りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


33.あいつを頼む

2010.03.24  *Edit 

久しぶりのひとりの時間を、桃佳は少しだけ持て余していた。
きっと探せばやらなければならないことはたくさんあるはずなのに、どうにもそれが手につかない。
身体が、というよりも精神的に疲れ気味の自分を自覚した。
一日中、部屋着のままで何をすることもなく過ごす。それが妙に心地いいとさえ思った。
考えてみれば、多希が桃佳の部屋にやって来るようになってから、こんなふうに長い時間をひとりで過ごすことがなかった。だからひとりきりの時間を、桃佳は持て余しつつもリラックスしてすごした。

何もしなくても時間だけは正確に過ぎてゆき、外は暗くなっていた。
とりあえず、適当に夕食を食べ、時々くる駿からのメールに返信する。駿は頑張ってレポートを書いているようだ。
ふとカレンダーを見て、明日が燃えるゴミの日だということを思い出した桃佳は、燃えるゴミを今日のうちに出してしまおうと、がさがさと袋にゴミをつめ、思ったよりも大きくなった袋を抱えて階段を下りる。
階下から自分の部屋の明かりを見つめ、隣の部屋に明かりがついていないことを確認する。そんな確認なんかしなくても、一日中隣の部屋からは何の物音もしなかったのだけれど。
ゴミステーションに袋を押し込んだときに、不意に声がかけられた。
「モモ?」
桃佳はひっと小さな悲鳴を上げて体を硬くする。それから、ふと「モモ」なんて自分を気軽に呼ぶ人間が、たった一人しかいないことを思い出した。
「何びっくりしてんの?」
「多希さん!急に声かけられたら、そりゃびっくりしますよ!!」
急に声をかけられてびっくりしたのと、相手が多希だったことの安堵感で、桃佳は一瞬昨日の出来事を忘れていた。しかし、多希の顔を見た途端に、昨日とんでもない声を聞かれたことを思い出し、うつむいて押し黙る。
多希は多希で、昨日の桃佳の声が耳の奥に蘇って、思わず顔を歪めた。
「あの・・・。こんばんは」
長身の多希の後ろから、見たことのない日焼けした顔が桃佳を覗き込む。
「・・・こんばんは」
桃佳が応えると、日焼けした顔はとても人懐っこい笑顔で微笑む。「多希、もしかしてこの子?」
多希はさっきと同じで不機嫌そうな顔のまま、「ああ」と呟くように答えた。
「やっぱりそうなんだ。はじめまして。俺はこいつの昔っからの知り合いで、小嶋拓巳って言います。君の事は聞いてるよ。まさか会えるとは思ってなかったけど」
一気にまくし立てるように言われ、しかも両手をしっかりと拓巳に握られた桃佳は、困惑した表情を多希に向ける。けれど、当の拓巳はそんなことは一向に気にせずに、嬉しそうな顔を桃佳に向ける。
「・・・もしかして、二人は一緒に住んでるの?」
「ち、違いますよ!!お隣なんです!」
唐突な拓巳の質問を、桃佳は慌てて否定する。
「そうなんだ!じゃあさ、モモちゃんも一緒に飲もうよ。俺らこれからささやかな多希の引っ越し祝いをしようと思ってたところなんだ」そう言いながら、手に持っていたコンビニの袋を桃佳に見せる。
袋の中には、つまみやらビールやらがぎっしりと入っていた。
「多希の部屋なんてどうせ味気ないんだから、モモちゃんの部屋に行こう」
「え?ええ?」
困惑しきった声を出したものの、拓巳はやはり一向に気にしていない。
「な、多希。いいかな?」
「・・・拓巳。それは」多希も桃佳同様、困惑した声を出す。
「じゃ、そういうことで決まり」
「おい!!」
「さ、行こう行こう」
いつもさらりと他人をかわす多希が、この拓巳という人相手では逆に手玉に取られているのが、余りにも不思議な光景に思えて、桃佳は目をぱちくりとさせて二人のやり取りを眺めていた。


