りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


131.和解

2010.10.14  *Edit 

顔を真っ青にした桃佳は、それでもどうにかこうにか孝幸にお茶を淹れ、お盆を抱え込んだまま孝幸の斜め前に腰を下ろした。
正座してぎゅっとお盆を抱え込み、細い肩は小刻みに震え、目はうろうろと辺りを彷徨っている。
ここ数日で起こってしまったことが、孝幸の顔を見た途端に鮮やかすぎるほどに脳裏に蘇って、冷たい汗が背中を流れていく気がしていた。
多希は桃佳の側に座ると、その肩をそっと支えた。
蒼白になった顔が振り返って、それでも多希の顔を見ると少し安心したように小さく頷く。だから多希も、微笑んで見せる。お盆を抱え込んでいた腕が、ほんの少しだけゆるんだ。

そんなふたりの様子を、孝幸は黙って見ていた。
ふたりの間に流れる空気が、真剣なものだということが彼にも伝わってきた。息子がそんな相手を見つけてくれたことは嬉しくもあり、駿のことを思えば辛くもある。胸中はかなり複雑だ。
言うべき言葉があるはずなのに、そんなことを考えていると、言葉に詰まってしまう。
先に言葉を発したのは孝幸ではなく、桃佳の方だった。


「申し訳、ありませんでした……」


深々と頭を下げる桃佳に、孝幸は一瞬呆気に取られてしまう。本来ならば、その台詞は孝幸のものだ。その言葉を、謝罪の気持ちを伝えるためにここまでやって来たのだから。
桃佳は深く頭を下げたままで動かない。……動けなくなってしまったようにじっとしている。ハッとして孝幸はそんな桃佳の肩を掴んで顔を上げさせる。

「……そんな!! どうしてあなたが謝るんですか? 私の方が今日は美佐子のしたことを謝罪しに来たというのに……」
本当に申し訳ありませんでした。
そう言いながら、孝幸はまるで土下座でもするように体を折り曲げて桃佳に頭を下げる。その様子に、今度は桃佳の方が慌てふためく。
「や、やめてください!!」
言葉と共に、瞳に涙が盛り上がり、絨毯に染みを作る。ぐっと嗚咽を我慢しようとして震える肩を、見かねた多希が抱き寄せた。
「私が、悪いんです、から……」
震えるように俯き、胸の辺りでぐっと拳を握りしめている桃佳の手を、孝幸はそっと包み込んだ。与えられたぬくもりに、桃佳は視線を上げる。
「本当にあなたのせいではないんですよ。あなたがそんなふうに心を痛める必要はない。むしろ、あなたは私たちを罵ってもいいんだ」
「……でも」
桃佳は言葉を紡ごうとしたものの、それ以上続けられない。何をどう説明していいのかわからなかった。説明しようとすれば、駿とのことも多希とのことも話さなければならない。

苦痛に歪んだような表情のまま、言葉をなくしてしまった桃佳に、孝幸はそっと首を振って見せる。

「あなたのせいじゃないんです。……駿や多希と何かがあったのは知っています。けれど、それを聞くつもりはありません。美佐子はずっと心に爆弾を抱えていたんです。私は……それに気が付きながら、何もしてこなかった。そのせいで、美佐子は自分を止められなくなってしまった……」
孝幸の瞳に、悲しげな後悔の色が浮かぶ。
「私が美佐子を追い詰めてしまったんです。ずっと……彼女は、ただ私に向き合ってほしいと願っていただけだったのに」
唇を噛み締め、項垂れた孝幸の手は、桃佳の手を握りしめたままで微かに震えている。
何か言葉をかけようと思うものの、桃佳にはやはり言葉が出てこない。桃佳には、孝幸と美佐子の何十年にもわたる歴史など知りようもないから。

