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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


30.意外といい人

2010.03.24  *Edit 

いつの間に出て行ったのか、桃佳が目を覚ますと、既に多希の姿はなかった。
ただ、薄く漂うタバコの香りだけが、確かに多希がいたことを証明するように残っている。
桃佳はくしゃりと前髪をかき上げた。
「振り回されてるな・・・」ポツリと呟く。
自分が多希にいいように振り回されていることを、桃佳自身よく分かっている。
強引な態度をとったかと思えば急に冷たくなり、怒ったかと思えば穏やかに微笑んでいる。ころころ変わる表情のどれもが『柴山多希』という人間で、どれもが『柴山多希』という人間ではないような錯覚。多希という存在全てが、桃佳を惑わせて振り回す。それらの全てが多希の思惑だとしたら、なんて怖い人なんだろうと桃佳は思った。
彼女はぶるりと頭を振った。肩まで伸びたふわふわの髪の毛が大きく舞う。
「ダメ!しっかりしなくちゃ!!」桃佳は両方の手で、頬をぱちんと叩いた。多希という幻想の中から自分を覚醒させるかのように。



駿が来るのは午後。それまでに少しでも部屋の中を綺麗にしようと掃除機をかけていると、部屋のチャイムがずれた音を立てた。まだとても駿の来る時間ではない。訝しがりながらも覗き穴を覗くと、そこには綺麗にメイクをした渡辺美緒が立っていた。
そっとドアを開くと、その隙間から美緒が顔をのぞかせる。
「モモちゃん、おはよう」にこりと笑う顔は、やはり綺麗だと桃佳は思う。
「おはようございます・・・。あの、どうかしたんですか?」
「ねえ、モモちゃん。柴山さんってどっか出かけちゃった?」そう言いながら、美緒は言われてもいないのにずんずんと桃佳の部屋に上がりこむ。「電話しても、お隣のチャイムを鳴らしても反応なし」とうとう部屋の真ん中に座り込むと、肩をすくめて見せた。
桃佳の方がもっと肩をすくめたい気持ちだったが、それを堪えて曖昧に笑って見せる。
「さあ?多・・・お兄ちゃんが休日どう過ごしているのかまでは知りませんから」
「そっか。こんなことなら、モモちゃんに事前に柴山さんの行動をリサーチしてもらっておけば良かった」
美緒はそう言うと、ふうと大きなため息をつく。ため息をつきたいのは桃佳の方だったけれど、彼女はぐっと息を呑んでなんとか笑顔を作る。
自分の部屋なのに立ち尽くしているのも変なので、何となく美緒の斜め前に座り美緒を見る。
背中まで垂れた黒髪は艶やかで真っ直ぐ。はっきりとした目鼻立ちにふっくらとした唇。目のやり場に困るほど大きく開いた胸元からは、谷間がはっきりと見えるほど女性的な体・・・。
どれをとっても自分とはまるで正反対の輝きを放つ美緒に、思わず見とれてしまうほどだ。
「美緒さんって、綺麗ですね」
「そう?どうもありがとう」そう答えて微笑む顔さえも、自信に溢れているように桃佳には見えた。
「美緒さんみたいに綺麗だったら、色んなことが上手くいきそう」
桃佳の呟きに、美緒は大げさに反論する。「そんなことないわよ。柴山さんに相手にされないのがいい証拠・・・。それにね、モモちゃんには特別教えてあげようかな」と、いたずらっぽく笑う。
「私ね、20歳まではかなり太ってたのよ。ずっと男子からはバカにされててね、もうコンプレックスの塊!」
にやりと笑って指を立てる美緒を桃佳は疑わしげな目で見た。どう見ても、目の前の美緒は女から見ても羨ましいくらいで、とてもコンプレックスの塊には見えない。
「疑ってるでしょう?」からから笑う美緒に、桃佳はついこくんと頷く。
「でもね、本当なんだってば。看護学校に行って一人暮らし始めて、ストレスと疲労でどんどん痩せちゃってね。辛かったけどお蔭様で人生で初めてダイエットに成功したんだから」
明るく笑っていた美緒が、ふと表情を翳らせる。
「・・・でもね、痩せたってやっぱりコンプレックスは消えないの。相当卑屈になっちゃってたから、そういうのってなかなか変わらないものね。いつだって自分に自信がないのよ。自信のある振りしてるだけ」
そう俯く美緒に、桃佳は初めて親近感のようなものを感じた。一見、世の中を謳歌しているような美緒でさえコンプレックスがあるということが、彼女に対しての壁を確実に低くした。
「でも今は本当に綺麗ですよ?」
「ありがとう。でもそれ、できればモモちゃんのお兄さんに言って貰いたいなあ」
美緒は突拍子もないし、遠慮もない。けれど真っ直ぐだということだけは桃佳にも分かる。親近感と共に、少しだけ好感さえ抱いた。
「ねえ、美緒さん。美緒さんはどうしてお兄ちゃんのことが好きなんですか?」
その言葉は自然に出た。桃佳の知らない多希がいるのなら、その多希を美緒が好きならば、その理由を聞いてみたいと思った。純粋な好奇心で。
「ええ?どうして・・・か。そうだなあ、まずは顔が好み」
「それから?」
「それから?・・・うん。顔は確かに好みなんだけど、柴山さんの隠された部分を知りたいってのが大きいかも」
「隠された部分?」
美緒はまじめな顔でこくりと頷く。
「そう。柴山さんって、仕事のときはいつも穏やかで笑顔で、絶対怒らない感じなんだけれど、でもあれって本当じゃない気がするの。自分を守ってるような・・・分かるかな?」
美緒の言っていることはあまりに抽象的で、桃佳には正直よく分からなかった。曖昧な顔をしていると、そんな桃佳の気持ちを察したように美緒が微笑む。
「多分ね、自分が卑屈でコンプレックスまみれだから、同類が分かるのよ」
「それは、お兄ちゃんもコンプレックスを抱えてるってことですか?」
桃佳の言葉に美緒は笑いながら「うーん」と首を傾げる。
「そんな気がするだけ。なんだか仕事しているときの柴山さんって、余りにも『完璧』に穏やかで、それが胡散臭いって言うか・・・。ものすごく高い壁で自分の周りをぐるりと囲ってる気がして」
仕事のときの多希を知らない桃佳は、美緒と同じように首を傾げる。
美緒から聞かされる多希は、完全に桃佳の知らない多希だ。多希は何を考えているのかは分からなかったけれど、そのころころ変わる表情と態度で、桃佳を惑わせるのだから。それともそれも、『完璧』に演じているのだろうか?
「ま、あんまり気にしないで。とにかく私はもっと柴山さんを知りたいのよ。それで十分じゃない?」
「そうですね」
確かにその通りだと桃佳は思う。その人のことをもっと深く知りたいと思う、それはもうその人の存在にに捕らわれている証拠。
「ところで」美緒が初めて気が付いたように、転がったままの掃除機に目をやる。「掃除中だった?もしかして私、お邪魔だったんじゃない?」
急に申し訳なさそうな表情になる美緒を、桃佳は可愛い人だと思う。
「大丈夫ですよ。午後から来客があるんで、掃除していたんです」
「もしかして、彼氏?」
下品にも親指を立ててウインクする美緒に、桃佳は苦笑する。
「はい・・・。まあ」
「本当に!?じゃあ、私、モモちゃんの彼氏に会って行っちゃおうかな!!」
「え!?いや、ちょっと、それは!」桃佳の顔色がさっと変わる。多希の知り合いを、駿に会わせられる筈がない。
「もう、やだなあ。冗談だってば。モモちゃんって結構まじめよね」
からかうように美緒が笑い、桃佳は心底ほっと胸を撫で下ろした。
「じゃ、邪魔者はそろそろ退散しようかな」そう言ってさっと立ち上がる。入ってきたときも行動が早かったように、帰るときも行動が早い。さっさと玄関に向かって、美緒は靴をはいている。
靴を履き終わると、にこりと笑って桃佳を振り返った。
「モモちゃん、お邪魔してごめんね」
「いえ、大丈夫です」
「また来てもいいかな?」
「え?」
「いつも柴山さん、仕事終わったらこの部屋に来るんでしょ?それを狙って、来ちゃダメ?」
桃佳の脳裏に、この前の苛立ったような多希の顔が浮かぶ。ここで承諾したとなれば、後でどんな目に合わされるか分かったものではない。激しく怒る様子が目に浮かぶ気さえする。
「ええと」
「ダメ?」
きらきらとした目が、桃佳を見つめている。
思った以上に、美緒は多希のことをしっかりと見ているのかもしれない。それに、話をした感じ、悪い人には思えない。それよりも、本当に多希とお似合いだ、と桃佳は思う。
「いいですよ」
考えるよりも先に、桃佳はそう答えていた。
「やった!!じゃあ、仕事のないときにでもお邪魔させてもらうね!!」
機嫌よく帰っていく美緒の背中を見つめた。
もしかしたら、これは多希のゲームに美緒まで巻き込んでしまったことになるのかもしれない。
けれど、結果として美緒と多希が付き合うようにでもなったら、誰も不幸にはならない。
少しだけ心の奥でしこりになっている罪悪感を、桃佳は必死にそう思うことで誤魔化した。



