りんどう庵

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りんどう庵

だから、抱きしめて


売り言葉に買い言葉 3

2012.04.27  *Edit 

「結構です。帰ります」

 こんなところで二人きりで飲んだって楽しいはずがない。だから、さっさと帰ろうと思ったのに。

「……っ!!」
「あーあ。ふらふらして。大丈夫?」

 足に力が入らない。飲み過ぎだ。
 しかも無理に動こうとすれば、容赦ない眩暈が襲ってくる。無理をすれば、槙村の前で嘔吐……なんていう最悪の展開さえ安易に想像できた。
 それだけは絶対に避けたい。
 そんないじめがいのあるネタを、自ら提供するようなMっ気は美織にはないから。
 仕方がなく、椅子に体を預ける。少し酔いが醒めたらさっさと帰ることにして。
 けれど。

「動けるようになったらさっさと帰ろうだなんて、そんな薄情な事考えているわけじゃないよね? 逃げられないように俺の膝にでも座らせておこうか」
「!! けっ、結構です!!」

 大慌てで隣に座る槙村からじりじりと距離を取る。
 まさか人目のあるところでそんな真似をするとは考えられなかったものの、いつだって自信満々な槙村の事。何をしでかすか、美織には到底想像もできない。
 ここは警戒するに限る。

「ま、そういうことだから、少し付き合えよ」
「……」

 そういうことがどういうことかはよく分からなかったものの、美織としてはおとなしく付き合うことが一番無難な気がして、こくりと頷いた。
 槙村は美織が頷くと満足そうに笑って、最初から用意していたらしいウーロン茶を美織に差し出す。

「ほら、ウーロン茶。これでも飲んで少し酔いを醒ましたら?」
「……あ、ありがとうございます」

 警戒しつつもそれを口にする。すうっと冷たいお茶が喉を通過して、少しだけすっきりする気がした。ちらりと隣の槙村を見上げると、彼はビールを飲んでいる。
 槙村から視線を外す。話すこともないので、美織はちびちびと舐めるようにウーロン茶を口にした。
 酷く居心地が悪い。
 何を話したらいいのかも分からない。
 別に無理に何かを話さなくてもいいのかもしれないけれど、美織にとってはこの沈黙が恐ろしく重たい。
 ――――お高くとまっている。
 綺麗なだけで中身のない女。つまらない女――――
 そんなふうに言われでもしたら、それが例え苦手な槙村の言葉だとしても、美織はきっと傷つく。

「あのさあ……」

 不満げな声が頭上から降ってきて、美織は肩をびくつかせて声の主を見上げる。
 槙村は、声同様の不満げな表情を美織に向けていた。

「そんなに俺の事、嫌い?」
「は?」
「だから、そんなに嫌われてんの? 俺」

 両手でウーロン茶の入ったグラスをしっかりと握りしめ、美織は考えた。
 嫌いか?
 いや、嫌うほどは槙村の事を知らない。だからきっと嫌いではないのだ。そんな結論にたどり着く。
 でも。

「嫌いではないです。苦手なだけで」
「ははっ、随分とはっきり言うね」
「こんなことを嘘ついたって仕方ないじゃないですか。苦手なんですもん」

 美織は口をへの字に曲げて槙村をじろりと睨みつける。
 苦手だとはっきり告げたのに、当の槙村は少しも気にしたふうもない。
 それどころか、満足そうに見えるのだから、美織としてはわけが分からない。

「そうか。嫌われているわけではないんだな。一応これでも、嫌われるのは辛い」
「べっ、別に私一人に嫌われたって、そんなのどうでもいいことじゃないですか。他にたくさん、先生の事好きな看護婦がいるんですからっ」

 ついそんな事を口走ってしまう。そして、口にしてから後悔した。
 この自信満々な槙村のこと。またしても嫉妬だなんて誤解されたらたまったものではない。
「嫉妬してるの?」なんて言われた時に全力で否定するために、美織は内心で身構えた。けれど、槙村はけろりとして美織の想像もつかない反応を示す。

「うん、まあね」

 ……うん、まあね?
 槙村の口から出た言葉を、美織は脳内で反芻する。
 それが「他にたくさん、先生の事好きな看護師がいるんですから」という、自らの言葉に対する返答だと気が付いて、美織は軽いめまいを覚えた。
 どうしてこうも自信過剰なんだろう。
 ここはやっぱり、「そんなことない」と謙遜すべきではないだろうか。「そんなことない」だなんて、たとえこれっぽっちも思っていないとしても……だ。

「まぁた、君はどうしていっつもそんな面白くなさそうな顔をしてるんだろうね」
「はあ?」

 面白くなさそうじゃなくて、面白くないんです。
 言いかけて、美織はその言葉を飲みこんだ。槙村には何を言ったところで、伝わる気がしなくて。
 言葉の代わりに、大きなため息とともに消え入りそうな返事を返す。

「……別に」
「だから、君はもてないって言われるの分かってる?」
「!!」

 かっと頭に血が上る。
 気が付いたら立ち上がっていた。

「先生に何が分かるっていうんですか!!」

 言った直後に腕を引かれる。まだ酔いが回り力の入らない足は、簡単に崩れ、槙村の体に抱きとめられるような格好になった。
 目の前に、槙村の黒のシャツ。仄かな煙草の香り。パニックに陥る。

