りんどう庵

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


15.ただいま

2010.03.24  *Edit 

桃佳は重い足取りを引きずるようにして、一人暮らしの部屋にたどり着くと、鞄を投げ出してベットにどさりと横になった。

「疲れた・・・」

ぼそりと呟く。
横になったまま、膝を抱くように体を丸めると、思わずため息が漏れる。
今日は実習の初日だったというのに、失敗ばかりだった。
初日なので施設内の紹介がほとんどの一日だったのだけれど、とにかく桃佳は失敗続きだったのだ。
昨日多希の引越しを手伝った後、自分の部屋に帰ってからも彼が口にした『ゲーム』が気になってほとんど眠ることができず、寝坊をしてしまった。
更にぼんやりとして、質問されたことにも全く答えられらないばかりか、質問された内容も分からない始末。
その上寝不足でふらつき、棚の上のものを床にぶちまけ、大勢の前で見事に転んで見せたのだった。

抱いた膝を見ると、擦りむけて皮が剥けてしまっている。
あまりの情けなさに、ジワリとにじんできた涙を必死にこらえていた。
のろのろとした動きで携帯を見ると、みなみからメールが入ってる。

『今日はどうしたの?なんか変だったけど』

文章は少ないけれど、みなみが自分を心配してくれているのが嬉しい。
全てぶちまけたくなるけれど、そんなことはできないことは桃佳にも分かっている。

『心配してくれてどうもありがとう。ちょっと具合が悪くって。今日はゆっくり寝るから、明日には張り切って実習頑張るね』
メールの最後には、可愛らしい動物の絵文字を入れてみる。
桃佳なりの精一杯だ。
暫くすると携帯が軽やかな音で、メールが届いたことを知らせてくれる。
みなみだと思って携帯を開くと、送信者名に『駿ちゃん』とあり、思わず桃佳はベットの上で体を起こした。

『今日はどうだった?俺はこれからバイトに行ってきます』

さっき我慢した涙が、今度はこぼれ落ちてしまった。
情けなかった自分を今すぐに来て慰めてもらいたい、という駿に甘えたい気持ちと、自分はそんなことを望んでいい立場じゃない、という駿に対する罪悪感が彼女の小さな体の中でせめぎあっている。
その思いは、言うまでもなく後者の方が強かった。
桃佳は泣くことさえも許されないような気がして、腕でごしごしと擦るように涙を拭くと
『うん。何とか無事に終わったよ。駿ちゃんもバイト頑張って』
と、メールを返した。
メールが送信し終わるのを見届けて、ぷつりと携帯の電源をオフにする。
もう一度駿からメールが返ってくるのは分かってはいたものの、その彼からのメールを受け取るのが、桃佳にはとても辛いことに思われた。

丸まった姿勢のままでテレビをつける。
夕方のニュースをしていたけれど、悲しいニュースも、驚くようなニュースも、どんなニュースも桃佳の中に何かを残すことはない。
ただ、流れていく画面をじっと見ていた。


『ピンポーン』
チャイムが鳴っている。
けれど桃佳はじっとテレビを見たままで動かない。

『ピンポーン』
ちらりと玄関を見て、再び画面に視線を戻す。

『ピンポーン ピンポン ピンポン ピンポーン』
桃佳は眉をひそめてのろのろと動き出す。
その間もチャイムはしつこく鳴り続けている。
チャイムの間の外れたような機械音は、彼女の神経をイラつかせて、桃佳は乱暴な動作でドアを開けた。



