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ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


4.彼の家へ

2010.03.23  *Edit 

「あ、清水!」

駿が手をあげてこちらに向かって笑いかけてきている。
桃佳はやっとの思いで、なんとか笑顔を作ることに成功した。
それでも、ただ笑顔になることがこんなにも大変だと思ったのは、初めてのことだ。

「ごめんね、駿ちゃん、待った?」
「全然、今来たところだから」

たとえ待っていたとしても、彼はいつだって「全然待ってないよ」と言ってくれることを桃佳は知っている。
その優しさが、今の桃佳には痛い。
準備にそんなに時間はかからなかったのだけれど、花びらのようなあのキスマークを隠してくれる服を探すのは一苦労だった。
やっとなんとか隠しきれる洋服に着替えて、ここにやってきたといった経緯だ。

「じゃ、行こうか」

そう言って、駿は桃佳に向かって、いつもそうしているように手を差し出す。
いつもならば、何のためらいもなくつなぐ駿の手。
でも今日の桃佳はなんとなく手をつないだら、指先から昨日の出来事が伝わってしまうような不安感に包まれて、駿の手を握ることができないでいた。
「清水?」
駿が、「どうしたの?」という目で桃佳を見る。
「あ、あのね、駿ちゃんのお家の人に何か買っていこうと思って。あ、あそこのシュークリーム美味しいんだって。シュークリーム買っていこうかな」
「清水?」
「ちょっと行ってくるね」
そう言って走っていく桃佳の背中を、駿は眩しそうに見送った。

数分もすると、シュークリームの箱を手にした桃佳が戻ってきた。
しっかりと両手でシュークリームの箱を支えている。
これじゃあ、手はつなげないな。
と、駿は多少なりとも残念に思っていた。


二人が出会ったのは、8か月ほど前のことだった。
桃佳の友達のみなみと、駿の友達の章吾が中心となって、男女合わせて8人くらいでボーリングに行ったのがきっかけだった。
みんなでわあわあと盛り上がっている中で、駿は何となく桃佳のことがずっと気になっていた。
桃佳は自分のことを「可愛くない」と思っているようだけれど、駿はその自己評価は不当だと思っている。
実際、パッチリした瞳とふっくらした唇、地毛だという栗色のふわふわした髪の毛はまるで人形のように愛らしい。
人目を引く愛らしさを持ってはいるものの、先頭に立って自分をアピールするタイプでもない桃佳は、どちらかというと輪の中では目立たなかった。
みんなが楽しそうにしているのを、輪の外から微笑んで眺めているような...。
だから最初、駿もなかなか桃佳に声をかけることができないでいた。
それでもボーリングの後に行った食事の席で、隣り合わせたことがきっかけで、二人は徐々に話をするようになった。
桃佳の容姿はもちろんだけれど、その控え目な感じと、周りに気を遣う様子に、すっかり桃佳のことが気にいってしまったのだった。
それからは駿の積極的なアプローチで、付き合い始めたのが6か月前。
駿にとっては自慢の彼女だ。



「こっちだよ」
そう言って、駿は背の小さな桃佳のために、ゆっくりと歩く。
初めての場所に、シュークリームの箱を大事そうに抱えた桃佳は、珍しそうにあちこちきょろきょろと見ている。
すれ違った人が、振り返って桃佳を見た。
桃佳もそれに気がついて、少しだけ沈んだ顔で足元を見たのが駿にもわかった。
いつだって桃佳は、誰かが振り返って自分を見るのは、自分にどこかおかしいところがあるからじゃないかと思ってしまうようだ。
本当は、桃佳の容姿に思わず振り返ってしまったとしても。
もしかしたら、昔何か嫌なことでもあったのかもしれない。
けれど、彼女は何も言わないので駿も敢えて何も聞いたことはなかった。

それにしても、と駿は思う。
人目を気にするのは、桃花よりもむしろ自分の方かもしれない。
パッと見た感じ、どう頑張っても自分はさほどかっこいいとか、イケメンとか言われる部類の人種ではない。
もしかしたら、人が振り返るのは、桃花と自分が不釣り合いだからかもしれなかった。
でも駿はそんなことは気にしないことにしている。
桃佳は自分のことを大事だと言ってくれるし、駿も誰よりも桃佳が好きだから。
それだけでいい。
前向きな性格が、自分の一番いいところだと、駿は自負していた。