「はっ、は、離し!! ……むぐ」
「静かに。こんなところで騒がないでくれるかな。好奇の目で見られるよ」

 ぎゅっと頭を抱きかかえられ、意外と筋肉質な胸に押しつけられる。
 数年振りに男性とこんなに接近した美織のパニックは半端ではない。押しのけることも身を引くこともできず、ただ、されるがままに槙村の胸に抱かれた格好となっていた。
 心臓が激しく鼓動して、口から飛びしそうだ。

「ねえ」

 ひそりと槙村が美織の耳元で囁く。密着してるせいで、声がダイレクトに美織自身を揺らした。

「もしかして、川崎って男慣れしてないでしょう?」
「!!」

 言い当てられ、かっと頬が熱くなり、そこでやっと体が動いた。両手を突っぱねて槙村を押しのける。
 見上げれば、意地悪な瞳が美織を射抜いた。

「ど、どうしてそんなこと言うんです?」
「ほら、だって、脈がすごーく早いよ?」

 槙村は医者らしく、美織の手首に指を当てて脈を測ってにやっと笑った。
 槙村に掴まれている手を大きく振り払って、美織は彼から距離を取った。確かに槙村の言うことは正しかったから。
 ――――美織は男慣れしていないし、脈だって自分でもよく分かるくらいに早い。
 さっきのように、男の人とあんなに接近したのは何年振りだろうか……? だから、別に何とも思っていないどころか、苦手な槙村に対してもドキドキしてしまった。
 でも、そんな事素直に言いたくはない。

「こ、これはっ、あれです。えと、お酒の飲み過ぎです。結構酔っているので、脈も早いんです」
「へえ」

 つん、とそっぽを向いても、槙村がにやにやしながらこっちを見ているような気がして、美織は落ち着かなかった。見透かされそうで怖い。
 ――――弱みなんて、見せてたまるか。絶対に弱みなんて見せないんだから!!
 そんな少しだけ乱暴な気持ちさえ湧いてくる。
 美織にだって分かってはいるのだ。自分が意固地になっていることくらい。それでもずっとそうやって意地を張ってきたのだから、今更どうにかすることもできない。
 見かけばかりで判断されて、中身のない女だと思われるくらいなら、美織はもう放っておいてほしいのに。

「川崎」

 目の前に槙村の顔があって、美織は数秒固まった。
 そっぽを向いていた美織は、顎を掴まれて強引に槙村と見つめ合う格好になっている。

「お前さ、全然笑わないのな。せっかく顔は綺麗なのにもったいない」

 むか。
 顔は綺麗なのにって、どういうことだ。

「そうやって、男を寄せ付けない作戦? それともやっぱり男慣れしてないの? 実はウブだとか? いや、それとも逆に男の気を引く作戦だったりして」

 目の前のにやにや顔が、その挑発するような口調が、ずっと堪えてきた美織の何かを決壊さる。
 ぶちっと自分の中で何かが切れる音を、美織ははっきりと聞いた気がした。
 自分の顎を掴んでいる槙村の手を、べチンと音がするくらいに乱暴に叩き落とす。

「作戦? まさか。何か誤解なさっているよですが、そんな計算高い女じゃありません。それに、ウ、ウブだとか男慣れしてないとか、そんなことも全然ありませんから!!」
「そうなの? 強がってるんじゃない? 本当は恋愛経験全然ないんじゃないの?」
「そんなことはないです!!」

 いえ、槙村先生。あなたのおっしゃる通りです。
 とは心の声。けれど、美織はそんな心の声を、全力で無視する。

「へえ……じゃあ、俺と一晩過ごすってのも、全然平気なわけだ」
「勿論、全然平気です!! ……え?」
「そうか。さすがだね。じゃあ俺の部屋にでも行こうか」
「え? ええ?」
「ん? 今更そんなの無理ですとか言わないよね? 全然平気なんだろ?」
「……」

 どうしてこんなことになったのやら。
 酔った勢いで売り言葉に買い言葉。
 美織は引き摺られるように、上機嫌で鼻歌を歌う槙村に連れられ、店を後にしたのだった。



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  • #267  
  •  
  • 2012.04/27 21:09分 

Re: 聖騎士さま。 

聖騎士さん、こんにちはー^^
いつもありがとうございます。
調子に乗って毎日更新かけてましたが、やっぱりあっという間にストックがなくなりましたよ(^_^;)
分かっていたこととはいえ、情けないったら……
そして、ご指摘ありがとうございます。
確かにそうですね。
例えは違うかもしれませんが、『頭痛が痛む』と同じですね、これは。
恥ずかしい……直してきます!!
そして、お返事が遅くなってしまって大変すみませんでした。
実はGWだってのに、ちびーずが水疱瘡www
色々あってお返事もできませんでした。
こんな沢上ですが、お見捨てになりませんよう……なにとぞ。
  • #270 沢上澪羽 
  • URL 
  • 2012.05/06 21:49分 
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