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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


146.信じていられるように

2011.04.27  *Edit 

素肌のままで抱き合っていることが、こんなにも心地いいということを知ったのは、つい最近のこと。
それまで何度も、何人ともこうして素肌のままで抱き合ったことはあるはずなのに、一度だってそんなふうに思ったことはなかった。行為の最中に感じる快感になら覚えはある。けれど、ただ裸で抱き合うことが堪らない、だなんて思ったことはないのだ。

多希は腕の中で眠っている華奢な温もりを見つめた。
あれほど大泣きした後だというのに、その後、別の意味で散々に啼かせてしまった。すっかり疲れ切ってしまったのか、多希が多少身じろぎしても全く起きる気配はない。
結局服を身につけることもなく、あっという間に眠りに落ちて行ってしまった。それは多希にほんの少しの寂しさを与え、めいっぱいの安らぎを与えてくれた。

「ん……」

小さく呻って、桃佳が僅かに身じろぐ。
寒いのかと思って彼女の頼りない二の腕に触れたものの、さっきまでの熱を残すようにその素肌はいまだにしっとりとして内からじわじわとした熱を放出しているようだ。
それでも風邪を引いては困るので、多希は薄いタオルケットを引き寄せて自分たちの体の上にそっとかける。
うっすらと汗ばんだ体に、同じようにうっすら汗ばんだ体を抱き寄せる。
いつの日かこの温もりを、本当の意味で守れるようになる日が来るように、今は本当の意味で強くならなければならないと、改めて決意する。
いつの日か。
そう、約束の二年後に。




その約束がなされたのはあの雨の日だった。
二年、という期限を告げたとき、せっかく止まっていた桃佳の瞳に、みるみるうちに涙が溢れだしたのは言うまでもない。

「二年……ですか? そんなに長く?」
「ああ。転勤は二年の予定なんだ。だから、その二年間、真剣に仕事に打ち込もうと思う。それで一人前になれるだなんて思ってはいないけど、きっと今よりはましになれると思うんだ」
そう言いながら苦く笑う多希に、桃佳は涙を流したままで、じっと考えるように俯いていた。
「勝手に決めてしまって、本当に申し訳ないと思ってる。……でも」
「わかり、ました」
「え?」
あまりにもあっさりと桃佳から出た言葉に、正直多希は肩透かしを食らった気分になる。そうしてほしかったというわけではないのだけれど、もっと桃佳は取り乱すだろうと思っていたから。
「分かりました。二年、ですね。はあ、長いなあ……」
俯いたまま、桃佳は片手で額を支える。口元はいびつに歪みながらも月形に持ち上がっていて……けれど、すぐに苦しげに口角が下がる。
「長いですね、二年なんて。耐えられるのかな、私」
そういうと、ぐっと震える唇をかむ。
「モモ……」

多希だって簡単に決めたわけではない。それは既に桃佳にも伝わっている。
お互いが今は離れる時だと理解しているからこそ、桃佳もすぐに「分かった」と言ってくれたに違いないのだから。
それでも、理屈ではどうしようもできない苦しい思いが二人を包んでいた。

「なかなか会いには来られないと思うけど、それでも休みのときには来るし、電話だって」
その先の言葉は、桃佳の手によって塞がれてしまった。
俯いていた桃佳が、何かを秘めた様な真剣な表情で、手を伸ばして多希の口元をそっと塞いでいる。
涙の乾き切らない瞳は、ほんの少しだけ迷ったような色を乗せ、けれど揺るぎない。
そんな桃佳の姿に、正直多希はたじろいでいた。
「それじゃ、ダメ……だと思うんです」
「だめ?」
多希の問いかけに、桃佳は深く、こっくりと頷く。彼を見据えたまま。
「会ったり、電話したりしたら、私、きっとどうしようもなく我慢できなくなって、また多希さんに寄りかかろうとすると思うんです。それじゃ、意味ないでしょう?」
桃佳は苦笑いを浮かべながらも、揺るぎない視線を多希にまっすぐ向けたままだ。
「だから、……だから、二年間はきちんと離れましょう。顔も見ないし、声も聞かないし、メールも……」
言いながら、再び桃佳の瞳に溢れる涙。
この言葉には、多希の方が戸惑ってしまう番だった。
二年間離れようとは思っていても、完全に桃佳と離れる気など、多希にはなかったから。二年もの間、電話さえもせずに過ごすことなんて、考えもしていなかった。
それは受け入れがたい、現実で。
「モモ、でもそれじゃあ」
「だって、このままじゃダメなんです。そうなんですよね?」
桃佳が詰め寄るように、多希のシャツの袖をぎゅっとつかむ。
「一人で立てるようにならなくちゃ、いつかダメになっちゃうんですよね? 強くならなくちゃ……!!」

桃佳だって辛くないわけではない。辛いに決まっている。
それでも、多希と出会って、駿との関係のことも含めて、自分の弱さを嫌というほど思い知らされた。駿にも、多希にもべったりと寄りかかってしまっていた自分。今の状況では、一人でなんて立つ力さえもない。
強くならなければ、大事な人は守れないのだとそう強く感じていた。
そのためには今の自分ではダメなのだ。絶対に。
そんな強い思いが、桃佳に大きな決断をさせたのだった。

「だから、二年。完全に離れましょう。……二年後に、胸を張って会えるように」

涙でぐしゃぐしゃの顔で微笑んで見せる桃佳を、多希は強く強く抱きしめるしかなかった。
桃佳の決心をここで無下にすることは、全てを台無しにしてしまう気がした。強くなろうと、桃佳を守れるように強くなろうと思っていたのに、思っていた以上に桃佳の方が強かったことを思い知らされる。

