りんどう庵

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りんどう庵

モトカレ!!(お試し版)


番外編:チョコレートより甘い 2

2012.02.15  *Edit 

「あっ、帰ってきた!!」

 芽衣はバイクのエンジンが止まる音を聞き、ぱっと顔を綻ばせると玄関まで迎えに出た。
 ほどなくして玄関のドアが開き、見慣れた顔が現れる。

「お帰りなさい、櫂理」
「ただいま……うっ」

 そう言って櫂理は手のひらで口元を覆った。
「櫂理?」
 櫂理の顔色はどことなく土気色で、足もともよろよろしている。具合でも悪いのだろうかと、芽衣は眉をひそめた。
「具合でも悪いの? 顔色、とっても悪いけど……」
「大丈夫ですよ。その……ちょっと……いえ、何でもないです」
「でも、気持ち悪そう」
「えっと、その……胃の具合が悪くて」
「えー? 大丈夫? ご飯食べられる? それとも休んだ方がいいかな」

 普段体調を崩す事の少ない櫂理。その櫂理が胃の調子が悪いというのだ。どうしていいものか芽衣は思わずおろおろとしてしまう。
 胃薬を用意すべきか、とにかく消化のよさそうなお粥でも作ろうか。そんな事を考えながらうろうろしていると、大きな掌で髪の毛をくしゃりと撫でられた。
「大丈夫ですよ。ご飯も食べられますから。大したことはないんです」
 にっこりと櫂理が微笑む。
 けれどその顔色はやはり土気色で、芽衣はその言葉を素直に信じられない。

「本当に? 本当の本当? 櫂理、無理して……んぐ」

 まだまだ確認したかったところだったものの、その先の言葉は塞がれてしまった。櫂理の唇で。
 そのまま深く吸われて、呼吸さえも奪われ、最終的に意識さえもトロンと混濁してくる。完全にイケナイスイッチがオンになる一歩手前で、櫂理が唇を解放してくれた。
 そして吐息のかかるほどの距離で、妖しく微笑む。

「ね? これだけできるんだから大丈夫でしょう?」
「う……うん。そ、だね」

 トロンとしたまま、こっくりと頷く。何だか上手くあしらわれたような気がするものの、もう追及する気さえ起らない。すっかり上手に躾けられてしまった。


 夕食を終え、二人でビールを飲みながらテレビを見る。
 穏やかな時間。
 別に特別になにをするわけでもないけれど、芽衣はこのゆっくりと流れる様な時間が大好きだった。
 ……けれど、何やら今日は雲行きが怪しい。と、いうか。櫂理が妙に無口なのだ。
 でも怒っているふうでもない。
 櫂理が怒ると分かりやすい。こめかみのあたりが『ひくっ』とするから。こめかみの『ひくっ』が出たら、その時は捕まる前に逃げた方が賢明。
 と、分かってはいるものの、今まで一度も魔の手(?)から逃れられたことはない芽衣。もれなくひっ捕まえられ、妖しげなアクマに骨の髄まで食われるのがオチ。
 そんな事を思いながら、芽衣はちらりと櫂理を見る。
 やはり怒っているわけではなさそうなものの、どうにも口数が少ない。
 まだ気持ちが悪いのだろうか、とも思ったものの、自分からビールを飲むと言ったあたり、それほど気持ちが悪いわけでもなさそうだ。

「ねえ、櫂理?」
「何です?」
「……その、職場で何か嫌なことでもあったの?」
「いえ? 別に」
「そう」

 会話、終わっちゃったよー!!

 あっさりと会話が途絶え、芽衣は内心で慌てる。
 怒っているわけでもないのに無口な櫂理。何かを言うわけでもないのに、時々じっと見つめられる。意味深な瞳で。

 うぅ、顔に何かついてるとか? それを言えずにいるとか!?

 芽衣はぺたぺたと両手で頬に触れてみる。
 勿論何もついていない。一時間ほど前にお風呂にも入ってきたのだ。心配ないはず。

 じゃあ、なに? 何でだんまり? どうして時々じーっと見てくるの?

