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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


34.多希の過去 1

2010.03.24  *Edit 

「俺と多希が初めて会ったのは、小学校に入ったときだったんだ。あいつは今と同じですっごく綺麗で目立てたんだけど、引っ込み思案でおとなしい奴だったんだ。・・・少なくとも、今のあいつとはちょっと違ってた」
拓巳は遠い目をして語り始める。



拓巳が初めて多希と出逢ったのは、小学校の入学式。
ひときわ綺麗な顔をした多希は、体に不釣合いなランドセルを背負って、不安そうに周りを見渡していた。
「小嶋」と「柴山」
五十音順に並んだ席。その綺麗な少年は、偶然にも拓巳の後ろの席に座った。
小さい頃から人懐っこい性格だった拓巳は、すぐにその綺麗な少年に、興味津々で話し掛けた。
「ねえ、なんて名前?」
「柴山多希」
多希は突然話し掛けられて、驚いたように大きな目をくりくりさせ、照れくさそうに小さな声で答える。
「多希?僕は拓巳。よろしくね」
よろしくね、と小さい声で呟くように言いながら、にこりと微笑む多希の瞳を拓巳は覗き込んだ。
色素の薄い、自分とは少し違う色の瞳。それは拓巳の持っているガラス玉のようであり、彼の持っているどのガラス玉とも違う色をしていた。
「ねえ、多希のお母さんは?」
綺麗で、不思議な色の瞳をした多希。きっと母親も綺麗に違いない。拓巳は好奇心で教室の後ろに並んだ親たちの顔を見渡す。
しかし、多希と同じような瞳を持っている親は見当たらなかった。
「お母さんは来てないんだよ」
「そうなの?」拓巳はがっかりした声をだした。
「お母さん、もうすぐ赤ちゃんが生まれるから、代わりにお父さんが来てるんだ」
そう小さな声で答える多希の表情は、嬉しそうでもあり、照れくさそうでもあった。
席が近いこともあり、拓巳と多希はよく話をするようになった。
実は二人の家は案外に近いことも分かった。別々の幼稚園と保育所に通っていたため、今まで顔を合わせることがなかったのだ。
拓巳は泥んこになって外で遊ぶタイプの子供だったし、一方の多希は部屋の中で絵本などを読んでいるような子供だったので、全く接点がないタイプの二人。それでも、拓巳は今まで遊んだことのないようなタイプの多希に興味津々だったし、多希も元気で明るい拓巳のことが好きだった。
だから自然に、二人でいることも多くなっていった。


「お邪魔します」
礼儀正しくぺこりとお辞儀をした少年を、拓巳の母は笑顔で迎えた。
「とっても礼儀正しいのね。拓巳も多希君のこと、見習いなさいよ!」
「はあい。ほら、多希こっちが僕の部屋なんだ」拓巳は多希の手をぐいぐいと引っ張って自分の部屋に連れて行く。
散らかったその部屋は、まるでおもちゃ箱のようだと多希は思う。無造作に転がっているサッカーボールを拾い上げた。
「サッカー好きなの?」
多希の質問に、拓巳は得意げに答える。「うん!お父さんが、僕はとっても上手だって言ってたよ!多希はしないの?サッカー」
「僕は・・・サッカーやったことないし、どっちかって言うと、本とか読んでるほうが好きだから」
多希の華奢で色白の手足を見て、拓巳も彼には読書のほうが似合っていると思う。
トントンと、ドアがノックされ、優しげな笑みを浮かべた拓巳の母親が部屋に入ってきた。
「多希君、おやつ食べない?」
「あ、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる多希を、拓巳の母が好意的に見つめる。それから、部屋をぐるりと見渡して、優しげな表情を豹変させた。
「拓巳!!またこんなに部屋を散らかして!!片づけしなさいって言ったでしょ!!」
そう言いながら、拓巳の首根っこを捕まえた。
「うわ!!母ちゃんごめん!!離せってばあ!」
ばたばた暴れる拓巳の首根っこをつかんだまま、多希を振り返る顔は、またさっきのように優しい顔に戻っている。
「ごめんね、多希君。こいつってば、散らかすことにかけては天才なのよ~」
ほほほと笑い、自分の頭を拓巳の頭にごちんとぶつける。「さ、おやつ食べるスペースぐらいは空けてよね。じゃないと、おやつ片付けちゃうからね」
「は~い」
にこりと拓巳に笑いかける顔を、多希は少しだけ不思議そうな顔で見つめていた。
「・・・うちの母ちゃん、おっかないだろ」
一緒におもちゃの片づけを手伝う多希に、拓巳がそっと耳打ちする。
「そうかな?」
「そうだよ。鬼だよ、鬼」拓巳は口を尖らせた。
「誰が鬼だって!?」腰に手を当てて仁王立ちする拓巳の母が、片方の眉を上げて見つめている。
「うわあ・・・、おっかねえ」拓巳は大げさに震えて見せた。
「そうかな、とっても優しそうだよ」多希は拓巳の母を、眩しそうに見つめた。
「うちの母ちゃんが優しそうだなんて、多希、目がおかしいんだよ」
「そうかなあ」
「そうだよ」
けれど、多希には本当に拓巳の母親が眩しく思えたのだった。

