りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


140.伝えなくちゃいけないのに

2011.03.02  *Edit 

転勤の話を切り出すことのできないまま、時間だけが過ぎて曜日は金曜日となっていた。
もう躊躇している時間はない。
桃佳は今日こそは多希に転勤の話を切り出そうと決心していた。
そして、自分が転勤先についていくから、仕事を辞めないで欲しいとそう告げようと。

この数日間、転勤の話を切り出せなかったのは、多希の気持ちを思ってのことだけではなかった。桃佳自身、心の整理をつけようと必死だった。
多希について行くということは、桃佳は学校を辞めなくてはならないということだったから。それを決断することは簡単なことではなくて……
わざわざ実家から遠い場所にある学校に入学することを許してくれた家族、これまで頑張ってきた時間を考えてしまうと、どうしても迷いが生まれてしまったのだ。そんな迷いがあったからこそ、多希が自分をどれだけ思ってくれているのかも理解できた。
多希にだって積み上げてきたものがあったに違いないのに、それなのにすべてを投げ出そうとしているのは、桃佳のためなのだから。
それを思えばこそ、桃佳も決心することが出来た。



ちらりと時計を見る。
もう既に時間は二十時を回ろうとしていた。いつもだったらもう帰ってきていてもおかしくない時間なのに、多希はまだ帰ってこない。
『話したいことがあるから、今日は早めに帰ってきてね』
と朝告げたとき、確かに分かったと言ったはずなのに。しかも、夕食は自分が用意すると言ってもいたのに……
ふうとため息をつき、麦茶を一口飲んだ時、玄関の方から声が聞こえて桃佳は立ち上がった。多希の声と誰かもう一人の声がどんどん桃佳の部屋に近づいてきて…… 思わず桃佳は眉をしかめて玄関に飛び出した。
その瞬間に玄関ドアが開き。

「姉ちゃん!! 久しぶり!!」
「か、楓!?」

目の前で満面の笑みを浮かべる弟、楓。
一瞬何事か分からない桃佳は、その場でひたすら固まるしかなかった。




「あはははっ!! ホント、姉ちゃんの驚いた顔ったらなかったよなっ。ねえ、おじさんっ」
「……楓、笑いすぎだろ」
お腹を抱えてごろごろと床を転がり回る楓を、さすがにまずいと思ったのか多希が軽く制する。そのくせ、口元が笑いを堪えている。
「どういうことですか!! 多希さんっ。説明してくださいっ」
すっかり機嫌を損ねてしまって、頬をぷっと膨らませた桃佳が多希に迫る。
怒った顔があまりにも可愛らしく思えて、多希は桃佳を引き寄せたい衝動をぐっと堪えた。さすがにシスコンの楓の前でそんなことも出来ない。必死に堪えて、多希はにっこりと微笑んだ。
「楓がね、数日前に電話をくれたんだ。こっちに来ようと思ってるってね。だから二人で相談して、モモをびっくりさせてやろうって話になってさ。なあ、楓?」
「そうそう。それで今日、おじさんに駅まで迎えに来てもらって。想像以上に姉ちゃんが驚いてくれたから……ぷっ」
さっきの桃佳のびっくりした顔を思い出したのか、楓が再び笑いながら床を転がる。
転がる楓のお尻を、桃佳はぺチンとぶった。
「すいませんでした。楓につき合わせてしまって」
「うん? 別にかまわないよ」
「そうだよ、おじさんだってノリノリだったんだから」
「楓は黙ってなさいっ」
「……へーい」

そんな姉弟のやり取りを多希は微笑ましく眺めていた。自分にもこうして駿と共に過ごした時間が確かにあった。いつの日か、そんな時間を取り戻せるだろうか。取り戻したい。そんな気持ちになる。
少しだけ寂しい気持ちが湧いてきて、多希はそれを誤魔化すかのように手元の袋からお弁当を取り出す。

「それよりも夕食にしないか? 楓のリクエストで、お弁当買ってきたから」
「そうだ、そうだっ。夕食食べようっ」
「って楓!! あんたまた、黙って出てきたわけじゃないでしょうね?」
多希から既にお弁当を受け取り、割り箸を割っていた楓が不満そうに口を尖らせる。
「あったりまえだろ? あの時は姉ちゃん帰ってから相当絞られたんだぞ。今回はちゃんと家に言って出てきてるよ」
「そう…… それならいいんだけどね」

その事実に安心して、桃佳はお茶を淹れるために立ち上がった。
やかんを火にかけながら、心のどこかでほっとしている自分に気が付いてしまう。本当は多希に話さなければならないことがあるのに、楓がやってきたことでそれを話さなくて済んでしまう……そんな事実に。
いつまでもこうして動かないままでいられるはずもないのに、それでもほっとしてしまう。
それではいけないと……分かっているのに。

「楓、今回はいつまでいるの?」
「日曜日に帰るよ。俺だって暇じゃないんだ。姉ちゃんの様子を見に来ただけなんだからね」
楓は既に口いっぱいにお弁当を頬張りながら、偉そうにそんなことを言っている。桃佳はそんな楓の額を小突きながら、お茶を置いた。
「楓に心配されることなんてないわよ」
そう笑いながらも、桃佳は分かっている。これからとんでもなく心配を掛けてしまうことを。考えると胸の奥がぎゅっと苦しくなる。
「……姉ちゃん?」
ふと考え込んでしまった桃佳に、楓が心配そうに声を掛ける。
「えっと…… 明日はどこに行こうか? せっかくだもの、どこか出かけよう?」
この後散々家族に心配を掛けることになるのだろうから、せめて今だけは楓に心配を掛けないでおこうと、桃佳は明るい声を出した。
「え? 本当に!?」
目を輝かせる楓に、桃佳は優しげに目を細める。
「楓、遊園地とかは?」
子供っぽいかな、と思いつつ桃佳が提案すると、楓は更に目を輝かせた。
「行くっ!!」
「じゃあ、そうしよう?」
「やった!!」
「じゃあ、俺は車を出そうか?」
「いいんですか?」
「勿論」