孝幸は意を決したように俯いていた顔を桃佳に向けた。それから、もう一度頭を下げる。
「何をどう言い訳したところで、美佐子はとんでもないことをしてしまいました。許してほしいなどと言う資格もないのかもしれませんが…… 許していただけませんか?」
じっと、どこか多希に似た瞳に見つめられ、桃佳は困ったように多希を振り返る。
「モモの好きにしていいと思うよ」
桃佳の言いたいことを察したように、多希が変わらず優しげに微笑んでいる。その表情にほっとして、桃佳はこくりと頷いた。
「……許すも許さないもありません。きっかけを作ってしまったのは、きっと私ですから……だから、どうか頭を上げてください」
桃佳の言葉に孝幸は下げていた頭を上げ、言いにくそうに口を開いた。
「それと。こんなこと、あなたに私から言うべきことではないのかもしれませんが、警察沙汰にはしないでいただけませんか? 本当に厚かましいお願いですが……!」
上げた頭を再び下げられ、桃佳はわたわたと胸の前で手を振った。
「や、やめてください!! 警察になんて届けるつもりはありません。そんな心配、なさらないでください。そんなこと、しませんから」

だからもう、頭なんて下げないでください。

困ったような声を出す桃佳に、孝幸は申し訳なさそうな表情を向けた。それから、やっと小さく微笑む。
「ありがとうございます」
そう言って、再び桃佳の手を握った。
「そんな」
本当は未だに心の奥では『自分が悪い』という気持ちが燻ったままだ。けれど、ここで再びその気持ちを口にしても、繰り返しにしかならない。出かかった言葉をぐっと飲み込み、桃佳は代わりに微笑んだ。
「あの、何も心配なさらないでくださいって……美佐子さんにお伝えください」
ぺこりと頭を下げる桃佳の手を、更に力を込めて孝幸がぐっと握りしめた。
「ありがとう……!! 本当に……ありがとう」
何かを堪えているのか、目のふちが少しだけ赤い。
お互いに少し微笑み合って、お互いにいくらか心が軽くなった。

ほどなくして孝幸はお邪魔しましたと立ち上がった。孝幸は最後まで美佐子が精神科に入院している事を、桃佳に告げなかった。告げるべきではないと思ったのだろう。
玄関先まで見送りに出た桃佳を、靴をはいた孝幸が振り返る。
「本当にお邪魔しました。多希も」
狭い玄関で、桃佳の後ろから多希が頷いて父の言葉に応える。
「それから……」少しだけ戸惑うような表情をし、孝幸は桃佳を見た。「お願いがあるんです」
その言葉に、桃佳は首を傾げて孝幸を見る。
「その、できれば駿に会ってやってもらえませんか?」
「なっ!!」
孝幸の言葉に反応したのは多希の方だった。
桃佳の後ろにいた多希は、さっと桃佳の前に出ると、その背中に彼女を隠してしまう。まるで守るかのように。
「父さん!!」
ぎっと多希に睨みつけられて、孝幸は一瞬驚いたような顔をしたのち、それでも多希の後ろにいる桃佳に声をかけた。

「あなたはあの日、駿に会いに家に来たんでしょう? それなのに、駿はあなたが来るのを分かっていて家を空けた……きっとそういうことなんですね? それであんな目に会ってしまった……」
多希は背中で桃佳が体を固くしているのを感じた。
「きっとあなたは多希とのことを駿に話しに来たんじゃないんですか? 勿論、駿に何かを聞いたわけではないからはっきりとは分かりませんが。でも、もしそうなら、駿に会ってちゃんと話してやってほしいんです。きっと駿も今度は逃げないでしょう」
あの日から、駿は勤めて『いつも通り』を演じているものの、それでもふと見せる横顔は苦いものだった。それを知っているからこそ、父親として口出しすべきでないと分かっている事にまで、孝幸は口を出してしまったのだ。
「だから、会ってやってほしいんです」
父親の切実な声に、多希は思わず目を伏せていた。孝幸は桃佳に、『引導を渡してやってくれ』と言っているのだ。それはきっと、駿の事を解放してやってほしいという願い。そして、多希だけを見てやってほしいという願い。二人を想う父親の願い。

多希は背中に隠した桃佳を、更に隠すように後ろの方に腕を回す。
本当は孝幸の考えていることは多希にも分かった。けれど、孝幸は駿が桃佳に何をしたのかは知らない。

「無理、です」

背中の方から聞こえた掠れた声に、多希は驚いて思わず声の主を振り返った。

「無理、です」

小さな声で、けれどはっきりと桃佳はその言葉を口にする。
あまりにも意外だった。駿には会わせたくないと思ってはいても、多希は心のどこかで桃佳はきっと駿に会うだろうと思い込んでいた。
あんなに恐ろしい目に遭っても、自分から駿の元に会いに出かけていった桃佳なのだから。
『会います』と言って、自分の前に飛び出すんじゃないかとそう思って、背中の後ろに隠したというのに、桃佳は多希の後ろから動くことなく、それどころか彼のTシャツの裾をしっかりと掴んでいる。