「お邪魔します」
なにがなんだか分からないまま、桃佳は二人を部屋へとあげた。拓巳は遠慮する様子もなく、桃佳の部屋に上がりこんでいく。
玄関で呆気にとられながらも、靴を脱ぐ桃佳の腕を多希が引っ張る。
「・・・あいつには、モモと付き合ってるって言ってあるんだ。・・・悪い」少しだけ申し訳なさそうに顔を背けるのがおかしくて、桃佳は思わず吹きだしてしまう。
「なんだよ」申し訳なさそうな顔は、一瞬でさっきの不機嫌な顔に戻る。
「いえ・・・。それよりも、鉢合わせになるとか考えなかったんですか?今日は日曜日ですよ」
こんなふうに日曜日に友達まで桃佳の部屋に案内するとは、多希にしては余りにも迂闊に思えて桃佳は訊ねた。
「ああ。もしも駿が来ていたんだとしたら、さすがにそんなに色気のない格好してないだろ」片方の口元を意地悪げに上げて、桃佳に向かって顎をしゃくって見せる。「だからすぐ、駿は来てないんだって分かったよ」
「あ・・・」言われて初めて、人前に出るような格好をしていなかったことを思い出して、桃佳はかっと赤くなる。
「大丈夫だよ。あいつ、そういうこと全然気にしない奴だから。ほら、早く」自分の部屋だというのに、早く入るように促され、桃佳はぶうと頬を膨らませながらも、多希について部屋に入った。

「モモちゃん、部屋きれいにしているんだね」
拓巳は既に部屋の中に座り込んで、きょろきょろと室内を観察している。
「・・・ありがとうございます」
あからさまに部屋の中を観察されて、さすがに桃佳も困ってしまう。
「こら」多希がすかさず拓巳の頭を財布で殴る。「人の家の中を、そんなふうにきょろきょろ見る奴があるか」
「あ、そっか。ごめん」指摘されて、素直に謝る笑顔は憎めないと、桃佳は思う。
「いいですよ。グラスもって来ましょうか?」
「あ、よろしく~」
裏表のなさそうな、屈託のない笑顔。多希とは正反対のタイプの拓巳に、桃佳は興味を抱いた。
「モモ!こいつのことはかまわなくていいからね」
口をへの字に曲げて、不機嫌そうな多希の顔。今までそんな表情は見せたことがない。
「多希さん、変な顔してますよ」笑いながらいつもとは反対に指摘する。
「うるさい」照れたように少しだけ笑って、多希はビールを開けた。
そんな二人のやり取りを、拓巳も嬉しそうに見守っていた。