しばらく歩くと、住宅街についた。
まだ新しい感じの、可愛らしい家が立ち並んでいる。
駿の家は、そのうちの一つだった。
玄関前には、色とりどりの花がきれいに並べられている。
「きれい」
「ああ、うちの母さんがガーデニングとかに凝ってるみたいでさ、暇な主婦の唯一の趣味みたいだよ」
そう言いながら、「ただいま」と駿は玄関を開けた。
パタパタとスリッパの音が聞こえて、駿の母らしき女の人が出てきた。
丸顔のその女の人は、一重の瞳なんかは駿にそっくりだ。
桃佳がそんなことを考えていると、その女の人、駿の母、美佐子と目が合って、桃佳はあわてて深々と頭を下げた。
「あ、あの、清水桃佳といいます。これ、おいしいって評判のシュークリームです」
頭を下げたままで、箱を美佐子の方に差し出す。
その様子がおかしくて、思わず駿は「ぷ」っと笑ってしまった。
窺うように上目使いで視線を上げると、美佐子はにっこりと笑って「ありがとう」と箱を受け取ってくれたので、桃佳もほっとしてにっこりとほほ笑んだ。
その笑顔で、美佐子も桃佳のことがなんとなく気に入った。
笑顔もそうなのだけれど、今時の子にしては化粧っ気もなく、薄く口紅をしているだけ。そんな控え目な感じが気に入ったのかもしれない。
化粧をごてごてしているような女は嫌いだ。
美佐子の頭の中に一人の女の顔が浮かんで、あわてて美佐子はその姿をかき消す。
「駿からね、お話は聞いてるのよ。ごゆっくりね」
「お邪魔します」
靴を揃えて玄関に上がる。
「こっち」
と、玄関の目の前の階段を、駿に続いて上がった。



「どうぞ、散らかってるけど」

そう言われて通された駿の部屋は、思っていたよりも片付いていた。
「散らかってないじゃない」
桃佳は珍しそうに、きょろきょろと部屋の中を見渡した。
窓側に机とベット、部屋の中心に小さなテーブルがある。
雑誌なんかが無造作に積み上げられてはいたものの、散らかっている、というほどでもない。
ただ、なんとなく部屋の3分の1くらいのスペースが使われていないかのように、本棚やカラーボックスの類が無造作に置いてあった。

「座って?」

駿に声をかけられて、桃佳は自分が突っ立ったままで部屋の中をきょろきょろと見回していたことに気がつき、なんだか恥ずかしくなった。
「ごめん」
恥ずかしそうに笑って、桃花は駿の向かい側に座った。
なんとなく、会話が途切れる。
いつも二人で過ごしてきたはずなのに、こうして初めて駿の部屋で二人きりになったりすると、変に緊張してしまっていた。
それは駿も同じようで、いつもよりも口数が少ない。
「・・・部屋、きれいにしているんだね」
「ああ、清水か来るから、昨日あわてて片付けたんだ。いつもはこんなに片付いてないんだ」
「そうなんだ」

会話が長続きしない。
いつもと違う空気に、桃佳は思わずぐっと拳を握ってしまている。
「清水」
「へ?」
声の方を見ると、向かい側に座っていたはずの駿が、桃佳のすぐ横に座っていた。
顔が近い。

『キスをされる』

そう思った途端に、桃佳は反射的にうつむいてしまった。
「どうしたの?」
「えっと、その、だって」
言葉が出てこない。
キスなんて、もう何度だってしている。
その先のことだって、何度かした。
だけど、いつもと違う場所ってだけじゃなく、さっき駿の手を握れなかったように、駿と向き合うのが怖かった。
体中に残された赤い花びらのあとのようなキスマークのように、桃佳の心の中にも、昨日の出来事がはっきりと残っているから。
自分を見る真っ直ぐな駿の視線が、昨日の裏切りの罪悪感で桃佳をぎりぎりと締め付ける。
その時、『コンコン』と、部屋のドアがノックされる音がした。
駿は小さくため息をついて桃佳から離れた。
「さっきいただいたシュークリーム持ってきたんだけれど」
美佐子がにこにこしながら、紅茶とシュークリームを乗せたお盆を運んできた。
「あ、どうもすいません」
「清水さんは、何の大学に通っているの?」
美佐子が紅茶と、シュークリームをテーブルの上に置きながら尋ねる。
「はい。私は福祉のほうの大学に...」
「あら、福祉の?じゃあ、いろいろと大変でしょう?」
「実習とかになると、大変です」
「そうなんでしょう?」



・・・母さんの奴、いつになったら出ていくつもりなんだ。

そのまま座り込んでしまった美佐子に、駿は二度目のため息をついた。
普段だったら彼氏のお母さんに自分のことを根掘り葉掘り聞かれることは、あまり得意ではない桃佳だったけれど、この時ばかりは美佐子の出現に正直ホッとしていた。



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【恋愛遊牧民】


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