りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


39.それぞれの一日が始まる

2010.03.24  *Edit 

携帯のアラームが鳴り出して、桃佳は夢の淵から救い出される。
寝ぼけまなこで、枕元ににある携帯をつかんでアラーム音を消した。
カーテン越しに朝の光が部屋を満たしていて、桃佳はゆっくりと起き上がった。
昨日、美緒の作り置きしていった料理を見ているうちに、なんだかとても卑屈な気持ちになって、更にとても嫌な昔のことも思い出してしまった。
なんだか涙が出てきて、でも多希に見られるのは嫌で、声を押し殺して泣いたまでは覚えている。
自分でベットに入った記憶はないのだけれど・・・なぜかいつものようにベットに横たわる自分。
間違いなく、多希が移動させてくれたに違いない。
そうなると、多分泣いていたのもバレバレなのだろう。
そう思うと、思わずため息が漏れた。一番弱みを見せたくない人に、涙を見られてしまった。それに・・・。
そっと唇に触れ、思いっきり頭を振った。
思ったよりもひんやりとした感覚。多希の唇の感覚が鮮やかに蘇ってきて、消えない。
何度も重ねたことがあるはずなのに、『同意のキス』と言われたことが引っかかって、変に意識してしまう。
「あんなの!同意じゃない!!」
「いや、間違いなく同意でしょ?」
「っひゃあ!!!」
まさか返事が返ってくるなど、桃佳は想像もしていなかった。
多希はいつも桃佳の部屋で眠っても、桃佳が目覚める前に自室に帰っているようだったから。だからいつものように、もう多希はいないものだと思い込んでいたというのに、返事が返ってきて、激しく動揺する。
「モモも強情だよね?いい加減、認めたら?」
多希はキッチンのシンクにもたれかかるようにして、自室から持ってきたらしい缶コーヒーを飲んでいる。
出勤の準備を済ませたらしく、前髪を下ろし、眼鏡をかけていた。前髪の隙間から覗く薄い色素の瞳が、桃佳を見て微笑んでいる。
こんなふうに朝日の中の多希を見たのは初めてで、桃佳はなんだか眩しくて目を細めた。勿論眩しいのは朝日のせいだけれど。
眩しさで、多希から目を逸らす。
「同意じゃないです・・・」目を逸らしたままで、口を尖らせて反論するものの、声は消えそうなくらい小さい。正直、反論したところで、『モモが自分から目を閉じたんでしょ?』と言われたらそれまでだ。それに、桃佳自身その事実は認めざるを得ない。
「ふうん。まあ、いいや」
空になった缶を置き、多希は目を細めて面白そうに笑っている。
『同意かどうか』ということを、これ以上詮索されなかったのはありがたかったものの、多希の余裕たっぷりの笑顔に、桃佳は今度は口をへの字に曲げた。
「ぷ」
多希がシンクにもたれかかったままで、桃佳を見て笑っている。
「なんですか。人のこと見て笑うなんて、失礼ですよ」
ぎろりと多希を睨んで、更に顔を歪めてみせる。
「・・・百面相」
シンクにもたれかかったままで、体を丸めて肩を揺らして笑う多希を見ていると、桃佳もなんだか怒っているのがバカらしくなってきて、小さく笑ってため息をついた。
「それにしても、多希さんがこの時間にここにいるなんて初めてですね。どうしたんですか?」
肩を揺らして笑っていた多希は、「ああ」と顔を上げて、にこりと笑う。
「一緒に朝ごはん食べようと思って」
「朝ごはん・・・ですか?」
いつも朝になるといない多希。桃佳は勝手に、彼は朝ご飯を食べないんだと思い込んでいた。
「朝ご飯食べるんですか?てっきり食べないんだと思ってました」
「いつもは食べないよ。コーヒーだけかな。でも、ほら今日は昨日のがいっぱい残ってるから」
そう言いながら、多希は冷蔵庫に目をやる。
そこには、確かに朝食としては多いくらい、美緒が作っていってくれた料理が出番を待っている。
「そうですね。美緒さんのお料理、とっても美味しかったですもんね。でも、今食べなくても夕食にすればいいじゃないですか」
言ってから桃佳ははっとする。自分が思っている以上に、その声色はとげとげしかった。ちらりと多希を盗み見たものの、そんなことは気にしていないようで、桃佳はほっと息をついた。
「うん。でも、そうすると、モモの作ったものを夜食べられなくなるし」
「え?」
「確かに渡辺さんの作ってくれたものは美味しかったけど、俺はああいう凝ったものよりも、シンプルな家庭料理のほうが好きだから」
褒められているのかどうなのか微妙だったものの、その言葉は確実に卑屈になっていた桃佳の気持ちを柔らかくする。
多希はさっさと冷蔵庫からお皿を取り出すと、電子レンジで温めはじめる。
「ほら、モモぼけっとしてないで、着替えでもしたら?遅れても知らないよ。俺、自分の部屋でタバコ吸ってくるからさ」
そう言うと、ひらひらと手を振り、部屋を出て行った。
「・・・勝手なんだから」
桃佳は呟いて、着替えを始める。
まさか多希に心を軽くされるなんて思ってもいなくて、戸惑いながらも微笑んでしまう顔を止められなかった。





