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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


21.拓巳の憂鬱

2010.03.24  *Edit 

土曜日の食堂は、出勤している職員も少ないせいか、閑散としている。
けれど、注文したものがすぐに出てくるし、他の人に気兼ねしなくてもいいので、拓巳は土曜日の食堂が好きだった。

「はい、小嶋さん。カツカレーできましたよ」
いつもは整理番号で呼ばれるのだけれど、人も少ないので食堂のおばちゃんが直接拓巳を呼んだ。
取りに行くと、「サラダ、おまけしておいたから」とおばちゃんが囁く。トレーの上にはカツカレーには付いていないはずのポテトサラダが乗っていた。
「おばちゃん、いつもありがとね」
拓巳も声のトーンを落として片手を上げた。

多希といると目立たないが、拓巳も爽やかな好青年だ。
しかも人懐っこくて、優しい上に人がいい。そのため、食堂のおばちゃんやら、掃除のおばちゃんやら、年上の女性というには少々年上過ぎる女性から絶大な支持を集めていた。
多希とは違ってスポーツマンで、いまだに続けているサッカーのおかげで体は無駄なく引き締まっている。それもまた、年上の女性たちの心をつかんでいるようだった。

窓際の明るい席に座り、両手を合わせて「いただきます」と言う。
この間、多希とこの食堂で一緒になったとき、彼の食べていたカレーライスがすごく美味しそうで、次に食堂に来るときには絶対にカレーを食べようと心に決めていた。
しかも食堂のおばちゃんの「おまけ」のポテトサラダも嬉しい。
こういうことがあるから、土曜日の食堂は好きなんだよな・・・。
などと思いながら、カツカレーのカツを口に運んだとき「あ、小嶋さーん!!」と呼ぶ高い声を聞いて、拓巳はカツを取りこぼしてしまった。
聞き覚えのある声に、少しだけ嫌な予感を抱えて顔を上げる。
「小嶋さん!!ご一緒してもいいですか?」
その人物は拓巳の返事を待つこともなく、拓巳の向かい席に座った。
「・・・ああ、渡辺さん」
「こんにちは」
言葉の最後にハートマークがつくような声で、渡辺美緒はにっこりと笑った。
やれやれ、せっかく楽しみにしていたカレーを楽しめそうもないな、と拓巳は美緒には分からないようにため息をついた。


「あれから、柴山さんとお話しました?」
美緒がチャーハンを食べながら、拓巳を上目遣いで見た。
「うん・・・まあね」
思わず拓巳は美緒の上目遣を避けて目を逸らす。
甘えるような上目遣いは、ついつい言う事を聞いてしまいそうになるくらいに色っぽい。それが多分計算されたものだろうということが分かっていても、従わされそうな魔力のようなものがある。
「私のこと、何か言ってました?」
「・・・えっと・・・いや」
「そうですかあ」
美緒はがっくりと肩を落とす。けれどすぐに顔を上げて、今度は真っ直ぐに拓巳を見る。
「小嶋さん、どうにかして柴山さんとお食事とかできるようにしてもらえませんか?」
「う〜ん」
「おねがい」
またしても言葉の最後にハートマークのつきそうな声。しかも、胸の前で手を合わせて小首を傾げたりしている。これが自分に対するデートの誘いだったら、即座にオーケーするのに、と思うと拓巳はつい苦笑いをした。
「ダメですかぁ?」
「実はね」
多希、今真剣に付き合ってる彼女がいるんだ。
そう言おうとしたものの、寸でのところでその言葉を飲み込む。「多希、職場の女の子とは付き合わないって言ってるから」
プライベートを知られるのが嫌いな多希のことだ。いくら美緒の誘いを断るためといっても、彼女がいるということを、他人である自分の口から話すべきではない、と拓巳は思った。
「ええ?そんなの関係ないじゃないですか」
美緒は、全く納得がいかないと言った様子で口を尖らせている。
「うん、でもね。ほら、多希ってああいう奴だから」
拓巳の言う『ああいう奴』とは、職場モードの多希のことであって、職場から離れたときの女を狩ることしか考えていないような多希のことでは勿論ない。
美緒は職場モードの多希のことしか知らないので、「確かに・・・」と曖昧に頷く。

