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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


27.きっかけ、そしてこの先

2010.03.24  *Edit 

「桃佳~。もう来てたんだ。早かったね」
みなみが手を振りながら桃佳の元へと駆けてくる。いつもながら、華やかな雰囲気を全身にまとっていた。きりっとした顔立ちも、まとっている雰囲気も桃佳とは全く別のものだったけれど、二人並んで歩くと余計に人の目を引くようで、何人もの男が彼女たちを振り返った。
「みなみちゃん。見られてるよ。やっぱりみなみちゃんは人目を引くんだね」
桃佳が屈託なく笑ったが、みなみは正直呆れていた。「ばっかねえ。あんたのことも見てんのよ!!」みなみの言葉に桃佳が曖昧に笑っているのが見える。どうにもこの鈍感なのか勘違いが激しいのか分からない友人は、自分の外見におかしなコンプレックスを持っているようだ。
「みんなもう来てるかな?」話題を変えるように桃佳が言った。
「どうかなあ・・・。もうそろそろ集まっている頃じゃない?」



今日の食事会が決まったのは本当に急で、昨日の帰り際だった。
昨日で実習を終えた桃佳たちは、いつも中心に立っているみなみの鶴の一声で、今日打ち上げを兼ねた食事会をすることになったのだ。
バイト前に会った駿は、いつものようににこやかに「久しぶりなんだから楽しんでおいで」と言ってくれたが、「でもあんまり飲み過ぎないんだよ」と、釘を刺すのも忘れなかった。


「多希さん、明日みんなで打ち上げも兼ねて食事会に行くんです。だから、何か作っておきますか?」
テレビを見ていた多希は、桃佳を見てにこりと微笑む。「別にいいよ。楽しんでおいでよ。どうとでもできるから」
「そうですか」内心少しだけほっとして答える。学校から帰ってきて、夕食の支度をしていたのでは、遅れてしまうかもしれなかったから。
「そっか、明日はモモに会えないんだ」
さっきまでテレビを見ていた多希は、今はもう完全に桃佳の方を真っ直ぐ向いて胡坐をかいている。じっと見つめられて、桃佳は下を向く。
「じゃあさ、今日は早めに布団に入って、モモを抱いて寝ようかな」
「はあ!?」
「だって明日は会えないんだろ?それに何度も言うようだけど、何もしないし」
結局多希に押し切られて、二人は22時半には一緒に布団に入った。
「モモ」
いつものように多希に背中を向けていると、桃佳の背中に多希が擦り寄ってくる。いつもはそうして眠りに落ちるのだけれど、多希は桃佳の体の下に腕を差し入れると、ぐいと自分の方を向かせ、そのまま包み込むように抱きしめた。
「な!多希さん!!どうしたんですか!!」
「ん?明日会えないから、今日はこうしていたいんだ」
多希の手は、優しく優しく桃佳の髪を撫でている。その手の動きがだんだんとゆっくりになってくる。そして、ふっと止まった。
「・・・多希さん?」囁くように呼びかけ、彼の胸の辺りから視線を上げる。
その瞳は既に硬く閉じられ、意識は現実の世界を離れているようだった。
桃佳は思わずふっと笑ってしまった。
桃佳と明日会えないから早く二人で布団に入りたかったわけではなく、昨日の夜間当番で遅くまでかかった上に、桃佳のベットに寄りかかったまま朝まで眠り込んでいたことで、疲れが全く取れていないのだろう。
不意に多希の口が微かに動く。「・・・メリー・・・」
下から覗き込むような格好で、彼の長い睫を見上げる。下から見ても、やはりきれいな顔に変わりはない。安らかな寝顔は、見ているほうまで安らかにするようだ。
「もう。メリーってなんなのよ・・・」
苦笑いしながら、呟いてみる。離れようとしたら余計に強く抱き寄せられることを知っている桃佳は、余計な抵抗はせずに多希の体温を感じながら、やがて眠りに落ちていった。


