りんどう庵

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


37.意味の違うキス

2010.03.24  *Edit 

桃佳の部屋のドアを開け、最初に視界に飛び込んできた人物に、多希は片方の眉をピクリと跳ね上げた。

「柴山さ~ん!!お帰りなさいっ」

まるで新妻のようなピンクのフリルの付いたエプロン姿をした美緒が、満面の笑みで多希を迎えた。
その美緒の後ろから、まるで隠れていたかのように桃佳がひょこりと顔を出す。
「多、お兄ちゃん、お帰りなさい」
恐る恐るといったふうに多希の顔を見ると、『どうしてここにこいつがいるんだ』と書いているような顔をしている。
「柴山さん。いつもモモちゃんがお夕食作ってるって聞いたから、今日は私が力になれたらな、って思って夕食作りに来ちゃいました!」
そんな多希の様子など微塵も察していな美緒が、おたまを持ってにっこりと微笑む。
床には大量の買い物をしてきたと見られる、大きな買い物袋がふたつも置いてあった。
「それにしても・・・」美緒がうっとりとした表情で多希を見つめる。
「な、なんですか?」さすがの多希も美緒には調子を狂わされるらしく、ぼろを出さないように警戒している様子がおかしくて、桃佳は笑いを堪えるのに一苦労だ。
「お仕事のときの柴山さんも素敵ですけど、やっぱりオフのときは全然違いますね」
目の前の多希は、仕事のときのように前髪でその端正な顔を隠すこともなく、眼鏡もかけていない。すっきりとシャツを着こなすその姿は、まさに職場とは別人のようだと美緒は思った。
「いつもそんなふうにしてればいいのに。あ・・・でも、そうなると競争率高くなっちゃうから、だめか」
ひとりでぶつぶつ言っている美緒を横目に、多希は大きなため息をつく。
「あの・・・、渡辺さん」
「はい?」
「ちょっと部屋のものを移動したいんですが、妹を連れて作業してきてもかまいませんか?」
桃佳がその言葉に反応するより早く、多希は彼女の二の腕をがっちりとつかんでいる。
「・・・お兄ちゃん?」
悪い予感で、桃佳の頬はヒクヒクしている。
「ええ?今じゃなきゃダメなんですかあ?」
美緒が出す寂しそうな声に、桃佳も同調したい気分だ。このまま多希の部屋に連れて行かれてしまったら、何をされるか分かったものじゃない。
「すぐに済みますから。その間に渡辺さんは夕食の支度をしていてもらえませんか?」
にこりと笑う多希の言葉に、美緒はまだ不満そうに口を尖らせている。
桃佳は心の中で、美緒がもっと食い下がってくれるように激しく祈った。
「夕食、楽しみにしているんで」
にっこり。
更に極上の笑みが美緒に向けられる。
「はい。頑張って作ってます!!」
桃佳の願いも虚しく、美緒はあっさりと陥落した。
「じゃ、ちょっと行って来ますから。ほら、モモ」
言葉の最初の方は、さっきまでの極上の笑みのままで、言葉の最後の方で桃佳に向けられた瞳は、完全に笑っていない。
「あの、お兄ちゃん?別に今じゃなくっても・・・」
最後の抵抗に、小さな声で言ってみる。けれど、その言葉は速攻で却下された。
「さあ、モモ。手伝ってね?」
穏やかな優しい声。けれどやっぱりその目は全く笑っていなかった。

