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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


19.心配

2010.03.24  *Edit 

 次の日、多希は桃佳の部屋にやってこなかった。
 
 桃佳は来ない多希を待って、結局夕食を食べ損ねてしまった。
 待つ義務もなかったのだけれど、来るかもしれないと思うと先に食べる気になれなかったし、食費と言ってお金ももらっている。
 けれど、やっぱりお金の問題よりも、どうしても一人先に食事に手をつける気にはなれなかったのだ。
 二人分と思って多めに作った肉じゃがは、結局桃佳の朝食と昼食となった。
 おかずは肉じゃがだけと言う桃佳のお弁当を見て、みなみは「どうしたの?」と笑ったが、桃佳としては笑う気にはなれない。
 来ないなら来ないで連絡のひとつもよこせばいいのに・・・と、怒りにも似た感情が体の中でふつふつとしていた。
 
 
 下味をつけたタラに小麦粉をつけながら、桃佳は時計をちらりと見る。
 ちょうど時間は18時を回ったところ。多希が帰ってきてもいい時間だ。
「今日は来るのかな」
 呟いてみる。来て欲しくてそう言ったのか、来て欲しくなくてそう言ったのか、桃佳には分からない。ただ、やっぱり『来れないなら来れないって連絡くらいよこせ!!』と思うのだった。
 フライパンにバターを入れ、頃合を見計らってタラを入れる。
 バターの焼ける香ばしい匂いが、部屋の中に充満した。
「今日は待ってないから!あったかいうちに食べてやる!」
 フライパンをゆすりながら、桃佳はタラに向かって呟く。
 
 時間はもう20時になろうとしていた。
 食べてやる!と、タラに向かって言っていたくせに、結局桃佳はタラを食べることができないでいた。お皿の中で冷たくなっていくタラを、思わず恨めしそうに見つめる。
「来ない・・・か」
 多希の部屋には、昨日からずっと人の気配が全くと言っていいほどない。
 まさか、一昨日のことが原因で来ないのだろうか?桃佳はそんなことをふと思った。
 自らが作ったルールを破りそうになってしまって、それで来づらくなっているとか。
 確かに桃佳も一昨日のことを考えると、居心地の悪いような感触に包まれる。
 そっと指先で唇に触れてみた。まだ生々しくキスの感触が蘇ってくるような気がして、桃佳はあの時と同じようにごしごしと唇を擦った。
 唇をごしごしと擦りながらも、ふと『何かあったんじゃないか』と言う思いが浮かぶ。
 考えてみれば、多希があんなことで来づらくなるタイプとは思えない。大体、そんなふうに気が小さかったら、恥ずかしい写真をネタに脅してくることもなかったはずだ。
 そういえば、こんなことが昔にもあった。遊びに行っていると軽く考えていた弟が、実は山の中で遭難しかかっていた・・・。
 唇を擦っていた手が止まる。体の芯がひんやりする気がした。
「ただいま、モモ。何してんの?」
「う・・・っわ!!」
 突然に背後から声をかけられ、桃佳はまさに飛び上がった。
「た、た、た、た、多希さん!!」
「どうしたの?そんなにびっくりして」
「びっくりするに決まってんじゃないですか!!」
「そう?あ〜疲れたあ」
 そう言うと多希は背広を脱いで、ネクタイを緩めた。
「あのう」
「何?」
 眼鏡の奥から、多希が桃佳を見る。その姿は、今まで見てきた多希とはどうにも雰囲気が違う。
 まずその格好。今まで一度だって彼がスーツを着ているところなど見たことがない。それから眼鏡をかけているし、前髪はまるで顔を隠すかのように下ろされている。いつもは眼鏡なんてかけてはいなかったし、前髪もフロントから分けられて顔のラインに沿って流れていた。
 しかも一番おかしいのがその手元で、どこかの観光地の紙袋がぶら下がっている。
「何か、いつもと違いません?それに何ですか?その袋」
「ああ、これね。お土産」
 多希は思い出したようにニコニコしながら、桃佳にどこのものか分からない観光地の紙袋を渡した。
「お土産?」
「そうそう。急に講習会に参加するようにって言われて、昨日の昼から行ってたんだ。寂しかった?」
 そう言いながら、紙袋と一緒にぶら下げていたコンビニの袋からビールを取り出すと、蓋を開けて口をつける。
「寂しくないです」
 怒ったような桃佳の口調に、テーブルの上に缶を置いて彼女を見る。『怒ってない』と言う言葉とは裏腹に、完璧に目が怒っているのが多希にも分かった。
 その桃佳の様子を見て、多希は内心でにんまりとする。
 