「メリーねえ・・・」
「なにが?」
「え?」
はっとして見ると、みなみが不思議そうな顔で桃佳を覗き込んでいる。
みなみと待ち合わせの居酒屋に着いたとき、既に仲間の殆どが集まっていた。乾杯も済まし、それぞれが話したり、食べたりしている。
「何か言った?」みなみはテーブルに乗せられた、たくさんのお皿の中から数種類の食べ物を取り皿に乗せながら聞いてくる。
「なんでもないの」桃佳はちょっとだけけ困ったような顔で、胸の辺りで両手を振った。まさか、昨日の多希の寝言のことを考えていたなんて言えるはずがない。
「はい。ほら食べなさい」
みなみがさっき取り皿に取り分けた食べ物を、桃佳の前に勢いよく置く。取り皿の上にはから揚げやらパスタやらが山盛りになっている。
「桃佳、さっきから殆ど食べてないじゃない。ちゃんと食べて、ちゃんと栄養摂ること!!」
「ありがとう。みなみちゃん」
せっかくの仲間内での食事会だというのに、何となく気後れしている様子の桃佳を、みなみはずっと気にしていた。さっきから手元のウーロン茶を飲むばかりで、食べ物に手をつけていない桃佳に、とうとう我慢しきれずにお節介を焼いたのだった。
「桃佳はちょっとおとなしすぎるよ。もうちょっと自己主張とかしなくちゃ。欲しいものも、欲しいと思ったときには誰かに取られちゃうんだからね」
「うん」
桃佳は取り皿の上のから揚げを箸でつまんで口に運んだ。みなみの気持ちは嬉しかったが、全部は食べ切れそうもない。

「ええ?じゃ、あんたあの後、あの人と一緒だったの?」
テーブルの端の方に座っている、同級生の亜美が声をあげた。
「まあね。まあ、一回きりだって。連絡先も聞いてないしね」
答えているのは、美咲。遊んでいるふうでもない、普通の女の子だ。はっきりと何の話をしているのかは言っていなかったが、鈍感な桃佳にだって、それが初めて会った人とホテルに行った話であろうことくらいは分かる。
きゃはは・・・と、二人の笑い声が、なんだか遠くに聞こえるような気がした。
そんなに簡単なものなのだろうか?笑い飛ばせるくらいに、軽いことなのだろうか?
「ねえ、みなみちゃん」桃佳は意を決してみなみに話しかける。
「ん?」
「みなみちゃんはその・・・初めて会った人とホテルに行っちゃったこととかってある?」
桃佳の質問に、みなみは大げさなほどに驚いた顔をした。「びっくりした!!まさか桃佳にそんなこと聞かれるなんて思わなかった。そんなこと言いそうなタイプじゃ、全然ないんだもん!!」
赤くなって俯いた桃佳に、みなみは慌てて声をかける。
「ああ、ごめんごめん。ちょっとびっくりしただけだから。で、初めて会った人とホテルに行ったことあるか?だっけ?」
「うん」
「あるよ。そうだなあ。そんなこと、今までに3回くらいあったかなあ。で、次の日後悔とかしちゃうんだけど、バカだからまた同じ事しちゃうんだよね~」
あっけらかんと話すみなみを、桃佳はまじまじと見つめた。その口ぶりは呆れるほどに軽い。
「えっと・・・。彼氏がいる時には、そんなことしたこと・・・ないよね?」
「ううん。あるよ」またしてもあっけらかんと答えられて、面食らう。
「私だけじゃないと思うけどなあ・・・。あ!!もしかして、桃佳もそういうことあったとか?」そう聞いてくるみなみの目は、好奇心を隠すことなく輝いている。
「いや・・・。その、私は別に・・・」曖昧に笑って見せると、みなみは明らかにがっかり、といった表情をする。
「なあんだ。つまんないの。でもま、あの駿君が彼氏だもんね。優しいし、桃佳のこと大好きだし。他の人とどうこうなろうなんて思わないか」
みなみの言葉に、桃佳の心臓がずきりと痛む。
「でもね、もしもそういうことがあっても隠さなくていいからね。そんなことで桃佳のこと嫌いになったりはしないから」
何の気なしに言っただろうみなみの言葉に、今度は救われる思いがする。
「みなみちゃんは、どうして彼氏がいるときに他の人とそういうことになっちゃったの?」
「う~ん」みなみが眉間をつまむようにして考え込む。「喧嘩してやけになってそういうことしちゃったこともあったし、何となくそういう雰囲気になってしちゃったこともあるかなあ」
「雰囲気?」
「そうそう。お互いに、『今夜だけ』みたいな。まあ、一夜の過ちってそんな感じなんじゃない?今夜一度きりだから、お互いに割り切って楽しむの。で、終わったらもう次はない」
みなみは人差し指を一本立てて、にやりと笑って見せる。
確かにそうなのかも知れないと桃佳も納得する。多希もあの時『一夜の過ち』と言っていた。桃佳もそう思うことに決めた。けれど、今でも会い続けている二人に、その言葉は通用するのだろうか。
「・・・ねえ、みなみちゃん。もしもよ。もしも、その一晩だけって思った相手と、また会っちゃったら?」思わず桃佳は身を乗り出す。
「そうだなあ・・・。またずるずるやっちゃうようなら、それはもうセフレとかになっちゃうんだろうし、もしかしたらそこから始まる恋もあるかもしれないし、憎みあう事だってあるかもしれない。でもその後も会い続けるんなら、一度きりの過ちだと思ってた行為は、もうきっかけでしかないよね。後はもう、その二人がそれから先をどうするかだと思うけど?」