いざというときは女性の方が強いって聞いたことがあるけど、本当にそうだな……

どこか情けない気持ちさえもしてしまうくらいに、今の多希より桃佳の方がしっかりしている。
だから、彼女に負けないように強くなろうと決心する。
「……そうしよう、モモ。そうだね、その方がいい。きっと」
「私、絶対に国家試験も合格します。二年後には、見違えたって言わせますから」
見上げるようにして微笑んで見せる桃佳に、多希も微笑み返して強く頷いた。





月明かりに照らされて眠る桃佳の顔を、多希はじっと見つめてため息をつく。
「二年、か」
囁くようにつぶやいた独り言は、思いもよらず返事が返ってくる。
「……長いですね、二年」
その思いもよらない返答に、多希は驚いて、眠っていたはずの桃佳の顔を見た。うっすらと目を開け、闇の中多希を見ている。
「起こした?」
「いえ、なんとなく目が覚めてしまって。服を着てないせいかもしれませんね」
そう言いながら、照れくさそうにシーツを引き寄せる。
そんな仕草に、愛おしさがこみ上げて、多希はシーツごと桃佳の体をぎゅっと抱きしめた。
「本当は……私、ちょっと後悔してるんですよ」
ぽつりとつぶやく桃佳の顔を、多希は覗き込む。まっすぐに視線が交わる。
「何が?」
「あの雨の日……かっこいいこと言っちゃったこと、です。勢いで言ってしまったけれど、よく考えたら、私とんでもないことを言ったんですよね」
少しだけ悲しげな視線に、多希はそれを断ち切るかのように小さな頭を自分の肩に押しつけた。
「……そんなこと言って。でも、あの時言った言葉を取り消すつもりはないんだろう?」
ほんの少しの間の後に、桃佳が多希の肩口で小さく頷く。

黙りこくった二人の間に、沈黙の音が耳の奥で響き渡る。
そんな煩わしいほどの静寂を破ったのは桃佳の方だった。

「ねえ、多希さん」
「うん?」
「二年後に会う場所、決めてなかったですね」
「え? ああ……そうだね」
言われて初めて気が付く。確かに二年後に会うと言っても、それまで連絡を取らないと決めた以上、万が一でも桃佳が引越しでもしてしまえば、もう二度と会えないなんて事態さえ招きかねない。
それに気がついて、多希は軽く焦る。
「そうだ、ちゃんと決めておこう。日にちは……」
「多希さんが引っ越す日のちょうど二年後に。待ち合わせ場所はあの駐車場。どうですか?」
その答えを用意していたような桃佳の口ぶりに、多希は思わず目を瞬かせた。勿論、異論はない。
「もしかして、ずっと考えてたの?」
「ずっとじゃないですけど、考えてました。二年後の自分なんて想像もつかないんで、だから、目標が欲しくて。二年後に、あの場所で多希さんと会うんだって明確なビジョンがあったら、きっと頑張れるような気がしたんです」

確かに二年も先のことなど予想もつかない。けれど、確かな約束があるだけで、その予想もつかない未来が急に照らされたような気持ちになる。ただ、たったひとつの約束で。

「うん。そうだね。必ず行くよ、二年後にあの場所へ」
「……本当ですか?」
悪戯っぽい口調とは裏腹に、見上げてくる桃佳の瞳は不安げに揺らめいている。
「本気で言ってる?」
多希は自分の額を桃佳の額にこつんとぶつけた。
「だって……に、二年は長いじゃないですか。新しい職場には、素敵な人がいるかもしれないし」
拗ねたようにぼそぼそとそんなことを言う桃佳に、今度は『ごん』と鈍い音がするくらいに強く額をぶつける。
「い、いたっ!!」
桃佳はまるで頭突きのようにぶつけられた額を、片手で撫でながら恨めしげに多希を見上げる。
「何するんです……んっ」
言葉の続きは無理矢理に唇でふさがれて。最初から呼吸さえも出来ないくらいに、深く深く交わされる唇。
舌を絡められ、吸われ、口腔内をくまなく味わうようなキスに、桃佳の頭はぼんやりとしてくる。そして体の奥の方が熱くなってきたころ、やっと執拗な唇から開放された。
けれど、体の奥が熱くなるようなキスの後に見た多希の表情は確実に怒っていて、桃佳の心臓は跳ね上がる。
「行かないとでも思ってる? 俺が、モモのところに」
責めるような口調に、桃佳は思わず口ごもってしまった。
二年後に約束の場所に多希が現れないだなんて、そんなこと考えたくもない。けれど、自分よりもはるかに魅力的な女の人がたくさんいることも、桃佳はよく知っていた。
口ごもったまま黙ってしまった桃佳に、多希はため息をつきつつ逆に問いかける。
「……じゃあモモは、二年の間に誰か他の奴を好きになる?」
「そんなこと、ないですっ!!」
咄嗟に返ってきた答えに、多希は嬉しそうに目を細める。
……内心は不安だったのだから。考え込まれでもしたら、立ち直れそうになかった。
「じゃあ、同じだよ。絶対にモモ以外の誰かを好きになるなんてない。はっきりと言い切れる」

不思議な色の瞳が、月光を受けて仄かに煌めきながら、真剣に桃佳のことを見つめている。
頬に熱が集まって、心臓が騒々しく動き出す。
こみ上げてくる気持ちは山ほどあるのに、どれも上手に言葉にできないような気がして、桃佳はぎゅっと多希にしがみ付いた。

二年……
長いけれど、途方もない気がするけれど、きっとまた会える日を信じていられる。

大地に水が染み込んでくるように、桃佳はそんな思いをすんなりと受け入れることができた。






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