「清水さん」
「無理です。無理…… 駿、君に、私、きっと許されません。それに、会いに行けば、かえって彼に辛い思いをさせてしまいます。だから……会わない方がいいんです」
「でも」
「すいません」
桃佳は多希の背に隠れたまま、頭を下げる。
言葉さえも遮られ、孝幸は深いため息をつく。どれだけ言葉をかけようとも、桃佳が折れることはなさそうだということくらい、孝幸にも痛いほどに分かった。

「……分かりました。かえって申し訳なかった。変なお願いをして。忘れてください。じゃあ」
やはり多希の後ろに隠れたままで、桃佳が会釈するのが分かり、孝幸は諦めたように彼女の部屋を後にした。
パタンとドアが閉まると、きつく握りしめられていた多希のTシャツから桃佳の手が離れる。
多希は振り返ると、彼女の両肩に手を置いて、俯いた顔を覗き込んだ。
「モモ? 大丈夫か?」
「はい」
大きな瞳が多希を捉え、にこりと微笑む。
「……夕食、せっかく作ってくれたのにきっと冷めちゃいましたよね。温め直して食事にしましょうか」
「え? あ、ああ」
早く、と手を引かれて、多希は戸惑いつつも桃佳に従う。泣いているんじゃないかと思っていたのに、痛みを堪えるような顔をしているんじゃないかと思っていたのに、ふんわりと微笑んでいて。
その違和感がかえって多希の不安を煽る。
けれど、孝幸にまで「駿には会わない」と言ってくれたことは、安心した。だから、浮かんだ違和感はすぐに薄れてしまった。

「今、サラダも作りますから」
「うん」
テキパキとキッチンで動き回りながら、桃佳は震える手をぐっと握りしめていた。


――――これでいい。

私にはもう、駿ちゃんに会う資格なんてないんだから。
駿ちゃんの家族まで巻き込んで、引っかき回して、私にはもう、謝る資格さえないんだから。




諦めにも似た気持ちしか、今の桃佳には持てなかった。






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~ Comment ~

NoTitle 

お久しぶりですっ!

待ってましたよ~!!!
もう本当これからどうなるんだ??
ってわくわくハラハラしてます(笑)
ラストまで頑張ってくださいね^^
  • #39 苺 
  • URL 
  • 2010.10/14 22:50分 
  • [Edit]

Re:苺さん 

わあ!!
本当にお久しぶりです!!
待っていてくれたんですか~(=^・^=)
ありがとうございますっヽ(o´∀`o)ノ

ラストに近づいているのですが、ラストに近づくにつれ、なんだか遅々として進んでくれません(^_^;)
どうにかして話進めないと……
まだもう少し続くみたいです。
本当なら、120話くらいで終わってたはずなんだけどなあ。

どうぞラストまで、お付き合いくださいませッ♪
  • #40 沢上澪羽 
  • URL 
  • 2010.10/19 19:23分 

初めてのコメです。 

あるサイトの方の所から、ここの お話しを知りました。

そして 一気に読んでしまいましたぁ♪
更新が凄く待ち遠しくして 毎日チェック・チェック ⊂((〃 ̄ー ̄〃))⊃ ふふふ
桃佳ちゃんと駿君が 元に戻れたらいいな・・・と思ってしまってます。v-157v-156
  • #41 yasai52en 
  • URL 
  • 2010.10/26 21:14分 

Re: yasai52en 

初めまして~♡
訪問&コメントありがとうございますっ!!

とあるサイト……??
どこからでしょう??
まあ、いっか。来ていただけただけでありがたいです!

一気読みしてくださったんですか?
嬉しいヽ(o´∀`o)ノ
目、疲れませんでした?
大丈夫……(~_~;)?

最近、ちょっと子供の風邪をもらってしまって、更新が遅れ気味になっていますが、頑張って更新していきますので、生ぬるい目で見守っていて下さればありがたいです!!

コメント、ありがとうございました!!
  • #42 沢上澪羽 
  • URL 
  • 2010.11/04 19:13分 
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