りんどう庵

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りんどう庵

ぴ~ち・でぃず~ヒミツノカンケイ~ *R18


40.小さな台風

2010.03.24  *Edit 

桃佳は時々、自分は最近ちょっとしたことではあまり動じなくなった思う。
多希との一件があって以来、どうにも驚くことばかりで、小さなことではそんなに動じなくなったと自負していた。
けれど、そんな桃佳が驚くような『来客』がやってきたのは、木曜日の夕方のことだった。


「モモ、今日は何作ってるの?」
仕事帰りに買って来たらしい、スポーツ新聞を広げながら多希が訊ねる。
「今日は、煮魚ですよ。あと、春雨のサラダ」
「そっか。・・・あ、降ってきたな」
その声に、桃佳も窓の外を見る。少し薄暗くなってきた空間に、糸のような雨が落ちていくのが見えた。日が長くなったとはいえ、もうこの時間になるとさすがに暗い。更に、重く垂れ込めた雨雲のせいで、いつもよりも暗くなるのが早いようだ。
部屋の電気をつけ、カーテンを閉める。
夕食の準備に戻ろうとしたそのとき、聞きなれた、ずれたようなチャイムの音が桃佳の部屋に響いた。
桃佳と多希の脳裏に、同時に美緒の顔が思い浮かぶ。多希はあからさまに嫌そうな顔をした。
「モモ、分かってると思うけど、渡辺さんなら上手に帰してね」
にっこり。
とんでもないことを、さらりと言ってのける多希に、桃佳はため息混じりに肩をすくめた。
とりあえずは本当に美緒なのかどうか、覗き穴から覗いてみようと、桃佳はそっと玄関の扉に近づいて小さな穴から外を覗く。その目に飛び込んできたのは・・・。
「か、かえで!!?」
思わず高く叫んで、桃佳はドアノブに飛びつくようにして鍵を開けた。
ドアを開けると、桃佳よりも背の小さな少年が、旅行鞄を肩から引っ掛けて立っている。
「姉ちゃん、久しぶり。お邪魔します」
少年、清水楓こと桃佳の末の弟12歳は、スニーカーを脱ぐと、呆気にとられている姉を玄関に置き去りにして、さっさと部屋の中に上がりこむ。
「・・・あ!!ちょっと、楓、待ちなさい!!」
居間には多希がいることを思い出した桃佳は、慌てて楓を止めようとしたものの、もう時既に遅しで、楓は居間の扉を開けてしまっている。
「あんた・・・誰だよ?」
楓は、部屋の中で呑気にスポーツ新聞を広げている、かなり端正な顔をした男に驚きながらも、睨みをきかせる。多希は多希で、見たこともない少年に驚いて目を瞬かせた。
「楓ってば!!」
「姉ちゃん!!こいつ、誰だよ!」
楓に続いて居間に入ってきた桃佳に、楓は鼻息も荒く詰め寄る。
『姉ちゃん』その言葉で、多希はこの目の前の少年が、いつか桃佳が言っていた3人の弟のうちのどれかなのだろうということが、すぐに分かった。
「え・・・っとお・・・。お隣り、さん?」
彼氏でも友達でもない多希のことをどう説明するべきか、思い悩んだ末に、全く説得力のない答えを口にする桃佳。
その答えを聞いて、多希が「ぶっ」と噴き出すのが聞こえて、桃佳は自分の失敗を悟る。
勿論、楓もそんな答えで納得するはずもない。
「って、バカ姉!お隣りさんがどうして姉ちゃんの部屋で、まったりスポーツ新聞なんか読んでるんだよ!ありえねえ」
「バカ姉ってどういうことよ!!それよりも楓!あんたこそどうしてこんなところにいるの?今日も明日も平日でしょうが!学校はどうしたの!?」
桃佳の勢いに押され、楓は思わずぐっと息を呑む。痛いところを突かれたのは明白だ。
「とりあえず、そこ座んなさいよ」
桃佳に指示されて、楓は彼女の前にしぶしぶ正座する。
「で?学校は?」
「あ、明日は学校の開校記念日で休み・・・」
「ふうん。じゃ、今日は?この時間に着くってことは、昼過ぎには電車に乗ってなきゃならないはずだけど、今日の午後からの授業は?」
桃佳の言葉にぎくりと肩を震わせ、楓は半笑いで頭を掻いている。
「かー、えー、で!!」
いつもとは比較にならないような、威圧感のある桃佳の声に、楓はしゅんと背中を丸める。その姿に、多希さえもちょっと彼のことを気の毒だと思うほどだ。
「それで、今日の午後からの授業は?」
「・・・昼からは、親戚の法事に行くことにしたから・・・」
「行くことにしたからって・・・あんた、小学生のくせに学校サボっちゃダメでしょう?」
「・・・だって」
楓は何か言いたそうに口を尖らす。その顔は、いつも桃佳が多希に責められたときにする顔にそっくりで、多希は笑いをかみ殺した。
そんな多希のことを楓がぎろりと睨みつける。その視線は、今にも噛み付きそうだ。
「・・・で、慧と颯はこのこと知ってるの?」
「兄ちゃん達は、姉ちゃんのところ行こうと思うって言ったら、電車賃くれた」
「止められなかったの?」
「いや、むしろ大賛成」
