りんどう庵

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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


139.あいつを止めてくれ

2011.01.29  *Edit 

その日桃佳は遅くなるという多希からの連絡を受けて、実習後に友人と食事をしていた。
久々の友人との外食を終えて、もうすぐ部屋に着くというところで、その電話は鳴ったのだった。

「……拓巳さん?」

点滅するイルミネーションを見つめ、桃佳は首をかしげた。
拓巳には以前多希とのことがばれたときに、電話番号を教えていた。けれど、それ以来個人的に連絡を取ったことなど一度もない。
多希は「拓巳と飲みにいく」と言っていたはず。彼に何かあったのではないかと思い至り、桃佳は慌てて通話ボタンを押した。

「もしもし?」
『もしもし、モモちゃん……?』
 
携帯から聞こえてくる声は、ひどく暗い声で、やはり何かあったのだろうかと、桃佳はぎゅっと携帯を強く握り締める。

「拓巳さん? もしもし? どうしたんですか?」

どきどきと心臓が嫌な音を立てているのがわかる。多希に何かあったらどうしようと、そう思うと携帯を握り締める手のひらは汗で冷たくなっていた。
けれど、拓巳が告げた言葉は桃佳の予想とはまったく違う言葉だった。

『なあ、モモちゃん……!! あいつを、多希を止めてくれ!!』
「え?」
『頼むよ…… モモちゃん。このままじゃ、あいつ……』

酔っているのか、拓巳の口ぶりはどこかはっきりとしない。ただ、切迫した響きが含まれていることだけは桃佳にも伝わってくる。けれど、意味がわからない。

「た、拓巳さん? あの、何の話ですか?」

電話の向こうで、拓巳が大きく息をつくのが聞こえた。重々しいため息を。

『……あいつ、仕事を辞める気なんだ。転勤の辞令が出るからって、それで……』
「転勤!? そんな話、私聞いてません」

思いがけない『転勤』という言葉に、桃佳は思わず声が裏返ってしまう。転勤だけでも驚きを隠せないというのに、拓巳は今、『仕事を辞める』とも言わなかっただろうか? 
拓巳の言葉は、桃佳を混乱させるには十分すぎた。

「ウソ……ですよね?」
拓巳が騙そうとしているような口ぶりじゃないことはわかっている。それでも思わず桃佳はそんな言葉を口走ってしまっていた。
「転勤? どうしてそんなに急に……」
『系列病院で欠員が出て、どうしてもうちの病院から一人、人員をまわすことになったんだ。あいつ、最近問題が多くてね、それで放射線の技師長が環境を変えたほうがいいって気持ちもあって、系列病院への転勤をあいつに決めたんだ」

アルコールのせいもあって、拓巳の言葉にはどこか棘がある。
こんなことになってしまった原因の一端である桃佳が、きっと何も知らないことがほんの少しだけ腹立たしかったのだ。

「問題?」
『そう、ちょっとした変な噂が立ったり、当番をほったらかしていなくなったり、ありえないケアレスミスをしたり』
「……!!」

拓巳の言葉に、桃佳は思い当たることが多すぎて、思わず言葉を失う。
変な噂の原因は、もしかしたら自分を病院に運んだことで発生したものかもしれないし、当番中にいなくなったことについては、間違いなく駿の家に迎えに来てくれたときのことだ。
そうあの日、確かに多希は休日当番だったはずだ。それなのに多希は桃佳を迎えに来てくれた。鳴った携帯に失った顔色。自分を送り届けた後で、慌てて出て行ったこと。間違いない。
桃佳の顔からさああっと血の気が引いていく。
自分のことばかりで、今まで何も気がつくことができなかった自分が恨めしい。きっとあの日のことが原因で、転勤の話が決まったに違いないと思うと、どうしていいのかわからない。

「わ……私のせいです。でも、どうして多希さんが仕事を辞めるだなんて……」
『モモちゃんのせいだよ』
「私……!!」

拓巳の声には非難めいた響きがあった。
本当は桃佳のせいだなんて拓巳も思ってはいない。けれど、あまりにも多希があっさりと全てを捨てようとするのが悔しくて、そんなことを言ってしまう。そして、一度口にしてしまえば後から後から言葉は湧いて来てしまうのだった。

『あいつ、モモちゃんと離れたくないからって…… モモちゃんには夢を諦めさせたくないから、ついて来て欲しいとは言えないって。だから、側にいるために自分が仕事を辞めるんだって……!!』
はっ、と言葉の最後の方には、投げやりな笑い声がかぶさる。
『今まで信頼してくれて人も、仕事も、何もかも捨てるんだそうだよ』
「……そんな」

