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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


24.私を想ってくれている人

2010.03.24  *Edit 

「おはよう」
目の前で駿が微笑んでいる。
何だか急に恥ずかしくなって、桃佳は頬を赤らめる。小さな声で「おはよう」と言うと、彼女も微笑んだ。
昨日、裸のままで抱き合って眠りに落ち、そのままの状態でこうして朝を迎えたことに、二人とも嬉しさと少しだけ恥ずかしさを感じていた。
「眠れた?」
「うん」
眠れたけれど、正直桃佳はまだ眠たかった。
昨夜のアルコールがまだ体の中に残っていて、ちょうど額の辺りがもやもやとしている。喉もからからだ。
桃佳はこの前の多希との一件といい、昨夜のことといい、自分が思いもよらず酒癖が悪いということに嫌でも気がついていた。
暖かな駿の腕の中で、もう深酒はしないと誓うのだった。
「そろそろ出ないとね」
駿が携帯のディスプレイを確認しながら呟くと、名残惜しそうに桃佳の体から離れる。
まるで自分の一部が離れてしまったかのように、触れ合っていた部分の熱が冷めていくのを桃佳は寂しく思った。
背中を向けて着替えを始めた駿にならって、彼女も起き上がって自分の服を手繰り寄せる。
ちらりと駿を盗み見ると、すでに着替えを終えて、桃佳に背中を向けたままでペットボトルのお茶を飲んでいる。振り向く気配はない。
きっと桃佳が見られるを嫌がるだろうと、見ないようにしている駿の心遣いを桃佳はありがたく感じた。
着替えを終えて、駿に近づく。やはり背中を向けたままの駿の優しさが嬉しくて、桃佳は自然と笑みがこぼれた。
「駿ちゃん、着替え終わったよ」
「そっか」
そこでやっと振り向く。
いつものやさしい笑顔。
思わず桃佳はその体をぎゅっと抱きしめた。
「どうしたの?」
普段は自分からそんなことを滅多にしない桃佳が、自ら胸に飛び込んできたことに、駿は驚いて彼女を見つめた。
「・・・ありがと。一緒にいてくれて」
胸にしっかり顔をうずめる桃佳の声は、直接駿の心臓に響いて、体も心も満たしていく。
駿も彼女の小さな体を、壊れ物でも扱うかのように、そっとやさしく抱きしめる。「うん。俺もありがとう」
顔を上げると、桃佳の想像通りの優しい笑顔が向けられていて、それが本当に嬉しくて桃佳も目を細めて笑顔になる。
「それじゃあ、行きますか」
駿が手を差し伸べる。
それが二人の決まりであるかのように。
「うん」
ためらいもなく、桃佳はそのごつごつとした彼の指に、自分の指を絡めた。



二人で朝食と昼食をかねて、ハンバーガーを食べた後、話しをしながら目的もなく歩いた。
この先の予定をどうするのか、聞こうと思いながらも、どうしても桃佳には聞けなかった。
「もう帰らなくちゃいけない」と言われるのは寂しかったけれど、「ずっと一緒にいたい」と言う勇気は彼女にはない。
勿論それは、多希とのことがあるから。
それがなければ、今この幸せな気持ちのまま「ずっと一緒にいたい」と言えたのかもしれない。
駿を裏切ってしまったという思いを抱える桃佳にとっては、その言葉を言う勇気は持てなかったし、持つべきではないような気もしていた。
そんなことを考えていると、多希のことを恨みたい気持ちにもなっていくる。
けれど、桃佳には分かっている。
恨むべきは自分であることを。
分かっていて、多希と体を重ねたのは他ならぬ自分であると。
「あのさ」
駿が立ち止まって桃佳を見ている。
「これからなんだけど、ダメじゃなかったら、清水の家で一緒にいられないかな」

