りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


28.突然の訪問者

2010.03.24  *Edit 

「お先に失礼しま~す」
美緒は鞄を引っ掛けると、早足でナースステーションを去った。
時計を確認する。16時半を少し回ったところだ。今のところは計画通りであることに、ほっとしながら更衣室で着替えをすませると、会計や薬を待つ人たちに紛れて、ホールの一角に座った。
彼女の座った位置からは、レントゲン室がよく見える。
「これでいいわ・・・」美緒は小さく呟いた。

この前多希に迫ったものの、うまくかわされてしまってから、ずっと今日を待っていた。今日の美緒の勤務は早番。16時には仕事が終わる。多希が今日は夜間当番でないことも、もう既にリサーチ済みだ。多希の勤務が終わるのを待って、家まで押しかけてしまおうという計画だったのだ。
できることならば、あの次の日にでもそうしてしまいたかったが、通常勤務ならば美緒が全ての仕事を終わらせて帰る頃には、多希はとっくの前に病院を出てしまっている。それに、家に押しかけようにも、最近引っ越したばかりだと言う多希の家を、知る人はいなかった。だからこそ、今日を待っていたのだ。

17時となり、ホールにいる人間の数もずっと少なくなってきた。外来の看護師などが、鞄を肩から提げて帰っていくのが見える。
自然と美緒の心臓も落ち着きをなくし、どきどきする胸を落ち着かせるように美緒は大きく息をつく。
「じゃあ、お疲れ様です」
その声に飛び上がりそうになりながら、ばれないようにこっそりと声のした方を向く。ちょうど多希がレントゲン室から出てくるところだった。多希は美緒には一切気が付かずに、地下にある更衣室に向かっていった。
多希の家がどこにあるかわからないものの、彼が正面玄関から帰っていくのを、美緒は何度も見かけている。
ここで声をかけてしまっては、この間と同じようにうまくかわされてお仕舞いになってしまう可能性が高い。だからこそ美緒は、多希の家まで押しかけるつもりでいたのだった。
「焦っちゃだめよ・・・」美緒は自分に言い聞かせるように呟いた。



いつものように家まで急ぐ。
さっき帰りがけに先輩の技師から、どうしても出なければならない会議が急に入ってしまったから、夜間当番を代わってくれと言われてしまった。今週は日曜日と月曜日にも夜間当番をしている。けれど、先輩からの頼みでは断れない。多希は思わずため息をついた。
いつ呼ばれるか分からないので、着替えはせずに真っ直ぐに桃佳の部屋に向かう。
多希はそっと付いてくる人影になど、全く気が付いていなかった。


「ただいま」
「お帰りなさい」
いつものように桃佳がキッチンで夕食を作っている姿に、多希は何となくほっとした気持ちになる。
「あれ?多希さん。今日ももしかしてこれから仕事かもしれないんですか?」
「ん?そうだけど・・・。よく分かったね」
座り込んでテレビをつけた多希を振り返る。
「だって。ほら。眼鏡かけてるし、髪形だっていつもと違いますもん」
「ああそうか。そうだよね」笑いながら多希は前髪をかきあげた。髪の下に隠されていた形のいい額と、綺麗な薄い色素の瞳が微笑み、桃佳はどきりとする。
「?。モモ?どうかした?」
「いえ、なんでもないです!!」
つい見入ってしまっていた綺麗な顔から、無理やり視線をずらす。雑誌の中から飛び出してきたかのように整った顔を、こうも近くに見せ付けられたら見とれない方が無理だと、自分の中で言い訳をする。
夕食の支度に戻ろうとした時、その音はなった。

