りんどう庵

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


137.君のためにできること 3

2011.01.17  *Edit 

「駿ちゃんっ、や、やめて!!」

思わず悲鳴のように桃佳はそう叫んでいた。

「違うからっ、駿ちゃんは悪くないの。私のせいだから。……私の方が、許してもらいたいって思っているのに……っ!!」

許されようだなんて思ってはいない。
そう思っていたのは事実。けれど、心のずっと奥深くでは、駿に許してもらいたいと願わずにはいられなかった。大事な人にこれから先も許されずに過ごすことは、苦しくて痛いことだったから。
それでも桃佳はその願いを押し込めてきた。それが自分に対する罰だと信じていた。
けれど、思いもよらず駿に許してほしいと言われ、隠してきた本音が零れ落ちてしまう。

言ってはいけないことを言ってしまった事に気が付いて、桃佳ははっとして口元を押さえた。
絶対に言わないでおこうと思っていた「許してもらいたい」その一言。優しい駿を知っているからこそ、絶対に言ってはいけないと思っていた一言だったのに。
ぎゅっと唇を噛んで桃佳は俯いた。口から飛び出してしまった言葉を、今更消すこともできない。

「……清水。同じだよ」
頭上から降って来るのは、気遣わしげな駿の声。
「俺も同じ。許してほしいってずっと思ってた。でも、言えなかった…… 許してもらえるとも、許されるとも思ってなかったから。俺がしてしまったのは、本当に酷いことだったから」
苦いものでも噛みつぶしたかのように、駿の顔には苦渋の色が滲む。
最後まで桃佳の体を奪わなかったにせよ、彼女にしたのは凌辱行為だ。あの時の桃佳の恐怖に歪む瞳を、忘れることなどできるはずもない。
与えてしまった傷の深さを思えば、どんなことをしても償えるものではないという気持ちがこみ上げてくる。

「駿、ちゃんっ。でも、駿ちゃんをそんなふうにさせたのは、やっぱり、私……っ」
桃佳は必死に声を絞り出す。
桃佳は、こんなふうに駿に自分を責めてほしわけではない。ただ、苦しめたくないと願っていたのに。それなのに、結局はこうして苦しめてしまっていた事実に胸が痛む。ぎりぎりと、締め上げられるように。
「私……が、私が、多希さんを……そのせいで!!」
ぼろぼろと溢れ出る涙のせいで、さっきから駿の姿はおろか、全てがぼやけてしまっている。桃佳が腫れぼったい瞼をぎゅっと閉じたとき、そのぬくもりは突然に与えられた。
大きな手が、労わるように桃佳の頭に載せられている。

「清水。人の気持ちが変わることは、多分罪じゃないよ。でも、俺のしてしまったことは責められるべきことなんだ」
――――だから、本当にごめん。
そう言って、駿は俯く桃佳の顔を覗き込みながら、真っ直ぐにそう言った。桃佳の中心に届くように、ただ真っ直ぐに。
「わ、私は……駿ちゃんを責めようなんて、少しも思ってない」
涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、桃佳も駿を見つめ返す。涙で歪んだ視界の向こうで、駿が微かに微笑む。
「うん。俺も清水を責めようなんて思ってないよ。それに、兄貴のことがなくても、もしかしたら俺たちは続かなかったかもしれない……そう、思うんだ。俺には、清水にあんな顔させられなかったから……」
柴山家で傷つけられた桃佳が多希にだけ見せたあの顔――――あの顔を見たときに、駿はもう二人を繋ぐ「何か」を認めないわけにはいかなかった。
それは長い時間を共有した自分には、引き出すことのできない表情だったから。
「だから、清水がそんなに自分を責めることはないんだ」
「でも、私っ……」
尚も何か言おうとする桃佳の口元を、駿は指先で塞いだ。
「俺の兄貴だって分かってて、それでも好きになったってことは、きっと兄貴が清水の何かを動かしたからなんだと思う。それに一応俺だって、清水がどっちとも上手に付き合えるほど器用な奴じゃないってことくらい、よく分かってるから」

