りんどう庵

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りんどう庵

モトカレ!!(お試し版)


櫂理と小さな騎士

2015.01.18  *Edit 

「キャンッ」
 ただいまの声をかける前に、あまりにも不吉な鳴き声が室内から聞こえた気がして、橘櫂理(たちばなかいり)は目を細めた。
 それはこの谷村家からは聞こえるはずのない、犬の鳴き声のような気がした……そう、この家には童顔巨乳の元カノ谷村メイと、、そのメイの自称保護者で守護者でもある、凶暴で凶悪な空手の使い手大島絹がいるだけだ。
 犬なんているはずがない。ていうか、いていいはずがない。
玄関で悩んでいると、居間のドアが開きふわふわした何かを抱っこしたメイが顔を出した。
「あ、櫂理。やっぱり帰ってきてたんだね。玄関から物音がしたのに声が聞こえないから、泥棒でも入ってきたのかと思ったー」
 泥棒なんて物騒な言葉が不似合いなほどに呑気な声でメイが笑う。……胸に抱いたふわふわの何かをなでなでしながら。
「……メイ」
「なに?」
「そのふわふわしたものは、一体なんですか?」
 つい声が強張ってしまう。メイにばれなかっただろうかと、櫂理は内心ひやひやする。けれど、同僚から最強(最凶)鈍感女と呼ばれるメイには、無用の心配だったようだ。全く気に留める様子もなく、胸に抱いていたふわふわを櫂理に向かって差し出して見せる。
「……っ!!」
「この子はね、テンちゃんっていうの、可愛いでしょ?」
 目の前に差し出されたのは、毛並みのふわふわしたロングコートチワワ。きょろっとした瞳に見つめられ、櫂理は二歩後ずさった。
「同僚の子の親戚に不幸があってね、急なことだったからペットホテルも取れなかったんだって……で、他の子は一人暮らしでペット禁のマンションだけど、我が家は一軒家で全然問題ないから預かったんだよ」
 確かにメイの家は一軒家。両親が海外に赴任していて、メイが留守を預かっているのだ。庭もあるし、犬の一匹くらい預かっても全く問題ないだろう。
 しかも居候(強引に住みついたともいう)の身である櫂理には、とやかく言う権利はまったくもってない。そう、櫂理にもそれはよく分かっているのだ。分かっているのだけれど……
「あーら、橘櫂理、もしかして……もしかしてなんだけど、ワンちゃんが苦手……とか? まさかねえ、こんなに小さくて可愛らしいワンちゃんが怖いとか、ありえないわよねえ」
 うふふふふ、と意地悪な笑みを隠そうともせず、メイに続いて居間から出てきたのは絹だ。けれどメイが振り返って絹を見た途端、彼女の顔から意地悪な笑みはきれいさっぱり消え去り、代わりに慈愛に満ちた聖母のような笑みが浮かぶ。
 あまりの変わり身の速さに、櫂理はある意味心底感心した。なかなか出来る技ではない。
「え? そうなの、櫂理? もしかして、犬が苦手?」
 絹の言葉を受け、メイが心配そうに櫂理を見る。さっき櫂理に向かって差し出してきたテンちゃんを再び胸に戻す。
 実は苦手なんだと、それどころか怖いのだと言ってしまえたらどれだけ楽だろうか。けれど、さすがにこんなに小さな犬相手に恐れ慄いているとばれてしまうのは、とてもではないがプライドが許さない。
「……別に平気ですよ」
「ぶーっ!!」
 かなり普通に言ったつもりなのに、言ったそばから絹に噴き出されてしまった。
「絹ちゃんったら、なにがおかしいの? でもよかった。櫂理が苦手じゃなくて。テンちゃんは人懐っこいから可愛いよ」
 ほら、と再びテンちゃんを差し出される。うるうると潤んだ大きなテンちゃんの瞳と目が合い、櫂理はたじろいだ。撫でろと言わんばかりに差し出された子犬に、櫂理はおずおず手を伸ばす。
「テ、テンちゃん!!」
 さっきまでメイの胸で大人しく抱かれていたテンちゃんは、櫂理が手を伸ばすのを待っていたかのように……噛んだ。がぶっと。狙っていたかのように、がぶっと。
「あははははは!! テンちゃん、やっぱり悪い人間とそうでない人間の区別が付くのねー。野生の勘ってやつかしら。ナイスすぎー!!」
「き、絹ちゃん!! 笑ってないでテンちゃんを離してよー。か、櫂理、大丈夫?」
「……大丈夫ですよ」
 こうなることは予想済みだった。小さい頃からなぜか犬には噛まれ、猫には引っかかれた。挙句の果てには亀にまで噛まれた事がある。
「テンちゃん、ダメよ。離して」
 がぶっと櫂理の手を容赦なく噛んだテンちゃんは、メイが口元に手を当てるとあっさりと噛みついている手を離した。しかもメイに噛みつこうとする様子もない。
「橘櫂理、見なさいよ。動物はね、人間の本性が分かるのよ。あんた、絶対動物に好かれないでしょう?」
「……余計なお世話です」
「あああ、櫂理、大変。歯形がくっきりついてるよ」
「お気になさらずに」
 ずきずきと痛む手を庇い、櫂理はため息をついた。
 動物に人間の本性が分かるかどうかは謎だけれど、この谷村家に転がり込んできたのは確かに下心があってのことなので……というか下心しかないので、まるでそんなやましい気持ちを咎められているような気分になってしまう。
 再び抱き寄せられたメイの胸元で、テンちゃんが嬉しそうに尻尾をパタパタと振っている。
「やだ、くすぐったいよ、テンちゃんったら」
 胸元の開いたデザインの服から覗く、メイの豊満な白い谷間に顔を埋めたテンちゃんが、そこをぺろりと舐め上げたので、大人気なくイラッとしてしまう。動物相手にイラつくなど、人としてどうかしているのかもしれないけれど、まだ自分でさえ堪能し尽くしていないそこで、無邪気に戯れている犬が許せない。しかし、
 そこは俺が楽しむんだ!!
 とは、さすがに声には出せない。そんなことを言った日には、メイにはどん引きされるだろうし、絹には「やっぱりそういうつもりだったのか、このエロ大魔神め!!」とか何とか言われ、投げ飛ばされるのがオチだ。
 メイの胸元で戯れるテンちゃんと目があった……気がした。
 心なしかテンちゃんの顔が『ドヤ顔』に見えるのは、櫂理の心が真っ黒だからだろうか。
「それにしても、しばらくの間はこれで安心だわー。いいボディーガードが出来て、私も一安心。ねえテンちゃん、メイのこと、守ってね」
 絹が手を伸ばして頭を撫でると、テンちゃんは気持ちよさそうに目を閉じる。さっきの櫂理に対する態度とは大違いだ。
 ふと気になる。
「……ちょっと伺いますが、テンちゃんはオスですか。それともメスですか?」
「男の子だよ」
 ……やっぱりね。
 なんだか妙に納得した櫂理だった。

