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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


32.遊びの時間

2010.03.24  *Edit 

少し暗めの落ち着いた照明、どこか懐かしいお洒落なバーに、聞き覚えのあるジャズが流れる。
多希はカウンターの一番端の席に座って、静かに流れるその音楽に耳を傾けた。

なんていう題名だったろう。

そんなことを考えながら、目を閉じる。長い睫が、頬に影を落とす。
けれど、いくら考えても題名が出てきてくれない。
多希は諦めて目を開け、指に挟んだままだったタバコに口をつけた。ふうと、白い煙を吐き出しながら、もしかしたら題名など最初から知らないのかもしれない、と思う。
けれどすぐにどうでもいいことのように思われて、その思考は煙のように消えてしまった。
「マスター、ビール」
カウンターの中の40代くらいと思われるマスターに、空になったグラスを差し出す。
マスターは空のグラスを受け取ると、すぐにアルコールの満たされたグラスを多希に手渡す。
「どうも」
にこやかに受け取る多希に、マスターも口の端だけ上げるようにして、微笑み返す。

この店は、2年ほど前に偶然に入ってから、多希のお気に入りとなっている。
いつもそれなりに人が入っているにも関わらず、店内は落ち着いた静けさが漂っていた。
そして何よりも、この店には一人で飲みに来ている女性客の姿が目立った。それが多希にとっては好都合だったのだ。
『遊び相手』を探すには。
この店の女性客には、多希よりも年上と思われる人が多いのが更に好ましかった。たった一夜だけの関係ならば、若い女よりもより人生経験が豊富な方が、何かと後腐れがない。
相手も自分も『遊び』として割り切ることができる。
ちょうどさっきから、同じようにカウンターに一人で座って、多希の方にちらちらと視線を送ってきている女性客がいる。
多希よりも年上といった感じの、グラマラスな女性。彼女と視線が合うたびに、多希はそっと微笑みを返してきた。もう視線がぶつかるのはこれで何回目だろうか。きっとそろそろだと、多希はそっとほくそ笑む。
再び視線が合ったので、多希は今度ははっきりとした微笑みをその女性に向けた。
その微笑みに答えるように、女性はゆっくりとした動作で多希の横に立った。
「・・・ねえ。よかったら一緒に飲まない?」
片方の肘をカウンターにつき、胸元の大きく開いた服からは豊満な胸がぎりぎりまで見える。
多希はそんな胸元には目もくれず、あくまでも余裕を持ってクールに振舞う。
「いいですよ」
その返事に、女はにこりと微笑んで隣の椅子に座ろうとしたが、多希が女の手をつかんでその動きを止めた。
「・・・でも、よかったら違う場所で飲みませんか?」
多希の悪魔的な瞳に、女がごくりと息を飲む音が聞こえる。
「・・・ええ、是非」
今日は何の苦労もせずに獲物が転がり込んできたことに、多希はこの上なく満足だった。



「ぁあああ!!んっ、ン、う、うぁ・・・!!」

多希が感じやすい部分を攻めると、女は大きな声でその行為に答えた。
彼の背中に爪を立てるその左手の薬指には、結婚指輪と思われる銀のシンプルな指輪がはまっていた。けれど、多希にはそんなことどうでもいい。
夫がいようといまいと、この女とは一度きりだ。
だからこそ名乗りもしない。何か会話を楽しむこともなく、ただホテルに入ってセックスを始めた。
女もそのつもりなのだろう。多希に名前を聞いてくることも、自分の名前を言うこともしなかった。こういうセックスだけの関係が、多希にとってはたまらなく都合がいい。
「はあ・・・もうダメ。お願い、きて・・・」
女が潤んだ瞳で多希を見上げる。
その体は豊満で、多希が責めれば責めるだけ、面白いようにその証拠を溢れさせてシーツを濡らした。じらすように内腿を撫で上げると、女は腰をくねらせて甘い声をあげる。
「いやぁ・・・ん!もう、お願い、早く」
ふっと冷たい笑みを口元にたたえて、女の腰を持ち上げて一気に攻めあげる。
「あ、あァ、ンん!!」
女の口から、高く細い声が切れ切れに紡がれて、多希は思わず秀麗な眉をひそめた。
脳裏に浮かんだ想像を振り払うかのように、行為に熱中する。体の芯から熱くなり、息が苦しい。それでも休むことなく激しい行為を繰り返すと、ひときわ大きな声をあげて女が先に果てた。それを合図にするかのように、多希もまた果てた。