食事会は、明日も学校ということで比較的早めに解散した。おかげで日にちが変わるよりもずっと早く桃佳は家に着くことができた。
鍵を開け、手探りで部屋のスイッチを探す。スイッチはすぐに見つかり、部屋は眩しい光に包まれた。瞬間的に蛍光灯の白い光に視力を奪われて、桃佳は目を細める。その目はすぐに明るさに慣れ、彼女は床に散らばるビールの缶に気が付いた。
そして、テーブルの向こう側に転がっているであろう人間も。
そっとテーブルに近づいて、その向こう側を覗き込む。桃佳の想像通り、数本のビールの空き缶と共に多希が床に寝転がったままで寝入っている。
音を立てないように、空のビールの缶をそっと拾い集める。全部で500mlの缶が6本もあった。桃佳と二人の時には到底飲まないような量を、ひとりで空けたようだ。そして酔いに任せてそのまま眠り込んでしまったのだろう。
なぜ自分の部屋でなく桃佳の部屋で酔いつぶれているのか、そのわけはよく分からない。
「・・・全く。飲みすぎなんですよ」
そう言いながらも、起こさないようにそっと来客用の布団をかける。多希は少しだけ唸り声を上げたけれど、目を覚ますことはない。
何となく多希の足元に座り込み、さっきみなみに言われた言葉を思い出す。
「もうきっかけでしかない・・・か。後はもう、その先をどうするか・・・」
ポツリと呟いた。

みなみの言うように、きっともう多希とのあの夜の出来事はきっかけでしかなくなっている。
あの夜をきっかけに、全てがとんでもない方向に動き出してしまった。
この先、自分がどうなっていくのか、桃佳には見当も付かない。駿のことを強く想う以外に、未来を感じることができない。
多希が自分を気に入ったという言葉さえ、本当のことかどうかなんて分かったものではない。
多希は本当はもっと何かを企んでいるような気もするし、そうでない気もする・・・。とにかくもう、分からないのだ。

「どうしたいんですか・・・?」
眠る多希にそっと語りかける。
「どうなりたいんですか・・?」
ため息に混ぜるように、そっと。

「・・・どうしたら、楽になれるんですか?」

その言葉は、自分に向けたものなのか、多希に向けたものなのか桃佳には分からなかった。
受け取るべき相手を見つけられないように、桃佳の声は狭い部屋の中を漂って消えていった。



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