「それじゃあアタシ、今夜は研修で留守にするから」
「絹さん、今夜留守にするんですか?」
 次の日、朝食の席での絹の言葉に、櫂理は衝撃を受けていた。まさか櫂理にとって天敵であるある絹が、一晩家を空けるだなんて。絹のせいで思ったようにメイを攻略できていないのだから、こんなチャンスはない。
 三年前に消えるように姿を消していた元カノ、メイ。体の相性が堪らなく良くて、再びメイを自分のものにしたくてこの家に転がり込んだのだ。押し倒して奪ってみたのはいいけれど、何かが足りない。だからもっと何度も奪ってやろうと思うのに、ずっと絹に邪魔されっぱなしなのだ。
 絹がいないなら、どんな手を使ってもメイを押し倒し、柔らかなカラダを堪能して、何度も何度もナカが自分の形になってしまうほどに抉って突き上げてやるのに……
「今日は心配ないわ。だってテンちゃんがいるものね。ああよかった。そうじゃなかったら、心配で研修になんて行けないところだったもの」
 その一言に、櫂理の中で膨らんでいた乱暴かつ淫靡な妄想はパチンと弾けた。そうだ、絹がいなくなったとしても、違う邪魔モノがいたのだ。
「いい? メイ。テンちゃんから絶対に離れちゃダメよ。寝る時に鍵は必須だけど、必ずテンちゃんをそばに置いておくこと。いいわね?」
 そんなことを念押ししている絹が恨めしい。