「どうぞ。やっとおやつが食べられるね。多希君、手伝わせちゃってごめんね」
やっとスペースの空いた部屋に、おやつが準備される。
手作りのマーマレードと、オレンジジュース。
「いただきます」
「どうぞ」
そのふわふわのマーマレードを口に入れると、バターの香りが口いっぱいに広がって、なんだか多希はとても幸せな気持ちになった。
「・・・おいしい」
「本当!?もう、多希君たらいい子ねえ。いっぱいあるから食べてね!」拓巳の母は嬉しそうに多希の頭を撫でた。
そのふんわりとした手の感触に、多希は思わず頬を赤らめてうつむいてしまう。
「もう、母ちゃんやめろって。ガキんちょじゃないんだから、頭撫でんなよ。多希が嫌がってるだろ」
「あ~、そっか、そっか。ごめんね、多希君」
「いえ・・・」
うつむいたままで、マーマレードをもう一口かじる。口の中に広がる味は、限りなく優しい。
「そう言えば・・・」拓巳の母が口を開く。「多希君のお父さんは、相変わらず忙しいの?」
「お父さんのこと、知ってるんですか?」
「うん。拓巳のお父さんがね、多希君のお父さんの会社と取引があるの。前から忙しい方みたいだけど、やっぱり変わらず忙しいの?」
「はい」
多希は父親の顔を思い出そうとしたけれど、最後にはっきりと顔を見たのがいつか、もうよく思い出せない。いつも多希が寝てから帰ってきて、起きる前に出かけていく。たまに日曜日に家にいることがあっても、部屋にこもって時々しか顔を合わせることがなかった。『専務』という仕事がどんな仕事か、多希には分からなかったけれど、忙しい仕事だということだけは幼いながらに理解していた。
「なかなか会えなくって」そう言って寂しげに笑う。「それに弟が生まれたから、なんだかお母さんもとっても忙しいんだ」
「そっか・・・。ね、多希君。こんなぐちゃぐちゃな部屋でよかったら、いつでも遊びに来てね」
「いいの?」
「勿論!ね、拓巳?」
「勿論だよ!!」拓巳はマーマレードを口に詰め込みながら、うんうんと頷く。
「ありがとう」ふんわりと笑う多希の笑顔は、拓巳がそれまで見た中でも、五本の指に入るほど綺麗だった。

「お邪魔しました」玄関で多希が来たときと同じようにぺこりと頭を下げる。
「またいらっしゃいね」
「また明日学校でね!」
玄関で拓巳は母と二人で帰っていく多希の背中を見送った。
多希の背中が見えなくなったとき、母親の手が拓巳の頭をそっと撫でた。
「拓巳、多希君と仲良くしてあげるのよ」
「してるよ?」
「うん。これからも、いいお友達でいてね」
「当たり前だよ!!」
そのときの母の言葉の真意を、幼い拓巳が知る由もなかった。そのこと言葉の本当の意味を知るのは、もっとずっと未来の話。


「それから多希は、ちょくちょくうちに来るようになったんだ。別に何をするってわけでもないけど、夕方までうちにいて、日が暮れる前に帰っていく。・・・変わりのない毎日。でも、二年生になった頃から、少しずつ多希の様子がおかしくなってきたんだ」
拓巳は手に持ったままのグラスを、ぐっと握りしめた。グラスの中に残っているビールは、既にぬるくなってしまっている。


「多希、帰らなくてもいいの?」
拓巳の問いかけに、多希は少しだけ体を硬くした。陽はもう傾きかけている。
「うん・・・。そろそろ帰るよ」
元気のない声で、のろのろと立ち上がる。立ち上がった途端に、ふらりとよろけて、多希は拓巳のベットの淵につかまった。
「大丈夫!?」
「・・・うん」
駆け寄って、拓巳は多希の顔を覗き込む。色白のその顔は、いつにも増して血の気がない。それに、拓巳には最近気になっていることがあった。
もともと華奢な多希の体。その体が少しずつ、より細くなっているような気が拓巳にはしていた。それに、今日のようにふらつくことも一度や二度ではない。
具合が悪いように見えたものの、学校での給食はしっかりと食べている。食欲がないわけではなさそうだった。だから拓巳は、気にしつつもきっと大丈夫だと思っていた。
「また明日ね」
「うん。また明日・・・」そう言って手を上げかけたとき、多希がげほげほと咳き込む。昨日くらいから、風邪を引いたのか咳き込むことが多い。咳が治まっても、喉の辺りで「ひゅーひゅー」と変な音がしている。
「多希、大丈夫?病院行ったほうがいいんじゃないの?」
背中をさする拓巳の顔を、多希はにこりと見上げた。「大丈夫だよ。また、明日ね」
「・・・うん」
いつものように帰っていく多希の背中を見送った。何か分からないものの、幼い拓巳の胸は、妙にざわざわと波立つのを感じていた。多希の背中をさすっていた手が、風に吹かれる。友人の背中がいつもよりも熱かったような気がして、拓巳はその手をぎゅっと握った。

