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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


3.秘密にする

2010.03.23  *Edit 

携帯電話の着信音で、彼女ははっとして浅い眠りから飛び起きた。

『駿ちゃん』

携帯の画面に表示されている名前に、思わずごくりと唾を飲む。
携帯を持つ指が震えている。
戸惑っているうちに、着信に設定している流行のアーティストの明るい歌声が数十秒鳴って、電話は沈黙した。



大きなため息をついて、桃佳は髪をかきあげる。


...あれから、どうやって部屋にたどり着いたのかもよく覚えていない。
ワタルがホテルの部屋を出て行ってから、桃佳も何とか服に着替えてホテルを出た。それからどうにか独り暮らしのこの部屋にたどり着いたのはもう明け方のことだった。
倒れこむようにベットに横たわり、考えても消せない昨夜の出来事を、ぐるぐると考えているうちにいつの間にかうとうとと眠ってしまったようだ。
時計を見ると、9時を少し回ったところだ。
部屋に差し込む光が、桃佳の気持ちとは反対に、綺麗な晴天であろうことを教えてくれている。

彼女はしばらく手の中の携帯をじっと見つめて考え込んでいた。
「どうしたらいいんだろう...」
そう呟いてみても、もちろん誰も答えてなんかくれるはずがない。
昨日自分は、酔っていたと言っても、駿を裏切って知らない男と関係を持ってしまったしまった。
「一夜の過ち・・・」
桃佳は口の中で呟いた。
あの時ワタルはそう言って部屋を去っていった。
よくあることだと。
けれど、よくあることの一言で全てをなかったことにしてしまえるほど、桃佳は大人ではない。
昨日の夜、ワタルと一緒にお酒を飲んで楽しかった。だからこそ弱いことを知っていて、ついつい飲みすぎてしまった。
飲みすぎて前後不覚になってしまった。
そんな状況で、正確な判断なんてとても無理だったのかもしれない。
昨日の出来事は、不可抗力だったと・・・。
けれどそんなことは言い訳に過ぎないことも、桃佳には分かっている。相手がワタルだと知っていて、彼を受け入れてしまった自分を認識しているから。
これから自分はどうするべきなんだろう?
本当のことを駿に話して、これからのことは駿に決めてもらうのが一番いいのかもしれない。
けれど、もしも駿が怒って「別れる」と言い出したら・・・?
「別れる」と言わないまでも、きっと彼の桃佳に対する思いは、今までのものとは違ってしまうに決まっている。


そう思うと、またじんわりと涙が出てきた。
こらえようと思っても、喉のあたりに熱い塊があって、それが嗚咽と共に新しい涙を作り出した。
涙がボロボロこぼれ、声を殺してしゃくりあげながら、それでいて、頭の片隅はどこか冷静だった。
その冷静な部分が、罪の意識でしゃくりあげる桃佳にそっと耳打ちをする。

『彼の言うように、一夜の過ちとして忘れてしまおう』

でも...と、桃佳は思う。
本当にそんなこと、できるんだろうか?

『ワタルさんなんて、きっともう会うことはないよ。大丈夫。私が黙っていれば、昨日のことなんて誰にもわかるはずないよ』

確かに、合コンに行っていた他のメンバーだって、桃佳がいなくなったことにさえ気が付いていなかった。
そう、ワタルとだって、もう会うことはないかもしれない。
会ったところで、お互いにそんな話を持ち出すシチュエーションになるはずもない。
そう、私さえ黙っていれば...。

『そうだよ、なかったことにしちゃおうよ。正直に話したって、駿ちゃんのこと、傷つけちゃうだけだよ』


桃佳は袖で、ぐいっと涙をぬぐった。
「私さえ黙っていれば、なかったことにできる。駿ちゃんのことも傷つけなくってすむ」
そう呟いた。
本当は桃佳だって、これがどうしようもない現実逃避だってことぐらいは分かっていた。
それに、『駿を傷つけない』と言うよりも、その嘘が『自分を守るため』に他ならないことも。
桃佳がなかったことにしようとしたって、昨日の出来事はもう消しようもないんだし、黙っていたからと言って、駿を裏切ったことには変わりがない。
しかも、そうすることが駿を更に裏切ることだと言うことも。
それでも、今は自分を守るためにも、ずるいと分かっていてもこの考えにすがるしかなかった。
そして、同時に駿にも自分にも嘘をつき通す決心をするしかないのだった。





桃佳の浅はかでいて強い決心を見透かしたかのように、手の中の携帯が再び鳴る。
想像通り駿の名前が表示されていて、桃佳は一呼吸置くと通話ボタンを押した。

「もしもし?」
「あ〜、清水?おはよう」
一点の曇りもない、駿の明るい声に、決心したばかりの心臓がズキリと痛む。
「駿ちゃん、おはよう」
「昨日遅かったの?」
「ううん。ちょっと飲みすぎちゃって、それで家に帰って来てすぐ寝ちゃったの」
桃佳の嘘に、駿は「やっぱり、そんな事だろうと思った」と、笑い声を上げた。
けれど、本当は少し心配していた。
何かあったんじゃないか・・・と。でもそんなことを桃佳に気取られたくはない。ささやかな彼のプライド。
「今日、大丈夫そう?」
「今日?」
「やっぱ、忘れてる。家に来るって言ってただろ?」
駿は桃佳がすっかり今日の約束を忘れていることに、がっかりした声を出した。
「あー...」桃佳は正直言ってすっかり忘れていた。「ごめんね」
「気にしなくていいよ。で、大丈夫そう?」
「...うん」迷いながらも、携帯を握り締め、小さく頷く。
「そっか、じゃあ準備できたらまた電話して。迎えに行くから」
「うん」
「じゃあ」


ぷつり、と駿の声が途絶えた。
今日駿に会うことを、本当はまだ迷っている。
駿に会うのが怖かったから。
昨日のことを見透かされる気がして。嘘を見抜かれるような気がして。
でも、かえって今日会っておいた方がいいのかもしれないとも思う。
数日空いてしまったら、それこそ駿に会う勇気がなくなってしまうような気がしていた。

「あ〜!!もうっ!!悩んでたって仕方ないじゃない!!」

そう自分に言い聞かせるように立ち上がると、熱いシャワーを浴びるために桃佳はバスルームに向かった。
勢いよく服を脱ぎ捨てると、バスルームに入る。
頭から熱めのシャワーをザバザバ浴びた。
鏡を見ると、ずぶぬれの頭、それから...。


「やだあああ!!!」


バスルームに桃佳の甲高い声が響いた。
桃佳の首から胸にかけては、無数の赤い花びらのようなキスマーク。
もうもうと立ち上がる湯気の中、桃佳の真赤になった顔が浮かび上がっている。


「忘れられなくしてあげる」


ワタルの声が耳元で聞こえた気がした。
なかったことにしようなんて浅はかな決心が、早くもガラガラと音をたてて崩れてしまいそうで、バスルームにぺたりと座りこんでしまう桃佳だった。




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