りんどう庵

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りんどう庵

モトカレ!!(お試し版)


三年目の再会 1

2012.02.10  *Edit 

 な、な、な、なんであいつがいんのよぅ!!!!

 谷村芽衣(たにむらめい)は、小さなバックで顔を隠しながら、柱の後ろに身を潜めた。せっかく綺麗に着飾っているのに、柱の陰に隠れてこそこそと『あいつ』の後姿を窺っている姿は、残念なほどに不審人物丸出しだった。

 よくよく考えれば、『あいつ』がここにいるのは決して不思議なことではない。
  本日の結婚式の主役、新婦は芽衣の高校時代からの友人だし、その夫となる人は、『あいつ』の友人なのだから。だから、当然式に呼ばれていても不思議じゃなかったのだ。


 くぅっ、もっとよく考えるべきだったわ!! 御祝儀渡した後じゃなければ、帰ってたのにぃ!!

 冗談とも本気ともつかないようなことを考えながら、芽衣はこそこそと顔を隠したままで会場に入り、自分の席を見つけてやはりこそこそと座る。
 すぐに渡された披露宴のパンフレットを取り出し、それを広げる。
 他人が見たらなんだかなあ……、な二人のエピソードはすっ飛ばし、座席票に目を落とす。勿論、探す名前は一つだけ。

『橘櫂理(たちばなかいり)』

 その名前はあっさりと見つけ出せた。
 新婦側友人席の自分とは反対側にある、新郎側の友人席。会場の端と端。パンフレット上の距離よりもはるかに遠い実際の距離に、とりあえず芽衣はほっと息をつく。すぐに顔を合わせてしまうことはなさそうだ。
 そして再びその名前に目を落とす。忘れたくても、この三年間、決して忘れることのできなかった名前。
「櫂理……」
 芽衣は小さくその名前を呟いた。途端に頬が熱くなる。それから、体の奥……女の部分も。思わず熱いため息が漏れだし、芽衣ははっとして、綺麗にセットしてきた髪が乱れるのもうっかり忘れて首を振った。

 櫂理と芽衣の出会いは、今日のように結婚式だった。
 すらりとした長身、柔らかそうなくせっ毛に、眼鏡の奥の涼しげな瞳。すっと通った鼻筋。薄い唇。一見すると冷たげな印象を受けたのも、今でも芽衣ははっきりと覚えている。
 なぜなら彼、橘櫂理の外見は芽衣にとってこれ以上ないほど『ストライク』だったから。だから、一瞬で彼の容姿が脳裏に焼き付いてしまったのだ。
 結婚式の後の二次会で初めて言葉を交わし、なんとなく気があって、後日二人で会う約束をした。そして、自然に付き合い始めたのが出会ってから一カ月も経たない頃。

 そして、刻みつけられてしまったのだ。
 とんでもない快感を……


 体に刻みつけられてしまった強烈な快感。
 それが急にはっきりと思いだされて、思わず芽衣は震えた体を抱きしめる。
 三年たった今でもはっきりと思いだせる。
 櫂理の指にさすられ、摘ままれた感触を。櫂理の舌がなぞり、吸い付かれた感触を。頭の中が真っ白になるくらいの快感が、体の芯を焼いていったのを……
 腰の辺りが疼くような感覚にとらわれ、芽衣はぎゅっと目を閉じる。三年も経ったのに、忘れたと思っていたのに、こんなにもはっきりと思いだされる感触。それは実際に与えられてもいないのに、芽衣の芯をじりじりと焦がす。

 信じられないくらいに、芽衣と櫂理の体の相性は良かった。
 自然、会えばいつもそうなっていた。社会人だった芽衣と、学生だった櫂理が会うのはいつも夜。話をする時間も忘れて、互いを貪り合っていたほど。
 だから芽衣は不安になったのだ。
 もしかして、自分は『それだけ』の女なんじゃないかと。だんだんエスカレートしていく行為、一緒にいる時も、服を着ている時間よりも裸でいる時間の方が長いくらい。怖くなってしまうほどの、快感……
 それで芽衣は、一週間ほど連絡を絶つことにしたのだ。
 会いたがる櫂理を何とかかわし、快感断ちをすること一週間。一週間ぶりに訪れた櫂理の部屋で、芽衣は見てしまったのだ。櫂理のベットで裸で絡み合う、彼と見知らぬ女を。
 それからのことは、もう正直良くは覚えていなかった。
 どうやって家まで帰ったのかも分からない。
 けれど、櫂理には自分以外にもああやって体を合わせる相手がいるんだということが悔しくて悲しくて、もう彼には会いたくなくて、すぐに携帯も替え、ひとり暮らしの部屋に戻ることもせずに実家に帰ったのだ。
 そうやって、完全に連絡を絶って、櫂理と芽衣の間は終わってしまった。


