りんどう庵

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


17.まるで家族ごっこ

2010.03.24  *Edit 

「ただいま」

その人は爽やかにそう言うと、彼女の家の玄関の扉を開けた。
桃佳はそこでふと、ひとつの違和感に気が付く。

「あの・・・鍵、閉まってませんでした?」
「ああ、これがあるから大丈夫だよ」
悪ぶる様子もなく、多希は桃佳の目の前に二つの鍵を見せる。ひとつは桃佳が玄関に置いておいた、この部屋のスペアキー。もうひとつは真新しい鍵。
「ダメだよ、モモ。あんな所にスペアキーなんか置いておいたら、いつ誰に持っていかれても不思議じゃない。合鍵なんて、簡単に作れるんだから」
そう言って、可愛らしいキーホルダーの付いた桃佳の鍵を玄関に置き、もう一方の真新しい方は自分のジーンズのポケットにしまいこんだ。
「・・・まさか、多希さん」
「うん。作ったよ。合鍵」
「ちょっ!!それって犯罪行為じゃないんですか!?」
「黙ってたらね。でも、ほら。俺はちゃんとモモに報告したんだし、問題ないだろ」
けろっと言ってのける多希に、桃佳は怒る気力さえもしゅるしゅるとしぼんでいく気がした。
「・・・勝手に作った合鍵で、勝手に上がりこんでくるって、不法侵入とかになるんじゃないですか?」
それでもため息混じりに食い下がる。
「ああ、大丈夫だよ。モモのいないときには勝手に合鍵使って上がり込んだりしないから。それに、はい」
「え?」
多希が桃佳の方に何かきらきら光るものを放ってきたので、桃佳はあわててそれを受け止める。桃佳の手の中には、真新しい鍵があった。
「これ・・・?」
「うちの鍵。これでおあいこね」
「いえ、私は・・・」
「別に使わなくていいよ。俺ばっかり合鍵持ってるのって、フェアじゃない気がしたからさ。だから持っててよ。それよりも・・・今日は夕食何?」
桃佳に反論の隙も与えず、するりと多希はキッチンへと向かう。
「・・・フェアって、勝手に合い鍵作った時点ですでにフェアじゃないじゃない」
彼の背中に向かって、ぼそりと呟いてみる。

「今日の夕食はカレーかあ。ところでモモ、今何してたの?」
「え?あ!!」
思い出したように、彼女はベットの上に放り出してある携帯に駆け寄った。
昨日、携帯の電源を切ったまま、さっきまですっかり電源をオンにするのを忘れていたのだった。
電源を入れると、駿からのメールが5件も入っていて、焦ってメールをしようとしていたところに、多希がやってきたという次第だ。
「メール?」
焦って携帯をいじる桃佳に向かって多希がたずねる。その口調はほんの少しだけ責めているようだと桃佳は思った。
「駿とでしょ」
桃佳の一瞬ぎくりとした顔を、多希は見逃さない。「やっぱりね」にっこりと笑っているのが、桃佳にはかえって気持ちが悪い。
「・・・違いますよ」
そう言って、携帯を閉じる。「友達です。明日の実習のことで」言いながら、鞄の中に携帯をしまう。できるだけ、奥の方に。
「別にいいんだよ。俺のことは気にしないで、駿と電話だろうが、メールだろうが何でもしてよ。今まで通り付き合っててもらっていいって言ったでしょう」
「だから、友達ですから」
ほんの少しだけ、桃佳は語気を強めて否定する。

そんなことを言われたって、できるはずないでしょう!?

そう心の中で叫んでいた。
駿のことは気にかかる。きっと桃佳からの連絡がなくて気にしているに違いない。実際、駿から届いていたメールは、不安げに彩られていたから。「どうかしたの?」「連絡して」そんな言葉が綴られていた。早く連絡をしなければ・・・、とも勿論思っている。焦ってもいる。けれど、多希を目の前にして、電話だのメールだのできるほど、桃佳は怖いもの知らずではなかった。
だから、心の中で駿がどうか「実習が忙しくて疲れているんだろう」とだけ思ってくれるようにと、祈るしかない。