うつ伏せのまま上体だけ上げて、タバコに火をつける。
一口吸っただけのタバコが、多希の指からするりと抜かれる。横目で見ると、まだ額に汗を光らせた女が、にっこりと微笑みながら多希からを見て、奪ったタバコに口をつけるところだった。
別に取り返す必要もないので、また新しい一本を取り出して、火をつける。
「あなた、面白いわね」
女が煙を吐き出しながら、多希の顔を覗き込む。
「面白い?」言われ慣れない言葉に、多希は困惑した表情をみせた。
「面白いわ」女はどこか遠い目をして微笑む。「初めはあんなに余裕たっぷりだったのに、途中から急に余裕がなくって必死な感じになった」
そう言いながら女は多希の額にキスをする。多希はそんな女の行動を少しも気に留めない様子で、タバコを吸っている。
「・・・そうですか?」
「そうよ。あと少し、ってところで急に冷静さを失うなんて、面白いわ」
女に言われて、あの時、女の口から漏れた、切れ切れの甘くて高い声に触発された妄想が、さっと頭をよぎり、多希はあからさまに顔をしかめる。
女はそんな多希の表情を気にせずに、その唇を、彼の額から頬、首筋から肩へと落としていく。
しかし、そんな行為にも多希は少しも反応を示さずに、女の好きにさせている。

多希の耳に、さっき女が漏らした甘い声が蘇り、その声に重なるように、微かに聞こえた桃佳の高くて切なげな声が重なって聞こえる。
聞こうと思って聞いたわけではない。美緒が来たときからずっと多希は部屋にいたのだった。居留守をし、暫く部屋で過ごしてから出かけるタイミングを見計らっていたときに、あの声が聞こえたのだ。
押し殺したような、桃佳の声。
それが何を意味しているのか、すぐに分かった。
堪えようとしても、堪えきれないといったようなその声に、多希は自分の中でゆらりと揺れる何かを自覚したものの、それの正体については分からなかった。自分がすぐそばにいることを桃佳に伝えたくて、わざと大きな音を立てて部屋を出たのだ。
そして、今夜の相手を求めた。
さっき自分がしたことと、昼間桃佳が駿としたであろうことは、『セックス』と言う点で同じ。だったら、多希に桃佳を責める権利はない。それどころか、駿と別れることを禁じ、駿と今までと同じように付き合うことを条件にした多希にとっては、口を出せる問題ではない。
ゆらり、と再び自分の中で何かが揺れて、誤魔化すように多希は思い切りタバコの煙を吸い込んだ。吐き出した白い煙が、拡散していく。

女の唇は相変わらず多希の体の上を滑り、腹部から胸部へと移動していく。
首筋を滑らせ、顎を撫で、唇に届きそうになったとき、ふいと多希が顔を背ける。
女は多希を下から覗きこむようにしながら、目を瞬かせる。
それから彼の頭を抱くようにして、そっと耳元で囁く。「ねえ、もう一回、どお?」
その言葉に、再び冷たく笑って多希が女を組み伏せる。彼女は面白そうに笑い声を上げた。
「ね、普通にしたんじゃ面白くないから、何か賭けをしない?」
「賭け?」
「そうよ。先にイっちゃた方が負け」くすくすと面白そうに笑う女。
「いいですよ。何を賭けますか?」多希もにこりと微笑む。
「そうね・・・。じゃ、私が勝ったら、ご褒美にいっぱいキスして」女は唇に指を押し当てる。
「そんな条件でいいんですか?」もっと無理難題を押し付けられると思っていた多希は、安堵しながらも怪訝な表情で彼女を見つめる。
「いいわよ。あなたは?」
「じゃあ・・・」まだくすぶっていたタバコの火をもみ消す。「もう、二度と会わない」
「やっぱりあなた、面白い」
にこりと笑う女の、何も身にまとっていない体を再び引き寄せた。



勝負はあっという間について、彼女の唇に多希からのご褒美のキスがされることはなかった。
多希は二度目の行為を終えると、「賭けの条件ですから、もう二度と会いませんね」と言って、極上の笑みを残してさっさと帰っていった。
二度もお互いに抱き合ったと言うのに、こうもあっさりと一人残され、女はもう呆れて笑うしかない。彼女の方も、今夜だけの関係と思っていたものの、多希ほどの割り切り方はそうはできない。
実際、多希に対して多少の情が湧いてしまったのだったが、何の情も抱いていない様子の多希は、きっと自分の顔ももう既に忘れているんじゃないかと、彼女に思わせた。いや、それどころか、最初からどんな女とセックスしているのかにも興味なんてなかったのかもしれない。
「あ~あ、やっぱり旦那が一番かも」
女は全裸のままで、ベットの上で大の字になる。
それから、そっと自分の唇に触れる。「一回くらい、キスしておきたかったな」
一度も触れられることのなかった、その唇をなぞりながら呟く。それから、ふっと微笑む。
「やっぱり面白い子。案外と純情なのかもね。・・・本人が気づいているかどうかは別にして」
女はがばりとおもむろに起き上がると、脱ぎ散らかしたままの服をさっさと着て、その部屋を後にした。
「まあ、もう二度と会うことはないけどね」
部屋に残された声は、満足げでもあり、寂しげでもあった。


夜は更けゆく。

遊びの時間は終わり。




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