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りんどう庵

モトカレ!!(お試し版)


三年目の再会 6

2012.02.10  *Edit 

「芽衣ちゃん、大丈夫?」

 ずっと芽衣の横で甲斐甲斐しく芽衣にカクテルを渡していた男は、ほぼ意識を消失している芽衣に、わざとらしくそう声をかけた。
 男が声をかけても、芽衣はほんのちょっと眉を寄せるだけで、何も答えない……というか、完全に潰れていて答えようもない。
 男はにやりと頬を緩める。
 これを狙って、徐々アルコール濃度の高いものを注文していたのだから。だらりと脱力して、自分に身を寄せてくる芽衣を男は見た。豊満すぎる胸の谷間が視界に飛び込んできて、危うく下心が暴走しそうになる。
 けれど、焦ってはいけない。

 二次会ももうお開きに近づき、会場内は三次会の相談や、帰りの手段の手配などでそれぞれが自分以外のことにはあまり気にかけていない。それに乗じて、男は芽衣をここから連れ出そうと考えていた。

「大丈夫? ちょっと休めるところに行こうねえ」

 そう言いながら男が芽衣肩を担いで立ち上がろうとしたときだった。ぽんと肩が叩かれる。

「彼女をどこに連れて行く気ですか?」
「あぁ!? 関係ねえだろう!?」

 男が渾身の強面で振り返った先にいたのは、自分よりもずっと長身のイケメンで。しかも穏やかに微笑んでいるくせに、どんなに鈍い人間でも気づかない振りさえできなさそうな殺気を、ばんばん放出している。
 更に、最初は肩に置かれただけだった指先が、今はぎりぎりと肩にめり込んでいる。

「段々と強いカクテルを飲ませて、前後不覚に陥れた……ってところですか?」
「い、いや、その……」

 櫂理の言葉に、下心しかない男の目は泳ぎ出す。
 更に付け加えられた一言に、男は蒼白になった。

「意識をなくすまでアルコールを飲ませて、しかも承諾もなく事に及ぶようなことがあれば、罪になることもあるのでお気をつけくださいね?」

 男はさっさと芽衣を放り投げると、その場を立ち去っていった。ふんと鼻を鳴らして男の背中を見送り、櫂理は放り出された芽衣を抱きとめる。

「重い……」

 本人には聞こえていないのをいいことに、芽衣が聞いていたら真っ赤になって怒りそうな事を呟きながら、櫂理はふっと微笑んだ。
 それからソファーに座り、芽衣の小さな頭を膝にそっと乗せる。所謂膝枕の状態で、櫂理は芽衣の後れ毛を指に絡ませる。艶やかな髪も、滑らかなうなじも、三年前と何も変わっていない。今でも自分のものだと錯覚してしまうくらいに、記憶は生々しい。
 そっと柔らかな曲線を描く頬に指先を伸ばしかけたとき、覗き込む気配に手を引っ込めて櫂理は振り返った。

「やだあ、芽衣ったら熟睡?」

 にっこり微笑んだのは、芽衣と櫂理が出会った三年前の結婚式の主役だった当時の新婦エリで。芽衣と櫂理の顔を見てにっこりと微笑む。

「エリさん」
「二人は別れたって聞いてたけど、何なのかしら? これ。絹が見たらまた暴れるんじゃない?」

 くすくすと笑うエリは、さっき絹が怒り狂った理由も、どうやらわかっているらしい。

「大丈夫ですよ。絹さんならもうかなり前に潰れてますから」
「あらあ……惨敗だったのねえ。珍しい。あの子、負け知らずなのに」
「そうなんですか?」
「そうよ。あら、でもそれじゃ困ったわね」
「なにがですか?」

 エリはすっかり酔い潰れてソファーにひっくり返る絹を見て苦笑し、それから困ったように芽衣を見た。

「あのね、今日は絹が芽衣を家まで送る予定だったのよ。あの子の家、近くに仲のいい子いないもんだから、今日は絹と二人で帰って、そのまま絹が泊るってことになってたのよ。
 ……でもあの調子じゃ、絹が送るのは無理そうだし、だからって自力でも帰れなさそうよね」