 その夜、仕事を終えて帰宅し、メイと夕食を共にした。
 櫂理としてはいつでも襲うスタンバイが整っているというのに、彼が……テンちゃんがいつもメイの足元にいて、櫂理が近づくと威嚇するのだった。
「随分と嫌われちゃったみたいだね、櫂理」
「……ですね」
 櫂理はメイの膝の上で丸くなっているテンちゃんを睨みつけながら、深々とため息をついた。テンちゃんさえいなければ、今だってさっさとソファに押し倒しているというのに。さっきそれとなく隣に座ったら、それまでメイの膝で大人しく眠っていたテンちゃんが目を覚まし、かっぷりと手をかじられたのだ。
「私、ちょっとお風呂に入ってくるね」
 そう言ってテンちゃんを膝から下ろすと、メイは鼻歌交じりに居間を出て行った。居間にテンちゃんと二人きりで残される。しかもそのテンちゃんは居間の扉の前に陣取り、櫂理が居間から出て行くのを阻止しているかのようでさえある。
 ……こいつ、絹さんの生き霊でもついてるんじゃないか?
 と、疑いたくなってしまうほど。
 しばらくすると、入浴を済ませ頬を桜色に染めたメイが戻ってきた。下着はつけているだろうが、薄いパジャマにカーディガンを羽織っているだけだ。濡れた髪をひとつにまとめ上げたうなじは妙に色っぽい。
「テンちゃん、ただいまー」
 そう言ってメイが屈んでテンちゃんの頭を撫でると、白い胸の谷間が覗く。柔らかそうで、甘そうで、とことん味わい尽くしてやりたくなる。
 なにを我慢しているんだ? 犬なんてその気になればどうとでも出来るのに。
 むくりと湧いたのは、情欲にまみれた感情で。自分でもコントロールが上手く出来ない。メイの前でだけ乱される感情。他の女には、こんなにも激しい情欲は抱かないのに。欲しくて欲しくて、全て奪い尽くしたくて……
「メイ」
「うん?」
 警戒心のない瞳が悔しい。信頼されるのは嫌いじゃない。けれど安心しきった瞳でなど見てもらわなくていい。危険だと認識してもらって構わない。事実、それほど大人しくしているつもりなんてないのだから。
「か、櫂理?」
 メイの前に立ち、その細い腕を掴む。足元でテンちゃんがキャンキャン吠えているけれど、構うものか。足に噛みつかれた……構うものか。
「櫂理っ!! ちょ、待ってやめて!!」
 両腕をがっちりつかみ、そのままソファに引き倒す。どさりと投げ出されたメイの体の上に、素早くのしかかる。
「櫂理っ、ねえ、ちょっとやめてよ。お願い、離して」
「無理です。そんな無防備なメイが悪いんですよ。俺に食べてくれって言っているようなものじゃないですか」
「そんなこと、言ってない!! ……んっ」
 うるさい唇を唇で塞ぐ。メイの口は嘘をつくけれど、感じやすいカラダは嘘をつかないから。体に聞くのが一番だ。……本当に嫌なのかどうか。
 逃げられないように、しっかりと腕の中に閉じ込める。絶対に逃がさない。
 がぶがぶ。
 今、足を二度連続でかじられたけれど、構うものか。かじっている足を離したと思ったら、視界の端っこにふわふわの毛が見えて……
「う、わああ!! 痛っ!!」
 ぐるると唸りながら、今度は肩に噛みつかれる。しかも相当がっちりと。さすがに無視できない状況に、櫂理はメイから体を離して起き上がった。
 その拍子にテンちゃんはくるくると転がりながら床に落下。一瞬、キャンと悲痛な声を上げたものの、果敢にもすぐに起き上がって櫂理に飛びかかってくる。
「テンちゃん!!」
 すっかり騎士に守られた姫のように、感動と心配を含んだ声を上げながら、メイがテンちゃんに手を伸ばした。それに応えるようにテンちゃんは尻尾を一振りし、ぐるると櫂理に対峙した。
「……分かりましたよ。降参します」
 その気になれば噛みつかれようと威嚇されようと、押さえこむ事は簡単だ。けれど、自分よりも何倍も大きな櫂理に立ち向かってくるその根性は、同じ『オス』として称賛に値すると思うのだ。
 結局、この絶好のチャンスにキスだけか……
 そう思いながら櫂理は肩をすくめた。次の好機を待つことにしよう、と。次こそはこんなにあっさりと手を引いたりはしない。絶対に。

 数日後、飼い主であるメイの同僚が谷村家を訪れ、テンちゃんは自宅に帰って行った。
「犬って可愛いよね……私も飼いたいなあ」
「メイ、アタシは大賛成よ。そうしなさいよ。そうね、出来たらテンちゃんよりももっと大きい犬がいいわ。そうよ、ドーベルマンにしましょ」
「勘弁してください……」
 絹が本気でドーベルマンをメイに勧めている横で、櫂理は深い深いため息をついたのだった。

谷村家にドーベルマンがやってきたかどうかは、また別のお話。
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