頭から冷水を浴びせられたかのように、桃佳は体中が冷たくなっていくのを感じていた。
自分のせいで責められる立場に立たされ、自分のせいで仕事まで捨てようとしている多希。そんなことには何ひとつ気付かず、ただ多希の優しさに甘えてきた。
依存してきた。

「私……どうしたら……」

指先が白くなるほど携帯を握りしめ、耳に強く押しあてる。

『簡単だよ、モモちゃん。頼む。多希を止めてくれよ。あいつにバカな真似をさせないでくれ。それができるのは、モモちゃんだけだ』





どうやって家までの道を歩いたのか、桃佳は良く思い出せなかった。気がつけば、見慣れたアパートの玄関に立っていた。
頭の中で拓巳の告げた言葉がぐるぐると廻る。
正式な辞令が下りるのは来週末となる。だからそれまでに多希を思いとどまらせてほしいと。
思いとどまらせて欲しいと言われたところで、桃佳にはやはりどうしていいのかわからない。

重たい足取りで階段を上り、部屋の前にたどり着く。どんな顔をして多希に会えばいいのだろう?
ごめんなさいと謝るべきなのだろうか?
それとも、仕事を辞めるだなんてやめて、とストレートに告げるべきなのだろうか。

ぐるぐると頭の中をまとまらない考えだけが溢れかえっていく。
駿に許してもらえて、これから彼に負けないように自分も夢を追いかけて、そして隣には当然多希がいてくれるものだと思っていた。
全ては、これからどんどん良くなっていくんだと、そう思っていたのに……
そんなことを考えて桃佳は玄関前で立ちつくす。
どうしても部屋に入る勇気が出なかった。
けれど、立ちつくす桃佳を知ってるかのように、玄関ドアはガチャリと開いた。

「……モモ!?」
出てきたのは当然多希で。
「よかった。帰りが遅いから駅まで迎えに行こうかと思っていたところなんだ」
いつも通りの柔らかで、温かな微笑みを浮かべている。その顔を見た途端、桃佳の瞳は潤んでしまった。
「!! ど、どうしたんだ、モモ!! なにかあったのか……?」

目を潤ませて俯く桃佳に、多希はおろおろとうろたえる。

「ほ、ほら。とにかく家に入って」

促されて玄関に入り、ドアが閉まった途端に、桃佳は多希の背中にぎゅっと抱きついた。

「モモ?」
やはりうろたえながら、多希は体を捩って向かい合うと、桃佳の体に長い腕を回す。
「どうした? 何かあったのか?」
靴も脱がないまま、玄関で抱き合う。桃佳の背中をたださする多希の手は、これ以上ないほど優しげで、それがより一層桃佳には辛い。
辛い気持ちを分けてほしいと言ってくれた多希。
それなのに、大事なことは何も打ち明けてもらえない自分が情けない。
ぎゅっと多希に回した腕の力を強め、多希のみぞおちの辺りに顎を付けて彼をじっと見上げる。心配そうな多希の視線が降ってきて、桃佳を包み込んだ。

「多希さん……私に話さなきゃならないこと、ありませんか?」

精いっぱいの勇気を振り絞ってそう尋ねる。
悩んでいるなら、相談してほしい。二人のことだからこそ、一緒に考えさせてほしい。そんな願いを込める。
けれど、言葉の代わりに多希の唇が降ってくる。
柔らかく、けれど時々激しいキスは、ほのかにビールの味がした。

「……今は特にないよ?」

微笑む多希の顔が、桃佳にはまともに見ることができなくて。

「……そうですか」

やっとの思いで、ほんの少しだけ笑ってみせる。
多希から移されたビールの風味が、口の中で苦く広がった。





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~ Comment ~

 

モトカレから始めて小説読ませて貰ってます。モトカレも面白いですが、こちらの作品も一気に読んでしまいましたハッピーエンドになれることん願ってます
  • #48 ゆき 
  • URL 
  • 2011.02/08 08:10分 

Re: ゆき様。 

ゆき様、コメントありがとうございます!!
モトカレ読んでくださているのですか?
こちらのブログの方で、モトカレについての感想をいただけたのは初めてで、とても嬉しいです♪
そして、ぴ~ちの方も読んで下さったんですね。
長い話だったのですが、一気読みは大変じゃありませんでしたか?
モトカレの方が今、アルファポリスの恋愛大賞に参加していますので、更新はこちらが中心になっていますが、ぴ~ちも完結を目指して頑張っていますので、どちらも長い目で見守っていただけたらありがたいです^^
また気になることなどありましたら、コメントいただければ嬉しいです(。 ゝ艸・)

  • #50 沢上澪羽 
  • URL 
  • 2011.02/08 21:55分 
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