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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


29.ドライブ

2010.03.24  *Edit 

「清水。しーみーず」
駿は目の前の席で、ぼんやりと外を眺めている恋人の顔を見つめた。ぼんやりとして、自分が呼ぶ声にも気が付いていないその横顔さえも、心から可愛らしいと思う。
もっとその横顔を見つめていようかとも思ったが、やはりすぐに自分のことを見てほしくて、その手に触れてみる。すぐに金縛りが解けたように、桃佳は駿を見つめた。
「随分とぼんやりしていたね?何かあった?」
「えっと・・・ごめんね。ちょっと考え事していて」桃佳は申し訳なさそうに笑うと、まだ残っていたカフェオレを飲み干した。本当は、昨日怒ったように部屋を出て行った多希のことが気になっていたのだ。駿と一緒のときに、多希のことを考えるなんて最悪だと、桃佳は自分を戒めた。
「明日、どっか行きたい所ある?」
急に問われて、桃佳には最初何のことだか見当も付かない。けれどすぐに明日が土曜日だということを思い出した。
「そっかあ・・・。もう明日は土曜日なんだね」色々ありすぎて、一週間など本当にあっという間だと桃佳は思う。
「駿ちゃんは?駿ちゃんはどこか行きたいところある?」
にこりと訊ねられて、駿はふっと笑うと桃佳の耳元に自分の口を近づける。「・・・そんなこと聞いていいの?また清水とラブホに行きたいとか言うかもしれないよ?」
桃佳は真っ赤になって駿を見つめる。その顔を見て、また駿が笑った。「冗談だよ」
別にそれでもいいと桃佳は内心思ったけれど、勿論そんなことは駿には言えない。考えるだけで顔から火が出そうだ。
「とりあえずさ、明日の昼過ぎにでも清水の家に行くよ。それからどうするか考えようか。もう時間だしね」駿が手を差し伸べる。もう駿はバイトに行かなければならない時間だ。
「そうだね」差し出された駿の手につかまる。短い時間でも、二人でこうして会える時間は、桃佳にとっても駿にとってもかけがえのない時間だった。





「どこまで行くんですか?」
「いいから、もうすぐ」

桃佳は車の助手席で、窓の外に目をやった。
街の明かりはどんどんと遠のき、ポツリポツリと時々外灯が照らすだけの、寂しい道に入ってきていた。
車で出発して、もう1時間近く経とうとしている。

だいたい一時間前、多希は急いで帰ってくると、夕食の支度を始めようとしていた桃佳の手を止めた。おにぎりを作って欲しいと言う多希の言葉に従って、何個かおにぎりを作り終えると、引っ張られるようにして車に乗せられたのだった。
それから、「どこに行くんですか?」「何をするんですか?」という桃佳の問いには一切答えず、多希は車を走らせている。昨日の怒ったような様子は微塵もなく、その横顔はいつもどおりの多希だ。

どんどん道は細く暗くなっていくので、桃佳の不安は募るばかり。さっきから、ほとんど車とすれ違っていない。道の両側には木が生い茂っていて、山道か何かなんだろうということだけは分かる。けれど、多希がどこに向かおうとしているのかは知りようもなかった。
「多希さん・・・」
思わず不安そうな声をあげた桃佳を横目で見て、多希は微笑んだ。「大丈夫。人の来ないような山奥に連れてって、そこに置き去りにしようなんて思ってないから」
「ええ!!や、やめて下さいよ!!」
「声ひっくり返ってるし」多希は桃佳の反応におかしそうに笑う。「だから、そんなことはしないって」
「だって、多希さんならやりかねない感じがする」
「そんなにひどい奴じゃないって」
カーステレオの仄かな明かりに照らされた多希の顔は穏やかで、桃佳は少しだけほっとする。
どっちにしてもハンドルを握っているのが多希である以上、桃佳にはどうすることもできない。
くねくねとした細い道を暫く走ると、暗がりの中でも少し開けた場所についたことが分かった。
「ほら、着いたよ」
数台分の駐車スペースと、あまり明るくない外灯がひとつ立っている場所に、多希は車を止めた。他には誰もいない。
「着いたよ・・・って、ここどこですか?」
桃佳の質問には相変わらず答えず、多希はさっさと車のエンジンを切って車から降りていった。回り込むようにして、助手席のドアを開ける。
「降りといでよ。あ、おにぎり持ってきてね」
「・・・はい」
桃佳はおにぎりの入った袋を抱えると、車の外に降り立った。
6月とはいってもすっかり日も暮れてしまっている。部屋着のままで引っ張られるようにして出てきた桃佳は、思わず身震いをした。