 物言いたげな視線をエリが寄こすまでもなく、櫂理は眼鏡の奥の瞳を怪しげに光らせていた。

「……じゃ、俺が送っておきましょうか?」
「あらあ、いいの?」
「でも、彼女はどうします?」

 櫂理もぐうぐうと酔い潰れて眠っている絹をちらりと見た。
 正直、どうでもいいとは思ったものの、あそこまで酔わせてしまったのは櫂理。罪の意識は小指の先ほどはあるようだ。
 エリは「ああ」と面白そうに笑って、肩を揺らした。

「絹? 大丈夫よ、あの子なら。放っておいたって問題なしだわ」
「そうなんですか?」
「そうそう、気にしないで。芽衣のこと頼んだわ。住所はね……」

 エリの告げた住所に、櫂理は驚いたように目を見開いた。

「……あの、そこって白百合女子校の近くですよね?」
「ええ、そうね」

 エリの告げた住所は、ひとり暮らしのマンションやらアパートやらが建ち並ぶような場所ではなく、昔ながらの住宅街だ。お嬢様女子校、白百合女子高校の確かに近く。三年前、ひとり暮らしのアパートを引き払ってから、まさか『そんな場所』に住んでいようとは、露ほどにも櫂理は考えていなかった。

「芽衣の実家よ。二年ほど前に両親が転勤で仲良く遠くに行ってね。今は一軒家で優雅にひとり暮らしなのよ」

 櫂理の表情をどう解釈したのか、エリはそんな芽衣の状況を教えてくれた。

「まあ、そういうことだから、邪魔する人もいないし気兼ねなく送ってあげて頂戴ね」

 そう言ってエリは意味深にウインクしてみせる。更には「送り狼ってのもいいわね」なんてことまで耳打ちしてくる始末。
 どうやら別れたはずの二人が再会し、やけぼっくいに火が……なんてことを勝手に想像して楽しんでいるらしい。

 主婦め、勝手に楽しみやがって。

 そう内心で毒付きながらも、表面上は『そんなことあるわけないでしょう?』と言わんばかりに、少しだけ困ったような表情の笑顔を作る。

「とにかく、頼んだわよ」

 うふふ、と意味深な含み笑いを残してエリが去る。まっすぐにその背中は絹の元へと向かい、絹の耳元で大声で呼んでみたり、無理矢理に体を起こして往復ビンタを食らわしたりしている。
 そんな様子を横目で見ながら、櫂理は絹が目を覚まして再び邪魔されないうちに退散することに決め込んだ。

「おい、行くぞ。立てるか?」
「んん〜? 櫂理……? むーりぃー」

 一瞬目を開けた芽衣は、へらっと笑って再び寝息を立て始める。櫂理はため息をついて、芽衣を背中におぶって店を出た。
 そんな二人の後姿を、絹を起こすと言う名目でいたぶっていたエリが、満足そうに見つめていた。




「お願いします」

 乗り込んだタクシーで、櫂理はエリから聞いていた住所を運転手に告げる。
 タクシーは音もなく走り出す。
 芽衣はさっきと同じように、櫂理の膝に小さな頭を乗せて、相変わらず静かな寝息を立てていた。櫂理は無意識にその頭を撫でながら、窓の外を流れていく景色に目をやる。
 繁華街の華やかなネオンはもう見えない。
 代わりに昔ながらの住宅街が目に入ってくるようになる。もう時間も遅いので、灯りのついている家も少ない。
 けれど、櫂理には見慣れた風景。


「まさか、こんなところに住んでたとは……な」

 ポツリと呟く。

 まさかこんなところに。
 こんなに近くに。

 徒歩で三十分もかからない場所に、三年前に姿を消した女が住んでいるなんて思いもしなかった。



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