りんどう庵

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


20.久しぶりのデート

2010.03.24  *Edit 

携帯が鳴ったような気がして、桃佳は目を覚ました。
昨日セットしておいたアラームを解除して、ぼんやりとした頭を巡らせる。それからはっとして、ベットから飛び起きた。
「やだ!!今何時!?」
慌てて時計を見る。時間はまだ7時を少し回ったところで、桃佳は心底ほっとする。この時間ならば、余裕を持って用意できそうだ。
昨日の昼に、駿から『明日は10時に駅前で待ってる』というメールが届いていた。
だから、準備のためにも少し早すぎるかな、と思いつつも7時に目覚ましをセットしておいたのだ。
カーテンを開ける。
空は青く澄み切っていた。


お気に入りのクリーム色のブラウスにシフォンのスカートを身に着けて、待ち合わせの場所に着いたのは約束の時間の10分前だった。先に着いたと思っていると、後ろからぽんと肩をたたかれる。
「駿ちゃん!!」
「おはよう、清水」
照れたように駿が笑っている。「なんか、清水に会うの久しぶりで、早く目が覚めちゃったよ」そう言って鼻の頭を擦る駿を、桃佳は眩しそうに見た。
「ホント、なんかとっても久しぶりな感じだね」
桃佳も駿に笑いかける。たった一週間くらいだったというのに、とても長い間会っていなかった感じがする。この一週間で桃佳の事情は、劇的に変化してしまった。
勿論、駿に会えて本当に嬉しい。けれど、桃佳が抱えてしまった秘密はどうしてもついて回る。なかったことになど、できるはずもない。
胸の奥の方に、重たい何かが入っているような、そんな妙な、それでいてたまらない感覚。

「清水?行こうか」
駿がいつものように手を差し伸べている。ほんの刹那、頭の中を多希のことがよぎる。
「うん」
けれど桃佳は全てを頭の隅へと追いやって、駿の手をしっかりと握った。
多希が始めたゲームに、簡単に負けるわけには行かない。駿の手を離したりなんかしない。
駿の横顔を見つめて、桃佳は強く自分に言い聞かせた。
桃佳の視線に気がついて、駿が彼女を振り返る。
「どうかした?」桃佳の視線がいつもと違うような気がして、そんなふうに問いかける。
「ううん。なんでもないよ」
にこりと笑った桃佳の笑顔に、駿はこの一週間持っていた不安も猜疑心も溶けていくのが分かった。
ぎゅっと、桃佳の手を握る力を強める。
桃佳もそんな駿の手をぎゅっと握り返してくる。
二人は一瞬見詰め合って、どちらともなく微笑んでいた。




「うわあ〜!!すごい!!」
水のトンネルと名付けられたその場所は、トンネルの周囲が水槽になっている。一面がガラスのようなものでできていて、水の中を泳ぐ魚たちが真横にも頭上にも見えた。
「綺麗だね、駿ちゃん!!」
青っぽいその空間の中で、嬉しそうにきょろきょろとする桃佳を、駿はにこやかに見つめた。
水族館に来たというのに、駿はもしかしたら魚よりも桃佳を見ていることの方が多いかもしれない。
「あ、あっちに綺麗なのいるよ」
完全に余所見をして違う場所に向かおうとする桃佳の腕を、駿が引き寄せた。
「危ないよ、清水」
「あ、・・・すいません!」
余所見をしていた桃佳は、もう少しでベビーカーを押す若い母親とぶつかりそうになっていた。慌てて頭を下げると、若い母親は「大丈夫です」と笑顔で去っていった。
「ありがとう、駿ちゃん」
腕を引き寄せられ、駿と密着した状態で桃佳は顔を上げて彼に微笑みかける。
「うん。あんまり余所見しないように」
駿は顔を背けて、密着した桃佳の体からすっと離れた。
「どうしたの?駿ちゃん」
桃佳が小首をかしげて、駿の顔を覗き込む。「なんでもないよ」そう言いながらも、駿の瞳はあらぬ方向を彷徨っている。
心臓がどきどきと脈打って、その存在感を駿の中に示していた。
さっき桃佳の腕を引いて体が密着したとき、下から覗き込む桃佳の顔や、その香りにどうしようもなく欲情してしまった駿がいる。
ここが水族館という公共の場でなかったら、自分は果たして理性を保つことができていられたかどうか、限りなく怪しい。
これじゃ、欲求不満の変態じゃないか・・・。
駿はおでこのところに手をやって、小さくため息をついた。
あちこちと目をきらきらさせながら見ている桃佳の姿を立ち止まって眺める。身長の小さい桃佳は、土曜日で人出の多いこの水族館の中では子供のようにすぐに姿が見えなくなってしまう。クリーム色のブラウスを追いかけて、駿は桃佳の手を握った。
「迷子になっちゃうよ」
「大丈夫だよ。子供じゃないんだから」
「でも、この方が安心」
駿がしっかりと手を握ったので、桃佳はにっこりと微笑む。「うん。そうだね」
駿と手をつなぐと、いつでも桃佳は歩きやすくなる。
誰かが引っ張っていてくれるからではない。駿がさりげなく、桃佳が人とぶつからないように盾になってくれているから。そして、その歩調はいつだって桃佳のゆっくりとした歩調に自然と合わせられていたから。
だから、桃佳は駿と歩いているといつでも『守られている』と強く思うのだった。
それから、どれだけ駿が桃佳のことを考えてくれているのかも。
「駿ちゃん」
「ん?」
「私がちゃんと守ってあげるからね」
急に言われて、駿は桃佳が何のことを言いたいのか分からない。駿を見上げながら真剣にそう言う桃佳が愛しくて、ぴんとおでこにデコピンをする。
「ばーか。それは俺の台詞でしょ?」
「でも、私も守るから」
真剣な桃佳の瞳に、駿は心底嬉しくて「うん」と頷いた。