「ほら、モモこっちだよ」
薄暗くても外灯がひとつあるおかげで、手招きしている多希の姿ははっきりと見える。
おにぎりの入った袋を抱きしめるようにして小走りで多希の呼ぶほうへと急いだ。抱えたおにぎりだけが、ほんのりと桃佳を暖めてくれる。
多希がいる場所は展望台のようになっていて、ベンチがふたつ並んでいる。
「ここ、何ですか?」
「いいから、こっちにきて座ろう」
多希は桃佳の手をつかむと、ベンチに腰掛けた。「ほら、見てみ」
「う・・・わああ。綺麗」
そこには、宝石をちりばめたような一面の夜景があった。
「ほら、上も」
言われて桃佳は天を仰ぐ。そこには夜景に負けないくらいの星がきらきらと瞬いていた。
上には満点の星空。下には溢れるような夜景。桃佳は言葉をなくして、じっと両方の輝きに見入った。寒ささえも忘れるようだった。
「綺麗でしょ?モモに見せたかったんだ」
「うん。綺麗ですね・・・。ありがとうございます」
そう言って横を見ると、とても優しい笑顔を浮かべた多希の表情に出会い、桃佳は思わずどきりとしてしまう。それから、さっき引っ張られたときのまま繋がれた手に気がつき、慌ててその手を離す。
「ちぇ、手、離されちゃったか」多希は残念そうに、離された手をぶらぶらさせた。「そうだモモ、おにぎり食べようよ」
「ああ、それでおにぎりだったんですね」
「そうそう。外で食べるのもたまにはいいでしょ」
袋に入れてあったおにぎりを二個取り出して、ひとつを多希に渡す。まだ袋の中にはおにぎりがふたつ入っていたものの、さっきよりも桃佳にその暖かさを伝えてくれなくなり、思わず彼女は身震いをした。
「寒いの?」おにぎりを受け取りながら、多希が桃佳の顔を覗き込む。
「・・・大丈夫です」
そう答えたものの、半袖から伸びた腕には鳥肌が立っている。
「強がりだよね、モモは」
にこりと笑って、多希は隣に座っている桃佳をひょいと抱き上げると、自分の足の間に座らせた。
「た、多希さん!?」
急に抱き上げられ、多希の足の間に座らせられた桃佳はじたばたとした。じたばたとはしたものの、背中から伝わってくる自分のものではない体温は、この上なく心地よかった。
「いいから。この方があったかいだろ?風邪引いたら、困るんだから」
確かに、この気温の中で半袖では風邪も引きかねない。多希とこうしてくっついていれば、風邪も引くことはなさそうだった。
「確かに・・・あったかいです」
「そうそう。素直にそうしてたほうが、体にいいって」じたばたするのをやめた桃佳の背後で、かさかさとおにぎりを開ける音が聞こえる。「それに・・・。明日は駿とデートでしょ?」
ピクリと桃佳の体が硬くなるのが、多希にも分かった。
「そうですよ」
桃佳はわざとぶっきらぼうな声を出して、おにぎりにかじりつく。
「楽しんでおいで」
「楽しんできますよ」多希を振り返り、にっと笑う。「正当な権利ですから」
そんな桃佳の表情に、多希は少しだけ呆れたように笑った。
首をひねって後ろを振り返っている桃佳の頭を抱え込むと、多希は素早くそのおでこに軽くキスをした。キスをすると、すんなりと解放してくれた。
「また!!すぐそういうことするんですから!!」
桃佳は向き直って、持っていたおにぎりを口に運ぶ。
動揺していることを悟られたくはなかった。
「気をつけないと、いつでもするよ」多希もおにぎりを食べながら、くくっと笑っている。「ああそれから、また変な気を起こして余計なことをすると、今度は何をするか分からないからね」
少しだけトーンの落とされた声に、どきりとする。昨日のことを言っているのだということが桃佳にもすぐに分かった。
「いいね?簡単には離してあげないよ?」今度は少しだけ茶化すような声、けれどその声とは反対に、遠くの夜景を眺める多希の目が光をなくしていることを、桃佳は知る由もない。



