りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


134.似た者同士

2010.11.05  *Edit 

目の前座っているみなみは、今にも噛みつきそうな強い視線を送ってきている。
駿は思わずそんな彼女の視線に耐えきれなくなり、テーブルの上のカレーに目をやった。届いたばかりのそれは、温かそうな湯気を上げている。

みなみから電話があった時、駿は美佐子を見舞った帰りだった。ちょうど電車から降りたところで着信があり、慌てて携帯を取ったので、誰からの電話かも確認しなかった。
携帯からみなみの声が聞こえてきたとき、心臓は凍りつきそうになった。
みなみが駿に電話を寄こす理由など、たった一つしか考えられなかったから。――――そう、桃佳の事以外、考えられない。
どこか思いつめたような声で、『一緒に夕食でも食べない?』と誘われて、戸惑いつつも待ち合わせのファミリーレストランにやってきたのだ。休日のファミレスは混んでいたものの、みなみの姿を見つけるのはがっかりするほど簡単だった。戸惑う隙も与えてもらえなかったのだから。
既にオムライスを食べていたみなみの正面に座り、駿もカレーを頼んだのだった。

立ち上るカレーの湯気を見つめていた駿は、みなみが大きく息をつくのが分かった。同時に緩んだ気配にふと視線を上げると、みなみが苦笑いをしている。
「ね、食べよっか。私もオムライス食べかけだし」
そう言うと、置いてあったスプーンで食べかけのオムライスを口に運びだした。駿もみなみにならって、届いたばかりのカレーをひと匙口に運ぶ。……味なんて、正直良く分からない。
「なんか、ごめんね。私、何をどうしていいのか分からなくって、凄い睨みつけてた」
駿としてはその言葉になんと答えていいのか分からずに、曖昧に笑ってみせる。睨まれるようなことをしたのだから、そのこと自体は受け入れていたものの、だからと言ってそれをあえて口に出すのも違う気がする。
黙ったまま機械的にスプーンを口に運ぶ駿に、みなみは小さくため息をついて、そして真剣な光を宿した大きな瞳で見つめる。
「ねえ」
機械的に動かしていた手を止め、黙ったまま駿はみなみを見た。
「あのね、私、別に二人の間に何があったのかなんて、そんなことを聞くつもりはないから。その……きっと何かあたんだろうとは思うけど、私が知りたいのはそんなことじゃないの」
みなみの言葉に、駿は少しだけ驚いたように目を開く。
きっとみなみは自分と桃佳の間に何があったか知っていて、こうして呼び出したのだと思っていたから。ぶつけられる言葉は、当然責める言葉だと疑いもしなかった。
けれど……けれど。
そんな自分の考えに、思わず駿は眉をひそめた。
そう、考えてみれば、桃佳が話すはずがない。いつだって必要以上に相手のことを思いやってしまう桃佳が、駿のことをみなみに話せるはずがないのだ。――――考えれば、簡単に分かることだったというのに。
そんな簡単なことさえ分からず、一瞬でも身構えていた自分が愚かしくて、駿は口の片方を持ち上げて自嘲気味に笑った。
「馬鹿……だな」
長い時間、一緒に過ごしたはずの人なのに。大切でしょうがない人だったはずなのに。誰よりも分かっていたと思っていた人だったのに……
唇が震え、自分の顔が悲しみに染まってしまうのが怖くて、駿は慌てて目の前のカレーを口に運んでいった。


お互いの食事が終わり、二人とも黙ったままで食後のコーヒーに口を付けていた。何かを話さなければ、と思いつつも、何をどう話していいのか分からず、駿は黙ってコーヒーを口に運び続けている。
やはり先に口を開いたのは、みなみの方だった。
「ねえ、駿君。その……、私、もしかしたらどうしようもなくお節介なのかもしれないんだけれど」
みなみにしては歯切れ悪く、そこで言葉を切る。そして、ひとつ息をついて決心したように口を開いた。
「ねえ、駿君はもう、桃佳とは会いたくないの?」
「……え?」
みなみの口から出た思ってもいなかった言葉に、駿は戸惑う。まさか、そんなことを聞かれるとは思ってもみなかったから。一瞬答えに窮して、駿は言葉を選びながら一言ずつ発する。
「……みなみちゃんは、どこまで知ってるの?」
「え……っと」答えに窮するのは今度はみなみの番だった。それでも今更誤魔化してもしょうがないと、戸惑いながらも言葉を口にする。「……桃佳が、多希さんと一緒にいることくらい?」
その言葉に、駿は目を瞬かせ、それから少しだけ寂しそうに笑って見せた。
「そっか。ふたりは一緒にいるんだ」
呟くような声に、みなみは胸の辺りが苦しくなる。誤魔化しても仕方のないことだったかもしれないけれど、もう少し言葉を選ぶべきだったのかもしれないと。
絞り出すように深いため息が駿から洩れ、みなみは自分の失敗を悟って眉を寄せてテーブルを見つめた。
「そっか。清水のことは、兄貴が支えてくれてるんだ。……それならきっと、大丈夫だな」
寂しげな、けれどどこか穏やかなその響きにみなみが驚いて目を上げると、声と同じような表情をした駿が小さく微笑んでいた。
「駿……君」
かける言葉も見つからなくて、みなみは目を細めてぎゅっと唇を噛んだ。どんな気持ちで今この言葉を発したのかと思うと、みなみの胸はぎりぎりと締め付けられ、こんなふうにお節介で駿を呼び出してしまったことを酷く後悔してしまう。そっとしておくべきだったのだと。
そんなみなみの表情に気が付いて、駿は困ったように笑顔を浮かべる。
「みなみちゃんがそんな顔しないでよ。きっと俺……みなみちゃんが思っているより傷ついてないから。それよりも、俺が清水のことを凄く傷つけちゃったから……」

