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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


136.君のためにできること 2

2011.01.15  *Edit 

駿は見慣れた部屋のドアの前で大きく深呼吸をしていた。

何度も何度も、いつだって自分はそのドアを明るい気持ちで開けていたはずだった。そして、そのドアの奥から自分を迎えてくれる柔らかな笑顔……
つい先日まで、それは現実だったはずなのに。今はもう遠い過去の事のような気がして、駿は寂しげに笑う。過去を思うように思い出される光景。そんなふうに感じてしまうくらい、もしかしたら駿にとっては気持ちの整理が付いてしまっているのかもしれない。
けれど……
そう思って、駿はぐっと唇を引き締めてもう一度深呼吸をする。
きちんと区切りをつけなければいけない。そのために、もう二度と来ることはないと思っていた桃佳の部屋までやってきたのだから。

……もしかしたら初めてかもしれない。
こうやって、自分の気持ちをはっきりと桃佳に告げようとするのは。……もしも、もっと早くこうして自分の気持ちをはっきりと桃佳に告げることができていたら、二人の間は何か変わっていたのだろうか?
そんなことをちらりと思って、それから駿はその浮かんだ思いを払うかのように首を振る。
そんなこと、今更考えたところで何かが変わるわけでもないのだから。

小さく頷き、チャイムに指をかける。聞きなれた、どこか間の抜けたチャイム音が響いた。

桃佳の返事はない。けれど、ガチャリとドアノブの回る音の後に、細く開いたドアの隙間から桃佳が顔をのぞかせた。
ドアの隙間から流れてくる、桃佳の部屋では嗅いだ事のない、香ばしい珈琲の香り。そして顔をのぞかせた桃佳の髪は、頬のラインで切り揃えられている。
慣れない香りの中にいる、見慣れない髪型の桃佳。
まるで、本当に知らない人のような気がして、駿は目を見開いてそんな彼女を凝視してしまった。そんな駿の視線の意味をどう受け取ったのか、桃佳は何かをぐっと堪えるような表情でその視線を逸らしてしまった。

「あ、あの。どうぞ」

おずおずと言ったふうに、桃佳が駿を促す。
駿は慌てたように何度か小さく頷き、促されて玄関に入る。そしてすぐに、男物の大きなスニーカーが目に入った。誰のものかくらい、考えなくてもすぐに分かる。そう、兄、多希のものだということくらい。
二人が一緒にいるところを見てしまったら、もしかしたら心の整理が付いているかもしれないと思いつつも、激しい嫉妬心に苛まれるのではないかと思っていた。そして、謝りに来たはずが、再び桃佳を傷つけてしまうんじゃないかと。
けれど、駿は自分で思っている以上に冷静でいられた。
それはもしかしたらあの珈琲の香りだったり、髪を短く切った桃佳の姿のおかげなのかもしれない。慣れない香りも、見慣れない髪型も、どこか駿から桃佳を遠ざけているようで。
全てが変わってしまったことを、感覚として知ってしまったようで……





心臓が嫌な音を立てている。壊れそうに鼓動していて、本当に桃佳は胸が痛いと感じていた。
どんなふうに駿を見ていいのかわからない。どんな言葉をかけていいのかも。
いや、自分が駿に言葉をかけること自体が許されないんじゃないか。
けれど、誠心誠意謝罪する以外に、自分に何ができるというんだろう?

意識して考えているわけではない。
ただ、次から次へとまとまらない思考が溢れだして、ただただ桃佳は混乱することしかできなかった。
居間のドアを開けると、多希がどこか困ったような笑顔を自分に向けていて、桃佳は更に混乱してしまった。
ひとりで駿に会うよりは、自分がいた方がいいだろうと言われ、多希にはこの部屋にいてもらった。けれど、ここに多希がいることを駿が知ったらどう思うだろうか? どうしてそんなことも気が付かなかったんだろうか?
溢れだす思考に、感情のコントロールも利かず、桃佳は立ち尽くしてしまう。その後ろから、思っていたよりもずっとずっと穏やかな駿の声が聞こえた。

「兄貴。やっぱりいたんだね」
「……ああ」

考えていたものとは違う駿の穏やかな声に、桃佳は驚いてゆっくりと振り返る。そこには悲しそうではあるものの、声同様穏やかさを保った駿の表情があった。

「あのさ、兄貴」
穏やかさを保ったままで、駿が多希に話しかける。
「もしよければ、清水と二人で話をさせてくれないかな。……勿論、何かする気はないよ」
多希はじっと駿を見つめ、それからゆっくり頷いた。
「俺は……構わないよ。モモだって、本当はそうしたいんじゃないのか?」
急に問われて、桃佳はびくりと肩を揺らした。
確かに多希の言う通り、駿がこうして自分と会うことを望んでくれたのだから、しっかりと彼と向き合いたいと思ってはいる。それでも、やはり怖い。また、傷つけてしまうことも。自分が傷ついてしまうことも。
――――逃げ出したいと思ってしまうほどに。