それから二人でどれくらいの時間そうしていただろうか。
桃佳のくしゃみを合図にして、車に戻った。車の中は暖かくて、桃佳をほっとさせた。
「そろそろ帰ろうか」
「はい」
多希がエンジンをかける。桃佳はガラス越しに、満天の星空をもう一度眺めた。
こんなに綺麗なところがあるなんて知らなかった。
こうやって連れてきてくれた多希に、素直に感謝を伝えたくて「ありがとうございました」と呟く。
「ん?・・・うん」
ハンドルを切りながら、照れたように顔を背ける。
もしかしたら、明日の駿とのデートのことで、多希がプレッシャーをかけようと桃佳をこんなところまで連れてきたのではないか、と初めのうちは疑ってもいた。
けれど黙って星を見ていると、多希がこの星空と夜景を桃佳に見せたかっただけのような気がしてくる。
横では、くねくねと曲がった山道を下る、真剣な顔つきの多希がいる。
ハンドルさばきは、免許証を持っていない桃佳が見ても大変そうだ。プレッシャーをかけるだけなら、こんな山道登る必要なんて少しもない。ということは、やっぱりきっと何の下心もなかったんだろう。そう思うと、なんだかおかしくなってくる。

「何笑ってんだよ?」
一人で笑っている桃佳に、多希が少しだけ不機嫌そうに声をかける。なんだか桃佳に見透かされた気がして、それが面白くなかった。どうして桃佳をここに連れてきたのかは、多希にもよく分からない。けれど、何年か前に拓巳と見つけたこの場所を、桃佳にも見せたくなったのは事実だ。
明日駿とデートの桃佳を、ちくりちくりといじめてやろうとも思ったけれど、視界いっぱいの星空と、きらきら光る夜景を見ておにぎりなんて食べていると、そんな気持ちもどこかに消えてしまっていたのだった。
『何やってんだろうな、俺』
そう心の中で呟いて、何度ため息をついたかわからない。
「そうだ、多希さん!」
急に声をかけられて、はっとする。「何?」
道がグネグネとうねっているため、桃佳はさっきからシートベルトにしっかりとつかまっている。「あの、メリーって何のことですか?」
「は?メリー?」
「はい。そのう、一緒に、寝た、時」言いずらそうに言葉を切る桃佳がおかしくて、多希は笑いながら代わりに言う。
「ああ、一緒に寝たときね」
「はい。私のこと、メリーって・・・」
ライトに照らされる夜の闇を見つめながら、あの日の柔らかな感触を思い出す。
「ああ!!そうそう。モモの髪の毛、柔らかくてふわふわで、メリーのこと思い出したんだ」
「だから、メリーって」
「昔飼ってた犬!!ヨークシャテリア!!よく一緒に寝たんだ。モモと一緒に寝てたら、メリーのこと思い出したよ」
嬉しそうに話す多希とは対照的に、桃佳は少しだけ不満げだ。
「・・・犬ですか、私は」
少しだけ道が開けてきて、カーブも少なくなってきた。ライトで照らされた先には暫く直線が続いている。
多希はそっと桃佳に手を伸ばして、メリーと同じ感触の髪の毛を撫でる。
「わん」
桃佳がふくれっ面でそう言ったので、多希は声をあげて笑った。
「メリー、今日も一緒に寝ようね」
その一言に桃佳はどきりとしたけれど、犬だと思われているのならば、なんだか少し気持ちも軽くなった。




すうすうと、気持ちよさそうな寝息が漏れている。
突然ドライブなどに連れて行かれて疲れたのか、この一週間色々あったせいなのか、桃佳は布団に入るとすぐに寝息を立てていた。
多希は何となく眠れなくて、隣で背中を向けて眠る桃佳の髪の毛を指に絡め取った。
「ん・・・」
小さな声を出して、桃佳が少しだけ多希のほうに顔を向ける。
多希はその頬をそっと指でなぞってから、彼女を起こさないように布団から抜け出る。
ベットの端に腰掛けて、いつものようにタバコに火をつけた。ライターの火が、一瞬桃佳の横顔を鮮やかに浮かび上がらせる。
煙を思い切り吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。
桃佳はさっきと同じように、穏やかな表情でゆっくりとした寝息を立てている。



明日、桃佳は駿のものになる。




多希はもう一度思い切り煙を吸い込んだ。




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