冷めたコーヒーに口を付け、駿は懺悔を始める。

「俺、さ。実は清水のこと責められないんだ。俺も浮気してたから……」
駿はそう言ってから、その事実はみなみも気が付いていたということを章吾から聞いたことを思い出して、バツが悪そうに顔を歪めた。
「……って、みなみちゃん、知ってたんだっけ」
「う、うん。はっきりと知ってたわけじゃないけれど、駿君が女の人といるのを見た人がいたから。……やっぱり、そうだったんだ」

駿が浮気をしているかもしれない。
その噂は知ってはいたものの、みなみはどこかで駿がそんなことをするはずがないと信じていた。だからこそ桃佳にもそんな噂があることを教えたのだ。気を付けないと、『噂』が『真実』になるかも知れないよ、というお節介心も込めて。
だから駿が自らの浮気を認めたことはショックだった。けれど、何かを話そうとしてる駿を遮るのも憚られて、みなみは黙って何かを言おうとしている駿をじっと見つめた。

「清水に酷いことをして、みなみちゃんに『しばらく桃佳をそっとしておいて』って言われた後だよ。バイト先の奴とそういうことになって…… 浮気してるって気持ちは、正直なかった。遊びだったから、浮気にはならないってどこかで言い訳してたんだと思う。ってか、逃げてたんだろうな。現実から、清水から」
そこまで言って、駿は大きくため息をつく。
みなみは駿の言葉に言いたいことは山ほどあったものの、それでもやっぱりぐっと口を噤んだままで彼を見つめる。きっと、みなみが言いたいことくらい、駿にも分かっているはずだから。
「両方とうまくやれるって本気で思ってた。不誠実な自分を、清水に優しくすることで隠してたんだと思う。けど、それじゃいけないって思って、清水だけを見ていこうって決めた途端、兄貴とのことを知ってしまって」
口元が苦く微笑む。
「驚いて、腹が立って、悲しくて。兄貴にも清水にも裏切られていたんだって思うと、自分をコントロールすることもできなかった。それで……」
自嘲的に微笑んでいた口元から笑みが消え、視線はテーブルの上を彷徨う。逃げ場を求めるように。
「それで、とんでもないことをした。清水のことを、これ以上ないくらいに傷つけた」
「じゃ、じゃあ、あの髪と頬の傷は、まさか……!!」
何も聞かないと言ったものの、みなみは思わず声を荒げて立ち上がってしまった。テーブルの上でコーヒーカップがガチャリと悲鳴を上げ、周囲の人たちの視線が一瞬みなみに集中する。好奇の視線に気が付いて、みなみは口元を押さえてすとんと椅子に腰かけた。
「ご、ごめんなさい……つい」
「いや、いいんだ。そう思われても仕方がないし、あの髪も傷も……俺のせいみたいなものだから」
「じゃあ……あの髪と傷は、駿君じゃ……」
こくんと駿が頷いてくれ、みなみは心底ほっとした。何があろうとも、駿が桃佳を傷つけるなんて、考えるのも嫌だったから。
「清水はさ、俺が酷いことをしたのに、俺に会いに来ようとしてくれたんだ。なのに俺、清水と兄貴のことを告げられるのが怖くて、逃げた。……あの髪と傷は……俺の母親が付けたんだ」
「え?」
テーブルの上で組んでいた駿の指先が、血の気をなくすほどにぎゅっと握りしめられている。指先は、手の甲にめり込み、自らを傷つけてしまいそうなほど。
「俺が逃げてしまったばかりに、うちの家族の問題に清水のことを巻き込んでしまったんだ…… あいつはただ、必死の思いで俺に本当のことを話そうとしていただけなのに……」
手の甲にめり込んでいた爪の先が、自らの皮膚を切り裂く。みなみは何も言えずに、駿の手の甲の血のにじむ赤い線を見つめていた。
「俺のせいで、あいつはあんな目に遭ったんだ。俺さえ逃げたりしなければ、あんな酷い目には会わずに済んだのに…… だから、俺には清水に会う資格なんてないんだよ。それに、清水にはもう兄貴がいるし」