立ち上がり、いつの間にか隣に立っていた多希に肩をポンとたたかれ、桃佳は床の上を彷徨わせていた視線を上げる。励ますような多希の視線と出会った。
「……本当は、俺がここから出て行くのは凄く無責任なんじゃないかとも思うんだ。その……全て、俺のせいだから。でも今は、駿の気持ちを優先させるべきのような気がする。だから」
二人きりにすることは、多希にとっては本当は不本意なのだ。
それでも、今の駿は絶対に桃佳に酷いことはしないだろうという確信がある。長年家族として共に過ごしてきたからこそ持てる確信。
きっと、駿は桃佳を苦しめるためにここに来たのではないという、確信。
だから二人きりにすることを了解したのだから。


じっと真っ直ぐに不思議な色の瞳に見つめられ、ほんの少しだけ桃佳の心も冷静さを取り戻す。
駿から連絡があった時、どんな言葉も受け止めようと、逃げずに受け止めようと心に決めたのだ。そうすることでしか、もう桃佳には駿に償う術はないから。
桃佳がこくんと頷くのを確認して、多希は一歩前に出て駿の目の前に立つ。
「駿。モモとの話が終わったら、俺のところにも来てもらいたいんだ。できれば、きちんと話がしたい」
「そのつもりだったよ」
頷きあうと、多希はちらりと桃佳に視線を寄こしてから再び頷いて見せ、彼女の部屋を後にした。

バタンと扉の閉まる音が聞こえ、重苦しい沈黙が駿と桃佳の間に漂う。沈黙に耐えられず、体の芯から冷えていくような感覚を覚えながらも、桃佳はほんの少し冷静になった思考を働かせて、何とか駿に座るように促すことができた。
さっき、ほんの少しでも冷静さを取り戻すことができていなかったなら、きっと訳も分からないままで立ちつくすことしかできなかったかもしれない。
駿に座るように勧め、自分も少し離れた所に座る。
その微妙な距離感が痛くて、桃佳は眉間に力を込めた。冷静になった分、自分を責める気持ちだけが再び大きくなってくる。平穏に多希と生活をすることを選んだ時から、自分の隅っこに追いやっていた罪悪感。それが一気に桃佳を襲う。

「ごめんなさい」
とか
「全部私のせいです」
とか、言わなければならないことは山ほどあるのに、唇が震えるばかりで、桃佳の口からはどの言葉も出てきてはくれない。ただ俯いたまま、強く握りしめた自分の指先を見つめるしかできなかった。


「……本当に、ごめん。俺……清水に本当に酷いことをしてしまって。あんな、酷いことを。それに母さんのことも。俺が逃げ出しさえしなければ、清水が巻き込まれることなんてなかったのにっ」


声に、桃佳は弾かれたように顔を上げた。
目の前には、正座をして、深々と頭を下げている駿の姿。
自分が謝られているんだと理解するまでに、たっぷり数十秒を要した。桃佳にとって、謝罪するのは自分であって、駿ではないはずなのだから。
だから、理解するのに時間がかかったのだ。目の前の光景を。

「や……、や、だっ。違うっ。違うよ!! 謝るのは、駿ちゃんじゃない……っ。私の方……!!」

声が震え、詰まる。
何度も大きく首を振る度、短くなったくせっ毛がふわふわと桃佳の顔を覆い隠す。いつの間にか溢れだした涙のせいで、その髪の毛は頬に貼りついてしまっている。

「ごめ……っ、ごめんなさい……駿、ちゃん……私……っ!!」

必死に声を絞り出し、ぎゅっと強く目を瞑る。許してもらえるだなんて、許してもらおうだなんて、そんなこと、思ってもいない。ただ、それは伝えなければいけない言葉だった。

「ごめんなさい……っ、ごめんな、さい……」
「清水、悪いのは俺だよ。酷いことをしたのは俺なんだから」
「違うの……っ、駿ちゃんにあんなことをさせたのは、私のせいだからっ」
「ごめん、清水」
「ごめんなさい、駿ちゃん」

同時に謝罪の言葉を口にして、お互いに見つめ合う。数秒そうしてから、先に困ったように噴き出したのは駿の方だった。
桃佳はなぜ駿が笑っているのか分からなくて、くしゃくしゃの泣き顔のままでそんな彼の表情を窺うしかなかった。
笑っているはずなのに、寂しげなその笑い声。

「……バカだって言われたよ」
「え?」
言葉の意味が分からず、桃佳は駿を見上げる。
「俺らさ、似た者同士なんだってさ。……確かにそうかもしれないね」
「似た者、同士?」
「そう。相手のことばっかり考えて、身動きとれなくなって、結局楽になれない。バカだって、みなみちゃんにそう、言われたよ」

そこまで言ってから、駿は表情をきゅっと引き締めて、桃佳のことをまっすぐに見つめた。

「清水。勝手かもしれないけれど、俺のことを許してもらえないかな」

真剣な声でそう告げて、駿は再び深々と頭を下げた。







今更ですが……明けましておめでとうございます!!
いや、ホント、今更ですね(^_^;)
やっと、2011年初の更新にこぎつけました。
どうぞ今年も生ぬるい目で沢上とぴ~ちを見守っていただければ嬉しいです♪

毎日寒い日が続いておりますので、皆様どうぞお体にお気をつけくださいね(^人^)





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