桃佳の腕を引っ張ったまま、多希は黙って自分の暗い部屋に上がっていく。
うまく靴が脱げずに、桃佳は玄関の段差でつまずきそうになりながら、やっとの思いで靴を脱いで、引きずられるままに彼の部屋に上がった。
電気もつけない部屋の中では、どこに何があるのかもよく分からない。仕方がないので、多希にしたがってついて行く。
部屋の中心辺りまで引っ張ると、多希はやっとその腕を開放した。
「モモ、どういうこと?どうして渡辺さんがモモの部屋にいるの」
腕を組んでいるのは分かるものの、暗がりでその表情は読めない。けれど怒っているだろうことは、想像できた。
「だって・・・」
「だって?」
桃佳はつかまれていた二の腕をさすりながら、「どうしようもなかったんですよ」とため息混じりに言った。
「昨日多希さんが、会議があるから遅くなるって言ってたから、今日はゆっくり帰ってきたんです。そうしたら、部屋の前で美緒さんが座り込んで待っていて・・・」
そこまで言って、今自分が責められていることが不当であることを主張するかのように、眉をひそめた。
「大きな買い物袋持って、今日は私に夕食を作らせてってお願いされたら、断れるはずがないじゃないですか」
確かに美緒のあの勢いで頼まれたら、桃佳では断りようもないと多希も思う。
しかも在宅中にたずねて来たのなら居留守もできるが、部屋の前で待たれたら、とても追い返すことなど桃佳には無理そうだ。
「・・・分かったよ」
珍しく聞き分けのいい多希に、桃佳はほっと胸を撫で下ろす。
「でもね、モモ」
「ひゃ!!」
多希の長い腕が桃佳を絡めとり、その体を包み込む。
「ちょっと!!またそういうことを!!」
じたばたする桃佳の体を、多希はいっそう強い力で抱きしめた。
「しぃ。大きな声出さないの。渡辺さんに聞かれるよ」
確かに多希の言うとおりだ。桃佳はとりあえず大きな声を出すのはやめたものの、体を捩って多希の腕から何とか逃れようと試みる。
「往生際が悪い」
苦笑いするような声色が、耳元で響いたあと、桃佳の体は壁際に押し付けられる。
すぐ壁一枚隔てれば、桃佳の部屋だ。
「ここで暴れたら、どういうことになるか分かるよね?」
美しい薄い色素の瞳が、怪しく微笑む。
「変な物音や声が聞こえたら、彼女のことだから、この部屋に来るかも。・・・鍵も閉めてないしね」
多希は最上級のいじわるな笑みを浮かべ、ドアの方へ顎をしゃくってみせた。
玄関と居間を仕切るドアは開け放されたままで、今もしも美緒が多希の部屋の玄関を開けようものなら、薄暗い部屋で抱き合っている二人をすぐに見つけるだろう。
「お兄ちゃん、って呼んでいる人とこんなことしてるところ、見られたい?」
その言葉に桃佳は暴れるのをやめ、その代わり首を激しく振った。
おとなしくなった桃佳を、多希が満足そうに見つめた。
「そうそう。最初からそうやっておとなしくしてればいいのに」
桃佳は悔しくて唇を噛む。それでもさっき多希が言ったように、この現場を美緒に見られてしまうのはさすがにまずいので、じっとしているしかない。
「モモ」
多希が桃佳の頭を抱くようにして、自分の胸にぴったりとつける。優しげな声が、直接桃佳の中を揺らす。
「モモ俺はね、モモのことが好きなんだ。だから、他人に二人の時間を邪魔されるのは嫌なんだよ。分かる?」
その言葉に、桃佳の脳は一瞬理解力を失う。
「へ?」
頭を上げて多希の顔を見る。頭は抱きこまれたままなので、多希の胸に顎をつけ、下から覗きこむようにその顔を見た。
よっぽどおかしな顔をしていたのか、多希は下から覗きこむ桃佳の顔を、不思議そうに見ている。
「どうかした?」
「・・・今、なんて言いました?」
「どうかした?って言ったはずだけど?」
「じゃ、なくて、その前です!!」
「ああ」目を細めて、にこりと微笑む。「モモが好きだから、他人に二人の時間を邪魔されたくない」
「なん!!!!」
なんですかそれ!!!そう言うつもりだったものの、桃佳の口は、多希の大きな掌でふさがれる。
「モモ・・・。本当に渡辺さんが来ちゃうよ」
桃佳は多希の手を口元から引き剥がすと、今度はなるべく小さな声で叫ぶ。
「なんですか、それ!!私のこと・・・好き・・・だなんて、どういうつもりです!?」
『好き』というところだけは、本当に囁き声で。
「どういうって・・・。言葉の通りだけど?前にも『モモのことが気に入った』って言ったはずだよ?」
多希は涼しい顔でさらりと言ってのける。
「気に入ったってことと、好きってことは同じじゃないですよ!」
桃佳にとっては、『気に入った』という言葉と、『好き』という言葉では、天と地ほども違いがある気がしていた。そんな言葉を、こんなシチュエーションで言われて、動揺しないはずがない。その顔は今にも発光しそうなほど真っ赤だ。
「そう?」
「そうです!!わ、私は、駿ちゃんの彼女なんですか・・・むぐっ」
さっきと同じように、桃佳の口は多希の掌にふさがれる。
壁一枚隔てた桃佳の部屋から、『かちゃり』と食器のぶつかる音がした。美緒の出した音に違いない。静かな多希の部屋では、隣の部屋の物音さえも響いて、桃佳は思わず体を硬くした。
「だから、大きな声を出さないの。・・・駿の彼女だってことくらい、よく分かってるから心配しなくていいよ。俺が仕掛けたゲームなんだから、忘れるはずがない」
少しだけ寂しそうに笑う多希。
けれど桃佳には、どうしても『モモのことが好き』という言葉を鵜呑みにすることはできなかった。
多希の本当の顔を知らない桃佳にとっては、どれも本当の多希で、どれも本当の多希ではないのだから。
やっと桃佳の口元から多希の手が離れ、胸に押し付けるように抱きこんでいた頭は、今度は両頬を包み込んで上を向かされる。
「ねえ、モモ。そろそろ戻らないと、怪しまれるよね?」
「そうですね。そ、そろそろ戻りましょうよ」
じっと見つめられ、思わず桃佳は目を逸らす。鵜呑みにはできないものの、『好き』と目の前で言われた動揺はすぐには消えない。
多希は少しだけかがむと、桃佳の視界の中に入り込む。
「じゃあさ、目、つぶって?」
「は?」
「は?じゃない。目、つぶるの。できるでしょ?」
悪い予感に、桃佳は眉を八の字に曲げた。
「な、なにする気ですか?」
「キス」
「な!!!!!」やっと落ち着きを取り戻しつつあった桃佳の顔は、再び発光しそうなほど真っ赤になった。
「だから、キス。モモが目をつぶるまで、戻らないよ」
「そ、そんなのずるいです!!勝手に決めないでください!」
目の前の端正な顔にキスをねだられて、桃佳は軽い眩暈を覚えた。
「ずるくても勝手でも、目をつぶるまで戻らないよ。早くしないと、彼女、こっち来ちゃうと思うけど?」
「そそ、そんな事になったら、多希さんだって困るはずです!」
「別に。そうなったらいい加減彼女も諦めるでしょ?一応、近親相姦とか思うだろうからね」
事も無げに言い放つ多希は、とても強がっているようには見えない。桃佳は言葉をなくして、ただ口をパクパクさせるしかなかった。
「ほら、目、つぶって」
多希がにっこりと笑って更に要求したとき、再び桃佳の部屋で物音が聞こえる。どうやら居間のドアを開けた音だ。桃佳の心臓は飛び上がった。
「・・・ほら、彼女こっちに来る気かもよ。早くしたほうがいいんじゃない?」
多希の言うことが本当だったなら一大事なのに、当の本人はのんびりとそんなことを言っている。
「早く」
隣の部屋から、かちゃりと玄関のドアノブをひねる音が聞こえた気がした。
「モモ」
心臓が大きな音を立てる。もう、多希の声以外は聞こえないくらいに。
「早く」
甘く急かす多希の声に、桃佳はもう選択肢などないような気がして、ぎゅっと目をつぶった。
次の瞬間、冷たくて柔らかい感触が桃佳の唇に重なった。