 何だか妙な空気に芽衣は耐えられずうろたえた。
 間違いでなかったら、何かを期待されているような気がする。
 けれど、まだ櫂理のビールは空になってはいないし、おつまみも出ている。何を求められているのか分からず、芽衣は頭を抱えそうになった。
 そしてはっと思いだしたように席を立つと、戸棚から小箱を持ち出した。

「櫂理、ねえ、疲れてるんじゃない? 疲れている時は、甘いものがいいんだよ。ほらほら、新発売の一緒に食べよう」

 戸棚から持ってきた小箱――――チョコレートをテーブルに置くと、櫂理は眼鏡の奥の目をすうっと細めた。チョコレートの箱を開けようとしていた芽衣は、もちろん櫂理が目を細めたことも、こめかみが『ひくっ』と動いたことも気が付かない。

「はい、櫂理。どうぞ」
 チョコを一粒差し出せば、にーっこり笑顔を返された。けれど、差し出したチョコは受け取らない。
 その笑顔に、背中にぞぞぞと冷たいものが走った気がした。

 な、なに!? なぜにそんなに笑顔!?

 あまりにもにっこりと返された笑顔に本能的に怯えつつ、芽衣は極めて明るく、けれど内心焦ってそのチョコをひとつ摘んで口の中に放り込んだ。

「ん、美味しい。美味しいよ、櫂理」

 ちらり。
 伺うように櫂理を見れば、やはり先ほどと同様ににーっこり笑っている。芽衣は思わず反射的に目をそらした。何か、見てはならないようなものを見てしまった気がして……
 誤魔化すようにテレビに視線を向ける。画面の中では、女子アナウンサーが明るい声で今日一日の事を話していた。そして、テレビの前の誰かに語りかけている。

『今日はバレンタインデーでしたね。今年はバレンタインデーが平日ということもあり、昨年よりも売り上げが伸びているようです。義理チョコを配った方も多かったのではないでしょうか?』

 ――――ばれん、たいんでー……? バレンタインデー!! 今日ってバレンタインデー!? わ、忘れてた!!

 思わず口の中から食べかけのチョコレートが落ちそうになる。慌てて口元を閉じ、ちらりと櫂理に目をやれば……

「ひいいいいいいいいいっ!!」
「……何が、ひい!! なんですか?」

 にっこり笑った口元とは正反対に、眼鏡の奥の目はちっとも笑っていない。こめかみは……『ひくっ』と引きつっている。
 櫂理が何を期待していたのか……本人に確認するまでもない。
 今日がバレンタインデーだと分かっていたのだ。

「あああああ、ああ、あのね、あのね、櫂理」
「何でしょう?」
「ご、ご、ごめんなさい!! て、てっきり来週だと思って……」

 頭の上で両手を合わせて平謝り。
 本気でバレンタインデーは来週だと思っていた。いや、正確に言えば、今日が何月何日か、ということさえ頭になかった。ただ、漠然と『まだ先』と思っていたのだ。
 最近、仕事の方も忙しかったし、夕食の準備に気を取られていてバレンタインまで気が回らなかったのだ。

「ご、ごめんなさい……」

 何をやっているんだろう、どうして最初のバレンタインを忘れちゃうんだろう……そんな事を思えば、あまりの情けなさにじわりと涙が浮かびそうになる。
 しゅんと項垂れて消え入りそうな声で謝れば、櫂理の大きなため息が耳に入る。

「……いや、こうなる事を予測しておくべきでした。相手は芽衣ですからね。十二分にこういう展開はありえたんです。むしろ、こういう展開を予測するべきでした」
「か、櫂理さん?」
「仕方がないですよ。忘れていたものは」

 相変わらずの笑顔を顔に貼りつけたまま、櫂理がずいと芽衣ににじり寄る。
『仕方がない』と言ってくれているのに、芽衣はまたしても本能的に危険を察知した。

「本当に、ごめんなさい」
「いいですよ。きっと、芽衣も疲れているんですね。最近忙しそうでしたから。疲れた時には甘いものがいいんでしょう? ほら、あーんして」
「か、かい」
「あーん、してください」
「……あ、あーん」

