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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


22.一緒にいたい 1

2010.03.24  *Edit 

水族館を後にした駿と桃佳は遅めの昼食を取り、買い物なんかをした後に流行の映画を見ることにした。
シリーズもののそのファンタジー映画は、3時間もの上映時間にも関わらず、全く飽きることなく二人を楽しませた。

「面白かったね」
桃佳が映画のパンフレットを胸のところで大事そうに抱えて、笑顔で駿を振り返る。
「そうだね」
「あ、ちょっと待ってて」
桃佳はそう言うと、これから公開になる映画のパンフレットを見に行った。その背中を見つめてから、携帯を開けて時計を見る。
映画が3時間もの大作だったので、もう時間としては18時を過ぎていた。外は暗くはなっていないものの、夕焼けが一面を赤く染めていた。
「綺麗だね」
いつの間にか戻ってきた桃佳が、駿の隣に立って微笑んでいる。
「これからどうしようか?」
桃佳に聞かれて駿は答えが分かっていながらも、桃佳たずねる。「どうしたい?」
少しだけ悩んだ後、桃佳は「駿ちゃんが決めていいよ」といつもと同じように答える。
いつだって桃佳は駿の決めたことには従うものの、自分がどうしたいのかはなかなか言ってくれない。きっとそれは桃佳の奥ゆかしさなんだろうと思いつつも、駿としてはどうしても寂しさを覚えてしまうのだった。
「そうだなあ・・・じゃあ、俺ちょっと欲しい本があるんだけど、本屋に付き合ってくれる?」
「うん。私も欲しい本があったからちょうどよかった」

それなら本屋に行きたいって言ってくれればいいのに・・・。

にっこり笑って駿を見上げる桃佳を、複雑な思いで見つめ返す。
いつだったかみなみに『清水って自分がどうしたいのかあんまり言わない』と話したことがあった。そのときみなみに『桃佳は私にもあんまりそういうこと言わないから、きっとそういう子なのかもしれない』と言われたことを思い出す。
確かに自分のしたいことを言ってくれないのは寂しかったけれど、それで桃佳への気持ちが変わるわけではない。
それに二人で長い時間一緒にいれば、桃佳も少ずつ変わっていってくれるはずだろう。そう思って駿は気を取り直す。
「じゃ、行こうか」
「うん」
差し出した掌に桃佳の掌が重なる。それでいいと、駿は強く思った。