にかっと笑う楓の表情に、桃佳は大げさにため息をついた。
「で、お父さんとお義母さんには?」
「・・・言ってない」
そんなことだろうと予測はしていたものの、桃佳は再び大きなため息をつかづにはいられない。
もうこの時間だから、慧か颯のどちらかに事情は聞いているはずだろうが、義母はきっとこの一件で自分がまだ楓の母親になれていないんだと、落ち込んでいるに違いない。そう思うと、桃佳はどうしようもなく申し訳のない気持ちになった。
「もうここまで来ちゃったんだから、今更何を言ってもしょうがないけど、きっとお義母さん心配しているよ?」
「うん」
楓もそのことは分かっている。それだけに、さっきよりも深くうなだれる。
「とにかく、私はお義母さんに連絡しておくから」
そう言って桃佳は携帯電話を手にして、実家の番号を押す。待っていましたと言わんばかりに、電話はすぐに繋がった。
「あ、もしもし?お義母さんですか?桃佳です・・・。実は楓がこっちに来てまして・・・」
多希を気にしてか、桃佳は玄関の方に行くと、ドアをバタンと閉めた。
桃佳の微かな話し声が聞こえるだけで、居間の中は静まり返っている。
興味津々と言った様子で楓を見ていた多希を、楓は再び睨みつけた。
「おじさん、姉ちゃんの何?」
口調も表情も、楓が今できる限りの険しいものを、目の前の綺麗な男に向ける。
けれど多希にとっては、桃佳と似た愛らしい顔が必死になって自分を作っているのがおかしくて、申し訳ないと思いつつも笑顔になってしまう。
「な、なに笑ってんだよ!!おじさん!!」
楓はわざと『おじさん』のところを強く言う。普通ならば、おじさんと言われればむっとしてしまいそうなところだったけれど、その強がった表情を見ると、どうしても多希には怒りの欠片も湧き起こってはこない。ただおかしくて、肩を揺らして笑いをこらえた。
そんな多希を、楓は不満そうに見つめる。
「・・・多希」
「え?」
「おじさんじゃなくて、多希。モモの弟だから、特別に『多希さん』か『多希様』って呼んでもいいよ」
「ばっっ・・・!!バッカじゃねえの!!」
変わった色の瞳に、優しく見つめられて、楓は思わず顔を真っ赤にする。
その様子に、多希は笑いをこらえられなくなって、声を出して笑い出す。
そこへ、桃佳が電話を終えて居間に入ってきた。不思議そうな顔で、笑っている多希と、ふくれっ面の楓を見比べる。
「なに?なんか打ち解けた?」
「な、わけないだろ!!バカ姉!!」
ぷいとそっぽを向く楓を見て、多希はまたしても笑った。
そんな二人をかまわずに、桃佳は困った表情をする。
「ねえ、楓。明日なんだけど、お姉ちゃんどうしても学校休めないんだけど、あんた一人で待っててくれる?」
「ええ?せっかく来たのに、一日中家ん中?」
「・・・うん。ごめん。だって明日はどうしても受けないといけない講義があるの。それが終わったら、すぐに帰ってくるから」
桃佳の予定も聞かずに飛び出してきたのは自分なので、楓はそれ以上何も言えずにうなだれる。
「モモ」
さっきまで笑っていた多希が、真っ直ぐ桃佳を見つめている。
「なんですか?」
「実は俺、明日は仕事が休みなんだけど、もしよかったら、楓の相手をしようか?」
そう言ってにっこり微笑む。
「ええ!?」
桃佳と楓は同時にそんな素っ頓狂な声をあげた。
「俺、この間当番が続いたから、明日は休みになったんだ。だから、俺でよかったら相手をするけど・・・。どう?」
今度は楓をますっぐに見つめてにっこり微笑む。
「で、でも多希さん。多希さんにそんなことまでさせられませんよ!!」
「別に、俺もすることないし、楓だって俺と一緒なら、一日中部屋の中にいなくてもすむ」
「かえでかえでって、呼び捨てにしないでくれる?おじさん」
「こ、こら、楓!!」
桃佳は慌てて無礼な弟の口を両手で覆ったものの、多希は『おじさん』と言われたことを全く気にはしていない。
「大丈夫だよ、モモ。俺、案外楓とは仲良くなれそうだから」
「で、でも」
「ね?楓」
楓は余裕たっぷり表情を見せ付けられて、あっさりと多希の挑発に乗ってしまう。
「面白そうじゃん、おじさん。おじさん寂しいみたいだから、俺遊んでやってもいいよ」
「か、楓!!」
「じゃ、そう言うことで、明日は10頃にでも迎えに来るよ」
余裕たっぷりの表情のままで、多希が立ち上がる。
「多希さん、でも・・・」
「別に気にしないで。暇つぶしになるから。じゃ、俺は帰るね」
「え?夕食は?」
「せっかく久々の姉弟の対面を邪魔するほど、野暮じゃないから。じゃあ」
ひらひらと手を振って、多希は部屋を出て行った。ガチャリと玄関のドアが閉まった音がしたすぐあとに、隣の部屋のドアが開いて閉まる音がする。
その音に、楓は目を丸くした。
「え?ホントにお隣さん?」
「お隣さんだよ」
桃佳は苦笑混じりに答えた。