次の日、多希は学校に来なかった。
「先生。多希って今日どうしたの?」1時間目が終わって、教室から出ようとする担任の先生を拓巳は呼び止めた。
「ああ、柴山君ね。それが・・・連絡来てないのよ。先生もあとから連絡してみようと思ってるんだけど」拓巳の母親よりは少し若い担任の森先生は、細い顎に手をやってため息をつく。
「連絡来てないの?」
「うん。どうしたのかしらね?」
拓巳の手に、昨日の多希の背中の熱さが蘇る。もしかしたら、風邪が悪化して寝込んでいるのかもしれない。今日の帰りに多希の家に寄ってみようと思った。
多希の家には一度も上がったことがない。赤ちゃんがいるから・・・と、多希はいつも遊びに行きたいという拓巳の提案を断り続けていた。それでも、家の場所くらいは知っていた。

「児島君」
そう森先生に呼ばれたのは、次の休み時間のことだった。
「さっき先生、柴山君のお家に電話してみたんだけど、柴山君、おばあちゃんのお家に行ってるらしいわよ。心配してくれてたんでしょう?児島君は優しいものね」
にこりと森先生が笑いかける。
褒められてくすぐったいような気持ちの一方で、拓巳は妙な違和感を覚えていた。
多希が病気じゃないというのはほっとした。けれど、何かがおかしい。多希は昨日「また明日ね」と言って帰っていったのだ。それに・・・。
それに・・・そうだ。
多希は以前、「僕にはもうおじいちゃんもおばあちゃんもいないんだ」と寂しそうに言っていたことがあった。遊びに行くおばあちゃんなど、多希にはいないのだ。
どくりと心臓が脈を打って、嫌な汗が背中を流れた。すぐにでも多希の家に行きたい気持ちがあったものの、まだ授業は昼過ぎまで残っている。子供の拓巳には、授業が全て終わるのを待つしかなかった。

その日の授業の内容など、少しも覚えていない。
終業のチャイムの音を聞くと、拓巳は学校を飛び出して多希の家に向かった。背中でランドセルが揺れるのが、煩わしいとさえ思った。
大きな家。大きな扉。多希の家は、拓巳の家よりもずっと大きい。その大きさに圧倒されながらも、背伸びをしてチャイムを鳴らす。少ししてから、スリッパで歩く音が近づいてきた。
「どなた?」
扉が細く開けられて、そこから暗い顔が覗く。
「あ、あの」多希の母親だろうか、と拓巳は思う。その顔は、多希とは全く似ていない。「多希君は?」瞳の色も、多希と違って真っ黒だ。
その真っ黒な瞳が、全く興味なさそうに拓巳を見る。
「多希君?おばあちゃんの家よ」
「で、でも!」
多希の母親らしい人は、ふいと顔を逸らしてもう扉を閉めようとしている。拓巳の声など聞いてはいない。その扉が閉まる瞬間、拓巳は見たのだった。玄関にそろえられている、いつもはいている多希の靴を。そして、聞いたのだ。微かに誰かが咳き込んでいる音を。
「あの!!」
目の前で虚しく扉が閉められる。ガチャリと鍵の閉まる音も聞こえて、拓巳は完全に自分がこの家に拒絶されたことを知る。子供にはもうどうしようもできない。
拓巳にはとぼとぼと家に帰るしかなかった。
もしかしたら、多希は拓巳の知らないおばあちゃんの家に遊びに行っているのかもしれない。家の中から聞こえた咳も、多希じゃないのかもしれない。大体、家の人がいないといっているんだから、間違いのはずがない。
そう思っても、拓巳の胸騒ぎは消えないのだ。
「ただいま・・・」
元気のない声に、拓巳の母はびっくりして拓巳に駆け寄った。
「どうしたの?何かあったの?」そう言いながら、拓巳の額に手をやる。
「多希が」優しい母親の顔を見た途端、拓巳の中で何かがぷつんと切れて、涙が溢れた。




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