浮かされたように小さく首を振るだけ。
それを確認して、多希がふんわりと艶やかに微笑む。
ただ一人、桃佳にその全てを許される存在であることに、多希はこの上ない幸福感を噛み締める。抱きしめる強さと同じ強さで抱きしめられることが、こんなにも心地のいいものだと、そんなことも知らずにいた自分を可哀相だと思うほどに。
でももう大丈夫だと。この腕の中の存在こそが、自分に欠けていた何かを埋めてくれるんだと、そう思うと、胸が熱くなった。

「モモ、モモ……」
「……っひゃ」

鎖骨の辺りを唇が掠め、体がびくりと反応する。それと同時に、桃佳の心臓も跳ね上がった。どんどん体温が上がっていくのが分かる。
大きな掌がそっと胸を包み込み、柔らかに円を描くように撫でていく。服の上からでもはっきり分かるほど硬くなってしまったその中心を、指先でじらされるように弄られ、桃佳は身を捩る。
「や、……ぁ、やぁ…… んっ」
ピクリピクリと体を震わせる桃佳の反応を愉しみながら、多希の手がするりと服の中に忍び込む。脇腹を撫で上げながら、柔らかな膨らみに指先が到達する。


ぴんぽ~ん


突如部屋の中に響いた、間の抜けたチャイム音にふたりは視線を合わせる。
「お客さ……んんっ!」
起き上がろうとする桃佳の腕を掴んで引き寄せると、多希は言葉を遮るかのように唇を塞ぐ。
「無視……すればいいだろ?」
キスの合間にそう囁いて、ぐいと服の裾をまくり上げる。


ぴんぽ~ん


再び間抜けなチャイム音に、多希は眉を顰め、桃佳は苦笑した。
「無視」
「でも、ほら。外から部屋の窓を見れば明かりもついてますし、居留守ってわけにも……ね?」
ちっと舌打ちをして面白くなさそうな多希の胸を押して、桃佳はベットから飛び降りる。乱れてしまった髪と服をさっと整えながら玄関に向かった。
「はい」
外に向かって声をかける。
一瞬の間の後、思いもよらなかった人の声が桃佳の耳に届いた。

「すいません。柴山です。お邪魔してもいいですか?」

その声を聞きつけて、多希も玄関へとやってくる。間違うはずもない、父親の声。
「モモ」
そっと声をかけると、桃佳は体を硬くして青い顔をしている。
「俺が話して来ようか?」
そう言って一歩前に踏み出そうとする多希の袖を、桃佳はくいっと引っ張って止めた。
「大丈夫……です。大丈夫」
囁くように言って、「今開けます」と、扉の向こう側の孝幸に声をかけたのだった。





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