りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


148.さよならは言わない

2011.05.17  *Edit 

「多希さん、もう忘れ物はないですよね?」
「ああ、たぶん大丈夫だと思うよ。それに、とりあえず財布があったらなんとかなるだろう」
「そうですね」

がらんとした、物の全くない部屋の中に、桃佳と多希の声だけが妙に響いた。
二人は多希の部屋にいた。多希の部屋、というよりも『元多希の部屋』と言った方が今は正しい。そこにはもう、多希の私物は何一つないのだから。昨日引っ越し業者によって全て運び出されてしまった。
荷物の全くない部屋を見つめ、桃佳はこの部屋がこんなにも広かったのだと知る。多希の部屋は元々家具などの生活用品が極端に少なかった。それでも、そんな少ない荷物でも、全てなくなってしまうと以前よりもずっとずっと広く感じる。
そしてその広さは、改めて多希が今日ここから去るんだということを、桃佳に突き付けているようだった。

「それにしても悪かったね、モモ。午前中の授業を休ませてしまって」
大きなバッグを傍らに置いて、多希が申し訳なさそうな顔をする。その大きなバッグには、今朝まで桃佳の部屋にあった着替えなどの生活必需品が、ついさっき彼の手によって仕舞われてある。
だからもう、ここの部屋だけでなく、桃佳の部屋にも多希の荷物はなにひとつ残ってはいないはずだ。
「いいんです。今日くらいは休まないと」
桃佳はそう言いながら、横に立つ多希の手をきゅっと握りしめた。
そう、今日が最後なのだから。
今日、多希は遠くに行ってしまう。二人の別れの日。
「……そうだね、ありがとう」
多希は桃佳の頭を抱き寄せ、その額に唇を軽く押し当てた。
額に押し当てられた唇は、泣くのを堪えているのか、赤くなっている目元に。そして頬を滑り唇へ。
薄く開いて迎え入れてくれた桃佳の唇を吸いながら、甘い舌を楽しむ。舌先を絡ませ、息が上がるくらいにお互いを貪り合う。

「……ん、ふぅ」

桃佳から甘い吐息が漏れ出せば、当然のようにその体が欲しくなる。体だけじゃなく、もちろん心ごと。長い指先で顎を支え、もう一方の手はわき腹からそっと服の中に侵入する。
滑らかな肌を撫でながら、柔らかな膨らみへ。

「あっ」

桃佳が声を上げ、体を震わせる。熱があるような、うるんだ瞳に見上げられ、多希の理性なんてあっという間にはじけ飛んだ。
体を支えてフローリングの床に押し倒す。一気に服を捲り上げ、その白い肌に顔を埋めた。
まだ昼前。カーテンも掛かっていない部屋の中、差し込む日差しに照らされている。それでも桃佳は少しも拒むことなく、多希の栗色の頭をがむしゃらに抱きしめた。

「……あっ、ぁあ、あ、んんっ」

桃佳の甘い声が、がらんとした部屋に響き渡る。まるでエコーをかけたように響き、一層多希の中の火を燃えさからせた。
音を立てるように柔らかな胸の先端を舌先で震わせば、我慢できないように跳ねる体。わき腹に吸いつけば、くすぐったそうに、けれど確実にいい声を漏らす。
桃佳の胸を弄んでいた右手が、何度も体が跳ねたりしているせいで既に捲れ上がっているスカートを更に捲り上げる。
ショーツに忍び込んだ指先が、探り当てたのは驚くくらいに潤みきった泉で。
桃佳が目を細め、恥ずかしそうに頬を赤く染めている。それでもじっと目を反らさないことが嬉しくて、同じように多希も彼女を見つめ返す。
しっかりと、その姿を刻みつけたくて。
全ての感覚に、その存在を刻みつけたくて。

背中にむき出しのフローリングは冷たい。けれど、火照った体には、むしろそれが心地いいくらいで。
「んあっ!!」
けれどさすがに、ぐいと突き上げられるたびに、フローリングの床は硬くて痛い。それでもそんな痛みに勝る感覚に支配されて。
明るい場所での行為に、恥ずかしさがないわけじゃない。恥ずかしくて堪らない。それでも、多希になら見られてもいいとさえ思った。全てを、隠さずに。
そして、覚えていてほしいと。
足を高く持ち上げられて、更に深いところを抉られる。硬い床に後頭部を擦り付けるようにして、桃佳は背中をのけ反らせた。一気に体を突き抜けて行く、言葉にならないような電流。何度も何度も体に流し込まれる電流に、思考さえも白く塗りつぶされそうなのを、桃佳は必死になって耐えた。
体の中にある、別の体温。その感触さえも、忘れてしまわないように……