私が守ってあげるからね。
多希さんに負けたりなんかしないからね。

そんな桃佳の決心など、駿は知る由もない。
「あ、なんか色々と売ってるみたいだよ。覗いていこうか」
「うん」
その何も疑いのかけらもなさそうな顔を見ていると、桃佳は苦しくなる。けれど、この大事な人を守らなければならないとも思うのだった。
「ああ、これ可愛いね」
涙が出そうな気がして、桃佳は手近にあったマンボウのぬいぐるみを手に取る。
「なんかひとつ買ってあげるよ」
「ええ?いいよ」
「いいから」
駿としては、大きなぬいぐるみか何かを買ってあげるつもりでいた。今手に持っているマンボウのぬいぐるみだっていい。桃佳が欲しいと思うものならば。
けれど桃佳は店の中を歩き回ってから、何かを握り締めて駿の元に戻ってきた。
「駿ちゃん、じゃあ、これにする」
「これ?もっと大きいものでもいいんだよ」
「これでいいの。だっていつでも持っていられるでしょ?」
桃佳が握りしめていたのは、小さな貝とベビーパールがあしらわれた携帯ストラップだった。
会計を済まして、水族館の名前の入った小さな袋を手渡す。
「本当は、もっと大きなものを買うつもりだったんだけどな・・・。どうぞ」
「いいの。私はこれが気に入ったんだから」
桃佳はニコニコとしながら、早速袋を開けて自分の携帯に真新しいストラップをつけた。
「どう?」
駿の目の高さまで携帯を持ち上げて、ストラップを振って見せる。
「これでいつも駿ちゃんが近くにいるみたい」
大きな瞳を細めて自分を見る桃佳を抱きしめたいという衝動を、何とか堪える。
もう、朝からその衝動を何度堪えたか分からない。
駿は軽い頭痛と、幸せの両方を味わっていた。

時計をちらりと見る。
もう昼の1時を回っていた。
「清水。おなか空かない?」
「ああ、そう言えば・・・。すっかり忘れてた」
朝ごはんも食べていなかった桃佳は、急激に空腹感に襲われる。
けれど、何となく駿の前でご飯を食べるのは恥ずかしくて苦手だった。
誰かから聞かされたことがある。『食べることは性行動と直結している』と。だからというわけではなかったものの、大きな口をあけてばくばくと食べているところを見られるのは、どうしても恥ずかしいような気がしてならないのだ。
けれど、多希といるときは普通にご飯を食べることができる。
桃佳は、はっとして頭を振った。
せっかくの駿とのデートの最中に、思い出すべき人物ではない。
「じゃあ清水、友達に美味しいって聞いた店があるんだけど、そこ行ってみない?」
「うん」
頷きながらも、頭の隅でさっきの思考の欠片を追いかけている。

多希さんと一緒のときにご飯が食べられるのは、多希さんが私にとって『特別な人』じゃないから。駿ちゃんは『特別な人』だから、食べているところを見られるのが恥ずかしい。だって駿ちゃんにはいつだって可愛らしいと思ってもらいたいから。

「じゃあ、そうしよう」
駿が桃佳の手を握って歩き始める。いつものように盾となり、桃佳の歩調で。


『モモって、駿から聞いてた感じと全然違うんだね』


多希の言葉が聞こえた気がする。

当たり前じゃないですか。
駿ちゃんは私にとっての大事な人なんです。
少しでもいい女だって思われるように、努力しているんですよ。
多希さんには嫌われたって一向に構わないから、猫なんてかぶる必要もないんです!!

心の中で、目の前にはいない多希に悪態をつく。
自分の前を行く駿の背中を見つめる。
優しくて頼りがいのある背中。

私のついていく背中は、この背中なんです。邪魔なんかさせませんから!!

もう一度心の中で多希に向かってそう叫んだ。





←よろしければ拍手とコメントが送れます。
スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

 管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。