ドキリ。
心臓が飛び出しそうなくらいに、大きく脈打つ。
「・・・だめかな?」
駿が覗き込むように、桃佳の顔を覗き込んでいる。
ダメなわけはない。
さっきの願いが叶うのだ。一緒にいたいに決まっている。
けれど、桃佳は駿が自分の部屋に来ることを、手放しには歓迎できなかった。
なぜなら、隣は多希の部屋なのだから。
隣に多希がいるかもしれないのに、駿と一緒に過ごす度胸を桃佳は持ち合わせていない。
しかも、もし何かの拍子に駿と多希が鉢合わせてしまうようなことになってしまいでもしたら、それこそもう取り返しがつかないのだ。
「どう?」
駿がさらに桃佳の顔を覗き込んでくる。
「あ、あの・・・。駿ちゃんの家、とかは?」
苦肉の策で言ってみる。それでいいよと言ってくれることを願って。
けれどそんな彼女の願いは、あっさりと却下される。「ごめん、実は昨日は章吾たちと出かけて外泊してることになってるんだ。だから・・・その。清水と一緒だとちょっとまずいだろ?」
確かに、男友達と外泊したはずが、彼女を連れて帰ったのでは話がかみ合わない。駿の立場も悪くしかねないと、桃佳もあきらめるしかなかった。
「それに」少しだけ照れたように、駿が言う。「家だったら、また母さんに邪魔されるかもしれないし。俺、誰にも邪魔されないで、清水と過ごしたいんだ」
その気持ちは桃佳も同じだ。
駿と二人でゆっくり過ごせたら、どんなにいいだろうと心から思う。
けれど、桃佳の部屋は誰にも邪魔されないかもしれなかったが、どこよりもプライバシーが侵害される確率が高いことを彼女は痛いほど知っていた。
「行ってもいい?」
桃佳には断る理由はない。
それどころか、歓迎するべき提案。
「・・・うん。いいよ」
これ以外に言うべき言葉があるだろうか。桃佳には見つからない。

それから二人でDVDを借りて、スーパーに寄る。
駿のリクエストで、夕食は桃佳が作ることになった。二人で食品なんかを選んでいると、まるで新婚カップルのようなそんな気持ちになって、思わず照れてしまう。
「今日、何がいい?」
桃佳の質問に、駿は考え込んだが、その表情は楽しそうだ。
「そうだな・・・。カレーなんてどう?」
「やだなあ、カレーはこの間・・・」そこまで言って、桃佳ははっとして片手で口を塞ぐ。カレーを一緒に食べたのは、駿ではない。彼の兄。
「ん?どうしたの?あ、もしかして、カレーは最近食べちゃった?」
「え?うん。・・・実はそうなの」
「そっかあ、じゃあ、何にしようかな」
食材を見回しながら、ゆっくり歩く駿の後ろを桃佳もついて歩く。
「じゃあさ」ぱっと顔を輝かせて振り向く駿。「肉じゃが」
・・・よりにもよって。
顔に笑顔を作りながらも、桃佳の頭の中にはそんな言葉が浮かんで消えた。
「うん。いいよ」
数日前に、朝も昼も大量の肉じゃがを食べたことを思い出しながらも、桃佳は表面上は快く駿の提案を受け入れた。


彼氏と一緒に自分の部屋に帰っただけだというのに、部屋に着いた時桃佳は過度の緊張で手のひらと背中にじっとりと汗をかいていたほどだった。
けれど多希の部屋は予想に反して静まりかえっていて、人のいる気配の欠片さえもない。
借りてきたDVDを見ているときも、隣の部屋から何が物音が聞こえるのではないかと思うと気が気ではなかったものの、やはり隣の部屋には人の気配など少しも感じられなかった。
せっかく最近話題の新作を借りてきたというのに、その内容などほとんど頭の中には入ってきてくれなかった。
しかも、せっかく駿が後ろから抱っこするように包み込んでくれていたのに、そのぬくもりを感じる余裕すらなかった。
画面ではもうエンドロールが流れている。「面白かったね」と後ろから話しかける駿に、内容など覚えていない桃佳は曖昧に応えた。
この2時間ほどの間に、隣室からは物音ひとつせず、『留守』であることはもう間違いないようだ。その事実に、桃佳はやっと少しだけ肩の力を抜く。かなり力が入っていたのか、肩が凝ってしまって頭まで痛い。
肩をさする彼女を、気遣うように駿がその顔を覗き込んだ。
「大丈夫?もしかして、この姿勢のせいで肩凝っちゃたんじゃないの?」
いつだって、駿は桃佳の小さな行動も見逃さずに気遣ってくれる。そのことをよく知っている桃佳は、心配をかけないように明るく笑った。
「違うの。真剣に見てたから、そのせいね」
「そっか」
そう答える駿の目には、桃佳に対する疑いの気持ちなどひとかけらもない。それが時々桃佳を追い詰めてしまうことなど、彼は知る由もないのだけれど。
けれど、駿のそのまっすぐな目は桃佳にとっては、時々凶器にも等しい。
『一夜の過ち』
その言葉だけならば、ものすごく軽い。しかしその相手はよりにもよって駿の兄。その事実だけでも桃佳を苦しめるのに十分なのに、隣に住んで一緒の時間を過ごしているなど、考えれば考えるほどに自分の愚かさに寒気さえ覚えた。
「ん?どうかした?」
黙りこくった桃佳の顔を、さらに駿が覗き込んでくる。
「なんでもないよ。さあ、そろそろ夕食の支度をしなくちゃ」
立ち上がる桃佳を、駿は名残惜しそうに抱きしめる。「夕食も楽しみだけど、離れるのは寂しいな」
立ち上がりかけた桃佳の背中の辺りに、彼が頭を擦り付ける。
「でも、今から用意しないと夕食食べられないよ」
苦笑交じりに振り返る彼女を引き寄せて、駿はその頬に触れるだけのキスをする。「うん。そうだね。じゃあ、諦めるか」そう言うと、桃佳を自由にした。
「頑張って作るから」
「うん。清水の作ったのなら、俺、何でも食べるよ」穏やかで、優しい笑顔を桃佳に見せた。