「夕食の支度ができたんですけど、もう終わります?」
美緒がガチャリと多希の部屋のドアを開けると、明るい部屋の中で多希が微笑んでいる。
「今終わったところですから」
桃佳は背中を向けて、カーテンをしているところだった。
「そうですか?じゃ、よそっておきますから、早く来てくださいね」
美緒はそう言うと、鼻歌交じりに桃佳の部屋に戻っていった。
桃佳はほうと、大きなため息をついた。どうやら何も見られずにすんだらしい。キスも、この赤すぎる顔も。
「モモ」
呼びかけられて、桃佳は飛び上がりそうになる。
「初めてだね」恐る恐る振り向いた先には、目を細めて微笑む多希の笑顔。
「な、にが、ですか?」
「あの夜を除いて、同意のキス」細い指を唇に押し当てる彼の仕草に、脈拍数は跳ね上がる。
確かに今までのキスは、不意打ちだったり、無理やりだったり・・・。
「同意って・・・!!脅したじゃないですか!強制じゃないですか!!」
「理由は何であれ、モモは自分から目を閉じたんだよ」
「でも!」
「目、自分から瞑ったよね?」
それ以上の反論の言葉は桃佳には見つけられない。確かにそれは事実だから。
「さ、モモの部屋に戻ろうか」
桃佳は来たときと同じように、引き摺られるように自分の部屋へと連れ戻された。


「美味しそうですね」
テーブルの上には何かの記念日?と思われるような料理が並んでいた。
ローストビーフだの、カルパッチョだの、到底桃佳は作れそうもないお洒落な料理たち。しかも食後のデザートの手作りプリンまで出てきた。
多希は最初美緒を見つけたときとはうって変わって、上機嫌に美緒に対応し、料理を食べた。
「モモちゃん、あんまり食べないのね?もしやダイエット?」
「いえ・・・」桃佳はさっきの出来事に、食欲どころではない。
「モモ、ちゃんと食べないとダメだよ」そう言いながら、美緒には見えないように、多希は自分の唇に指を押し当てた。
「ね?」優しく言いながら、不敵な笑みを浮かべる。
「・・・はい」
そう答えながらも、

『あなたのせいでしょ!!!!!』

桃佳は現実では絶対に叫ぶことのできない思いを、心の中で叫んでいた。




←よろしければ拍手とコメントが送れます。
スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

 管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。