「モモ〜。こっちのスープ、沸騰してるみたいだけど・・・」
「ええ!?はい!!」
祈るような気持ちから、一瞬で現実に引き戻された。鍋の中で、コンソメスープがぐらぐらと煮立っている。
「大丈夫?料理中に考え事は危険だよ」
桃佳の気持ちを知ってか知らずか、そんなことをさらりと言う多希を、彼女は一瞬ぎろりと睨み付ける。
「どうかした?」
「いいえ、何でもありませんよ」
勝手に座り込み、テレビをつけてチャンネルを変えていた多希が、ふと思いついたようにポケットに手を突っ込むと、おもむろに封筒を取り出してテーブルの上に置いた。
「そうだ、モモ。これ」
「何ですか?」
「モモに」
テーブルの上に乗せられた封筒を、怪訝そうな顔で桃佳が手にする。開けてみると、中には一万円札が5枚入っていた。
「何ですか?これ・・・」
「うん?食費だよ。暫くお世話になるつもりだから。モモは学生だし、俺の分の食費まで負担させるわけに行かないでしょ?それとも、足りない?」
「いえ・・・どちらかと言うと、余ると思いますけど」
実家で、家事全般を一手に担っていた頃のことを思い出す。たった二人ならば、かなり余るはずだ。
「そうなんだ?じゃあ、余ったら光熱費に当てておいてよ」
「でも・・・こんなお金、受け取れないですよ」
困った顔で多希を見る桃佳の顔を、多希はにっこりとして見つめた。
「いいんだ。受け取ってもらった方が、好き勝手できるし」
「す、好き勝手!?」桃佳の頭の中に、思わず始めて会った夜のことが思い出され、両腕を胸元で交差させるようにして自分の体を隠した。
そんな桃佳の反応を見て、彼はぷっと吹き出した。
「何か勘違いしてるんじゃないの?手は出さないって言ったでしょ?」
「ああ・・・そうでしたっけ」
桃佳は恥ずかしさで真っ赤になると、硬くした体の力を抜いた。
「ほら、ちゃんとモモに渡すもの渡しておけば、テレビ見るのもシャワー浴びるのも遠慮しなくって済むから。それに、結構いい給料もらってるけど、使い道、そんなにないから」
「はあ」
「だから、受け取っておいて」
「・・・分かりました」
ここは言うとおりにした方がいいような気がして、桃佳はありがたくそのお金を受け取ることにする。確かに学生の仕送りで、二人分の食事をまかなうのは厳しい。
そこでふと思い出す。『シャワーを浴びる』?
「って、シャワーまで浴びてく気ですか!?」
「遅い!!」
多希はげらげらと笑っておなかを抱えている。
ふてくされたように口を尖らせながらも、何となくこののんびりとした空気に流されて桃佳もふっと笑ってしまっていた。



「ご馳走様。今日も美味しかったよ」
多希は丁寧に手を合わせると、ぺこりとお辞儀をした。それから自分の使った食器をキッチンへと運んだ。
桃佳も自分の分の食器をキッチンへと運ぶ。シンクの前で、多希が腕まくりをしていた。
「置いといて。俺が洗っておくから」
「ええ?」
「大丈夫だって。モモはご飯作ってくれたんだから、休んでて。勉強あるなら勉強していてもいいよ」
「でも・・・」
「いいから」
ぽんと肩を押されて、桃佳はちらちら振り返りながらもキッチンから離れた。
腕まくりをした多希が、スポンジに過剰に洗剤をつけて、泡だらけにしながらも食器を洗い始める。いやいややっているようには見えず、鼻歌混じりなその背中は、楽しんでいるようにも見えた。
けれど洗剤のつけすぎで、泡が飛び散っている。
「もう。汚れちゃいますよ」
桃佳は苦笑しながらも、自分のエプロンを多希の腰に巻きつける。そのとき、後ろから彼を抱きしめるような形になってしまい、思わずどぎまぎとしてしまった。
「モモ、ありがとう」
けれど多希は一向に気にしていない様子で、さっきと変わらずに楽しげに食器を洗っている。
なんだか自分だけがどきどきしてしまったのが馬鹿らしくて、桃佳は曖昧に笑った。
せっかくの好意なので、綺麗になったテーブルの上に明日の実習計画表を広げ、必要なことを書き込んでいく。
分からないことがあれば教科書で調べ、ひとつずつ問題点を上げていく。
それから今日の実習の振り返り。明日につなげるべきものはいったい何か。今日学んだことはいったい何か・・・。

