りんどう庵

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りんどう庵

モトカレ!!(お試し版)


三年目の再会 3

2012.02.10  *Edit 

 本当はこんなところに来たくはなかったのに……

 そんなことを思って不貞腐れていても仕方がない。そう思い直して、絹は大きくひとつ息を吐きだした。

 披露宴の後、絹は芽衣と連れだって早々に披露宴会場から退散するつもりだった。本当はあのキス男をとっ捕まえて、ボコボコにしてやろうかとも本気で思っていた。けれどそれよりも、あんな風に芽衣の唇を奪う野郎がいる危険な空間に、これ以上大事な芽衣を置いておくつもりは甚だなかった。
 それなのに、懐かしい高校時代の面々に捕まり、芽衣と二人引き摺られるように二次会の席に連れてこられてしまったのだ。
 それだけならば、懐かしい面々との楽しいひと時を過ごせるということでよかったのだけれど、なんとその二次会の席は新郎側の友人とも合同で、会場はまるでコンパのような雰囲気になってしまっている。
 新郎の友人の店だというそのこじんまりとしたバーは、ある種の熱気に溢れていた。
 恋人を見つける場として、友人の結婚式が多いというのもうなずける話だと、絹は妙に納得していた。

 芽衣の周りには、困り顔の彼女を囲むようにして数人の男たちが群がっている。

 ――――ま、仕方ないわね。あの子は人目を引くから。さすが、アタシの芽衣だわ。

 ふん、とどこか自慢げに腰に手を当ててふんぞり返り、絹は厳しい視線を一角に向けた。
 そこにいるのは、芽衣と同様に異性に囲まれているあのキス魔男、橘櫂理の姿がある。
 ……この男のいる空間に大事な芽衣を連れてきたくはなかった。再び苦々しく思いつつも、さっきからそんなことばかり考えている自分の頬を思い切りぶって、気合を入れ直す。

 ――――芽衣、アタシがあの男に芽衣に近づかないように釘を刺してきてあげるわ!! ……だから、もう少し我慢しててねっ。

 見知らぬ男たちに囲まれ、困り切った芽衣の横顔に絹は内心で手を合わせ、ぐっと拳を握りしめる。そして、櫂理に向けられた厳しいというよりもある種の憎しみさえも滲ませる視線を緩めると、柔らかな表情を完璧に作った。


「どうも〜、こんにちはぁ。あ、ちょっと、そこどけてくれる?」
「え? はあ? きゃっ!!」

 櫂理に群がっていた見知らぬ女を力技でどかし、絹は櫂理の隣に座るとにっこりと微笑みかけた。櫂理に群がっていた女たちは、絹に抗議の視線を向けたものの、逆に、笑顔なのに殺気の隠しきれない絹の一睨みに圧倒され、寒気を覚えつつ次々に席を立って行ってしまった。
 すぐにその席は絹と櫂理のふたりきりになる。
 突然登場した、見知らぬ派手な顔の女に微笑まれ、櫂理は一瞬驚いたような視線を絹に向ける。それから完璧に穏やかそうに微笑んでいる彼女同様、完璧に微笑んで見せた。

「はじめまして」にこり、と笑う絹。
「どうも」にこり、と櫂理も同様に微笑む。

 表面上は限りなく穏やかな初めの挨拶。
 けれど、どこからどう見ても限りなく胡散臭い。
 漂うそれを払おうともせずに、絹は更に胡散臭い笑顔を櫂理に向けた。

「はじめまして。ワタクシ、大島絹って言います。あなたは?」
「橘櫂理です」

 言葉尻にわざとらしいハートマークが見えそうな、甘ったるい話し方の絹に対して、櫂理はあくまでも紳士的に対応する。その、本心の見えない態度が癪に障って、絹は内心で「ふん」と鼻を鳴らす。

 キス魔のくせに。
 キス魔のくせに……っ。
 アタシの大事な芽衣の唇奪ったキス魔のくせに、紳士ヅラしてんじゃねえよっ!!

 絹は心の中で散々に罵り、涼しげな櫂理の綺麗な顔をピンヒールでぐりぐりと踏みつける妄想に一瞬唇の端を持ち上げ、それから胡散臭さ120%の笑顔をすっと引っ込めた。

「……さっきは随分ななさりようでしたわねえ……」
 胡散臭い笑顔を引っ込めた代わりに、絹の顔には怪しげな微笑が浮かんでいる。冷たい、ぞっとするような微笑が。
 その表情に、櫂理は警戒したように目を細めて絹を見つめている。けれど、あくまで紳士的な態度は崩さない。

「……なんの話ですか?」
「なんの話、ですって!?」
 絹は思わず声を荒げて立ち上がり周囲の注目を買ってしまい、ちっと小さく舌打ちをして声のトーンを落とす。
「あんた。アタシの芽衣に何してくれてんのよ」
「……アタシの芽衣?」