「寝ちゃいましたね・・・」
飲み始めて数時間経ったころ、多希はどうにもならない眠気に襲われて、不覚にも深い眠りに落ちていた。
本当は、この腐れ縁の拓巳が、桃佳に何か余計なことを言ったりしないように、しっかりと見張っているつもりだったというのに。
「ああ、昨日こいつ、寝てないみたいだから」
「え?」
「昨日は飲み屋に朝までいたみたいだよ。で、そのまま街中ふらふらして、それから俺んち来たんだ」
言いながら、グラスのビールを飲み干す。「だから、何か家に帰りずらい理由でもあったのかと思って・・・。その、喧嘩、とかさ」
ちらりと、気遣うような視線を桃佳に向ける。
それで桃佳も、拓巳が強引に桃佳の部屋に上がりこんだのが、多希と桃佳の仲を取り持つつもりだったのだということがわかった。
「いえ、そんなこと、ないですよ」拓巳の視線に、曖昧な笑顔で応える。
実際、喧嘩などしてはいない。ただ、恥ずかしい声を聞かれてしまっただけ・・・。けれどどういう顔で多希に会ったらいいのか分からなかった桃佳は、確かに拓巳の存在には助けられた。
「そっか、それならいいんだ。ごめん、余計な詮索だったよね」
「いえ」
目の前の拓巳という人は、心底多希のことを心配しているように見える。それは、『昔からの知り合い』の範疇を超えているような気がするほどだ。
拓巳のグラスが空になっている事に気がついて、桃佳は新しいビールを差し出す。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
にこやかに受け取ると、拓巳はグラスにビールを注いだ。
部屋の中に、ビールの泡がはじける音と、多希の軽やかな寝息だけが響く。
「あのさ」
静かな拓巳の声に、桃佳は首をかしげて彼を見る。
「こいつ、変わってるだろ?」
眠る多希に向けられた視線は、どこか悲しげだと桃佳は思う。
「でも俺、こいつが『女とちゃんと付き合う』って言った時、本当に嬉しかったんだ。こいつ、女の人のこと、消耗品みたいに思ってたから」
言ってから、拓巳ははっとして桃佳を見る。「あ!!ごめん!普通、こんなこと彼女に言うべきじゃないよね」ごめん、と言いながら深々と頭を下げた。
「大丈夫ですよ」
「いや、ほんと、ごめんね」
消耗品・・・その意味は、桃佳も何となく分かる。そう、初めて桃佳とセックスをしたとき、多希にとって桃佳はきっとセックスの消耗品に過ぎなかったのだ。ただ、桃佳が駿の彼女だと言うことを除いては。
そして多分今は、駿に嫌がらせをするための消耗品・・・。
浮かんだその考えが、桃佳は気に入らなくて、無理やり頭から追い出す。
申し訳なさそうにしていた拓巳は少しずつ、まじめな顔になった。。
「でも、本当にこいつのこと頼むよ。すごく変わった奴で、すごく自分勝手で、ものすごくダメな奴だけど」
散々な拓巳の物言いに、桃佳は思わず苦笑する。
「でもこいつは、本当に寂しい奴だから」
拓巳のまじめな顔に、桃佳はさっき浮かんだ苦笑を引っ込めた。そんな表情で受け止められないくらいに、真剣な拓巳の瞳がそこにあったから。
「でも・・・。多希さんはいつも冷静で、ちゃんとした仕事もしてて、そんなふうには見えないです・・・」
戸惑いながらも、桃佳は自分の思いを口にする。拓巳には、何となく思っていることが言いやすかった。人懐っこい人柄がそうさせているんかも知れない。
「うん。確かにね。でも多希は、仕事の時には完全に違う人間になるんだ。完璧に職場でのキャラを全うする」
美緒の言っていた言葉が、桃佳の脳裏をかすめる。仕事のときの多希が、本当じゃない気がすると言ったあの言葉。
「正直、俺だって多希の『本当』なんて分からないよ。でも、少なくともモモちゃんには仕事のときとは違う一面を見せてる。自分を見せてるんだ」
「そう・・・ですか?」
「そうだよ」そう言いながら、拓巳は自信たっぷりな笑顔を見せる。
「だから、あいつのことを見捨てないでやって欲しいんだ」よろしく、と言って拓巳は再び桃佳に向かって頭を下げる。
「や、やめて下さいよ!!そんな頭とか、下げないでくださいって!!」
頭を上げてもらおうと拓巳の腕をつかむ桃佳の手を、拓巳がぐっと握る。
「頼むよ」
その眼差しは余りにも真剣で・・・。
「どうして」ずっと気になっていたこと。「どうしてそんなに多希さんを心配するんですか?」けれど、疑問をぶつけるべき相手がいなかった疑問。「多希さんに何があるって言うんですか?」
何かあったのだと言う確証などない。
けれど、もしかしたらあんなにも駿を嫌う理由さえも、そこにあるような気がした。
「知ってもあいつのこと、同情とかしないでやってくれる?」
「同情?」
言葉の意味がうまく呑み込めない。
聞いたら、思わず同情せずにはいられなくなると言うことだろうか。
「それも含めて、今のあいつを見てやってくれる?」
逃げられないくらいに真剣な瞳に、桃佳は静かに頷くしかなかった。


そして、拓巳は静かに話し始めた。




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