多希は微笑みながら、お弁当に夢中になっている楓には聞こえないように、そっと桃佳に耳打ちをする。『俺もモモと出かけたいからね……』と。
その言葉に、思わず桃佳の頬は赤くなってしまった。




「楓、お風呂入れたからはいってらっしゃい」
「はーい」

夕食も食べ終わり、入浴を勧められた楓は素直にバスルームに向かった。
ふと振り返って多希に声をかける。
「おじさん、俺が出てくるまで帰らないでね」
「わかってるよ」
安心したようににっこり微笑み、楓は今度こそバスルームに消えていく。

「……すいませんでした、多希さん。楓がまたすっかり迷惑をかけてしまって」
多希の前に缶ビールを置きながら、桃佳はすまなそうに多希を見上げる。
「ぜんぜん迷惑じゃないよ。俺、楓のこと好きだから」
「でも」
「でもじゃない」
そう言うと、多希はさっと桃佳を片手で抱き寄せ、唇に柔らかくキスを落とす。
「モモの弟なんだから、全然迷惑じゃないから。むしろ、頼ってもらえるなら嬉しい」
手のひら一枚くらいしか離れていない至近距離で、綺麗過ぎる真剣な顔にそう言われ、桃佳は耳まで真っ赤になってしまった。真っ直ぐに見つめてくる不思議な色の瞳の中に自分の姿を見つけて、桃佳の心臓は壊れそうになってしまう。

目の前で真っ赤になって自分を見つめてくる桃佳が可愛らしくて、多希は楓がいなければ押し倒したいところだった。けれど、微かにバスルームから聞こえてくるシャワーの音に、苦笑いしながら桃佳を解放した。
「楓がいなかったら、今すぐに押し倒してるのにな」
「も、もう、多希さんたら……っ」
悪戯っぽくそう言えば、更に赤さを増す桃佳の頬。
「そういえば……話があるって言ってたけど、何の話だったの?」
ふと思い出して口に出した言葉に、桃佳の表情は一変する。
「え……っと」
多希を真っ直ぐに見つめていた瞳は、うろうろと彷徨いだし、困ったように下唇をぐっとかみ締めている。

言ってしまおう、言わなくちゃいけない。
そう思うのに、桃佳の口からはどうしても言葉は出てきてくれない。そのとき、バスルームから聞こえていたシャワーの音が止まり、ドアが開く音がする。
「か、楓がお風呂から出たみたいですね。あの、話はまた後日にします。その……ゆっくり話さなくちゃいけないと思うんです。だから……」
そう、二人のこれからのことを話し合うんだから、やはりゆっくり話し合うべきだろう。
そう考える桃佳の気持ちが分かるはずもない多希は、どこか不安げにそんな桃佳をじっと見つめた。

「モモ」
「はい?」

視線を上げた先には、不安な気持ちを隠しきれない多希の顔。
「……それは、悪い話?」
「え?」
桃佳は慌てて首を振った。
「ち、違います!! 悪い話ではないです……きっと」
そうきっと、多希だって桃佳の決断を喜んでくれるに違いない。そう信じているからこそ、決断したのだから。
「いい話だと思います」
しっかりそう告げると、多希の表情が氷が解けるように緩んだ。
「そう…… それならその話を聞くのを楽しみにしているよ」
「はい」
嬉しそうな多希の表情に、桃佳は自分の決断は間違っていないんだと自分自身に言い聞かせる。全て中途半端に投げ出してしまう事になるけれど、それでもきっと間違っていないんだと……

「ああ、さっぱりした」
のんきな声に、桃佳の思考の糸はそこでぷつりと切れた。そしてその事実にほっとする。これ以上考えていたら、決心が揺らいでしまいそうな気がして。
「じゃ、俺はそろそろ帰るよ。明日、迎えに来るから」
立ち上がる多希に、楓が慌ててぺこりと頭を下げた。
「明日はよろしくお願いします」
「ああ、わかったよ」
「すいません、多希さん。よろしくお願いします」

楓と二人、多希を見送りながら、せめて明日は楽しい時間をすごそうと桃佳は思った。




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~ Comment ~

やっとUPしてくださいましたね。 

待っていました!

モトカレもおもしろいですが、こっちも
進めてというか・・・。
そろそろ、クライマックスとか思いましたが
まだ続きそうですね。
楽しみにしてますから、頑張ってくださいね。
  • #52 みゅう03 
  • URL 
  • 2011.03/03 21:48分 

Re: みゅう03様。 


コメントありがとうございます!!
モトカレ!!も読んでくださっているのですか?
うわあ、嬉しい!!

ぴ~ちの更新が、すっかり遅くなってしまって申し訳ありませんでした。
アルファポリスの恋愛小説大賞も終わりましたので、これからはもう少し速いペースでぴ~ちも更新していくことが出来るかと思います(^ー^*)
クライマックス近しなので、あまりだらだらともしたくないので、頑張ってラストスパートかけようと思います!!

これからもぴ~ちもモトカレもどうぞよろしくお願いしますね♪
  • #53 沢上澪羽 
  • URL 
  • 2011.03/05 00:11分 
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