 そんな昔のことを思い出しながら、芽衣は少しだけしんみりとしてしまう。
 本当は携帯を変えたり、実家に戻ったりする必要なんてなかったのかもしれない。そう、本当に怖かったのは、櫂理の言い訳を聞くことじゃなく、全く櫂理から連絡がなかったら……ということだったのだ。
 もしかしたら、自分が大勢いる女の中のひとりで、言い訳することも連絡することも櫂理がしてこないんじゃないかと思うと、それが一番怖かった。
 愛されてなどいない、体だけの繋がりだったと知ってしまうのが怖くてならなかった。
 だから、連絡を絶ったのだ。

 あれから三年。
 芽衣も二十四歳になった。
 もう忘れたと思っていたのに、やっと忘れられたと思っていたのに。
 こんな形で再会するなんて、少しも思っていなかった。
 あれから何人かの男とも付き合った。けれど、誰とも長く続くことはなかった。そう、体が合わない。それが一番の理由。櫂理に刻みつけられた快感は、まるで呪いのように芽衣から男を遠ざけてしまっていた。
 それでも、もう櫂理のことなどちゃんと忘れたと思っていたのだ。今日、この場所で彼の後姿を見つけるまでは……


「めーいっ!!」
「……っぎゃ!!」

 急に後ろから抱きつかれ、芽衣は思わず酷い声を上げた。
 首と胸元に絡まる、細い腕を掴んで不満げに後ろを振り返る。こんなことをしてくるのは、誰だかよく知っている。

「もうっ、絹ちゃんたら。びっくりするでしょ!?」
「だって、芽衣。ひとりで百面相してるから、おかしくってぇ」

 大島絹(おおしまきぬ)はそう言いながらケタケタと笑った。
 褐色の肌に、やけに派手な顔立ちは東南アジアの女性を彷彿とさせるものの、絹はれっきとした純粋な日本人だ。派手な顔立ちに負けないほど、その出で立ちも派手だった。ざっくり開いた胸元と背中は、きっと会場中の男性の目を引き付けているに違いない。
 ――――まあ、本人としても見られることを意識して、そんな服をチョイスしたことを芽衣も知っている。

「受付のところで待ち合わせって言ってたのに芽衣ったらいないから、探し回っちゃったじゃない」
「……あ、ご、ごめん」

 少しだけふくれっ面の絹が座席に腰掛けながらそう言ったものの、芽衣を見つめる彼女の目は限りなく優しい。慈愛のこもった、とでも言うようなものだ。
 そんな愛情あふれる瞳をふっと細めて、すまなそうな表情を向けてくる芽衣の頭をそっと撫でる。

「いいのよ。そんなことで怒ったりしないわ。それより、何か見てたの?」

 手元を覗きこまれて、芽衣は慌てて開いたままのパンフレットを閉じた。

「あ、あ、これよ、これ。パンフレット。二人のプロフィールとか、見てる方が恥ずかしくなっちゃうよねっ」
「ああ、二人の生い立ちから出会いまで……ってやつ? 確かに、他人が見たらちょっと恥ずかしいわね」
 ひょいと芽衣の手元からパンフレットを取り上げて、それに目を落として絹はにっこりと笑った。それから少しだけ乱れた芽衣の髪の毛をそっと撫でる。

「ねえ、芽衣。何かあったかしら? 百面相、なかなか面白かったけど、せっかく綺麗に髪をアップしたってのに、乱れちゃってるわよ?」
 そう指摘され、芽衣は口ごもる。
 絹とは高校の時からの付き合いだ。
 けれど、絹は櫂理に事を知らない。付き合っていた頃も、絹には櫂理のことを殆ど話したことはなかった。櫂理と別れてしまったときは、さすがに耐えきれなくて泣きついてしまったけれど…… その時の絹の激昂ぶりと言ったら、それはもう芽衣の涙も一瞬で止まってしまったほどだった。
 絹は高校時代から、芽衣の保護者として周囲に認知されていた。
 その過保護ぶりと言ったら、そんじょそこらの変態さんも尻尾を巻くほど。
 だからこそ、櫂理と付き合っていることは内緒にしていたのに、ついつい悲しみのあまり芽衣は絹に泣きついてしまった。
 ……予想はある程度ついていたものの、『今すぐ殺してやる!!』『握り潰して使い物にならなくしてやる!!』と喚き散らす絹を必死に止めることで、芽衣はもしかしたら悲しみから逃れることができたのかもしれない。

 だからこそ、今日この会場に櫂理がいることは絹には絶対に悟られてはいけない。
 もしもあの時芽衣を泣かせた櫂理がこの会場にいることを絹が知ったら…… そう考えるだけで、芽衣の全身から血の気が引いて冷や汗が吹き出す。

 ――――ああ、きっと、流血沙汰になるんだわ。

 そんなことを本気で思って、そうとは気付かれないように芽衣は微笑む。



 そして、芽衣にとって長すぎる一日が幕を開けたのだった。



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