 あんなことがあった後に連絡がなくなって、きっと彼女は自分のことが気になって仕方なかったに違いない。どうしてあんなことをしたんだと、怒っているはずだ。・・・確かにあの日のことは計画外だったのだけれど。けれど、桃佳の中に自分を刻み付けるには効果的だったに違いない。
 
 そんなことを考えながら、桃佳には見えないように多希は薄く笑った。
「そうだ、モモはビールダメだって言うから、ほら、甘いの買ってきたよ。飲まない?」
 明るく屈託のない表情を作って、多希は桃佳にグレープフルーツ風味のカクテルを差し出した。
「いりません」
 強い口調でそう言って、桃佳は多希のことを睨み付けている。
「・・・モモ。何怒ってんの?」
 いかにも『どうして怒っているのか分かりません』と言う多希の口調に、桃佳の中でふつふつとしていた怒りが、さっきの何かあったんじゃないかと心配した気持ちと相まって頂点に達した。
「怒ってますよ!!」
 怒りに任せて、テーブルを拳でドンと殴りつける。これにはさすがの多希も驚いて成り行きを見守るしかなかった。
「どうして、講習会なら講習会って、連絡のひとつもできないんですか!!」
「へ・・・?は?」
 多希は思ってもいなかった桃佳の言葉に、口をあけて桃佳を見つめる。てっきり、ルールを破るようなことをしたことを、怒っているんだと思っていたから。
「連絡くらい簡単でしょう!?」
「いや、でも。俺、モモの連絡先とか・・・知らないけど」
 桃佳の迫力に押され、多希はしどろもどろする。その光景はまるでいつもの二人と全く逆だった。
「家が隣なんだから、メモ挟んでおくとかできるでしょうが!!」
「でも、ほら、急に決まって、急いでたから・・・」
「そんなの言い訳になりません!!こっちは昨日も今日も食事を用意して、何かあったんじゃないかって、心配もしていたんですよ!!」
「心配?」そう呟く多希の瞳からは色が失われ、完璧に全てを否定する表情となった。
「バカじゃないの?」
「え?」
「俺がいなくなれば、モモは自由になれんじゃん。いなくなればいいと思って当たり前なのに、心配だなんて偽善者ぶんなよ」
 
 ズキリ。
 桃佳の胸が古い傷で疼く。
『姉ちゃんは、俺たちがいなくなれば自由になれるだろ!!』
 
 
「・・・ずっと前、同じような事を言われたことがあります」
 桃佳の静かな声に、多希は色のない瞳を上げた。桃佳は少しだけ悲しそうな顔をしている。
「私、早くに母を亡くしているんです。私はまだ中学生で、一番下の弟は五歳でした。父は忙しい人で、私が弟たちの面倒を見なくちゃいけなかったんですけど、私もまだ幼くて・・・。友達とも遊びたかったし、部活もしたかった。でも、それが全部できなくなっちゃったんですよね」
 桃佳は深いため息をついたが、多希は彼女が何を言いたいのか分からない。
「だから、きっと弟たちにも私が嫌々家事とかしているのが分かったんでしょうね。そんな時、二番目の弟の帰りが遅くって、私はどこかに遊びに行っているものだと思っていたんです。でも、実際は近くの山の中で迷子になっていました」
 