「あ、モモ。ただいま」
「は?」
にこやかに笑う彼・・・多希は、細く開けられたドアの隙間からするりと体を滑らせると、さっさと部屋に上がりこんでいく。
「ちょ・・・っ、多希さん!?」
桃佳はあわてて、彼の後を追うようにして部屋の中に入る。
「結構綺麗にしているんだね。感心感心」
そんなことを言いながら、もう多希は部屋の真ん中にどかりと座り込んでいた。
ジーンズに黒のVネックのシャツというラフな格好で、仕事帰りというよりは仕事から帰ってきて、着替えてからこの部屋に来たという感じだ。
「何しに来たんですか?」
桃佳はできる限りぶっきらぼうに、低い声でそう言った。できることならば、今日は彼の相手などしたくはなかった。
あまりの落ち込みに、あれほど気になっていた『ゲーム』のことさえも、今の彼女の頭の中からは消えてしまっている。
「・・・どうしたの?何かあった?」
突っ立ったままの桃佳の顔を、覗き込むように多希はたずねる。栗色の髪がさらりとその額を滑った。
「・・・多希さんのせいです」
「何が?」
「全部、多希さんのせいなんです!眠れないのも、失敗ばっかりなのも、俊ちゃんの顔が真っ直ぐ見れないのも、全部・・・多希さんがあんなことしたせいなんですから!!」
桃佳は目に涙をためながら、口を真一文字に結んで多希を見据えた。
彼は静かな表情で、髪の毛と同じ栗色の瞳をじっと彼女に向けている。

「・・・それは、俺とセックスしたから、色んな事が上手くいかなくなったって事?」

その言葉に桃佳はかっと頬を赤くして、唇を噛み締めた。
「違うでしょ、モモ」彼の顔は、口元は笑っているものの限りなく冷たく、桃佳を突き放している。「俺とセックスしたのはモモに隙があったからでしょ?それに、俺とセックスしたから全てが上手くいかないんじゃない。モモが勝手に色んなモノ背負い込んで、物事を上手く回せなくなっているだけ。全部を俺のせいにして逃げるのやめてくれない?それにあのときのセックスは、間違いなく同意の上だったよ」
その言葉に、桃佳は指先から血の気が引いていくのを感じていた。
彼が言っていることは真実。
多希のせいじゃない。自分が招いてしまったこと。
分かってはいたものの、自分以外の人間から言われてしまうことで、目を逸らし続けてきた事実を、逃げようがないくらいに目の前に突きつけられた気分だった。
最初から彼の誘いに乗らなければ・・・、セックスしてしまった後だって、駿に本当のことを話していれば・・・、そう、こんなことにはならなかったのだ。
何よりもあの時、多希を自ら受け入れた。
桃佳はその場にへなへなと座り込んだ。
彼はそんな彼女にそっと近づき、おでこにキスをする。桃佳は放心したように動かない。
「だから、俺とモモはもう共犯者なんだよ」
そう言って今度は唇に触れるだけのキスをする。
はっとしたように桃佳は両手で唇を隠すと、上目遣いで彼を見た。その視線は可哀想なくらいに弱々しい。
さっきとは違う穏やかな笑顔で、多希は桃佳の頭をそっと撫でた。
「モモ、俺、お腹が空いたんだけど、何か作ってくれない?」



