りんどう庵

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りんどう庵

モトカレ!!(お試し版)


三年目の再会 5

2012.02.10  *Edit 

「どうして俺の前から消えたりしたんですか?」
「……い、いやぁ……」

 離れようと思ったのに、芽衣がどれだけ体を捩っても、櫂理はその腕から逃れることを許してはくれなかった。
 転びそうになったところを支えられたせいで、芽衣の体勢は不安定なままで、そんなつもりもないのに櫂理に体を預けてしまう格好になっている。

 離れなきゃ……!!

 そう思うのに、体から力が抜けてしまって抵抗らしい抵抗さえもできない。
 抱きかかえるようにして芽衣の体を支えている櫂理の手が、今は彼女の美しいラインを作る背中からお尻を羽毛のようなタッチでそっと撫で上げている。
 その度に芽衣の体には淡い電流が走ったようになり、それを堪えようとすると、思わずうっすらと涙が浮かんでしまうほど。

 つ……と背中の窪みに指を這わされ、芽衣は「あ……」と掠れた声を上げて背中を仰け反らせる。その拍子に顎を掴まれ、意地悪く微笑んだ櫂理と真っ直ぐに見つめ合う形となった。
 再び心臓がどくん波打ち、芽衣は落ち着きなく視線をうろうろと彷徨わせる。けれど、強い力で引き寄せられ、かえって至近距離で櫂理と見つめあってしまう羽目となってしまった。
 眼鏡の奥で、どこか冷たそうな瞳がじっと芽衣を見つめている。
 口元は笑っているはずなのに、芽衣はその瞳が笑っているようには見えなくて、ほんの少しだけ眉を寄せた。

「どう、して、こんなことするの?」

 無理矢理顔を上げられて苦しい。それでもやっと絞り出した声に、櫂理はにっこりと笑って見せた。

「面白いからですよ。……さ、俺はあなたの質問に答えた。今度はあなたが俺の質問に答えてくださいね?」
「な、なに?」

 櫂理は眼鏡の奥で目を細める。その目は、どこか怒っているようにも見えた。

「どうして、俺の前から消えたんだ?」

 わざとらしいほどに丁寧な口調は消え去り、真っ直ぐに見つめてくる櫂理の表情に芽衣は戸惑った。
 そんなこと、聞かれると思っていなかったし、それにどうして芽衣が櫂理の元から去ったのか、それを一番よく知っているのは彼のはず。そう思ったら、急に芽衣の中に怒りがこみ上げてくる。
 そう、櫂理がさっきそう言ったように、彼は自分をからかって愉しんでいるんだ。心の中で嗤っているんだ……!!
 そう思うと、こみ上げた怒りはすぐに最高潮になる。
 三年前のあの日、私がどんな気持ちで携帯を変えて、部屋に帰ることもやめたのか。何も知らないくせに!! ただ、興味本位でからかってくる櫂理が許せない。

「い、いい加減にして!!」
「……っ」

 ばしんと小気味のいい音が、狭い洗面所に響いた。
 芽衣は手にしていたハンドバックを思い切り振り上げて、彼の後頭部辺りを思い切り殴りつけていた。殴られた当の櫂理は、後頭部を押さえて蹲っている。
 その隙に逃げだせばいいものを、芽衣は思わずやりすぎたかもしれないと不安になる。

「あ、あの…… 大丈夫?」
「……ってぇ……」

 声をかけても蹲ったままの櫂理に更に不安になり、芽衣も傍らに蹲ってその顔を覗き込む。

「あ、あの。ごめんなさい。大丈夫?」

 櫂理の肩にそっと手をかけた時だった。
 彼の手は罠にかかる獲物を待っていたかのように、一瞬で細い芽衣の手首を捕まえた。そしてぐいと引き寄せると、驚いて固まっている芽衣の唇を奪い、その艶やかな唇を舌先でなぞる。
 何が起こったのか、すぐにはわからなかった。
 唇を舐め回していた舌先が、芽衣の唇を割ろうとしたときにやっと自分が何をされているのか理解した。理解したと同時に、考えるよりも先に手が出ていた。……正確には、拳が。
 アルコールでへろへろの芽衣の一撃など、それほどの威力などない。けれど、拳が顔面にクリーンヒットしたのはそれなりに衝撃があったらしく、櫂理はよろめいて芽衣の手を離した。
 その隙に、今度こそ芽衣は彼のそばからすかさず離れた。
 ぴたりと壁に背をつけ、出口に向かってじりじりと退避する。背中を向けたが最後、再び捕まることを恐れるように、じりじりと。
 やっと出口のドアノブが手に触れたとき、芽衣は心底ほっとして櫂理に向かって口を開いた。

「……どうして俺の前から消えたか、ですって? 自分のしたことを忘れたの? それとも、あんなことをされてもあなたの言うことを聞く、都合のいい女とでも思ってた? 馬鹿にしないで」

 悔しさで唇が震えた。
 もう三年も前のことなのに、どうしてこんなに悔しいのか。もう終わったことだと思っていたのに、もう過去のことだと思っていたのに。それなのに、ぎりぎりと締め付けられるような悔しさがこみ上げてくることに、芽衣自身納得がいかない。
 だから、アルコールのせいで感情が昂ぶっているんだと自身を納得させる。

「馬鹿に、しないで!!」

 こんな風に激しい物言いをしてしまうのもきっとアルコールのせいに決まっている。
 櫂理が驚いたように目を見開き、それからどこか悲しげに眉を寄せたように見えたのも、きっとアルコールのせいに違いないのだ。
 本当は腹の中で大笑いしているのだから……

 どことなく悲しげな瞳の櫂理が気にかかったものの、芽衣は自分の中でそう結論付けて、勢いよくドアノブをひねって化粧室を飛び出す。勢いをつけて飛び出さなければ、振り返ってきっと微妙な表情をしているに違いない自分の顔をさらしてしまいそうで。
 そうなれば、櫂理の思う壺だ。
 それだけは嫌だった。



「芽衣ちゃん、遅かったね? お化粧でも直してたの?」

 ずっと隣で飲んでいた男が、新しいカクテルを芽衣に差し出す。
 芽衣はそのグラスを受け取ると、ぐいっと一気に喉に流し込んだ。冷たい液体が体に染みて、内側から冷やしてくれるようで心地いい。

「ホント、いい飲みっぷりだよね。もう一杯頼もうか?」
「はい。お願いします」

 芽衣は指先で唇についた水滴を拭いながら、こくんと頷く。
 途端に蘇る、さっきまでそこに触れていた、自分とは違う生暖かくて柔らかな感触。
 心臓がとくんと高鳴って、唇に触れていた指先をぐっと握り締める。からかわれていただけなのに、こんなにも囚われてしまう自分が情けない。

「はい、芽衣ちゃん。新しいの」

 目の前にカクテルグラスを差し出され、芽衣は反射的にそれを受け取るとぐいっと煽った。
 さっきよりもずっとアルコールが強いのか、途中で「けほっ」と小さく咳き込んでしまう。自分の中からほわっとアルコールの香りが抜けていく。
 明らかにアルコール度数の強いそのカクテルを、それでも芽衣は流し込むしかなった。視界がどんなにぐらぐら揺れようが、体が重くて仕方なかろうが、それでもこんな気持ちのままでもやもやしているよりも、何も考えられなくなった方がよっぽどいい。

 そんな芽衣を、男がにやりと見つめていたなんてこと、芽衣は知りようもなかった。


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