ぴんぽ~ん

間の外れた機械音。桃佳の部屋のチャイム。
桃佳と多希は何となく目を合わせる。
今日、来客の予定はない。ここに誰かが尋ねてくるとすればそれは桃佳の友達だろう。けれど、多希がいるこの部屋に知り合いを上げるわけには行かない。
桃佳はそっとドアに近づいて、覗き穴から外を見た。
そこに立っていたのは、見覚えのない、綺麗な女性だ。少なくとも知り合いではないことに安堵して、桃佳はドアを開ける。
「はい」
部屋の前に立っていた女は、一瞬桃佳の顔を見て固まる。覗き穴から見るよりも、ずっと綺麗な目の前の女性に桃佳は戸惑いながらも声をかけた。「あの・・・?何か用ですか?」
桃佳の声に、はっとしたように女は急に敵意をむき出しにした顔をした。桃佳は思わず一歩のけぞる。見ず知らずの人に、そんな目で見られる覚えなど一切ない。
「ここ、柴山さんの部屋じゃないの・・・?さっき、ここに柴山さんが入っていったの見たんだけれど」
「・・・!!え?」
桃佳は部屋の中をちらりと振り返る。どうやらこの突然の訪問者の目的が、自分ではなく多希であることは間違いない。けれど、多希を呼んでいいものかどうか。
「柴山さんの部屋じゃないの?」
女は相変わらず怖い顔で桃佳に詰め寄る。どうしたらいいものか悩んでいると、後ろでドアの開く音が聞こえた。
目の前の女の顔から、一気に敵意が消え、きらきらとしたものになるのを桃佳は驚きながら見つめた。
「柴山さん!!」
なにやらもめている声を不審に思い出てきてみたら、今一番会いたくないと言っていいような人物が玄関にいるのを見つけ、多希は今日の疲れが一気に両肩にかかってくる思いだった。
「・・・渡辺さん。どうしたんですか?」
ため息混じりに多希がたずねた。
多希の問いかけに、美緒は桃佳を気にしながらもじもじとしている。「あの・・・」それ以上言葉が続かない。多希に彼女がいないと確信していたからこそ、こんな大胆な行動に出たというのに、いざ彼の部屋に来てみたら、出てきたのはぽやんとした可愛らしい女だったのだから。
「まさか、病院から付いてきたんですか?」
責めるような多希の言葉に、美緒は身を縮める。
「どうして家にまで・・・」
責めるようにに言われ、美緒の顔はもう泣きそうだ。素性は分からないものの、目の前で今にも涙を零してしまいそうな美緒が、何となく桃佳は可哀想に思えてくる。
「あのう。もしよかったら、上がってもらったらどうですか?何か話があるのかもしれないし」
「モモ!!」
「あの、よかったらどうぞ」
多希の制止の声など聞こえていないかのように、桃佳はさっさと美緒を部屋の中に入るよう促していた。
こうなったら渡辺美緒の良識に頼るしかないと多希は美緒を見たが、当の彼女は桃佳に促されて靴を脱いでいるところだった。
もう多希にはため息をつくしかなかった。

「どうぞ」
桃佳はコーヒーの入ったマグカップを、美緒と多希の前に置いた。多希はそっぽを向いて黙りこくっている。
「ありがとう」幾分気持ちも落ち着いたのか、美緒にはさっきのような噛み付きそうな視線を投げかけては来ない。
「あのう」美緒がおずおずと桃佳を見る。「あなたは、柴山さんの・・・」
「妹ですよ」
少しだけ怒ったような顔で黙っていた多希が、やっと言葉を発した。その言葉に驚いて、桃佳は多希を見る。多希は美緒にはばれないように桃佳に目配せをした。
「妹・・・?」美緒は多希と桃佳を見比べた。兄弟だと言われると、初めに見たときは憎らしく思えた桃佳の顔でさえも、急に可愛らしく思えてくる。それに、色素の薄い肌や髪なんかも、確かに似ているかもしれないと。
「妹と一緒に住んでいるんですか?」
「いえ、僕の部屋は隣ですよ。仕事が終わったら、妹が食事を作ってくれてるんで」
よくもまあ、涼しい顔で嘘ばっかりつけるものだと、桃佳は心の中で舌を出した。
「それよりも渡辺さん」
「はい?」
「僕が妹の隣の部屋に住んでいるなんてことは、他の人には黙っていて欲しいんです」
まじめくさった顔でじっと見つめられ、美緒は目を瞬かせる。「どうして?」
「実は、僕らの両親は離婚しているんです。僕は父に、妹は母に引き取られて。暫く連絡が取れなくなっていたんですが、やっと会うことができて、それで隣同士に住むことにしたんです。でも、もう父にも母にも新しい家庭がありますから、僕らがこんなふうに会っていると分かったら、嫌な思いをすると思うんです。だから・・・黙っていてもらえますか?どこから話が伝わってしまうとも分かりませんから」
桃佳はコーヒーをすする。とてもじゃないが、多希のように次々に作り話はできそうもない。だいたいこんな話、信じるだろうか・・・と思っていると、美緒が身を乗り出して多希の両手を握った。
「分かりました!!絶対に誰にも言いません!!・・・柴山さんて、優しいお兄さんなんですね」
「いや・・・」美緒の迫力に押されて、珍しく多希がたじたじとしている。
「私、何でも力になりますから、言ってくださいね。いつでも駆けつけますから」
多希が美緒がしっかりと握っている手を離そうとしたものの、彼女はうっとりとした表情でその手を離そうとしない。そんな美緒を見て、桃佳は彼女が多希のことを好きなんだということが、今更ながら分かった。
そのとき、多希のジーンズのポケットで携帯が鳴った。それをきっかけに、多希はやっと美緒の手から離れることに成功した。
「もしもし。レントゲン柴山です。はい。分かりました。すぐに行きます」
「お仕事ですか?」桃佳が聞くと、多希はため息混じりに微笑む。
「うん。そんなにしないで終わるとは思うけれど」
「柴山さん!今日は当番じゃないはずじゃあ・・・」つい言ってしまって、美緒は口元押さえたが、言ってしまった言葉はもう取り返しが付かない。
「そこまで知ってたんですか?・・・急に交代になったんです」
呆れたような視線を投げられて、またしても美緒はしゅんと俯いた。
「じゃあ、モモ。行ってくるね」
多希はそう言うと、さっさと部屋を出て行ってしまった。美緒と二人残されてしまった部屋で、桃佳は何となく居心地が悪くて、冷めてしまったコーヒーに口をつける。
先に言葉を発したのは美緒の方だった。「ねえ。あなたモモちゃんって言うの?」
「はい」
「あの、柴山さんって彼女いないわよね?」
「と、思いますけど」正直、その質問の答えを桃佳は知らない。多希に彼女がいるかどうかなんて、考えたこともなかった。けれど、こうして毎日桃佳の部屋に来るところを見れば、特定の人はいないはずだ。
「じゃあ、私に協力してくれない?」
「協力?」
「私、柴山さんが好きなの。でも全然相手にされなくって・・・。モモちゃんが協力してくれたら、きっとうまくいくと思うのよ」ね、お願い。と美緒は胸のところで手を合わせる。
確かに悪い提案ではなかった。目の前の美緒はとても綺麗で、多希と並んでも見劣りしない。それに多希が美緒と付き合うようになったら、このゲームだってきっと意味がなくなる。
「ダメ?」覗き込むように、桃佳を見上げる美緒。
「・・・いいですよ」
「本当!?よかった!!」
美緒は花が咲くような笑顔を桃佳に向ける。自分よりもずっと綺麗なこの人こそ、多希には似合うと思った。