駿の言葉に、もうこれ以上溢れようもないと思っていた涙がどうしようもないほど溢れて、桃佳の頬を濡らした。
駿の言葉に、胸の奥深くで凍りついていたものがするすると溶かされていく。その溶けだした何かが瞳から溢れだしているのではないかと思うほど、桃佳は涙の熱さを頬で感じていた。

「もう、泣かないで」
少しだけ困ったように微笑んで、駿が桃佳の言葉を遮っていた指先で頬の涙をぬぐう。
「もう、清水には泣いてほしくないんだ。……って、散々泣かせたのは俺のせいでもあるんだけれど」
「違うっ!!」
桃佳は駿の目をまっすぐに見つめたまま、はっきりとそう言い切る。
「違う……っ、駿ちゃんは、駿ちゃんはいつでも優しかったよ? いつでも私のことを心配してくれて、いつでも見守っててくれた。支えてくれてた……」
今、この言葉を駿に伝えるのはかえって彼を傷つけてしまうことになるかもしれないと思いつつ、それでも桃佳は言わずにいられない。
「駿ちゃんがいてくれて、私、いつでも穏やかでいられたの。暖かい場所にいるんだって思えたの。安心、できた」
でも結局は、その安らぎに身を任せるだけで、お互いをもっと知ろうとはしなかった。嫌われるのが怖くて、自分をさらけ出すことができなかった。
「なのに私は……ずっと自分が傷つくことが怖くて。自分の気持ちから目を逸らし続けてきた…… 卑怯、だったの」
「……俺も同じだよ。俺も、卑怯だったんだ。清水から逃げて、他の人に逃げ込んだ」
駿の脳裏に美鳥とのことが過る。逃げ込んだ、あの温もりを。
「ごめんなさい……駿ちゃん。私、自分を守るために、駿ちゃんをずっと、ずっと傷つけて……」
駿は桃佳の小さな頭を抱こうとして伸ばした手を止めると、あやすように背中をさする。桃佳を抱きしめるのは、もう自分の役目ではない。

「俺さ、父さんの会社、手伝おうと思ってるんだ。だからこれから建築の勉強をし直そうと思ってる。いつかは、父さんの力になれるように」
未来を語る駿の表情は、どこか晴れ晴れとしていて、つられて桃佳も頬を緩ませた。
「うん。頑張って」
やっと笑った桃佳の顔を見て、駿はにっこりと笑う。桃佳の一番好きな笑顔。
「……やっと笑ってくれた。
清水は介護福祉士。俺は建築の勉強。前だけ向いて、目標に向かっていこう? もう、振り返って自分を責めるのは終わりにしよう」
「いい……の?」
やっと笑ったその顔は、今は複雑な表情に変わっている。
本当に自分が許されてもいいのか、桃佳には分からなくて。

「バカだな」

もう自分の役目ではないと一度は引っ込めた腕を、我慢しきれずに伸ばして、駿は桃佳の体を引き寄せた。頭を抱え込んで、胸に押し付ける。
引き寄せられた桃佳も、駿の存在を確かめるかのように、額を彼のTシャツに強く押し付けた。

「清水、さよなら」

その言葉と共に、駿は桃佳から離れると笑顔を向ける。そして、小さくじゃあと言うと立ち上がって背中を向けた。

「駿、ちゃんっ」
桃佳の声を、駿は振り向かずに背中で受け止める。
「駿ちゃん、ありがとう……っ」

やはり振り返らずに駿は手を振って桃佳の部屋を後にした。
どこか、満足げな表情を浮かべて。







「兄貴」

桃佳の部屋のドアを開けて、すぐ隣の部屋のドアを開ける。なんとなく奇妙な気持ちがした。
だから、玄関先に多希が顔を出すまで、なんとなく本当にここに兄が住んでいるとは思えずにいたのも事実。
けれど当たり前のように現れたその顔に、駿は思わず苦笑をしてしまった。
全て受け入れたつもりでいても、やはり心のどこかがチクリと痛むのは、もうどうしようもない。けれど、駿は決めたのだ。前に進もうと。そうすることでしか、桃佳のことも、自分のことも楽になんてすることはでいないと気が付いたから。