 絹の言葉に、それまで頑なに紳士の仮面を外さなかった櫂理の表情が、一瞬だけ不快感を示す。けれどそれは本当に一瞬だけですぐに消え去った。

「……何をおっしゃっているんですか?」

 にっこりと微笑み返され、絹はこめかみに青筋を浮かべる。ぎりっと噛み締めた唇は、血が滲むんじゃないかと思われるほどで。

「あんたね、ふざけんじゃないわよ。さっき、無防備な芽衣に何したのよっ!! アタシの可愛い……可愛い芽衣にぃっ!!」

 怒っていたと思ったら、絹は両手で顔を覆ってよよっと泣き崩れる。
 それから、本当に涙の浮かんだ瞳で、きっと櫂理のことを睨みつけた。

「あんた、芽衣のなんなのっ!!」びしっと櫂理を指さす絹。
「……元カレですよ?」ふんとため息をついて、櫂理はその指を払う。
「も、元カレ……!!」
「アタシの芽衣。に、聞いてないんですか?」

 分かり易い嫌味に、絹は奥歯をぎりりと噛み締める。
 そして、はっと三年前の出来事を思い出す。
『彼が浮気をした』
 そう言って、泣きながら胸に飛び込んできた芽衣のことを。あんな風に芽衣が取り乱して泣きわめいたのは、後にも先にもあの時しか絹は知らない。
 芽衣がどこの誰だか告白してくれるのならば、すぐにでもそいつのところに出向いて、二度と女の中に突っ込めないようにしてやろうと本気で思った。けれど、芽衣は最後まで男の事を何も教えてはくれなかったのだ。
 芽衣が必死になってかばっている男が、素性も分からないその男が、絹は憎くて堪らなかった。

 その男が、まさか、この男……?

「……まさかあなた、芽衣の三年前の……?」

 呟くようにそう言う絹の目は完全に血走っていて。けれど、それを知ってか知らずか、櫂理はまたも顔色一つ変えずにその質問に答えた。

「三年前。……ええ、確かに彼女と付き合っていたのは三年前だったと思いますよ」
「……やっぱり」

 ダン!!!!
 テーブルの上に、絹のピンヒールが勢いよく乗せられる。

「……てめぇ、ふざけんじゃねえぞ!! お前だったのか!!」

 絹がテーブルに片足を乗せ、櫂理のワイシャツの襟を掴んでいる。絹の怒鳴り声と共に静まり返る店内。深いスリットから伸びる、スレンダーな足を堪能している場合ではない。
 絹の両目には、殺気とも取れるような鋭い光が宿っている。

「ああ、皆さんすいません。大丈夫ですから気にしないでくださいね」

 本当に何事もないかのように、自分たちに注目している人たちに、櫂理は柔らかく笑顔を向ける。とても殺気の籠った視線に射られているようには思われない穏やかな笑顔で。静まり返っていた店内は、『何でもないんだと』ほっとしたように再びざわめきが溢れだす。
 それとも、巻き込まれたくなくて、見て見ぬフリを決め込んだだけか。とにかく、店内はそれまでの様子を取り戻す。

「芽衣を泣かせたのはお前だったんだな……!!」

 襟首を掴んでいる絹の手に力がこもる。
 低くくぐもった声は、周囲を気にしてというよりも、ただ単に怒りに震えているだけ。今にも噛みつきそうな絹の視線をさらりと受け流しながら、櫂理は一瞬目を細めて、それから驚いたように見開く。

「泣いてたんですか……? 芽衣が?」
「馴れ馴れしく芽衣とか言ってんじゃないわよ!! あの子を泣かすだなんて許せない……!!」
「そう……ですか。泣いてたんですか。芽衣が。そうですか」

 櫂理の口元が月形に綻ぶ。少しだけ、嬉しそうに。
 そんな彼の表情を見て、絹は更に襟首をぐいと引き寄せる。

「何、笑ってんのよ? 芽衣が泣いたことが、そんなに可笑しい? ……テメェ、二度と、笑えなくしてヤロウカ?」
「まあ落ち着いてくださいよ。あなたの芽衣さんが、真っ青になってこちらを見てますよ?」
「ええ!?」

 首がもげそうなほどの勢いで絹が振り返ると、見知らぬ男たちに囲まれた芽衣が、顔面を蒼白にしてこちらをじっと窺っていた。そんな姿が、絹にはプルプル震える、無垢な子ウサギに見えてしまう。
 するすると掴んでいた櫂理の襟首を離して椅子に座ると、緊張したようにこちらを見ていた芽衣がほっとしたような表情を作るのがはっきりと分かった。
 今ここで目の前の紳士ヅラをしたケダモノを成敗してやりたい気持ちを抑えつつ、絹は櫂理をぎりりと睨みつける。

「芽衣に免じて何もしないであげるわ。……本当なら、肋骨の三本くらい折ってやりたいところだけど」

 物騒なことを口にしつつ、櫂理を睨みつけたままで席を立つ。

「いい? 芽衣には近づかないで。私が芽衣を守るんだから」

 見知らぬ男たちから芽衣を救出するべく櫂理に背を向けた絹を、彼が呼びとめた。

「絹さん?」
「……なによ」
「よかったら、一緒に飲みませんか? ……とことん」



 ――――ふうん、私を潰して、芽衣に近づこうって腹ね。



「あら、面白そうじゃない。付き合ってあげてもいいわよ?」
「それは良かった。じゃ、ウォッカで乾杯といきましょうか」
「いいわね」

 運ばれてきた小さなグラスにウォッカを注ぎ、カチンと合わせてお互いに一気に飲み干す。
 喉を通過する熱い刺激に息を吐き出しながらも、絹は内心でほくそ笑んでいた。

 今まで飲み比べで負けたことなどないのだから。



 こいつの魔の手から、絶対に芽衣を守ってやるのよ!!



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