「えっと、中ジョッキひとつと」
「ウーロン茶」
「じゃなくて、カシスオレンジひとつ」
「ええ!!」
「いいから、せっかく来たんだから一杯くらい付き合ってよ。カクテルなら大丈夫だろ?」
駿に押し切られて、桃佳はしぶしぶ頷いた。
土曜日の居酒屋は混んでいる。ほぼ満席で、待ち時間なく座れたのはラッキーとしか言いようがない。
それぞれがそれぞれの会話を楽しんでいて、居酒屋の店内がひとつのわーっという音の塊のようになっている。
「・・・か、・・・ね」
「え?なに?」
ざわざわとした店内のざわめきに、駿の声がかき消されて、桃佳は思わず大きな声で聞き返した。
「欲しい本があって、よかったね」今度は駿も大きな声でそう言う。
「うん」
本屋でぶらぶらとした後、小腹が空いたと言う駿と共に居酒屋にやってきたのはいいものの、この店内に溢れるざわつきには、駿も桃佳も苦笑いするしかなかった。
けれどこううるさいと、自分たちの会話が聞かれる心配もなさそうなので、その点はいいのかもしれない。
すぐに二人の前に注文した飲み物が運ばれてくる。
飲み物を運んできた店員に、駿が色々と食べ物を注文しているようだ。
「さ。乾杯しようか」
中ジョッキとカクテルの入ったグラスを合わせてから、桃佳は綺麗な色のカクテルを口に含む。アルコールの香りと、カシスオレンジの甘酸っぱい味が口の中に広がった。
「おいしい」
「そっか、よかった」
駿は中ジョッキをあおる。こうしてビールをあおっている姿なんかを見ると、似てはいなくてもやはり多希と駿は兄弟なんだという思いが沸いて、桃佳は思わずうつむいてしまう。
「あのさ・・・、清水。ごめんね」
「え?」
「突然バイト始めて、会う時間、大幅に減っちゃったからさ」
その言葉に、桃佳は大きくかぶりを振る。
だってそれは駿ちゃんのせいじゃない。だってそれは多希さんの計画だから。謝るのは私の方。
言えるはずもない言葉を、心の中で繰り返す。
「それに、なんだか女々しいメール、何回も送りつけた」反省したように、駿は苦笑いしている。
「違うの・・・駿ちゃん。ごめんね。私のほうが・・・」喉元で熱く焼けるような真実を桃佳は飲み込む。「実習・・・思ったよりも忙しくて、なかなか連絡もできなくて。本当にごめんなさい」
涙ぐみそうな桃佳の表情を、駿は驚いて見つめる。
「いや、俺のほうが悪いんだって。ホント、ごめん。あ、ほら、焼き鳥きたから食べよう?」
運ばれてきたばかりで、湯気の上がる焼き鳥を桃佳に手渡す。桃佳は小さく頷いて、焼き鳥に口をつけた。
駿も焼き鳥に口をつけたものの、さっきの桃佳の顔がちらついて、味がどうだとか言う問題ではなくなっていた。もしかしたら、自分の送ったあの女々しいメールで、桃佳のことを追い詰めてしまったのかもしれない。そう思うと、申し訳なさで苦しくなるほどだった。
「実はさ」駿の声に、桃佳は顔を上げる。「バイト先、兄貴に紹介してもらったものだから、すぐ辞めるって事にはならないんだ。兄貴の顔を潰したら悪いもんな」
思いもかけず、駿から多希の話が出たことに桃佳の心は波立つ。
思わず、それがアルコールだと言うことも忘れて、手元のカシスオレンジを一気に飲んで軽くむせこむ。
「大丈夫?」アルコールに弱いはずの桃佳の暴挙に、駿は驚いて彼女を見ている。
「うん。ごめんなさい。そのう、焼き鳥がしょっぱくて、喉が渇いちゃって。・・・もう一杯同じの飲もうかな」
すぐに駿が新しいカシスオレンジを注文してくれ、新しいグラスが運ばれてくる。
すぐに桃佳はそのグラスに口をつけた。「えっと・・・駿ちゃんはお兄さんと仲がいいの?」
「うん、そうだね」にこやかに駿が答える。「兄貴はね、努力家で、難関って言われてる大学に受かって今の病院に勤めてるんだ。兄貴さ、かっこいいだろ?」
突然に聞かれて、動揺を隠し切れずにやはりアルコールに手が伸びる。
「えっと・・・。あんまり顔覚えてないけど・・・そうだったかも」
「だろ?昔は兄貴と比較されて、劣等感とか持った時期もあったけど、兄貴はいっつも穏やかで、俺の話も色々と聞いてくれるんだ。だから今は本当に信頼してる」


『信頼している』


アルコールの回り始めた頭で、必死に桃佳は考えた。
多希は確か『駿のことが嫌い』そう言っていたはず。駿と多希のこの差はいったいどこから来るんだろうか?
駿の話しを聞くだけだったら、とても仲のよい兄弟のように聞こえる。
けれど兄の駿は、弟の恋人と体の関係を持って分からないゲームを画策するくらいに弟を嫌っている。・・・いや、もしかしたら憎んでいるのかもしれない。
いったい二人の間に、何があると言うのだろうか。
少なくとも、駿には兄に憎まれているという意識はないようだった。



「清水?」
肩をつかまれて、はっとして顔を上げる。
「大丈夫?」ぼんやりとする桃佳の顔を、心配そうに駿が覗き込んでいる。
「・・・ごめん。なんだかぼんやりしちゃった」
誤魔化すように髪の毛をかき上げる。
「ウーロン茶、頼もうか?飲みすぎたんじゃない?」
「ううん。大丈夫。今日はせっかくだし、これ美味しいし、もう少し飲みたい感じなの」
今日は多希のことを忘れようと思った。
けれど、二人が兄弟である以上、それは到底無理だということは本当は桃佳にも分かっていた。二人の時間を多希に侵食されているようで、いたたまれない。
アルコールを体に入れて、多希の記憶ごと追い出してしまいたかったのに、かえって考えたくないことばかりを次々と、引き出しの中から引っ張り出すようにして桃佳の頭の中を散らかしていくばかりだった。