「もしもし、清水?」
駿からの電話があったのは、午後2時を過ぎた頃だった。
「駿ちゃん。今、どこ?」
「清水の家の近くだよ。もうすぐ着くけど、大丈夫?」
「うん。大丈夫。早く来て」
駿の声はいつも桃佳をほっとさせる。優しくて、暖かくしてくれる。
電話が切れて数分後には、桃佳の部屋のチャイムが鳴った。開けると、買い物袋をぶら下げた駿が微笑んで立っている。
「どうしたの?それ・・・」
「うん?今日は俺が何か作ろうかと思って、食材買って来たんだ」
駿は重そうな買い物袋を、部屋へと運び入れる。その背中を見つめていると、桃佳はどうしても駿のぬくもりを感じたくて、駆け足で近づいてその背中をぎゅっと抱きしめた。
「どうしたの?清水。まだ買い物袋置いてないから」駿が驚いたように笑いながら、背中に抱きつく桃佳に買い物袋を見せる。
「ごめん」
桃佳は呟くように言って、背中に回した手をほどいた。
「いいよ。嬉しいし」駿はキッチンの片隅に買い物袋を置くと、桃佳の方に近寄ってそっと抱きしめた。「でも、俺としては背中よりもこっちの方がいいかも」
桃佳は駿の胸に顔をうずめた。「うん。私も」背中に抱きついているよりも、こうして抱きしめあっている方がいい。
抱きしめ、同じ力で抱きしめられる。
安心する駿の腕の中。
まどろむような幸せを、桃佳も駿も感じていた。




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