何かを諦めたような視線。その視線がさっきもう駿には会えないと言っていた桃佳のものと重なって、みなみはじんわりと浮かんでくる涙を止めることができなかった。

「俺が会いに行っても、きっと清水の事を苦しめるだけだよ。だから俺は、もう兄貴と清水には近づかない。きっと……それが俺に出来るたった一つのことだと思うんだ」
「……バカ、だ」
堪え切れなくなり、みなみは両手で顔を覆う。覆った手の平に、いくつもの涙が落下しては流れ落ちた。
「みなみ、ちゃん?」
驚いたように声をかけてくる駿に、みなみはもう一度「バカだっ」と言った。さっきよりもはっきりと。
「あんた達ってば、どうして揃いも揃ってバカなのよっ! 相手のことばっかり思って、言いたいことも言えないで飲み込んで…… それで本当に自分も相手も幸せになれるとでも思ってんの!? 救われるって、本当に……そう思ってるの?」
「みなみちゃん」
みなみ自身、当の本人たちが泣きもしないのに、自分ばかりが泣いて声を荒げて恰好悪いと思わないわけでもない。けれど、駿も桃佳もあまりにも不器用過ぎて、見ていてあまりにも苦しいのだ。二人が泣けないなら、せめて自分が泣いてあげたかったのかもしれない。……それこそ、余計なお節介だとしても。
「ねえ、駿君。桃佳はあなたに本当は会いたいって思ってるよ? でも、会いに行くこと自体が罪だってどこかで思ってる。今の駿君と同じ。駿君に会いに行けば、もっと駿君を傷つけるって。……本当にあんた達二人って、似た者同士だわ」

そんなみなみの言葉に駿は目を細める。それからふっと寂しそうに笑った。

「そ……っか。似た者同士か。そうかもしれない。だからお互いに一歩踏み込めなかったのかもしれないね。いつかきっと分かる日が来るって、お互いに思ってたのかもしれない。それじゃ、ダメ……なのに、な」
「駿君……」
盛り上がってくる涙を左の手の甲で拭きながら、みなみは右手でそっと駿の手に触れる。
「ねえ、桃佳にとって駿君がどれだけ支えだったかって、私は良く知っているよ?」
今更こんなことを伝えるべきじゃないのかもしれないけれど、みなみはずっと近くで見つめてきたから知っている。
「どれだけ駿君の存在が、桃佳にとって支えだったか。どれだけ頑張れたか……あなたは、本当に桃佳にとっての大事な存在だったことは嘘じゃないから」
みなみの静かな声は、駿のぼろぼろになった心に染みわたるようだった。みなみが言ってくれると、不思議と本当にそうだったと思える。心の中に溜まってしまっていた、重たい何かがふっと軽くなっていくのを駿は感じていた。

だから、浮かんだ笑顔は穏やかで。


「ありがとう、みなみちゃん。俺、ちゃんと会いに行くよ。清水にも、兄貴にも。で、兄貴に約束させるよ。清水のことをしっかり支るって。……俺の代わりに」

穏やかで、優しげな笑顔。
きっと、桃佳が一番好きな駿の笑顔がそこにはある。
駿の手に触れた手に力を込める。

みなみは願う。
駿も、桃佳も、幸せになれるように。

心から笑えるように……



きっと、大丈夫。




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  • #43  
  •  
  • 2010.12/23 20:42分 

Re: みゅう様 

みゅうさん、こんにちは!!
お久しぶりです。

ご心配ありがとうございます。
そして、本当にすいませんでした。
何とか年内に更新することができました。

私生活が何かと忙しく、なかなかパソコンの前に座ることもままならなくて……。゚(つД`)゚。
仕事の方も何とか一段落しましたので、これからはここまで更新が遅れてしまうということはないかと思います。
と、いうか、そういうことがないように頑張ります!!

毎日寒い日が続いております。
どうぞお体に気を付けて、良い年を迎えてくださいね!!
  • #44 沢上澪羽 
  • URL 
  • 2010.12/28 14:09分 
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