多希を初めて見たのは今年の4月。つい2ヶ月ほど前。
美緒は自分の技術を上げたくて、前に務めていた小さな病院を辞めてこの総合病院に移ってきた。
患者をレントゲン室まで運んできたときに、担当した多希を見て一目で好きになってしまった。
眼鏡をかけ、前髪は顔を隠すように下ろされてはいたものの、たかがそれだけのことで綺麗な顔を隠しきれるはずもない。同僚から『レントゲン室に柴山さんていうかっこいい人がいる』と聞いていたので、すぐに彼が柴山さんだと分かったくらいだ。
それからどうにかして接点を探したものの、なかなかそれが見つからず、何もできないまま2ヶ月が過ぎてしまった。
幸い、よく美緒の働く外科病棟に出入りする小嶋拓巳が多希と仲がよいと知って、どうにか二人きりになれないものかと思っていたのだ。

「確かに柴山さんって、なんていうのか・・・よく言えば草食系?悪く言えば女には興味がなさそうって感じはしますよね」
そう言って頬杖をつく美緒を、拓巳は今日二度目となる苦笑いで見つめた。
本当の多希の素顔を見せてもあげたいと思いつつも、完璧に職場モードをこなしている多希を尊敬すらした。
「だからさ、諦めた方がいいと思うよ」
できることならば、これで諦めてくれたらどんなにいいだろう。
内心で拓巳は祈るように思った。
せっかく多希が真剣に女と付き合おうとしているときに、美緒に邪魔されたくはない。それに、美緒が傷つくのは何となく見たくはなかった。
「ほら、渡辺さんなら、他にもいくらでもいるでしょ?それだけ綺麗なんだから。別に多希にこだわることないと思うけどなあ」
その言葉に、美緒の目がきらりと光る。

『それだけ綺麗なんだから』

その先の言葉はもう、美緒には聞こえていないも同然だ。
グロスでつやつやする形のいい唇の両端をくっと上げ、マスカラでデコレートされた長い睫の、切れ長の瞳を上げて真っ直ぐに拓巳を見た。
その瞳には自信が漲(みなぎ)っている。
その顔を見た瞬間に、拓巳の中で警報が鳴り響いたものの、もう後の祭りもいいところだ。
「私、自分でどうにかして柴山さんに近づいてみますから」
「いや、だからさ、あいつ職場の女の子とは・・・」
「付き合わないんですよね?今までは。でもこれからは分からないじゃないですか」
にっこりと笑って、食べかけのチャーハンを口に運ぶ。
「おいし」
またしてもハートマークの付きそうな声に、拓巳は頭を抱える。
どうやら諦めさせるつもりが、地雷を踏んでしまったようだ。
やる気満々な美緒を、拓巳の力ではもうどうにもできそうもない。

悪い多希。俺、なんか余計なことしちゃったかも。

心の中で多希に激しく詫びながら、拓巳もほとんど手をつけていなかったカレーを口に運ぶ。あれほど食べたかったカレーなのに、もうなんだか味もよく分からない。
後で時間ができたときにでも、渡辺美緒に気をつけるように多希にメールをしておこう、とぼんやり思う。
目の前の自信満々な美緒は、強行手段に出そうな雰囲気を色濃くまとってる。
何をやらかすかは想像すらできなかったものの、何か起こった後の多希の怒りを一人でなだめることを考えると、拓巳の胃はきりきりと痛んだ。


「じゃ、私そろそろ病棟に帰らなくっちゃ」
さっさとチャーハンを平らげ、美緒が席を立つ。
「少しくらい私のこと、柴山さんにアピールしておいて下さいよお」
腰をくねらせるように歩いて、拓巳に向かって色っぽく手を振る。

できるわけないだろ!!
心の中で叫びながらも、拓巳は曖昧に笑いながら手を振るしかなかった。



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