「ただいま」
一時間ほどして桃佳の部屋に帰った多希は、玄関に美緒の靴がないことを確認して心底ほっとする。
「ああ、お帰りなさい。今すぐに夕食の支度しますね」
すぐに夕食の準備がされ、二人はいつものように食事を取った。
帰ってきてからも、食事が終わってからも、口数の少ない多希を桃佳は横目でちらりと見る。はっきりそうとは分からないが、何となく怒っているような多希の顔。視線に気が付いたのか、多希も桃佳を見た。
一瞬目が合ったものの、美緒とあんな約束をしてしまったことで気まずさがあり、桃佳はすぐに目を逸らす。
「モモ」いつもよりトーンの低い声。
「え?」
「どうしてあの人、部屋に上げたりしたの?」その声は、やはり怒っている。
「どうしてって・・・。だって困っていたみたいだから」
「困ってたら、部屋に上げるわけ?困ってるのは俺のほうなんだよ」
「でも、あの人、多希さんのことが好きなんでしょう?多希さんだって、分かってるんでしょ?」
その言葉に、多希は明らかに苛立ち、眉間に深い皺を刻んだ。
「だったら?モモは俺にあいつと付き合えって言うの?」
今までに見たことのない多希の表情に、桃佳は戸惑う。
「あの人・・・綺麗だし、多希さんとはとってもお似合いだと思いますよ・・・?」
はあ、と短いため息が多希から漏れる。苛立った表情は、今は冷たく微笑んでいる。
「そうだろうね。俺があいつと付き合いでもしたら、もうゲームを続けなくていいとか考えてるんだろ?お前は駿の元に戻ってハッピーエンドってね」
見透かされて、桃佳はどきりとする。その表情に多希も気が付く。
「・・・やっぱりね」
多希は桃佳に近づくと、両手で襟元を乱暴につかむ。
「多希さん・・・!?」襟元を引っ張りあげられ、桃佳の表情に恐怖の色が浮かぶ。
恐怖の浮かんだ桃佳の顔を、目を細めて見て、多希はつかんだ襟元を強引に引き寄せると、桃佳の唇に自分の唇を重ねた。そしてすぐに唇も、つかんでいた手も離す。
「・・・そうはさせないよ。モモ。そんなに簡単に離してあげないよ」
氷のような視線で一瞥し、多希は自分の部屋へと戻っていった。

そのまま、その日はもう桃佳の部屋に来ることはなかった。




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