「おはよう」
更衣室で声をかけられて、着替えの手を止めて多希は振り返る。後ろのロッカーに私物をつめながら、拓巳がにこりと笑って多希を見ている。
「ああ、おはよう」
多希もまたにこりと笑って、ロッカーの中から白衣を取り出すと、ふわりと羽織った。
「機嫌いい?」
拓巳の言葉に、多希は首を傾げる。
「そう見える?」
「見える・・・かな」
「じゃ、多分、いいんだよ」
ロッカーを閉め、拓巳の方に向き直り、多希は柔らかく微笑んだ。その表情は男の拓巳から見ても、どきりとするほど綺麗な笑顔。
思わず見とれていると、多希は腕時計を見て少しだけ慌てる。
「じゃ、俺、準備とかあるから行くわ」
「多希」
「ん?」
「また、お前達んとこ遊びに行ってもいいかな?」
出口に向かっていた足を止め、多希は振り返る。その顔はまるで少年のようだ。
「ダメ」
「は?」
「邪魔されたくないから、邪魔しに来ないでくれ」
ぽかんと口を開けて、去っていく多希の背中を拓巳は見送った。
それからくすりと笑う。
拓巳にはどうして多希が桃佳を選んだのかは分からない。けれど、多希が桃佳を選んだことが間違いではないと確信できた。
多希のあんなに純粋な顔を見るのは、どれくらいぶりだろうか・・・。
拓巳にとっては、自分のことのように嬉しくてならなかった。


拓巳はファイルを抱えて、階段を上った。
別にエレベーターを使えば話は早いのだけれど、運動も兼ねて、拓巳はいつもこうして階段を使っている。
ファイルを抱えて、外科のナースステーションに慣れた様子で声をかける。声をかけたものの、ナースステーションは空っぽだ。
外科の病棟は、いつも入院患者だ手術だと忙しい。この時間、ナースステーションに殆ど人がいないこともよく知っていたものの、至急で頼まれていたファイルなので、放置しておくわけにもいかない。
あとで文句を言われては、困ってしまう。
拓巳はとりあえずデスクの上にファイルを置いた。
人が来るまで待とうと思ったとき、パタパタと足音がナースステーションに入ってきた。
終わった点滴を両手にぶら下げて戻ってきたのは、美緒だった。忙しそうな様子も、拓巳を見つけるとにっこりとして近寄ってくる。
「小嶋さん、おはようございます」
「おはよう。忙しそうだね?」
「そうなんですよ~。急に入院が二件も入っちゃって・・・。一件はすぐにオペだとか言っているし」
まだ仕事が始まって間もないというのに、少し乱れてしまった髪を、美緒は耳にかける。
「あ、もしかしてそれ、入院患者さんのファイルですね」
テーブルの上のファイルを見つけて、美緒は「助かった~」と小さく笑う。
拓巳も自分の仕事が済んだので、早々に退散することにする。拓巳にも仕事が山ほど残っているから。
帰ろうとした拓巳を、美緒が呼び止める。
「あ、小嶋さん、ありがとうございました」
「いいえ。仕事ですから、また何なりと」
ぺこりと頭を下げる美緒を、拓巳はにっこりと振り返る。それから、また出口に足を向けた途端に美緒に呼び止められた。
「ああ、小嶋さん!!」
「ん?」
美緒は、多少周りを気にするような素振りで、拓巳に近づくと、ワントーン声を落とした。
「実は、この前柴山さんのお家に行ったんですよ」
「ええ?」
びっくりしたように目を丸くする拓巳に、美緒はにっこりと微笑む。
「・・・で、昨日も夕食作りに行っちゃいました」
「夕食!?」
とても多希が美緒を家に入れた上に、食事まで作らせるはずがない。その疑問は、次の瞬間に美緒が解いてくれた。
「実は、妹のモモちゃんに協力してもらったんです。二人きりは無理そうだけど、モモちゃんがいてくれたら、私にも入り込めそうだから」
「い、妹の・・・モモちゃん?」
「そう。モモちゃん。柴山さんには妹と隣の部屋で住んでいることは誰にも言わないようにいわれたんですけど、小嶋さんなら柴山さんと仲がいいから、モモちゃんのことも知ってるんでしょ?」
「うん・・・まあ」
歯切れの悪い拓巳の返事に、美緒は怪訝な顔をする。
まさか美緒が多希の部屋まで押しかけて、桃佳にまで会っているとは思わなかった。
しかも桃佳を多希の妹と思っているだなんて・・・。
なんだか拓巳は頭が痛くなってくる。そのとき、ナースステーションにナースコールが響いた。
「っと・・・。そう言うわけで、何とか柴山さんに近づくことができましたから!!」
にこやかにそう自分に報告して、明るい声でナースコールを取る美緒の背中を拓巳は複雑な気持ちで見つめた。
あんなに頑張っている美緒のことも応援したい。
けれど、多希には幸せななって欲しい。

階段を下りながら、拓巳は桃佳の顔を思い出した。
ふわふわのくせ毛がはじめに思い浮かんで、思わず拓巳は羊をイメージする。
それから美緒を。
豊かな黒髪に、切れ長の瞳は黒豹をイメージさせた。
羊対黒豹・・・。
女同士の争いならば、とても羊に勝ち目はないような気が、拓巳にはした。
「あとは・・・猛獣使いがどう出るか」

猛獣使い扱いをされたことを知ったら、多希はきっと怒るだろう・・・。

拓巳はそう思って苦笑いした。




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