「ごめ…… こんなつもりじゃなかったから、鞄の中だ」

切羽詰まったような多希の声。苦笑いを浮かべる顔に、多希が『避妊具』のことを言っているのだということがわかる。
律儀にも桃佳の体から離れて鞄に手を伸ばそうとする多希の腕を、桃佳は無意識のうちに掴んでその動きを止めていた。

「モモ?」
「あ、あの……いいです」
「え?」
「今日は、大丈夫です。危ない日とかじゃないんで……そのままで」
「え?」

驚いたように目を見開く多希に、急に自分の言ったことが恥ずかしくなって、桃佳は真っ赤になる。
確かに危ない日ではないというのも事実だけれど、それよりも、今この瞬間離れたくなかった。それに、多希の全てを受け止めたかった。隔てるものなく。

「大丈夫、なの?」
心配そうな多希の瞳。こんなに都合のいい言葉に飛びつかないあたり、本当に自分のことを思ってくれているのがわかって、桃佳は真っ赤になりながらも微笑んで、頷いた。
「そうしてほしんです」
大きな掌が、火照った桃佳の頬を撫でる。その優しげな指先の動きに、幸せで眩暈を起こしそうになった。桃佳も、多希も。
そして桃佳はしがみ付くように、多希の汗ばんだ背中に手を回す。ぐっと引き寄せ、互いの存在をもっともっと近くに感じようとするかのように。
湧きあがってくる気持ちはもう、止めどなくて。多希は全てをぶつけ、桃佳はそれを全て受け止めた。



しばらく乱れた呼吸を整えるように、二人、フローリングの上で抱き合ったまま転がる。この陽だまりのように、暖かな空気に包まれまどろみそうになった時だった。脱ぎ捨てたジーンズのポケットの中で、多希の携帯が無粋な着信音を響かせる。
多希は手を伸ばしてそれを掴むと、表示されている名前を見て苦笑した。
「……拓巳だ。もしもし? ああ、今降りるよ」
電話はすぐに切られ、桃佳は多希の胸に顎をつけて彼を見上げた。
「拓巳が迎えに来てくれたよ」
「そう、ですか」
桃佳は自分の声が強張ったのを感じた。拓巳は今日、引越しを手伝うために、多希の新居まで一緒に行くことになっていた。
拓巳が来たということは、いよいよ出発の時間ということになる。
多希と拓巳はここを出て、病院に一度立ち寄り、引越しの挨拶を各部署にしてから目的地に向かうことになっている。

先に起き上がった多希が、桃佳の両脇を抱えるようにしてその体を引き起こした。そして再びしっかりとその胸の中に抱き込む。

「時間だ」
「……はい」
掠れた声が出てしまう。いよいよ離れるのだと思うと、桃佳の全身に痛みが走る。離れたくないと。
それは多希も同じこと。
拓巳が待っているのだから、早く服を着て外にでなければいけないと分かっているのに、離れがたくてただお互いを抱きしめあう。
でも桃佳は泣かないと決めていた。だから、どれだけ涙腺が熱を持って涙を零しそうになっていても、必死に堪える。これは門出なのだから、泣くのは違うと。
このままでは夜までこうしてしまいそうで、桃佳の方からそっと体に回していた手をほどく。きっと多希は自分から抱きしめる腕を離さない、なんとなくそのことに桃佳は気が付いていたから。
それは桃佳に甘えているからではなく、きっと桃佳を見送るためで…… 遠くへ行くのは多希のはずなのに、それでも桃佳は多希が自分を見送るため、桃佳が離れて行くのを待っていたのだと思えて仕方がなかった。