 笑顔の迫力に押され、芽衣が口を開けると、テーブルの上に出してあったチョコレートがひとつ口の中に入れられる。

「美味しいですか?」
「ん、うん」
「じゃあ俺もいただきましょう」
「……!! んんっ」

 綺麗な顔が覆いかぶさってきたかと思うと、唇が重なる。途端にするりと伸びてきた櫂理の舌先が、芽衣の口の中から半分溶けかかったチョコレートを攫っていった。

「うん、甘い」

 にやり、と笑って、唇についたチョコレートを舐める櫂理の仕草に、芽衣の心臓は跳ね上がる。その仕草は、まるで肉食獣を思わせて……思わず食べられたいと思ってしまう。
 再びチョコレートを差し出され、芽衣は自ら薄く唇を開けた。
 口の中に落とされたチョコレートは、さっき自分で食べた物よりも、甘くて濃厚で……とろりと蕩けた頃を見計らったように、櫂理の唇が近づいてくる。
 後頭部を抱え込まれ、動きを封じられる。けれど、そんなことをされるまでもなく、逃げようだなんて……逃げたいだなんて芽衣は少しも思わない。
 蕩けるチョコを芽衣の口から攫おうとする櫂理の舌に、自らの舌を絡ませる。
 二人の舌先が絡まり合い、ひとつのチョコレートを味わい合う。それは何よりも甘い。蕩けたのはチョコレートだけではなく、芽衣自身……

「……ん、はぁ」

 漏れる吐息も、無意識に甘く色づく。
 きっと櫂理を見る瞳も、チョコレートのようにとろりと溶けているに違いない。

「本当は、少しだけ期待してましたけどね」
「ごめ……」

 謝罪の言葉を口にしようとすると、また口の中にチョコレートが落とされる。

「いいですよ。普通にチョコレートをもらうより、こっちの方がよっぽど甘くて美味しいですから」
「……ふぁ」

 まるで、自分ごと食べられてしまうんじゃないかと錯覚するように奪われ、眩暈が起こる。舌に感じるチョコレートの味は、この世のものとは思えないほどに甘く芳醇。

「言わなくても分かってると思いますが、チョコレートの代わりに十分に味わわせてもらいますよ」

 恥ずかしくなるようなセリフでも、櫂理なら許せてしまう。それどころか、そうしてほしいと望んでしまう。

「私、バレンタインを忘れていて、もしかしたらよかったのかも……」

 思わずそんなことを口にすれば、櫂理がにやりとアクマの笑みを浮かべた。

「……やっぱり芽衣はチョコレート並みに甘いですねえ。俺の期待を裏切った罪が、そんなに甘いものじゃない事を、よーくよくそのカラダに叩きこんであげましょうね」
「……え? ええ!?」
「では、いただきます」
「ぎゃ、ちょ、ちょっと待ってー!!」
「無理です」
「わ、あぁぁぁああああ、んああああっ!!」

 甘くて……甘くない夜は、始まったばかり。


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~ Comment ~

NoTitle 

拝読させていただきました。

芽衣がとてもうっかりさんで可愛らしかったです☆
前回のお話からどのようなチョコをプレゼントするのだろうと色々予想していたのですが、なんだか色んな意味で安心しました。
頑張ってチョコを平らげた櫂理が少し哀れでしたw
  • #218 桜葉久遠 
  • URL 
  • 2012.02/15 21:56分 

Re: 桜葉久遠さま。 

いつもありがとうございます^^

櫂理を哀れだと思っていただけて、よかったー!!
今回の番外編は、チョコレートまで平らげて、物凄く芽衣の事を想って行動したのに、ちっとも報われない櫂理がテーマだったので(笑)
哀れだと感じていただけたら、万々歳です!!
しかも、『色んな意味で安心』って……(^_^;)
思わず久遠さんのコメを見てぷっと笑ってしまいました。

また別の番外編も考えていますので、その時にはまたよろしくお願いします^^
  • #238 沢上澪羽 
  • URL 
  • 2012.02/20 23:26分 
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