じゅわああ・・・。

気持ちのいい音を立てて、フライパンの上で豚肉が焼けるいい匂いがした。
肉を焼きながらも、桃佳は鮮やかな手つきで味噌汁を仕上げ、キャベツを千切りにしていく。
「何か、すごく手馴れてるね」
後ろから覗き込みながら、思わず多希は感心したような声を上げた。
「本当にモモは、見た目と実際のギャップがあって退屈しないよ。とてもじゃないけれど、こんなふうに手際よく料理を作るとは思ってもいなかった」
「あのう・・・。あんまり近づかないでもらえます?」
「ああ、ごめんごめん」
桃佳にそう言われて、多希はわずかに後ろに下がったものの、興味津々と言った様子で、後ろから桃佳が料理をする様子を楽しげにじっと見ている。
30分もしないで、テーブルの上には豚肉の生姜焼き、キャベツの千切り、豆腐の味噌汁が並んだ。
「どうぞ」
桃佳は多希の前に茶碗を置きながらそう言うと、自分も彼の前に座り込む。
小さなテーブルなので、多希との距離はとても近くて、桃佳はちょっと戸惑いながら箸を持った。
「いただきます」
戸惑っている桃佳のことは全く気にも留めずに、多希は嬉しそうにそう言うと、すぐにおかずに手をつけた。
「うん。おいしい」にこりと笑って桃佳を見る。「すごいね。短時間でこんなに美味しいものが作れるんだ」
「・・・そうですか?」
相手が多希でも、自分が作ったものを美味しいと言って食べてくれるのは、悔しいけれど嬉しいと桃佳は思った。
けれどやっぱり悔しいので、嬉しいという思いは顔に出さないように、わざと黙々と箸を進める。
「モモってやっぱり面白い」
多希が生姜焼きを口に運びながら、ふふと笑う。
「・・・何がですか?」
「褒められて、嬉しいなら嬉しいって言えばいいのに、わざと知らないフリしてるだろ」
言い当てられ、桃佳はふいと横を向く。「別にそんなんじゃないですよ」
「本当に美味しいよ?」
「・・・」
「モモのこと、見直した」
見直したもなにも、私のことなんて何も知らないくせに・・・。
そうは思いながらも、嘘はないような真っ直ぐな多希の視線に、思わず小さく笑顔を見せてしまう。
「ありがとうございます」
「そうそう、それでいいんだって。素直が一番。・・・ご馳走様」
多希がニコニコしながら箸を置いた。
「多希さん?」
「ん?」
桃佳はお皿の上に取り残されたキャベツを指差す。「これ、どうしたんですか?」
多希は、ばつの悪そうな顔で苦笑いして頭を掻いた。
「・・・生野菜は・・・。だってこれ、ウサギの食べるものでしょ?」
「何子供みたいなこと言ってるんですか!!生野菜は、人間だって食べます!こっちはバランス考えて作っているんですから、ちゃんと食べてください!!」
「・・・それはちょっと・・・」
子供のように困った顔で首を横に振る多希を見ていると、彼女は自分の弟たちの姿をつい思い出していた。
好き嫌いをどうやって克服させようかと、母親代わりだった桃佳はいつも思案していたものだった。
おもむろに立ち上がると、桃佳は台所で何かを作り、それをキャベツの上にかける。
「ほら、これで食べてみてください。結構美味しいはずですから」
「食べないとダメ?」
「子供みたいなこと、言わないでください。いくつですか?」
「・・・分かったよ」
しぶしぶと言った様子で、多希は少しだけキャベツの千切りをつまむと口に運んだ。
「どうですか?」
「・・・うん。食べれるかも。何これ?」
「マヨネーズに、お醤油とすりゴマを混ぜただけです。うちの弟も、これで生野菜は食べてくれたんで」
「へえ、モモ、弟いるんだ」
「はい。3人も。上から慧(サトシ)、颯(ハヤテ)、楓(カエデ)。一番下はまだ12歳です」
指を折りながら、弟たちの話をする桃佳の顔はまるで母親のようで、多希はその顔をなんだかとても穏やかな気持ちで見つめた。
「・・・って、私の弟の話はいいんです。とにかく好き嫌いはダメですよ。あれ?」
「ご馳走様でした」
見ると、多希の皿の上からは、綺麗にキャベツの千切りは消えていた。
「食べられたじゃないですか。・・・エライエライ」
桃佳は何も考えずに、いつも弟たちが嫌いなものを食べられたときにそうしていたように、手を伸ばして多希の柔らかな栗色の頭を撫ぜる。
撫ぜてから、目の前にいる人間が弟ではないことを思い出して、はっとして手を引っ込めた。
恐る恐る目の前の彼の顔を見ると、驚いたように固まってしまっている。
その顔は桃佳が今まで見たことがないような表情で、まるで幼い子供のようにも見えた。
「あ、あの、ごめんなさい。つい、弟たちにしてた癖が・・・」
「え?あ、いや・・・。別にいいよ」
多希もいつもの落ち着いた様子とは違って、何かを誤魔化すように前髪をかき上げる。
その顔はわずかに赤くなっていて・・・「多希さん?もしかして赤く・・・」
「モモ」
桃佳の言葉をさえぎるように、多希が言う。「ゲームの話をしようか」

桃佳は箸を置くと、緊張した面持ちで真っ直ぐに多希の瞳を見つめた。




←よろしければ拍手とコメントが送れます。
スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

 管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。