「いつまでも……こうしてられませんもんね」
笑ったつもりだったものの、微妙に笑顔が歪んでしまう。
「このままじゃ夜になっちゃう」
異常なほどの重力を放っているかのような多希の体から、自分の体を引き剥がし、桃佳は服に腕を通す。黙々と服を身につけ、手櫛で髪の毛も整えた。
振り返れば、既に多希は身支度を整え、大きな鞄を片手に持って桃佳を見つめていた。

「行きましょうか」
「ああ」

二人揃ってがらんどうの部屋を出る。
背後で玄関ドアがバタンと閉って、戻れないという思いで体が震えた。
それでも手をつなぎ、並んで階段を下りる。ふと、踊り場で目が合い、どちらともなく微笑んで頷きあう。

大丈夫。
きっと。

瞬間、そう思えた。


「ああ、多希。荷物はそれで最後か?」
自分の愛車でやってきた拓巳が、窓から顔を出す。引越しの準備のために二日も休みを取ってくれたらしい。今夜は泊って、明日帰るのだという。それほど近くはない距離、それでもこうして来てくれる友人に、多希は素直に感謝の言葉を述べる。
「拓巳。悪いな。ありがとう」
ぺこりと頭を下げる多希に、拓巳の方がどぎまぎしてしまう。
「な、なに言ってるんだよ。今更。腐れ縁だろうが」
「ああ、そうだな。腐れ縁の相手がお前でよかったよ」
綺麗な毒気のない笑顔でそう言われ、やっぱり拓巳は調子が狂う。すっかり多希からは毒気が抜けてしまった。桃佳と言う解毒剤のお陰で。けれど、毒気のある彼に馴れていた拓巳には、まだまだ馴れそうもない。
「それより、さっさと挨拶回りに行くぞ。早くしないと、引越し先についたら夜になっちまう」
「ああ」
「拓巳さん」
横で二人のやりとりを聞いていた桃佳が、声をかける。
「なに? モモちゃん」
「よろしくお願いします。私、手伝えないんで」
深々と頭を下げられ、拓巳はやっぱり戸惑ってしまう。二人の話は聞いていた。二年間完全に離れ離れになるのだと、多希から妙に清々しい表情で告げられていたから。
だから、今こうして目の前でしっかり手を繋ぎ合っている二人を引き離す、自分は悪魔のように思えたりもするのだ。
「うん。しっかり手伝ってくるから心配しなくていいよ」
けれど、拓巳の口からは何も言えるはずがない。二人の下した結論は、相当厳しいもので、それを分かった上で二人は受け入れているのだから。
だとしたら、自分はしっかり多希の役に立つくらいしか、この二人のためにできることはない、そんなふう思っていた。
「はい。よろしくお願いします」
「……じゃあ俺、一足先に病院に行って待ってるからな」
そう言って、拓巳は車を走らせてその場を去って行った。
最後に二人きりにしてやろうという、そんな心遣い。

多希は既にスタンバイしていた自分の車のトランクを開け、大きな鞄を仕舞い込んだ。そして桃佳の前に立つ。

「そろそろ行くよ。モモ……元気で」
「……はい」
「二年後の今日、あの駐車場で必ず待っているから。だから」
そっと柔らかな癖っ毛を多希は撫でた。この柔らかな感触さえも、しっかり焼きつける。髪の一筋さえ、覚えていたいと願うほどに。
苦しいけれど、必死に笑顔を作る。けれどそれは以前のような仮面ではなく…… 自分を守るための仮面ではなく、今は大事な人を安心させるための精いっぱいの思いやり。
「さよならは、なしだよ」
「はいっ」
桃佳も多希のそんな思いに応えるように、笑顔を作る。
最後に見た顔が泣き顔なんて、イヤだから。



「また、二年後に」
「また、再来年」


去っていく車を見送り、車が角を曲がったところで桃佳は堪え切れずに蹲った。蹲って……泣いた。
二年。七百三十日。時間に直すと……?

「やめた!!」

まだ涙が流れたままで、桃佳は急に立ち上がる。

「やめた。そんなこと考えたってどうしようもないじゃない。そうよ。また、会えるんだから」

ふっと微笑んで、ごしごしと手の甲で涙をふくとアパートの階段を駆け上がる。
部屋からいつものテキスト満載のトートバッグを持ち出すと、再び階段を駆け降りた。

自分の今やるべきことをやるために。
二年後に会える多希を、がっかりさせないために……



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