「駿、上がらないか?」
「いや、ここでいいよ。話しはすぐに終わるから」

中に入るように促す兄に首を振りながら、駿は多希を真っ直ぐに見据えた。憎んでいるという感情とは違っても、まだ多希と二人きりの空間は耐えられそうもない。恨み事を言う自分にもなりたくはない。

「兄貴。俺は今清水にしてやれることをしてきたつもりだ」
ぎゅっと口元を引き結んで、睨むように多希を見上げる駿。その視線を、多希もまっすぐに受け止める。
「だから……兄貴は、兄貴が清水にしてやれること、ちゃんとしてくれ。
まだ、兄貴と清水のことを応援するような気にはなれないよ。……俺はそこまで器がでかくないからね。でも、二人のことはもう責めない。……てか、できないよ、な」
人の気持ちはどうしようもないから……そう言って苦く笑う駿の表情に、多希の表情も曇る。

大事なものをなくして、苦しめばいいと思っていた。
最愛の彼女に裏切られて嘆く姿を嗤ってやろうと思っていた。

けれどそれがどんなに残酷なことか、今の多希には痛いほど分かっている。
いつも自分が欲しいと思うものに囲まれてきた駿。そんな駿の大事なものを奪いたかった。そうすれば空虚な自分が満たされると思っていた。
結果、確かに多希は満たされた。
けれどそれは駿の大事な人を奪ったからではない。相手が桃佳で、彼女のことを心から欲してしまったから。失いたくないと心から思えるものを見つけてしまったから。
桃佳を得て、多希は初めて自分のしたことの本当の意味での残酷さを知ったのだ。

「……駿。本当にすまない」

深々と頭を下げる多希。その真剣な響きに、駿は言葉をなくす。
いっそ、桃佳とのことがただの遊びだと言われれば、詰(なじ)って責めることもできるのに…… そんな気持ちにさえなる。
けれど、もう責める気さえ起らない。
駿は大きくため息をついて、すっと肩の力を抜いた。もう話すこともない。

「もう、いいよ。兄貴。……じゃあな」

最後にふっと唇の端で笑って見せ、駿はさっさと多希の部屋を後にした。
バトンは渡した。
後は多希が桃佳のためにできることをしてくれればいいと駿は思う。
そして自分は、前だけを見つめて歩いていこうと。

少しひんやりとした夜の空気が駿を取り囲んだ。
その澄んだ空気を一杯に吸い込み、駿は大きく伸びをする。
そして、振り返らずに二人の住むアパートから遠ざかっていった。






cont_access.php?citi_cont_id=540009541&size=300
スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(2)

~ Comment ~

苺 

お久しぶりですっ!
久々に見てみたらめっちゃ更新
されてて感動しましたっ()・ω・*()ワラ

駿にはちゃんとももかに
みどりさんとしたことを伝えて
ほしかったな~と思います(`・∞・')w

次のってまた違う話ですか?
これからみてみようと思います♪
  • #49  
  • URL 
  • 2011.02/08 17:18分 
  • [Edit]

Re: 苺様 

苺さん、お久しぶりです!!

何とか更新していました(^_^;)
でも、現在もうひとつ始めた連載の方が、アルファポリスの恋愛大賞に参加しているので、どうしてもそちらの更新が優先になってしまっています。

駿ねえ……
悩んだんですよ。美鳥とのことはっきり告げさせるべきかどうか。
でも綺麗に別れさせてあげたくて、卑怯かな、とは思いつつ桃佳にとって綺麗な思い出になりそうな方を選択してみました。
男のずるさってのもあるのかな、と。
いや、でもホント悩んだところでした。

次のはまた違う話ですよ。
ぴ~ちとは全く違って、ラブコメになります。
もしよろしければ、読んでみてくださいね~♪
  • #51 沢上澪羽 
  • URL 
  • 2011.02/08 22:00分 
 管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。