ひと段落が着き、ふと顔を上げると、真っ直ぐに桃佳を見つめていた多希と目が合った。
電気の光を受けて、栗色の髪の毛はきらきらと輝き、同じように色素の薄い綺麗な瞳に見つめられて、思わずごくりと息を飲み込む。
「随分集中してたね」
二重の瞳が優しげに細められて、桃佳ははっと我に返った。見とれていた自分に気が付いて、目を逸らしてしまう。
「終わったの?」
「・・・はい。大体終わりました」
「そっか」
彼はそう言ってテレビをつける。どうやら桃佳の邪魔にならないように、テレビを消してくれていたようだ。キッチンもすっかり綺麗になっていた。
「あの・・・ありがとうございました。洗い物」
「ああ。面白かったよ」
「面白かったんですか?」
「うん」
そう言って振り返った多希の顔は、まるで少年のようだ。
「多希さんて、いくつですか?」
「うん?26だけど?そうだ。モモも飲む?」
桃佳の前に、こつんとビールの缶が置かれた。
桃佳の部屋にはビールはない。勉強している間に、自室に戻って持ってきたのだろう。すでに多希の側には蓋の開いたビールの缶が二つ転がっている。
「どうも・・・」何となく断れずに、蓋を開けて一口、口に含む。独特の苦味が広がって桃佳は眉をひそめた。
「もしかしてモモ、苦いのは苦手?」
「ちょっと」
「じゃあ、モモのために今度は甘いの買っておくから」
言いながら、自分の缶を桃佳の缶に「乾杯」とぶつける。


ちびちびとビールを口に運び、全部を飲み終えるのにどれくらいかかっただろう。
多希は「残してもいい」と言ったものの、もらったものを残すのは何となく嫌で、全て飲みきってしまった。
実習の疲れと、アルコールとで急激な眠気が桃佳を襲い始めるのに、時間はかからなかった。
「モモ?」
「あい?」
とろけそうな眠気で、口調までもとろりとしてくる。
「眠たいの?もう寝たらいいよ」
「ん〜。そうします」
「じゃ、そうしよう」
おもむろに多希が服を脱ぎだしたので、桃佳の眠気は一瞬にして吹き飛んだ。
「な、な!!何してるんですか!!!」
「何って・・・寝る準備だけど?」
彼はTシャツとトランクスという格好になると、テレビと部屋の電気を消してベットにもぐりこんだ。「ほら、モモも早くおいで」
「な!自分の部屋で寝てください!!」
「だから、別に何かする気はないって。モモも着替えて入っておいで。あったかいよ」
「ダメです!!自分の部屋に帰ってくださいってば!!」
桃佳は彼の腕を引っ張って、どうにか出てもらおうとする。その桃佳の手を、多希がつかんだ。
「・・・俺の言うことは、聞いてもらう約束だったよね?」
暗闇の中、彼がどんな顔をしているのかは桃佳には分からなかったが、きっとずるくて綺麗な顔をして笑っているんだということだけは何となく分かった。
抵抗しても無駄なことを悟り、桃佳はため息をつく。
「分かりました。着替えるんで見ないでくださいね」
「うん。見たくても真っ暗だから見えないし」
そろそろと着替えを済ませると、来客用に仕舞ってあった布団を手探りで引っ張り出して、床に転がった。
「何してるの?」
「床で寝ます。布団はあるんで大丈夫ですから」
闇の中から、やれやれと言ったような多希のため息が聞こえた。
次の瞬間、桃佳の体はふわりと持ち上がった。
「きゃあ!!」
「きゃあじゃない。そんなところで寝たら風邪引く」
軽々と体を抱え上げられて、ベットの上に寝かされる。
「何にもしないんだから、諦めて一緒に寝なさい」
大分暗がりに慣れて、ぼんやりと多希の顔が見える。
いつかのような、冷たい悪魔の顔はそこにはない。優しい笑顔だけがあった。
「・・・分かりましたよ!」
桃佳は多希に背中を向けて横になる。彼が布団に入ってきた気配を感じた。次の瞬間に、背中が暖かいものに包まれた。
そっぽを向いて横になる桃佳の背中に、多希がぴたりとくっついている。桃佳の後頭部におでこを付けるようにして、上になっている方の腕で彼女の細い体を抱き寄せた。
「た!!」
「しぃ」
耳元でそう言われて、桃佳は身を硬くしたままで黙り込む。
「あったかいよ」
そう言いながら、もう片方の手で桃佳の柔らかな髪の毛を撫でた。
「・・・メリー・・・」
「え?メリー?」
「・・・」
背中の方から、静かな寝息が聞こえる。
もしかしたら、桃佳よりもよっぽど多希のほうが疲れていたのかもしれない。
そっと体に巻きついた腕を離そうとすると、さっきよりも強い力で抱き寄せられて、桃佳は多希の腕から逃れることを断念する。



ゲームが始まり、何か酷いことが起こるかもしれない。
そんなふうに考えていた。
けれどこれじゃあまるで家族ごっこじゃない。


そんなことを考えながら、背中から伝わる温もりに誘われて、いつしか桃佳も眠りに堕ちていった。





←よろしければ拍手とコメントが送れます。
スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

 管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。