「楓、楓は今日はベットで寝てね。お姉ちゃんは布団敷いて寝るから」
「うん」
そう言うと、桃佳はベットの下に敷いた布団の中にもぐりこむ。楓もベットの中に体を滑り込ませた。思った以上に疲れたらしく、布団の感触が妙に心地よい。
「ねえ、楓?」
声をかけられて、楓ははっとする。一瞬眠りの世界に落ちかけていたようだ。
「なに?」
「どうして、急にこっちに来たの?」
桃佳の声は責めているふうではなくて、楓は少しだけほっとする。
「・・・だって、姉ちゃん、全然連絡よこさないし、ゴールデンウィークにも帰ってこなかったし・・・どうしてるのかって心配だったんだ。兄ちゃんたちだってそうだよ。だから、俺がこっちに来ること賛成してくれたんだから」
そこまで一気に言って、楓は押し黙った。
「うん・・・そっか。ごめんね」桃佳は静かな声で語りかける。「でもね、楓。お義母さん、とっても心配してたよ?」
「うん・・・わかってる」
心配をかけたことは、楓にだって分かっている。義母の優しい顔が悲しそうに曇っているのを想像すると、本当に申し訳ない気持ちが湧いてきた。
「ごめんなさい」
「うん。それは帰ったらちゃんと言ってね。土曜日、お姉ちゃんも一緒に帰るから」
「ほ、ホント?」
楓は布団を跳ね除けて、がばっと起き上がる。
「ほんとだよ。久しぶりにみんなの顔も見たいし、それに、楓だってひとりじゃ帰りずらいでしょ?」
「兄ちゃんたち、きっと喜ぶよ!!」
暗くてよくは見えないものの、楓の喜々とした顔が見えるようで、桃佳も表情を崩す。
「さ。今日は長い時間電車に揺られて疲れたでしょ?早く寝なさい」
「は~い」
楓は笑顔のままで、おとなしく布団の中にもぐる。
懐かしい香りに包まれて、ほっとする一方で、急速な眠気に襲われる。懐かしくて優しい香りは、楓を一気に眠りの世界へを引きずり込んでいった。
「楓、明日は多希さんに迷惑かけないでね。・・・楓?」
起き上がって、ベットの上の弟の顔を覗き込むと、既に寝息を立てている。
大人ぶっていても、寝顔は桃佳の知っている小さな子供のときのままで、彼女はそっと弟の頭を撫でる。
「・・・お休み、楓」

まるで「お休み」と答えるように、楓が「う~ん」と声を出した。




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