愚かでも何でも・・・。
桃佳は思う。
愚かでも何でも、もう後戻りはできない。駿ちゃんには本当のことは言えない。この人を失わないためには、ゲームを無事に終えるしかないんだ。
もう自分にはそれしかできないのだから。


「お茶、飲むでしょ?」
「うん。ありがとう」
食事を終え、すっかりテーブルの上も片付いている。駿はリラックスした様子でテレビを見ている。
そんな彼の様子を微笑ましく見つめながら、桃佳は駿の前に緑茶の入った湯飲みを置いた。
「ありがとう」
駿は桃佳から湯飲みを受け取ると、一口すすった。「なんかさ」嬉しそうな口ぶり。「こうしてると、結婚したらこんな感じなのかなって思うよ」
「け、結婚!?」
突然に出たその言葉に、桃佳は動揺して真っ赤になった。
その顔を見て、駿も顔を赤くする。
「いや、違うんだ!・・・いや、やっぱ違わないかな・・・」言葉の最後の方は真剣な顔つきになっている。
「俺、中途半端な気持ちで清水と付き合ってるんじゃないよ。・・・これから先、何があるか分からないけど、俺はできたらこんな風に清水と一緒に、ずっと一緒に過ごせたらいいって、思ってるよ」
言い終ってから、手元のお茶をぐっと飲んでむせ込んだ。
さっき口をつけて知っていたはずなのに、淹れてもらったばかりのお茶はまだ熱い。
「だ、大丈夫!?」
びっくりした桃佳が、水を持ってきて、駿はそれを一気に飲んだ。それから、しゅんとしてうな垂れる。
「・・・俺、かっこ悪いな。かっこいいこと言うつもりだったのに」
はっきりは言わなかったものの、駿にとって今の言葉は桃佳に向けてのプロポーズにも等しい。それが、熱いお茶を飲んでむせこみ、口の中を火傷しているのでは格好のつけようがない。きっと彼女は呆れているに違いないと思っていた駿だったが、桃佳はにっこりと駿の両手を包み込んだ。
「ありがとう、駿ちゃん。そうだね。そうなったらきっと幸せだね」
ふんわりと微笑んでいる桃佳を、両手を伸ばして抱きしめる。
その柔らかな身体が、何よりも確かな桃佳のぬくもりを駿に伝えた。
「駿ちゃん、苦しいよ」腕の中で、桃佳がくすくすと笑っている。このぬくもりと柔らかさを失いたくないと駿は強く思った。
「そうだ、清水」
駿が桃佳から体を離し、その両肩をつかむ。
「これからは、バイトの前に少しだけでも会えないかな?」
「え?」桃佳が大きな目を瞬かせる。
「少しだけバイトはじめる時間を遅くしてもらおうと思うんだ。その代わり帰りは少し遅くなるかもしれないけど、一週間まるまる清水に会えなくなるなんて辛いから」
「でもそれじゃあ、駿ちゃんが大変なんじゃ・・・」
「いいんだ」駿ははっきりとした笑顔を見せる。「清水に会うことのほうが大事」
彼女の唇が「でも」とか「けど」とか動きそうな気がして、駿はその唇を自分の唇で埋める。優しく啄ばむように何度もキスをしてから離れると、「いいね」と真っ直ぐに桃佳を見据えた。
こくりと頷くのを見届けて、満足したように彼女の柔らかな髪の毛を撫でつける。「じゃあ、明日からは少しの時間でもいいから会おうね。でも、都合の悪いときにはちゃんと言ってね」

この人は本当に私の事を想っていてくれてる。それなのに私は・・・。

少しだけ浮かんで消えた悲しげな色に、駿は気づかなかった。




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