「でね、・・・なんだ」

駿が何を話しているのか、自分がどうやって答えているのか、途中からもうよく分からなくなっていた。
駿との時間を大切にしたいのに、それさえも困難な気がして、悲しくて仕方がない。
けれど悲しそうな顔を見せるわけにはいかなくて、またアルコールを体に入れる。
全てが悪循環。
「って、章吾が言ってたんだ」
「駿ちゃん」
駿の言葉を遮るようにして桃佳が駿に声をかける。その目は完全に据わっていて、初めて見るそんな桃佳の態度に思わず息を呑んだ。
「な、に?」
「駿ちゃんはぁ、何で私なの?」
「は?」
「何で私みたいな奴を、かのじょにしてんのぉ?」
桃佳は少し怒ったような顔で駿を睨み付けている。そんな桃佳の顔を見て、駿がふっと笑う。
「酔っ払い」
「あきれた?」
「全然。違う一面が見れて嬉しいよ」
「うそぉ」
「本当だよ。さ、そろそろ店出ようか」
駿が席を立ったので、桃佳もそれにならって席を立つ。けれどその足元はぐらつき、桃佳の言うことを完全には聞いてくれない。
「あ〜あ、ふらついでんじゃん」駿が笑いながら桃佳の腕を支える。「ほら座ってて、会計済ませてくるから」
言われたとおりに桃佳はすとんと席に座った。
駿が人ごみに消えていく。
その背中を見ながら、なんてバカなことを口にしてしまったんだろうと早くも後悔していた。けれど考えるよりも先に口が動いていた。
「アルコール・・・って、怖」
あまりの情けなさに頭を抱え込む。
「なに頭なんか抱えてんの?ほら、外出るよ」
「うん。ごめん」
やっぱり足は桃佳の言うことを聞いてくれなくて、さっきと同様に駿に支えられながら彼女は外に出た。
「少し寒いね」
駿の言うように、6月とはいっても夜風はどちらかと言うとまだ冷たい。その夜風が体を冷ましてくれて、さっきよりも頭はすっきりしたようだった。
「ごめんね、駿ちゃん」
「何が?」
「酔っ払いだから」
その言葉に、駿は肩を揺らして笑い出した。
「別に大丈夫だよ、これくらい。俺らの飲み会なんてこんなもんじゃないし。裸踊りする奴もいれば、急に川に飛び込む奴もいるし、ホント収拾つかないんだから」
確かにそこまではしないものの、そう言われたところであまり慰めにはならない。けれど、少しだけ心が軽くなった気がして桃佳も笑った。
「じゃ、行こうか」
「うん」
携帯を出して、時間を確認する。すでに時間は22時になろうとしていた。いつもならば駅まで送ってもらって分かれる時間。
けれど、駿は駅の方向とは違った方向に歩き出す。
「あれ?駿ちゃん、駅こっちじゃないけど」
桃佳の問いかけに、駿は答えない。彼女の手を引いて歩く速度はいつもとは明らかに違う。すたすたと歩くその歩調は、いつもの桃佳に合わせたものではなく、どちらかと言うと駿の歩く速度だろう。
酔っていてまだ足元がしっかりしていない桃佳は、その速度についていけずに何度か躓(つまづ)きかける。そのたびに一瞬速度は緩むものの、桃佳が体制を立て直すと歩く速度は駿のペースに戻った。
息が上がり、横っ腹が痛くて桃佳は左側の腰の辺りを押さえながら歩く。
「駿・・・ちゃん!!」
見慣れない道の角を曲がる。
その先には。
「ここ・・・!!」
思わず桃佳の頬が、酔いとは別の意味で紅潮した。
「さっきの質問の返事。どうして私なの?って言ってたけど、違うよ。どうしてじゃない。清水じゃなきゃダメなんだ」
駿はやっと止まると、桃佳を振り返った。
「ごめん清水。乱暴にして。でも俺、今日はずっと一緒にいたいんだ」
駿の背中のむこうに、たくさんのラブホテルが見える。
「ずっとって・・・」
「朝まで」


この並んでいるホテルの中の一室で?
朝まで?


「いいだろ?」
真剣な駿の目。
それを拒否する理由なんて思いつかない。
例え思いついたとして、苦しげな駿を拒否することなんてできない。
桃佳は駿に従ってホテルの中に入っていった。



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