 桃佳の脳裏にあの日のことが鮮明に蘇る。
 見つかった弟は泥だらけで、迎えに来た桃佳のことを全身で拒否した。涙を浮かべながら。
 
「そして言われたんです。『姉ちゃんは俺たちがいなくなれば自由になれるだろ』って。ショックでした。確かに、弟たちがいなければ私は友達と遊びにも行けただろうし、部活だって続けられた。でも、違うんです・・・」
「何が?その弟の言うとおりだろ?モモは昔は弟たちがいなければ、今は俺がいなければ自由になれる」
 多希はふんと鼻で笑って、ビールをあおった。
「違いますよ」桃佳はそんな彼の態度に屈することもなく、なおも語気を強める。「違うんです」
 多希は綺麗な形の眉をひそめ、じっと桃佳を見た。
「人の感情って、そんなもんじゃないんです。自由になれればそれでいいってものじゃないんです。家族ならなおさら、私にとっては自由になることよりも、弟たちが元気でいてくれることの方が大事だったんです。弟がいなくなって初めてそのことに気が付きましたけど」
「・・・俺は家族じゃないよ」
「家族じゃないですね」
 その一言に、多希は目を伏せた。その様子が、桃佳にはとても幼く見えて、弟の姿と重なる。
「でも、多希さん言いましたよね。このゲームを始めるときに、『家族みたいに過ごせたらいい』って。私はそれを分かった上でゲームを始めたんです。『家族みたい』って言うんだったら、やっぱり心配しますよ」
「いない方がいいんじゃないの?」
 強がった、突き放すような言い方をしているものの、多希の瞳が寂しげな色をしているような気がして、桃佳は優しく微笑む。
「心配しますよ」言って、桃佳は多希のほっぺたをぎゅっとつかんだ。「だから、ちゃんと連絡くらいはしてくださいよね」
「・・・ぐぉめん」
『ごめん』
 多希がそう言いたかったのは分かっていたものの、おかしくて桃佳は笑い出す。
「笑うなって!モモがほっぺたつかんでたから、うまくしゃべれなかったんだろ!」
 怒ったような口調で再びビールをあおったものの、多希も桃佳の笑い声につられてつい笑ってしまう。
「多希さん、夕食食べました?」
「・・・今日の夕食は?」
「タラのムニエルですよ」
「・・・じゃ、食べる」
「じゃ、すぐに用意しますから」
 桃佳は夕食を温めなおして、食卓へと並べる。二人、向かい合って「いただきます」と食事を始めた。
「いいですか、多希さん。新しいルールを作りましょう」
 多希は食事の手を止め、怪訝そうに桃佳を見た。
「この部屋に来ない時には連絡してください。じゃないと、私夕食作りすぎちゃいますからね。それに、心配もします」
 その提案に、多希は一言も異を唱えず、小さくコクリと頷く。
 その様子が、桃佳にはどうしても弟と重なってしまうのだった。
 
 
 
 多希は夕食を終えると、おとなしく自分の部屋へと帰っていった。
 多希の帰った部屋で、桃佳は実家から持ってきたアルバムを開く。
 そこには、桃佳と弟たちが笑みを浮かべて写っている。
 何となく、多希のことを『放っておけない』ような気がしていた。けれど自分がどうしてそう思うのか、桃佳自身にもよく分からなかった。けれど、その理由がやっと分かった気がする。
「・・・多希さん見てると、慧たちのこと思い出しちゃう」
 写真を撫でながら、呟いた。
 時々見せる幼い表情や、寂しげな表情。それらが、母親を亡くして、母親代わりの桃佳を求めながらも、本当は心のどこかで全てを投げ出したいと思っている桃佳に反発する弟たちの姿とどうしても重なってしまうのだった。
「あんなにひどい事されたのに、私もバカだよなあ・・・」
 自嘲気味に笑う。
 けれどやっぱり『放っておけない』。
 それならば、多希の提案したとおり、この4ヶ月間『家族のように過ごす』それもいいのかもしれないと、桃佳は思うのだった。
 
 
 
 多希はベットの上で体を丸めていた。
「心配だ」なんて言われたのは、いつ以来だったか、もう思い出すこともできない。
 カレンダーをちらりと見る。
 今日は金曜日。
 明日は土曜日。
 きっと桃佳は駿に会いに行く。
 



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